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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「モダン・タイムス」 絶望から脱出しよう〔21〕

モダン・タイムス」 
チャップリン
機械化文明だけを風刺したのではない!

 


【原題】MODERN TIMES
【公開年】1936年  【制作国】亜米利加  【時間】87分  
【監督】チャールズ・チャップリン
【原作】チャールズ・チャップリン
【音楽】チャールズ・チャップリン
【脚本】チャールズ・チャップリン
【出演】チャールズ・チャップリン(工員)  ポーレット・ゴダード(浮浪少女)  チェスター・コンクリン(工場の技師)  ヘンリー・バーグマン(キャバレーの主人)
    
【成分】笑える 楽しい 悲しい ロマンチック パニック 知的 切ない かわいい コミカル 不況 失業 喜劇 一部トーキー 白黒映画
       
【特徴】機械化文明を風刺した作品と一般的にいわれているが、私はそうは思わない。この映画が制作された時期を思い出してみよう。1929年のウォール街から始まった大恐慌が世界中に広がり、各地で職を失った労働者があふれ、紛争や内戦などが勃発し、第二次世界大戦へと流れた不穏な時代だ。幸いにも現在(2009年1月)は未だ世界大戦は起こっていないが、社会が複雑化した分、当時より深刻な社会となっている。
 この「モダン・タイムス」はそんな時代に制作された映画なのである。チャップリンの体制批判姿勢を考えたら、単に機械化を風刺したものではないことは理解できよう。特に派遣労働者切りが横行している日本では誠にタイムリーな映画だ。
  
【効能】チャップリンの飄々とした動き、どんな苦難でも主人公を見捨てないポーレット・ゴダードに癒され元気づけられる。
 
【副作用】なにをやっても失敗と挫折、ラストも前途多難を暗示する荒涼とした大地が広がる世界。身につまされる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
チャップリン唯一の恋成就映画、
しかし2人の前には荒野が広がる。


 巨大な歯車セットの傍らに笑顔のチャップリン、「モダン・タイムズ」といえば多くの人々が思い浮かぶ場面である。
 一般に機械文明を風刺した作品と呼ばれているが、正確には合理化・リストラ・富の二極化・進む資本家と行政の管理といった現代社会の功罪そのものがテーマとなっている。これまでのチャップリン氏の映画にも社会風刺の要素はあったが、露骨に全編に渡って「現代社会」を批判した作品はこれが初めてで、この後「独裁者」「殺人狂時代」と権力批判・体制批判色を強めていき、アメリカの赤狩りの標的となってハリウッドを追われる。(余談1)

 チャップリン氏のコミカルな演技、ヒロインのポーレット・ゴダード氏の溌剌とした若さと逞しさと美しさで展開される喜劇なので、全体に明るい雰囲気ではある。(余談2)
 しかし冷静にストーリーだけを眺めたら、単純作業で神経を磨り減らす工員の息苦しい毎日、単純作業ばかりやらされて特別な技術を持っていないため、そこで人生を一度つまずくと何をやっても役に立たず仕事が長続きしない、現代の下流社会やLD問題(余談3)に通ずる。さらに冤罪で何度も警察の世話になり、やっと自分の才能を見つけてサクセスストーリーの切っ掛けを掴んだと思ったら、恋人の前科のために逃避行する羽目に。
 ラストも有名な場面である。主人公が留置所から放免される時いつも人懐っこく無邪気な笑顔で迎えるヒロインが、さすがに成功を掴む手前で自分の前科のために阻まれ意気消沈していると、チャップリン氏が明るく励まし2人元気に果てしない荒野の一本道を前進していく。これを希望あるラストと観るか、絶望のラストと観るかは人によって分かれるだろう。

 多くの物語はサクセスストーリーである。出世物語だったり、恋愛成就だったり、スポーツで優勝したり、犯人を捕まえたり、戦争に勝ったり、「成功」がお約束のラストだ。それは現実社会で劇的なサクセスを体感する幸運な人間は殆どいないからこそ、フィクションでは「成功」でないと納得しないのである。
 この物語に「成功」は無い。喜劇ではあるが、主人公とヒロインは物語の冒頭からラストまで常に社会の底辺で這うように生き続ける。現実世界で「勝ち組」は正味一握りであり、今は底辺でなくても事故や病気でたちまち主人公のように「転落」する大半の人々にとって「当たり前の人生」を作品にする場合、ドキュメントや社会派映画などの難しくて暗い内容になるのだが、チャップリン氏は社会批判色露骨なまま売れる喜劇にしてしまう。改めて彼の才能を思い知らされる映画である。

(余談1)第二次大戦後に官民一体で進められた「レッドパージ」。共産主義に共鳴していると見なされた文化人や運動家を迫害したが、対象は共産主義者に限定されているわけでなく、「進歩的」「良心的」姿勢で体制の秩序に反抗しているかのような人物も含まれている。
 既に「モダン・タイムス」からアメリカの権力は敏感にチャップリン氏の反体制志向を読み取り警戒していたようだ。

(余談2)つくづく思うが、チャップリン氏のパントマイム技術は抜群であり、ローラースケートで動く場面や浅い川に頭から飛び込む場面を見ても非常に運動神経が優れている。もし香港映画に出たら、ジャッキー・チェン氏もビックリの軽やかなカンフーアクションをやれたはずだ。
 ポーレット・ゴダード氏は撮影時25歳くらいか。チャップリン氏が40代で娶った3人目の妻。事実婚だったそうだ。他の3人は16から18歳の少女だったのに対し、ポーレットは20歳頃に結婚した。このロリコン的女性遍歴も批判の対象になっている。

 チャップリン氏の素晴らしさは喜劇俳優だけではない。他の作品でもそうだが監督・原作・脚本・音楽といった具合に作品制作のイニシアチブを完全掌握し、いずれも完成度が高いのである。群衆の動きもBGMに合わせて計算されており、かなり細かく俳優やエキストラに指示しているのが覗われる。チャップリン氏も食事の場面にこだわる人で、端正なポーレットがバナナを盗むときの気張る顔や、厚切りのハムサンドを口一杯にほうばる表情は親近感がある。
 この頃のポーレット・ゴダード氏を子供の頃に見たときは大人の少しキツイ感じの綺麗な女性というイメージだったが、40を過ぎた今みると可愛い。どんなに試練が待ち受けても、笑顔で迎えてくれる女性、素敵だ。

(余談3)近年になって認知されてきた障害や症候群。学習障害といい、頭は悪いどころか良いほうなのに仕事を覚えられず不器用。一芸に秀でる人がいる。他にもアスペルガー症候群注意欠陥多動性障害などがあり、チャップリン氏扮する主人公はまさに該当する。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔


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独裁者 [DVD] チャールズ・チャップリン
殺人狂時代 [DVD] チャールズ・チャップリン
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コメント

弊記事までTB&コメント有難うございました。

 本作の基調は機械化文明への批判ではなく、過酷な労働環境下における人間疎外とその後に続く失業問題(の風刺)でしょう。

 しかし、本作が最初に公開されたのは、既に検閲が相当厳しかった1938年ですが、よくカットされなかったものですね(そういう憂き目に遭ったとは聞いていません)。

 笑えるけど笑えない映画でした。

Re: 弊記事までTB&コメント有難うございました。

オカピー氏へ
 
 検閲は逃れたとはいえ、このころから当局の目が厳しくなっていったのは確かで、今でこそ反ナチの名作「独裁者」でも企画・制作に着手した段階ではかなり攻撃されたようですね。中流以上の富裕層の反応も否定的でした。
 
 「ニューヨークの王様」も未だに評論家たちは「アメリカへの理解が足らない先走った批判」との評価です。アメリカの正体を知れば、まだ控えめな風刺映画でしょう。 
 

>  本作の基調は機械化文明への批判ではなく、過酷な労働環境下における人間疎外とその後に続く失業問題(の風刺)でしょう。
>
>  しかし、本作が最初に公開されたのは、既に検閲が相当厳しかった1938年ですが、よくカットされなかったものですね(そういう憂き目に遭ったとは聞いていません)。
>
>  笑えるけど笑えない映画でした。

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モダン・タイムス

(1936/チャールズ・チャップリン監督・製作・脚本・音楽/チャールズ・チャップリン、ポーレット・ゴダード、チェスター・コンクリン、ヘンリー・バーグマン/87分)

モダン・タイムス

{amazon}  チャップリンの代表\\作の映画「 モダン・タイムス 」機械化・監視下された 社会を皮肉った風刺映画。ベルトコンベヤーの作業で、とにかく生産を 増やせば良いという資本主義社会に対する矛盾をしめしている。 作業中ベルトコンベヤーの

映画評「モダン・タイムス」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中) 1936年アメリカ映画 監督チャールズ・チャップリン ネタバレあり

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