ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「U-900」  絶望から脱出しよう〔39〕   

U-900」 
名作「Uボート」の痛快パロディ。




【原題】U-900  
【公開年】2008年  【制作国】独逸  【時間】112分  
【監督】スヴェン・ウンター・ヴァルト・Jr
【制作】クィリン・バーグ マックス・ワイドマン
【原作】
【音楽】カリム・セバスチャン・エリアス
【脚本】ミハエル・ガンテンベルク オリバー・ジーゲンバーグ
【言語】ドイツ語 一部イングランド語
【出演】アツェ・シュローダーアツェ・シュローダー)  イボンヌ・カッターフェルト(マリア)  オリヴァー・ヴヌク(サミュエル)  マキシム・メーメット(メッサーシュミット少尉)  ゲッツ・オットー(フォン・シュテッテン首席士官)  スベン・ヴァルサー()  ダスティン・セメロッゲ(ティコルスキー通信担当兵曹)  Jürgen Schornagel(シュトラッサー大将)  Christian Kahrmann(ブロック中尉)  Axel Neumann(アルベルト機関兵曹)  ヤン・フェダー(レーンベルグ大尉)  Maxwell Richter()    

【成分】コミカル 不思議 笑える Uボート 第二次大戦 フランス ドイツ

【特徴】ドイツのコメディ。ドイツで有名な「お笑い芸人」であるアツェ・シュローダー氏が「お笑い芸人」キャラのまま主演。
 内容は、おちゃらけ闇商人アツェは成り行きでUボート艦長に成りすまし、Uボートを乗っ取ってアメリカへ逃亡するドタバタ喜劇。

 不朽の名作「Uボート」のパロディである。キャスティングには「Uボート」をかなり強く意識して同窓会的に縁の俳優が出演している。
 例えば、ウェルナー少尉と同室の下ネタ大好きオールバックの下士官ピルグリムを演じたヤン・フェダー氏は本作でワイルドな艦長に「出世」している。
 同じくピルグリムによく絡まれているフレンセンを演じたラルフ・リヒター氏の息子が兵曹役で出演、U96のランプレヒト兵曹長が便所の前で言った同じセリフを本作でも放つ。
 陽気な次席士官を演じたマルティン・セメルロッゲ氏の息子ダスティン君が通信担当兵曹ティコルスキー役に扮している。父親よりややごつい顔をしているが、愛嬌のある声は全く同じ。たぶん、「Uボート」ファンなら一目で判るだろう。
 また本作でも従軍記者が少尉として乗り込んでいるが、彼が私服で着用しているタートルネックのグレーのセーターは、U96の従軍記者ウェルナー少尉と同じデザインのモノ。しかも、次席士官ジュニアのティコルスキーから弄られるところも同じ。
 なお首席士官は「Uボート」縁ではないが、「ヒトラー 最期の12日間」でヒトラーに忠実な背の高いSS将校オットー・ギュンシェや「アイアン・スカイ」で敵役クラウス・アドラー准将を演じたゲッツ・オットー氏が生真面目に扮している。

 「Uボート」ファンにはたまらない痛快コメディだ。口髭を付けて陸軍将校に成り済ましたイボンヌ嬢がキュート。

【効能】世渡りの要領を学べる。絶望的な困難が降りかかっても希望を失わない。根拠の無い自信に溢れる主人公の姿に絶望を忘れる。

【副作用】ギャグがイマイチ日本人の感覚からずれているので白けるかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。

「Uボート」に興味が無い人には 
感情移入できなくて白けるかもしれない。


U-900に乗り込んだ怪しい3人組。
U-900に乗り込んだ怪しい3人組。
左からユダヤ人青年のサミュエル、闇商人アツェ、
ケーキの配達アルバイト中に巻き込まれた女優のマリア。
どうみてもドイツ国防軍の軍人には見えない。
配信から抜粋。


 日本未公開だったと思う。それがGYAO!の無料配信映画で観る事が出来るとは、感動だ!

 但し、本作を心から楽しむには条件がある。まず、ドイツ人であること。主演のアツェ・シュローダー氏(余談1)はドイツで有名なコメディアンであり、本作では「アツェ・シュローダー」というキャラのままトレードマークのアフロっぽい髪型とティアドロップ風(マッカーサーがかけているサングラスの形)の眼鏡をかけて出演している。(つまり第二次大戦当時のドイツの風俗は無視)
 日本で例えれば、ウッチヤンナンチャンの内村光良氏があのジャッキー・チェンのような前髪を垂らした長めの髪型のまま太平洋戦争を舞台にしたコメディに出演するようなものだろう。

 もう一つ条件を挙げるとすれば、日本人ならばペーターセン監督「Uボート」の熱烈ファンである事が必須である。それ以外の人間には古臭いテンポの下ネタのコメディにしか見えない。作品世界に感情移入する事も難しいかもしれない。

 今や潜水艦映画の伝説の金字塔になった「Uボート」、本作はそれをコメディに作り替えた(パロディ)作品である。観ていると随所に「Uボート」にあったエピソード散りばめられている。(余談2)

 本作の航路は「Uボート」の舞台となった潜水艦U96とは逆の地中海の軍港からジブラルタル海峡を抜け大西洋に出る。生真面目な首席士官(余談3)に従軍記者の少尉など演じている俳優はU-96とは違うが人物構成が原版でも見覚えのあるような懐かしさ。

 一応、物語は全く異なる構成だ。主人公は軽薄でスケコマシの中年男性、コメディアンとして活躍するアツェそのままのノリで登場する。この時代らしくなくパンチパーマが伸びて爆発状態の頭。生業は闇商人で横流しの高級食品を仕入れてはお得意さんに売りつける。
 本作では高級ハムを某陸軍大将の屋敷に届ける。ついでに老いた大将に欲求不満の若い麗夫人の交尾のお相手もサービスで務める。

 ところが、大将閣下に逢瀬が見つかり殺されそうになる。パンツ一丁で必死に逃げ回り、会議室の机の下に隠れていると偶然軍の重要機密を知る。持ち主に勝利をもたらすといわれるキリストの聖杯が発見され、大戦に勝利するべくヒトラーの元に運ぶナザレ作戦が発動、既に連合軍に聖杯の存在が察知されており、陸路や空路は危険なためわざわざ回りくどく潜水艦で輸送する作戦、大将閣下自ら陣頭指揮を執るらしい。
 極秘作戦のため、U-900の乗組員には作戦の概要は知らせず、艦長の顔すら知らない。良い事を聞いたとばかりアツェは艦長の持ち物と大将閣下と副官のスーツケースから軍服を盗んで屋敷を脱出、自宅で匿っているユダヤ人青年とともに艦長に成り済ましてU-900でアメリカに逃亡する計画を企てる。

 まことに奇想天外の現実にはあり得ないドタバタ展開、しかし妙に説得力がある。例えば、美しい大将夫人を寝取ったことがバレて軍から追われる身になっているのに、相棒のユダヤ人青年と逃げる際は「密告された。ドイツ軍が君を捕まえようとしている」と話をすり替えて逃亡する。
 ユダヤ人青年サミュエルは生真面目な技術者、ナチスの迫害から逃れてアツェに匿われているので責任と恩義と熱い友情を感じてしまう。しかしアツェはヒューマンな友情だけで匿っているのではなく、技術者サミュエルを掌中の玉として養い彼の発明品をアメリカへ売り込んで一攫千金を狙う山師だ。

 首席士官(日本軍でいう副官)らが艦橋の外で監視任務に就いているときにバラスト注水レバーに触って潜航を始めてしまう。海水が襲い掛かる寸前に辛くも艦内に逃げ込んだ首席士官は「誰の責任だ!」と怒鳴るが、アツェは表情を変えずしゃーしゃーと「訓練だ」と言ってのける。
 偽艦長ではないかと疑惑を抱いた首席士官は、こっそり機関室に入って部品を壊してエンジンを故障させ帰港をくわだてるが、アツェは故障の責任を感じている機関兵曹の肩をたたき「帰るのは負け犬のすることだ。俺たちは違う」と慰め励まし、機関兵曹の心を掴んでしまう。

 とにかくこの主人公、絶望的な状況に陥っても物事を自分の都合の良い方向へ解釈し、裏付けの無い確信と話術と人たらしの才能で、最後は乗組員全員の心を掴み、ニューヨークへ入港するときは正体がばれたアツェを艦長として遇されるまでに至る。本作ではさりげなく描写されているが、危機を脱した際に乗組員全員に声をかけて労う場面がある。全員の顔と名前を短時間で全て覚えるところは現実社会でも素晴らしい特技かもしれない。
 これは私の勝手な想像だが、大将夫人も心の隙間を突かれたのではないか。

 生真面目サミュエルも負けてはいない。本物の大将閣下から無電が入っていることを偶然知ると、ティコルスキーが確認する前に「『U-900のシュトラッサー大将』の間違いだな。妻からの私信だ」と誤魔化し、妻へ私用の通信するからとティコルスキーを追い出し、技術者の特技を活かし通信機器を操る。返電は「スパイは武装、隙を見て捕縛する」と機転を利かせた内容。

男装の麗人イボンヌ。
大将の副官に化けたマリア。どうみても女の子なのだが。
口髭を付けた顔が宝塚っぽくて美しい。
プカプカの軍服が彼女を可愛らしく魅せている。

 成り行きで大将の副官に化ける羽目となったマリアも負けていない。軍人の役をやった事があるせいか、多少は軍人の所作を知っている様子。ド素人の無責任男アツェにアドバイスする事もある。
 何故か女である事がばれていないのだが、しかし華奢な美少年のような奴とは思われているみたいで、フレンセンJrからちょっかいをかけられる。ところが金的の一撃を食らわし、国防軍将校らしい威厳ある声で一喝。
 またジブラルタル海峡の底で沈没の危機に瀕したときは、パニックになることなくサミュエルとともに進んで復旧作業に取り掛かっている。

 かくして、様々な困難を乗り越えてニューヨークに辿り着く。アメリカ軍は領海に入ったドイツの潜水艦を攻撃しようとするが、聖杯の情報を察知したCIAエージェントが司令官の前で黒板使って数字の謎解きをする場面がオカルトマニアっぽく、劇場で観たらたぶん爆笑してしまうだろう。
 因みにCIAが発足したのは戦後の1947年。44年当時はОSS(戦略諜報局)である。

 アツェみたいに根拠の無い自信で苦難を切り開きたいものだ。

(余談1)彼は1965年9月生まれ、学年でいえば私と同級生だ。ティムール・ヴェルメシュ著「帰ってきたヒトラー」でも登場人物の会話の中でアツェの名前が出てくる。
 2015年暮れのケルンに行ったとき、まず留学中の義従姪にアツェの事を聞いたら露骨に顔を顰めて「誰それ?」と言われたが、彼女の彼氏に聞いたらにこやかに流暢な日本語で「ああテレビによく出ています。有名なコメディアンです」と仰った。

(余談2)本作ではU96の乗組員を演じた俳優ゆかりの人物がけっこう出演している。

ヤン・フェダー
ガラの悪さはピルグリムのまんま。

 まず本物の艦長レーンベルグを演じたヤン・フェダー氏は「Uボート」ではオールバックの下士官ピルグリム役に出ている。下ネタ大好きで、同室のウェルナー少尉には些かストレスな雑音。
 最初は歳をとって貫禄がついているためかヤン・フェダーとは思わなかったが、ラストのオチで若くて美しい大将夫人を騎乗位で相手しながらダミ声で下ネタ連発のレーンベルグはまさしくピルグリムだ。

Uボートジュニアの二人。
U96ジュニアの2人。
左が次席士官の息子、右がフレンセンの息子。
作中で2人は仲の良い戦友同志である。

 ピルグリムによく絡まれているフレンセンを演じたラルフ・リヒター氏の息子が兵曹役で出演、U96のランプレヒト兵曹長が便所の前で言った同じセリフを本作でも放つ。
 陽気な次席士官を演じたマルティン・セメルロッゲ氏の息子ダスティン君が通信担当兵曹ティコルスキー役に扮している。父親よりややごつい顔をしているが、愛嬌のある声は全く同じ。たぶん、「Uボート」ファンなら一目で判るだろう。ティコルスキーは通信とソナーと兵曹長を兼任しているようだ。

ティコルスキーたち。
前の4人、左からアルベルト機関兵曹、機関長、
報道部のメッサーシュミット少尉、ティコルスキー兵曹。
アルベルトは雰囲気がU96のヨハンに似ている。

 また本作でも従軍記者が少尉として乗り込んでいるが、彼が私服で着用しているタートルネックのグレーのセーターは、U96の従軍記者ウェルナー少尉と同じデザインのモノ。しかも、次席士官ジュニアのティコルスキーから弄られるところも同じ。しかし本作では後で弄り返して「復讐」する場面もある。「Uボート」ファンなら思わずにやける嬉しい場面だ。


 
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