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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「半次郎」 感動からエナジーを得よう〔18〕

半次郎」 
榎木孝明渾身の映画




【原題】  
【公開年】2010年  【制作国】日本国  【時間】121分  
【監督】五十嵐匠
【制作】坂上也寸志
【企画】榎木孝明
【音楽】吉俣良
【脚本】丸内敏治 西田直子
【言語】日本語(一部薩摩方言)
【出演】榎木孝明桐野利秋 中村半次郎)  AKIRA(永山弥一郎)  村田さと(白石美帆)  津田寛治(別府晋介)  坂上忍(村田新八)  永澤俊矢(篠原国幹)  北村有起哉(大久保利通)  田中正次(西郷隆盛)  雛形あきこ(藤)  竜雷太(村田屋伊兵衛)  浅田晴香(村田屋客)   

【成分】スペクタクル 切ない 勇敢 絶望的 西南戦争 幕末~明治 1850年代~1877年 鹿児島 

【特徴】鹿児島出身の俳優榎木孝明氏が企画から資金集め、監督らスタッフ・俳優の人選、まで関わった渾身の力作、事実上榎木孝明氏が作った映画とも言えなくもない。鹿児島県や鹿児島市がバックアップし、薩摩藩士や作中登場人物の子孫が制作に参加協力して、薩摩が生んだ悲劇の将桐野利秋の後半生を描く。
 因みに出演女優の浅田晴香氏は、白石美帆氏演じるヒロイン村田さとの子孫である。

 榎木氏が本作に並々ならぬ思い入れがあるのがよく伝わる作品であり、郷土挙げての映画制作であるのも非常によく解る作品だ。
 もっと予算があって冷静な制作判断がなされていたら、と思うと残念である。

【効能】映画制作の熱い激情に触れて自分も映画を作りたくなってしまう。幕末明治維新や鹿児島に興味を抱く。

【副作用】暑苦しくなる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
榎木孝明氏の思い入れの強さは解るけど・・。 
ホンマにこれで納得している?


 本作は主演の榎木孝明氏が中心になって進められた。企画から監督以下のスタッフと俳優の人選まで関わり、自分が経営するオフィス・タカが配給元となって資金集めと映画館上映の交渉も行ったという。制作者は坂上也寸志氏となっているが、榎木氏が事実上の制作最高責任者とみていいだろう。

 なぜ彼がそこまで本作に思い入れを込めたのだろうか? 私は高知出身なので若干は解るような気がする。榎木氏は鹿児島県出身だ。明治維新雄藩であった薩長土肥、その中でも取り分け鹿児島や高知などは故郷への帰属意識が強い。
 本作の主人公である桐野利秋半次郎)は鹿児島の英雄であり、明治初期の陸軍創成期中核幹部(余談1)であり、西南戦争では旗頭である西郷隆盛に代わり西郷軍全体を率いる司令官だった。いわば悲劇の将である。
 同郷人として榎木氏が桐野に熱い視線を投げるのは至極当然かもしれない。

 幕末時期の桐野は「人斬り半次郎」と呼ばれていた事もあってか、幕末明治維新モノのドラマや映画では、どちらかと言えば粗暴に描かれやすい。しかし桐野の友人や近親者が残した証言では淡白な性格で誰彼分け隔てなく付き合いをする好人物だったらしい。
 本作の桐野も血気盛んな人物でもあるが決して粗暴な人柄ではなく、関係者から伝わる桐野の人物像をベースに、普段は温厚で気さくな趣味人を榎木氏が演じている。あるいは、榎木氏は史実に近い桐野像を世に出したい気持ちがあったのだろうか?

 しかし、榎木氏の強い思い入れを感じる本作ではあったが、低予算映画の悲しさか、首を傾げる場面は多々あった。
 いや、予算の問題ではないのかもしれない。思い入れが強すぎたために、あれもこれも入れ過ぎ、予算に見合わない描写と尺に合わない演出になった。

 物語は西郷隆盛との出会いから始まっている。幕末の青年期からだ。これは思い切って割愛して、どうしても入れたいのであれば回想シーンに数分ていど紹介するに留めるべきだったのではないかと思う。
 予算が潤沢であれば、幕末期と明治期の二部構成にできなくはないが、伝記映画に陥りがちの偉人伝ダイジェスト版になってしまう。

 予算と尺を考えたら、西郷が下野した明治六年政変から西南戦争までに絞り、西南戦争前夜の軍議の部分をもっと重厚な討論劇にし、西南戦争の描写はチャンバラを少なくして銃撃戦の部分を増やすべきだったのではないかと思う。
 桐野は西南戦争当時まだ40の手前だ。榎木氏は既に50代半ば、どんなに若作りをしても少し無理がある。薩摩示現流の使い手でもある榎木氏自身はどうしても表現したかったのかもしれないが、動きにくい陸軍少将の礼服姿(余談2)で泥まみれになり長いザンバラ髪を振り乱しながらチャンバラをする姿は、なんとも滑稽に見えてしまう。

 やはり総司令なのだから、銃撃戦を指揮している部分も描いてほしい。いくら政府軍に比べて装備の点で劣るとしても、かつて幕府軍や會津軍に対して最新の西洋式戦術と銃火器で圧倒した薩摩軍の中核がそのまま西郷軍に加わっているのだ。倍の数の政府軍に対して2月の挙兵から9月下旬に鎮圧されるまで半年以上も戦った西郷軍、チャンバラだけというのは不自然が過ぎる。
 また、桐野は西郷に代わって実際に総司令を務めたが、各部隊へ独裁的に命令を下すポジションではなく、あくまで指揮官たちの首座としてまとめ役を務める立場のようだった。(余談3)そのため熊本城の攻囲戦では、軍議で揉めて政府軍の侵攻を許し後手の戦術を取らざるを得なかった。そういった西郷軍の内部の対立なども描いてほしかった。

 榎木氏には申し訳ないが、テレビの特番の2時間ドラマか、歴史番組の再現ドラマのような感じに見えてしまった。

(余談1)最終階級は正五位陸軍少将である。当時はまだ国軍黎明期のような時期なので、後に組織が拡充整備された帝国陸軍の頃の陸軍少将とは同列にできない高い地位である。因みに当時の陸軍大将は西郷隆盛ただ一人。桐野は陸軍裁判所所長も兼任していた。

(余談2)桐野は非常にお洒落だった。陸軍の高官になって金銭的に余裕が出てくると、金の懐中時計を身につけたり、軍服はフランス製オーダーメイドと凝っていた。また西南戦争最期の戦いでも香水をつけていたようだ。
 本作西南戦争場面で榎木氏が着用していたのは、明治五年制定の大礼服に似ている。

(余談3)挙兵時の編成では桐野は7つある大隊の中で四番大隊の大隊長を務めた。また桐野とともに西郷軍の中心人物で陸軍での階級も桐野と同じ少将の篠原国幹は一番大隊の指揮をしていた。初期の頃は桐野が総司令官的立場であったかどうかも怪しい。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作



 
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