ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

NHK木曜時代劇「まんまこと」最終回から振り返って。 TVドラマ評[七十二] 

相変わらずの三人組、
だが確実に少年から大人になった。


まんまことホームページから。
まんまこと」HP画像を参照。

【雑感】ラストの場面、良い終わり方だった。本編の主人公高橋麻之助、その幼馴染で名主の八木清十郎と同心の相馬吉五郎の三人がぶらりと連れ立って街を闊歩する。裕福な2人の若い町人と、明らかに貧乏ゆえに下級役人の婿養子にもぐりこんだ若い侍。3人は同じ寺子屋で読み書きを学んだ歳の近い親友だ。
 初回と殆ど同じ光景、同じように三人は冗談皮肉を言い合いながらじゃれ合う。そして生真面目で弄られやすい吉五郎がまた幼い女の子の婿になっている事を冷やかされる。

麻之助 「八歳の許嫁だからねぇ」
清十郎 「九歳だ」
吉五郎 「十歳だ!」

 初回から1年以上が過ぎた事を台詞でさりげなく描写している。その間に激動が吹き抜けた。主人公麻之助は妻を娶ったが難産で妻子を一度に失う。清十郎は父親を失い名主を継ぐが、付き合っていた常磐津の美熟女にも歳の近い幼馴染で義理の母親からもフラれてしまう。吉五郎は貞吉という町のチンピラを子分にしたことを除けば、家庭環境にあまり変化は無いか。
 見た目は変わらない3人だが着実に大人へと成長している。映像的に判りやすく描写されているのが清十郎で、前半は遊び人風に派手な襟巻をつけていたのが名主になってからははずし、麻之助や吉五郎の前でも名主の厳しい顔を魅せるようになった。

 主人公麻之助の飄々とした振る舞いは、現代の若者や学生にも感情移入しやすい。原作者やドラマ制作者が意図しているかどうかは判らないが、現代人に麻之助の目線を通して江戸時代を魅せているのではないかと思ったりもする。
 食うに困らない中流の上か上流の下くらいの町人の生活水準は、テレビやパソコンが無い事を除けば、あまり現代とは変わりはない。ブラブラと遊びに出かけられる気楽な身分。ドラマ上では兄弟が出てこないので、たぶん一人っ子かもしれない。父母も元気だ。広い屋敷に住んでいて手代や女中を従えている事を除けば、現代の若者の家庭環境とさほど変わりはない。麻之助のお気楽さは現代人そのものだ。

 その麻之助に江戸時代の厳しさが目前に迫る。親友の侍が職にありつくために8歳の女の子の婿になる。思いを寄せていた幼馴染のお由衣が16歳(当時は数え年だから14・5歳で子づくりした可能性がある)で妊娠、父親が不明なので親友清十郎の父源兵衛がちょうど寡(やもめ)であった事もあり後妻として引き取る。現代の日本ではあり得ないショッキングな事件だ。
 さらにまだ22歳なのに縁談話、現代なら「早婚」の部類に入ってしまうが、麻之助の両親にしてみれば「いつまでもブラブラするな」と言わんばかり。
 そして怖いのは、人の死に目によくあう。最初は妻の縁者の侍、次に親友の父、まだ面識のない恋文の主、そして妻子。現代なら、おそらく全員助かっていたはずだ。

 生きていられるだけでも、飯が食えるだけでも御の字、といったらステレオタイプな見方かもしれないが、しかし現代人と違ってあれこれ自分の人生のことを考える余裕は当時の人間には無いはずだ。ところが麻之助は人生のことを考え悩む。
 このまま、妻を娶り、子供をつくり、父の後をついで名主になる、自分の道が定まってしまう事に抵抗を感じている。現代人にとってはありふれた悩みだが、江戸時代の人間にとっては贅沢な悩み・・というよりも大半の人間には理解し難い悩みだ。
 麻之助自身もそれは自覚していて、平素はおちゃらけることで周囲を欺き、清十郎や吉五郎にも理解してもらえないと踏んで打ち明けていなさそうだ。

 その悩みを打ち明けられる人間として市川左團次氏扮する俳諧の師匠宗匠が登場する。これは原作にはないドラマのオリジナルキャラだそうだが、良いアクセントだ。
 毎回、エピソードの終わりに宗匠の奥座敷の場面が出てくる。造り酒屋の主人で庭の造りから上流の町人、俳人として江戸の文壇で名が知れている優れた知識人でもあるらしい。当時、麻之助クラスの町人になると、文学サロンなどに出かけて和歌や俳句を嗜む事はけっこう盛んだった。
 で、物語が進むにつれて、麻之助に俳句を詠む趣味がある事は父母も幼馴染も知らないのではないかと思うようになった。少なくとも宗匠の屋敷に通って、かしこまって正座して神妙な顔で歌を詠むなんて事を麻之助がやっている事は誰も知らないし想像もしていない。

 宗匠は自分の子か孫くらいの歳の麻之助に対して、威圧することもなく、目上風吹かすことも無く、「さん」付で呼び、ゆっくりとした上品で丁寧な話し方で接する。麻之助の作品を貶したり否定する事も無い。麻之助の悩みも一通り話し終えるまで微笑みながら聞く。おそらく父母や親友に話したら一蹴されるような話題を宗匠は受け止める。
 こういう懐の深い人物は、どの時代どの社会でも必ず居そうな気がする。

 現代人に江戸時代の平和な日常と厳しさを魅せた佳作だ。10話で終わってしまうのがもったいない。


 
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