「シェルブールの雨傘」
アルジェリア独立戦争が背景。【原題】Les Parapluies de Cherbourg
【英題】THE UMBRELLAS OF CHERBOURG
【公開年】1964年
【制作国】仏蘭西
【時間】91分
【監督】ジャック・ドゥミ 【制作】マグ・ボダール
【原作】 【音楽】ミシェル・ルグラン 【脚本】ジャック・ドゥミ 【言語】フランス語
【出演】カトリーヌ・ドヌーヴ/ダニエル・リカーリ(ジュヌヴィエーヴ・エムリ)
ニーノ・カステルヌオーヴォ/ジョゼ・バルテル(ギィ・フーシェ) マルク・ミシェル/ジョルジュ・ブランヌ(ローラン・カサール) エレン・ファルナー/クローディヌ・ムニエル(マドレーヌ) アンヌ・ヴェルノン/クリスチアーヌ・ルグラン(エムリ夫人) ミレーユ・ペレー/クレール・レクレール(エリーズおば)
【成分】ゴージャス 切ない 悲しい 泣ける
アルジェリア独立戦争 フランス 1957年~1963年 ミュージカル
【特徴】ミュージカルの金字塔、恋愛映画の金字塔。全台詞が歌であるのが特徴で、一人の人物に扮するのに演技を担当する俳優と歌を吹き替える歌手の二重キャスティングになっているのが大きな特徴。
ベタな恋愛物語だが、その背景に現代の国際情勢にも通じる
アルジェリア独立戦争が背景になっている。主人公の青年ギィは独立を阻止する側のフランス軍兵士として出征し、将来を誓い合った彼女と引き裂かれた悲劇。
ヒロインを演じる
カトリーヌ・ドヌーヴ氏は当時17歳。この映画によって世界的に脚光を浴びる。
映画処方箋としては幸せの在り方を考える意味で「カップルで考えよう」のカテゴリーにするべきかもしれないが、ラストの幼児の顔でささやかな幸せの中から癒しを感じたのでこのカテゴリーに選んだ。
【効能】激しい恋愛に傷つき、ささやかな幸せを見つけた若者の心を癒す効果が期待できる。
【副作用】ベタな恋愛モノに甘ったるい歌に食傷。
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ミュージカル嫌いの晴雨堂でも
納得の金字塔 1964年公開。小学生の頃に観たような覚えがある。
ミュージカル嫌いの私にしては我ながら意外なのだが、この作品については全く不快感が無い。というのも当時としては画期的な完全ミュージカルの形式をとっており、全台詞が歌なので逆に得心がいく。「ウエストサイド物語」みたいに突然わざとらしく踊りだしたり、シリアスな会話をしているかと思ったら唐突に歌いだすという不自然な描写はない。
また全台詞を歌にしたおかげで、登場人物たちに感情移入しやすく、それでもってドロドロ感は抑えられた。もし通常の恋愛劇にしたら、たぶんベタベタ・ドロドロの内容だろう。
物語は第二次世界大戦が終わって戦後復興のフランスに冷水を浴びせるがごとく植民地であるアルジェリアが独立戦争(余談1)を起こす不穏の社会を背景にしている。実はベタな恋愛劇だが現在の中東と欧州の関係に通ずる厳しい社会情勢が横たわっているのだ。
主人公のギィとジュヌヴィエーヴはまだ二十歳前の無邪気で若いアツアツのカップル。ギィは自動車整備工の真面目な青年、ジュヌヴィエーヴの実家は傘屋、邦題のタイトルはこの傘屋からきている。
近い将来は所帯を持ち、生まれる子供が男の子ならフランソワ、女の子ならフランソワーズと名付け、夫婦で御洒落なガソリンスタンド(余談2)を経営しようと細やかな夢を持っていた。因みにギィは男の子、ジュヌヴィエーヴは女の子が生まれることを望んでいた。
ところが、アルジェリアとの戦争が激化、男は徴兵されて離れ離れになる。戦争は長引き、前線で戦う男は次第に手紙をだす余裕が無くなる。
一方、女の実家の傘屋は税金が払えなくなり金策に奔走、危ないところを金持ちの男性に救われる。金持ちは女をみそめて求婚を繰り返す。
ギィからの手紙は戦争で途絶えがち、悩んだジュヌヴィエーヴは金持ちへ嫁いで傘屋を引き払う。
1年後に足を負傷して復員したギィは事の次第を知って自暴自棄、復職した職場を追われ酒と娼婦に溺れる毎日だが、幼馴染の女の子マドレーヌに助けられ立ち直り、彼女と新たに人生を歩むことを決心する。
ラスト、ジュヌヴィエーヴと一緒にガソリンスタンドを経営するはずだった夢をマドレーヌと一緒に達成する。そこへすっかりセレブの淑女となったジュヌヴィエーヴが給油しにやってきた。偶然の再会、助手席には3歳くらいの女の子が座っている。
ジュヌヴィエーヴは娘の名をフランソワーズと言った。ギィが父親である事を間接的に伝えたのだが、ギィはひとこと「会わない」と返す。
寂し気に分かれる二人、女は気分を切り替えて助手席の娘に微笑みかけながらスタンドを後にし、男は買い物から帰ってきた妻と息子を笑顔で迎え、はしゃぎながらクリスマスツリーを飾っている店の中に入っていく。
小学生のころの印象は、ギィに感情移入して「踏んだり蹴ったりやないか、なんでもう少し待ったらへんねん」とストレートに不満を持ったものだ。
今は結果オーライかな、と思っている。戦争のおかげで二人はテレコになってしまったが、男はガソリンスタンドと妻と息子を得た。女は娘を得て金持ちに嫁いだ。当初の夢とは些か変形してしまったが、大筋の夢は叶った。
また各々が幼い子供の顔を見て、過去の恋愛から完全に決別し自分のこれからの新しい道を再確認する場面がベタな恋愛ものにリアルさを与えている。子供のころはあまり感じなかったが、いま私も3歳の息子がいるのでこの場面は胸に突き刺さる。
本作で最も有名な劇中歌は、ギィが徴兵され紛争の地アルジェリアへ出征することになり、最後の逢瀬をして翌朝駅のホームで別れる場面だ。これは懐かしの映画音楽の類でよく紹介される。引き裂かれる若い男女の切なさがよく出ていた。
ヒロインのカトリーヌ・ドヌーブは当時10代後半、私は眉毛が太くて長い黒髪の美女が好きなのだが、カトリーヌの横顔は素直に美しいと思った。前半の無邪気なハイティーンとラストのセレブな若奥様スタイルを見て、女は劇的に人相が変わってしまうと子供心に思った。
でも、私の好みは眉毛が太くて長い黒髪の美女なので、カトリーヌよりはマドレーヌを演じたエレン・ファルナー氏がいい。
カトリーヌの歌声は可愛らしくて、ときおり大人の抑揚が出て10代後半の魅力だな、と最近まで思い込んでいたが、実は出演者たちは歌の素人ゆえ全員吹替だったらしい。カトリーヌの歌声はダニエル・リカーリ氏が務めた。
最後に本作で巨匠となったドゥミ監督は後に「ベルサイユのばら」実写映画化を担当するが、ジャンルによって得手不得手があるようだ。真の巨匠は黒澤監督のようにどんなジャンルでも秀作を繰り出せる人だ。
(余談1)アルジェリアとフランスの関係は、韓国朝鮮と日本の関係に似ている。日本に在日コリアンが大勢いてスポーツや芸能で活躍しているように、フランスでもアルジェリア系が活躍している。
女優のイザベル・アジャーニ氏やサッカー選手のジダン氏が有名。因みに沢尻エリカ氏の母親もアルジェリア系フランス人。
(余談2)自動車の生産が拡大する事は当時から予想されており、ガソリンスタンドは有望な業種だった。ギィは自動車整備工の技術を活かし、時代の一歩先を見据えてガソリンスタンドをやる構想を立てた。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔
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ミュージカル嫌いの晴雨堂でも
納得の金字塔 1964年公開。小学生の頃に観たような覚えがある。
ミュージカル嫌いの私にしては我ながら意外なのだが、この作品については全く不快感が無い。というのも当時としては画期的な完全ミュージカルの形式をとっており、全台詞が歌なので逆に得心がいく。「ウエストサイド物語」みたいに突然わざとらしく踊りだしたり、シリアスな会話をしているかと思ったら唐突に歌いだすという不自然な描写はない。
また全台詞を歌にしたおかげで、登場人物たちに感情移入しやすく、それでもってドロドロ感は抑えられた。もし通常の恋愛劇にしたら、たぶんベタベタ・ドロドロの内容だろう。
物語は第二次世界大戦が終わって戦後復興のフランスに冷水を浴びせるがごとく植民地であるアルジェリアが独立戦争(余談1)を起こす不穏の社会を背景にしている。実はベタな恋愛劇だが現在の中東と欧州の関係に通ずる厳しい社会情勢が横たわっているのだ。
主人公のギィとジュヌヴィエーヴはまだ二十歳前の無邪気で若いアツアツのカップル。ギィは自動車整備工の真面目な青年、ジュヌヴィエーヴの実家は傘屋、邦題のタイトルはこの傘屋からきている。
近い将来は所帯を持ち、生まれる子供が男の子ならフランソワ、女の子ならフランソワーズと名付け、夫婦で御洒落なガソリンスタンド(余談2)を経営しようと細やかな夢を持っていた。因みにギィは男の子、ジュヌヴィエーヴは女の子が生まれることを望んでいた。
ところが、アルジェリアとの戦争が激化、男は徴兵されて離れ離れになる。戦争は長引き、前線で戦う男は次第に手紙をだす余裕が無くなる。
一方、女の実家の傘屋は税金が払えなくなり金策に奔走、危ないところを金持ちの男性に救われる。金持ちは女をみそめて求婚を繰り返す。
ギィからの手紙は戦争で途絶えがち、悩んだジュヌヴィエーヴは金持ちへ嫁いで傘屋を引き払う。
1年後に足を負傷して復員したギィは事の次第を知って自暴自棄、復職した職場を追われ酒と娼婦に溺れる毎日だが、幼馴染の女の子マドレーヌに助けられ立ち直り、彼女と新たに人生を歩むことを決心する。
ラスト、ジュヌヴィエーヴと一緒にガソリンスタンドを経営するはずだった夢をマドレーヌと一緒に達成する。そこへすっかりセレブの淑女となったジュヌヴィエーヴが給油しにやってきた。偶然の再会、助手席には3歳くらいの女の子が座っている。
ジュヌヴィエーヴは娘の名をフランソワーズと言った。ギィが父親である事を間接的に伝えたのだが、ギィはひとこと「会わない」と返す。
寂し気に分かれる二人、女は気分を切り替えて助手席の娘に微笑みかけながらスタンドを後にし、男は買い物から帰ってきた妻と息子を笑顔で迎え、はしゃぎながらクリスマスツリーを飾っている店の中に入っていく。
小学生のころの印象は、ギィに感情移入して「踏んだり蹴ったりやないか、なんでもう少し待ったらへんねん」とストレートに不満を持ったものだ。
今は結果オーライかな、と思っている。戦争のおかげで二人はテレコになってしまったが、男はガソリンスタンドと妻と息子を得た。女は娘を得て金持ちに嫁いだ。当初の夢とは些か変形してしまったが、大筋の夢は叶った。
また各々が幼い子供の顔を見て、過去の恋愛から完全に決別し自分のこれからの新しい道を再確認する場面がベタな恋愛ものにリアルさを与えている。子供のころはあまり感じなかったが、いま私も3歳の息子がいるのでこの場面は胸に突き刺さる。
本作で最も有名な劇中歌は、ギィが徴兵され紛争の地アルジェリアへ出征することになり、最後の逢瀬をして翌朝駅のホームで別れる場面だ。これは懐かしの映画音楽の類でよく紹介される。引き裂かれる若い男女の切なさがよく出ていた。
ヒロインのカトリーヌ・ドヌーブは当時10代後半、私は眉毛が太くて長い黒髪の美女が好きなのだが、カトリーヌの横顔は素直に美しいと思った。前半の無邪気なハイティーンとラストのセレブな若奥様スタイルを見て、女は劇的に人相が変わってしまうと子供心に思った。
でも、私の好みは眉毛が太くて長い黒髪の美女なので、カトリーヌよりはマドレーヌを演じたエレン・ファルナー氏がいい。
カトリーヌの歌声は可愛らしくて、ときおり大人の抑揚が出て10代後半の魅力だな、と最近まで思い込んでいたが、実は出演者たちは歌の素人ゆえ全員吹替だったらしい。カトリーヌの歌声はダニエル・リカーリ氏が務めた。
最後に本作で巨匠となったドゥミ監督は後に「ベルサイユのばら」実写映画化を担当するが、ジャンルによって得手不得手があるようだ。真の巨匠は黒澤監督のようにどんなジャンルでも秀作を繰り出せる人だ。
(余談1)アルジェリアとフランスの関係は、韓国朝鮮と日本の関係に似ている。日本に在日コリアンが大勢いてスポーツや芸能で活躍しているように、フランスでもアルジェリア系が活躍している。
女優のイザベル・アジャーニ氏やサッカー選手のジダン氏が有名。因みに沢尻エリカ氏の母親もアルジェリア系フランス人。
(余談2)自動車の生産が拡大する事は当時から予想されており、ガソリンスタンドは有望な業種だった。ギィは自動車整備工の技術を活かし、時代の一歩先を見据えてガソリンスタンドをやる構想を立てた。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔
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