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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「灰の記憶」 自分に喝を入れたい時に〔16〕 

灰の記憶」 ユダヤ人も直視しづらい映画。
 

 
【原題】THE GREY ZONE
【公開年】2001年  【制作国】亜米利加  【時間】109分  
【監督】ティム・ブレイク・ネルソン
【原作】ミクロシュ・ニスリ
【音楽】ジェフ・ダナ
【脚本】ティム・ブレイク・ネルソン
【言語】イングランド語
【出演】デヴィッド・アークエット(ホフマン)  スティーヴ・ブシェミ(アブラモウィックス)  ハーヴェイ・カイテル(ムスフェルドSS軍曹)  ナターシャ・リオン(ローザ)  ミラ・ソルヴィノ(ダイナ)  アラン・コーデュナー(ニスリ医師)  カメリア・グリゴロワ(少女)  ダニエル・ベンザリ(-)  デヴィッド・チャンドラー(-)
    
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル パニック 不気味 恐怖 勇敢 絶望的 切ない 第二次大戦 ユダヤ人虐殺 1944年 
       
【特徴】ユダヤ人虐殺を描いたホロコースト物はよく制作されるが、この作品は少し視点を変えていて虐殺の下働きをさせられているユダヤ人たちを主人公に描いている。ガス室の楽屋裏で神経を病みながら手際よく同胞をガス室に入れ遺体を整理して焼却所で処理する「工程」を精細に描いた映画は珍しい。まったく未来への希望が見えない内容がリアルかつ冷徹に戦争というものを観客の心に突きつける。
 収容所の実質責任者のSS軍曹に扮しているハーヴェイ・カイテル氏は制作者にも名を連ね、本作への意気込みが伝わる。
 多くの犠牲者にとって、ヒーローは存在しないし幸運も無い。ただ、殺されるだけの虚無、この作品でそれを観てほしい。
  
【効能】絶望・意気消沈した心に愛の鞭で叩かれ熱くなる。
 
【副作用】倫理的に不快感をもよおす。何の希望も見出せない作品なので気分が暗くなる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
同胞をガス室へ送る
ユダヤ人作業員たちの物語

 
 ナチスドイツによるユダヤ人虐殺・迫害を描写した映画やドラマは数多く制作されている。中でも有名なのは「アンネの日記」「ホロコースト」「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」である。収容所の生活を描いた作品では漫画家シュピーゲルマン氏の「マウス」が漫画作品で初のピューリッツアー賞に輝いた。(余談1)
 さてこの作品だが、意外、というのは不適切かもしれないが、問題の悪名高きアウシュビッツガス室で、どうやってユダヤ人たちを殺し遺体を処理していったのかを作品のメインに据えて再現描写したのは、たぶん初めての試みだろう。「ホロコースト」でもガス室の描写はあるが、あくまで1シーン程度だしナチの下で「汚れ仕事」を行う「ゾンダーコマンド」の描写は殆ど無い。ユダヤ人にとってもナチに加担して同胞の虐殺補助をする存在は、今までタブーだったのかもしれない。
 
 列車から地下のガス室に案内され、「同胞」から消毒のためのシャワーと言われて脱衣所で荷物を置き服を脱ぐ、ガスで苦しみ悶えながら死んでいく人々、遺体を部屋から搬出する場面、白いガス室の壁には苦しさのあまり思いっきり手や頭を打ち付けたのだろう無数の血痕、手際よく黙々と脱衣所の荷物を片付け、ガス室を水洗いし壁を白く塗り替える。無数の遺体は焼却所で手際よく処理される。死体は当然生きている俳優たちが演じているのだろうが、黄色っぽい肉の塊にしか見えない。焼却所は24時間稼動なのか絶えず煙突から黒煙が上り、外では絶えずガス室の出入り口に向かってユダヤ人たちの行列が伸びていく。
 
 物語としては、散漫に見えたり、話の筋が解りづらかったり、救いようの無いラストであったりで、不快感や虚無感ばかりが残ると思う。しかし私にとっては「シンドラーのリスト」では主人公のヒーローぶりが鼻についていたし、「戦場のピアニスト」の主人公はあまりにも幸運すぎた。名作ではあるが、いずれも観客を安心させるための演出臭・脚色臭がするのである。この「灰の記憶」にはそれら臭いはあまりしない。
 多くの犠牲者にとって、ヒーローは存在しないし、幸運も無い。ゾンダーコマンドたちは同胞たちの遺体を生ゴミのように段取りよく手際よく黙々と処理していく。「役得」なのか処理した同胞から押収した葡萄酒や食べ物を貪る。食堂のテーブルには葡萄酒やチーズなどが豪華に並べられているが、やがては自分たちも灰となる運命である。(余談2)ハービー・カイテル氏扮する殺す側のSS軍曹でさえも精神が疲弊しきつい蒸留酒を痛呑する。
 
 唯一、脚色があるとしたら、奇跡的にガス室の殺虫剤をあまり吸わず生き残った少女(余談3)の存在だろう。これが実際にあったのかどうかは確認していないが、まだ幼い華奢な少女が生存していて主人公たちが助けたことで、誰一人まともな精神状態を保てない異常な緊張空間にさざ波が起こる。主人公たちは少女の存在に希望を抱き、SS軍曹の心には迷いが生じる。しかし、主人公たちは処刑され、少女も軍曹に殺される。
 
 下手にヒーローが登場したり幸運があったら、物語としてはプラスかもしれないが逆にアウシュビッツのリアリティーは無くなる。観客は大いにこの映画をみて不快感を抱き、戦争の虚しく荒んだ空気を体感していただきたい。
 
(余談1)昌文社で刊行されている。ドイツ人を猫に、ポーランド人を豚に、ユダヤ人は鼠に擬獣化して描いた漫画。収容所に入れられ奇蹟的に生還した主人公は作者シュピーゲルマン氏の父親だったと思う。手元に本が無いので皆さん確認してください。
 
(余談2)写真雑誌「ライフ」に掲載されていた収容所のユダヤ人たちの写真を見たことがある。骨と皮だけに痩せこけていた。だから、主人公たちの体格が良すぎるのに首を傾げたが、たぶん「役得」で暴飲暴食をしていたのだろう。
 
(余談3)エンドのキャスティング表にはカメリア・グリゴロワとあったが、ヤフー映画データには載っていない。物語の根幹でもある重要な役なのに何故だろう。
 作中では15歳となっていたが、どうみても12・3歳くらいにしか見えない。台詞は殆ど無かったが、良い演技をしていたしラストの台詞は泣かせる。今も俳優をやっているのかな?
 
 問題の少女が登場するのが、物語開始から30分過ぎ、主人公格のデビット・アークエット氏が脱衣所で反抗する中年男性を殴り殺す場面で、彼女の太い眉と大きな瞳のアップが映る。気付いていない人もいるかもしれない。彼女のストレス障害を負った表情はリアルだ。
 人によっては、少女の存在が希薄との批判もあるかもしれない。私も少女を主人公格に据えたらどうかなと思ったが、やはり演出臭くなる。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作



 

 
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灰の記憶 文部科学省選定作品ハピネットこのアイテムの詳細を見る 1944年、アウシュビッツ強制収容所。ユダヤ人のホフマン(デヴィッド・アークエット)は、 同じユダヤ人をガス室に送るなどの特別任務を担う“ゾンダーコマンド”としてナチスのために 働いていた。その?...
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