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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「謀議」 社会問題を考えたい時に〔4〕 

謀議」 
ケネス・ブラナー氏のナチスぶりが光る。

 

 
【原題】CONSPIRACY
【公開年】2001年  【制作国】英吉利 亜米利加  【時間】96分  
【監督】フランク・ピアソン
【脚本】ロリング・マンデル
【言語】イングランド語   
【出演】ケネス・ブラナーラインハルト・ハイドリヒSS大将)  スタンリー・トゥッチ(アドルフ・アイヒマンSS中佐)  コリン・ファース(ウィルヘルム・ストゥッカート博士)
 
【成分】ゴージャス 不気味 知的 威圧 ナチスドイツ 討論劇 1942年
 
【特徴】ユダヤ人虐殺を決定したヴァンゼー会議を舞台にした討論劇。ケネス・ブラナー氏の怪演が光る。
 名作「十二人の怒れる男」は人間の良心を呼び起こす討論劇に対し、本作は人間の良心を封じ込め暗黒面の封印を解く。
 
【効能】討論の展開は知的好奇心を刺激する。会議の仕切り方、イニシアチブの握り方の参考になる。
 
【副作用】ストレス解消の娯楽には不向き。ケネス・ブラナー氏の容姿は実際のハイドリヒとは似ても似つかないため、史実にこだわる人は不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
十五人の暴走するナチ男 

 イギリス演劇界の名優にして監督業も手掛けるケネス・ブラナー氏が、ナチ親衛隊ナンバー2のハイドリヒSS大将を演じる。ブレナー氏はたしか黒に近い茶髪だったと思うが、「金髪の野獣」という異名のハイドリヒを演じるので髪を淡いブロンドに染めてピッチリとオールバックにし、すそは当時のドイツ軍人らしく短く刈り上げSS大将の制服を着ていた。
 史実では、映画の舞台となったヴァンゼー会議ハイドリヒは38歳頃(余談1)だと思うが、ブレナー氏は41歳、歳は近いもののシャープで面長な実際のハイドリヒとは風貌はまったく似ても似つかないが、ブレナー氏の演技は非常にハイドリヒ的怪演であった。
 
 TVドラマとして制作されたようだが、かなり予算をかけたのか重厚な舞台設定に正確な時代考証だった。どこでロケをしたか知らないが、ベルリン郊外にある実際のヴァンセーそっくりだった。また、登場人物たちが乗って来たクラシックなベンツのナンバープレートはベルリンを表す「ⅠA」の表示があり、細かい。登場人物たちの髪型も短い刈り上げで好感が持てる。(余談2)台詞はイギリスのTVなので全て英語だが、登場人物の所作もナチらしくて、仮にドイツ語へ吹替えても違和感は無いだろう。
 
 さて、この作品はユダヤ人大量虐殺の手順を話し合う悪魔の会議を舞台にしている。異論(余談3)は様々あるだろうが、ディスカッション映画としてヘンリー・フォンダ氏主演の名作「十二人の怒れる男」に匹敵する内容だと思う。
 「十二人・・」では、12人の陪審員のうち11人が容疑者を有罪と判断したのに1人の陪審員が不自然な点を指摘して議論に持ち込み、狭く暑い部屋で激しい議論を繰り広げ、無罪の意見に賛同する人を増やし、最後に全員納得のうえで無罪と判断するのが清々しい。仕事が終わって、安堵と満足感の面もちでヘンリー・フォンダ氏が去っていくのが爽やかである。
 「謀議」では、15人のナチ高官が広々とした豪華な邸宅の会議室で、豪華な軽食やワインを楽しみながらユダヤ人問題を話し合う。議長役のハイドリヒには既に結論が出ており、会議は結論を求めるためではなく関係省庁のコンセンサスを得るためのものでしかない。
 
 史実のハイドリヒは飴と鞭の使い方が上手い行政官だが、ブラナー氏扮するハイドリヒも終始紳士的で微笑を浮かべ自由な討論会を装いながら一貫して強力なイニシアチブを握り続け、異論者・反対者には各々の性格にあったアプローチの仕方で同意と支持を取り付けていく。
 小心者には袈裟の下から鎧を見せるような態度をとって封じるが後で自尊心を回復させるようなフォローをする。骨のある反対者には休憩時間中に話し掛けさりげなく脅しながら協力を懇願する。忠実な部下になりそうな者には、共感と理解をアピールする。まったく恐るべき38歳である。(余談4)

 「十二人・・」では面倒くさそうに適当な結論を出そうとしている空気にヘンリー・フォンダ氏が異議を唱え、他の11人の陪審員から良心と冷静さと公平さを呼び覚ましていく展開に対し、「謀議」のケネス・ブラナー氏はナチスに残った最後の良心を無力化し安全装置を解除していく過程を描いているといえよう。
 会議が終わって、本来は生真面目な老官僚クリツィンガー博士は、寒々とした雪の空を見上げながら「モスクワ戦線は今ごろ夜だ。もうすぐここも夜になる。生きているうちに夜が明けるかな」と未来を予見することを呟く。(余談5)
 
(余談1)意外に思うかもしれないが、ナチスの数少ない功績は年功序列や既成の権威を打ち壊したところにある。特に親衛隊には30代の将官クラスの幹部がいる。
 悪名高いアイヒマン中佐がこの会議で書記のような立場で登場する。実際は痩せた陰険そうな顔なのだが、扮している俳優は全く似ていない。
  
(余談2)当時のドイツ軍人の髪型は前髪や頭頂部は長めで裾は五厘刈りのように短い。揉み上げを伸ばす者はいない。ハリウッド製の戦争映画には、プレスリーのような髪型のドイツ軍人までいて興ざめだ。
 この作品の冒頭はヴァンセー会議の出席者のためにコックたちが軽食を作る場面が出てくる。ニシンの酢漬けが出てきたのがドイツらしい。
 
(余談3)南京大虐殺は捏造と主張している勢力があるのと同じように、ガス室によるユダヤ人大量虐殺も捏造と主張する政治勢力がある。ゆえにその勢力はヴァンゼー会議そのものも無いと主張している。
 しかし、戦後発見された文書、ハイドリヒとアイヒマンの動きからヴァンゼー会議が無かったとするほうが逆に不自然である。
 
(余談4)語弊を恐れずにいえば、この仕切り方は見習いたい。私も何度か会議や市民集会を主催したことがあるが、そのたびに自己嫌悪になる。

(余談5)ヘンリー・フォンダ氏の「十二人の怒れる男」のラストは雨上がりの涼しげな夏の昼下がりに対して、本作は寒々とした夕暮れの雪の曇天、何から何まで「十二人の怒れる男」の真逆イメージで押している。制作者はあきらかに「十二人・・」を意識している。


 
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