「マイ・インターン」
老紳士と美人社長が織りなす癒し系映画。【原題】THE INTERN
【公開年】2015年
【制作国】亜米利加
【時間】121分
【監督】ナンシー・マイヤーズ 【制作】 【原作】 【音楽】セオドア・シャピロ
【脚本】ナンシー・マイヤーズ 【言語】イングランド語
【出演】ロバート・デ・ニーロ(ベン)
アン・ハサウェイ(ジュールズ) レネ・ルッソ(フィオナ) アンダーズ・ホーム(マット) クリスティーナ・シェラー(ベッキー) ジョジョ・クシュナー(ペイジ)
【成分】かっこいい かわいい コミカル 楽しい 知的 笑える
【特徴】マフィアの親分や殴る蹴るの暴力シーンを演じる事が多かった硬派キャラの
ロバート・デ・ニーロ氏が穏やかで生真面目で腰が低い老紳士を演じる。
ロバート・デ・ニーロ氏と
アン・ハサウェイ氏の2人が主役に起用された事で大評判になった。作品評価についてあまり好意的でない映画ファンも少なくないが、デ・ニーロ扮する生真面目な好々爺と
アン・ハサウェイ扮する新進のアパレル実業家の組み合わせについては概ね高評価だ。
【効能】殺伐とした日常に潤いが生まれる。中高年の身の振り方の参考になる。中高年の扱い方の参考になる。
【副作用】地味な展開の割に現実にはありそうには思えない。主人公ベンによって担当を奪われた社員の行く末が心配。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
堅気になったドン・コルレオーネ。 予告編を観たとき、デ・ニーロ氏の印象は「カールじいさんの空飛ぶ家」に登場する主人公のカールじいさんみたいだった。
この作品、地味なコメディで途中の波乱も取って付けたかのように見えて、活劇を好む人には面白く感じないかもしれない。またこの手の作品に知名度の低いベテラン俳優や新進女優を起用したら話題にすらならない。
若いころからドン・コルレオーネやアル・カポネなど硬派なヤクザ役をやってきた男優が落ち着いた好々爺(余談1)に扮し、ヒロインは「プラダを着た悪魔」と舞台が若干ダブるためかその作品の後日談という誤解を生む宣伝効果もあって前評判があった。
実際、デ・ニーロと
アン・ハサウェイの組み合わせは世間の意表を突き、概ね評判が良かったように思うし、私もデ・ニーロの堅気な姿は微笑ましかった。
女性上司と年輩の新人部下との関係について踏み込みが甘いと感じる人も多いと思う。かつて中学校教師たちの多くが「金八先生」を見て「あんなスーパーマンいない」と不快感を抱いたといった話を知人の学校教師から聞いた事があるが、本作にも同様の違和感を感じただろう。
私自身、不景気で転職を繰り返す羽目になっているのだが、40代を過ぎると先輩だけでなく上司も歳下ばかりになる。職場での自分のポジションを安定させるためには、あまり歳上風は吹かせられない。仕事でチンタラやっているとお荷物になる。
自分の立ち位置を判っているつもりなのでデ・ニーロ演じるベンのように新しい職場で馴染みたいものだが、現実はなかなか上手くはいかない。
この作品は、理想の再雇用シニア社員を描いたもので、私のように還暦後を考え始める歳頃や、シニアを雇わざるを得ない若い企業家の願望が現れたものだ。たぶん、つまらないと思った人には制作者側の下心が見えてしまった場合も多いだろうと思う。
観ていると社会問題をさりげなく描写している。ヒロインはネット販売で急成長したアパレル企業、主人公ベンはかつて電話帳を印刷出版していた会社の部長職にいた。
インターネットで固定電話を引く人が減り、個人情報保護の機運が神経質に高まって、堅実で景気不景気関係ない安定業種と思われた電話帳出版印刷が一気に斜陽となる。ベンは幸か不幸か落日前に定年を迎え、潤沢な年金と退職金で悠々自適な引退生活を送っていたことがうかがわれる。
日本に例えると、戦後の高度経済成長の一翼を担った典型的なサラリーマンに該当する。60年代初頭に安定企業に就職して転職をすることなく40年間勤めあげ、日本経済が大きく傾く前に引退したので退職金と年金で悠々自適の生活を送っている人たちだ。
そしてベンのかつての職場が移転もしくは廃業したのか、その会社跡地にネット販売で台頭したヒロインの会社が入る。
日本に比べてキャリアウーマンが多いと思われているアメリカではあるが、やはり日本と同じような動機で仕事で成功した女性への妬みはあるしママ友イジメがある。日本とはまた違ったママ友同士の鬱陶しい付き合いがあるし、よくできた主夫にも精神的ストレスがある。
日本ほどではないにしてもアメリカの経済界も新興企業やベンチャー企業の女性実業家は軽く見られる傾向がある。
本作のように基本は善人ばかり登場し、全員が良き人間関係を構築しようと努力していても、トラブルは起きてしまうし、トラブルを克服する術を駆使する事は必要だと諭しているようにも見える。
完全無欠のシニア再雇用組のベンでさえも、楽隠居に虚しさを感じて外へ出るようになり、街の求人広告でヒロインの会社を見つけたのだから。
最後に、ベンの存在のおかげで関係者の多くは心にユトリと活気と穏やかさを獲得した。御洒落に無頓着だったオタク系の若い社員はTPOに多少は気を遣うようになり、自分のポジションを奪われる不安に駆られた若い社長秘書も身なりが落ち着き仕事の段取りが良くなったのか余裕を持った姿勢で仕事に臨むようになった。
だがたった一人、社長の運転手はどうなったのだろうか? 勤務中の飲酒をベンに見られて勤務を外れた男はラストまで登場しないままだったように思う。ベンは助言の体で相手の自尊心を傷つけないよう注意はしているが、結局は運転手の担当を外されたのでどんな気持ちなのだろうか。逆恨みしなければ良いのだがと心配してしまう。
(余談1)邦画俳優に例えたら、任侠映画によく主演する白竜が七三刈り上げ頭の銀行員か公務員のようなスーツ姿になって、誰に対しても腰低く相手の顔を立てながら丁寧に接してタメ口の若者から慕われるシルバー人材からの再雇用嘱託社員の役に扮するようなものか。
刈り上げ七三頭に眼鏡に背広ネクタイ。典型的な元サラリーマン。再就職先であるヒロインの会社は服装自由なのだが、背広ネクタイが落ち着くというベンは日本のサラリーマンにも相通ずる感覚だ。
とはいえ、やはりアメリカンだなと思う。ベンの恰好、たしかに普段着で出社している人たちに囲まれていると堅い感じがするのだが、これが日本であれば逆にベンの恰好が御洒落かキザに見えるだろう。
日本のサラリーマンの基本は白シャツに紺系の背広ネクタイ、色付きのシャツもせいぜい淡い青か細くて目立たないストライプが入っている程度。日本のサラリーマンの感覚で観たらけっこう派手なのだ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作
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堅気になったドン・コルレオーネ。 予告編を観たとき、デ・ニーロ氏の印象は「カールじいさんの空飛ぶ家」に登場する主人公のカールじいさんみたいだった。
この作品、地味なコメディで途中の波乱も取って付けたかのように見えて、活劇を好む人には面白く感じないかもしれない。またこの手の作品に知名度の低いベテラン俳優や新進女優を起用したら話題にすらならない。
若いころからドン・コルレオーネやアル・カポネなど硬派なヤクザ役をやってきた男優が落ち着いた好々爺(余談1)に扮し、ヒロインは「プラダを着た悪魔」と舞台が若干ダブるためかその作品の後日談という誤解を生む宣伝効果もあって前評判があった。
実際、デ・ニーロと
アン・ハサウェイの組み合わせは世間の意表を突き、概ね評判が良かったように思うし、私もデ・ニーロの堅気な姿は微笑ましかった。
女性上司と年輩の新人部下との関係について踏み込みが甘いと感じる人も多いと思う。かつて中学校教師たちの多くが「金八先生」を見て「あんなスーパーマンいない」と不快感を抱いたといった話を知人の学校教師から聞いた事があるが、本作にも同様の違和感を感じただろう。
私自身、不景気で転職を繰り返す羽目になっているのだが、40代を過ぎると先輩だけでなく上司も歳下ばかりになる。職場での自分のポジションを安定させるためには、あまり歳上風は吹かせられない。仕事でチンタラやっているとお荷物になる。
自分の立ち位置を判っているつもりなのでデ・ニーロ演じるベンのように新しい職場で馴染みたいものだが、現実はなかなか上手くはいかない。
この作品は、理想の再雇用シニア社員を描いたもので、私のように還暦後を考え始める歳頃や、シニアを雇わざるを得ない若い企業家の願望が現れたものだ。たぶん、つまらないと思った人には制作者側の下心が見えてしまった場合も多いだろうと思う。
観ていると社会問題をさりげなく描写している。ヒロインはネット販売で急成長したアパレル企業、主人公ベンはかつて電話帳を印刷出版していた会社の部長職にいた。
インターネットで固定電話を引く人が減り、個人情報保護の機運が神経質に高まって、堅実で景気不景気関係ない安定業種と思われた電話帳出版印刷が一気に斜陽となる。ベンは幸か不幸か落日前に定年を迎え、潤沢な年金と退職金で悠々自適な引退生活を送っていたことがうかがわれる。
日本に例えると、戦後の高度経済成長の一翼を担った典型的なサラリーマンに該当する。60年代初頭に安定企業に就職して転職をすることなく40年間勤めあげ、日本経済が大きく傾く前に引退したので退職金と年金で悠々自適の生活を送っている人たちだ。
そしてベンのかつての職場が移転もしくは廃業したのか、その会社跡地にネット販売で台頭したヒロインの会社が入る。
日本に比べてキャリアウーマンが多いと思われているアメリカではあるが、やはり日本と同じような動機で仕事で成功した女性への妬みはあるしママ友イジメがある。日本とはまた違ったママ友同士の鬱陶しい付き合いがあるし、よくできた主夫にも精神的ストレスがある。
日本ほどではないにしてもアメリカの経済界も新興企業やベンチャー企業の女性実業家は軽く見られる傾向がある。
本作のように基本は善人ばかり登場し、全員が良き人間関係を構築しようと努力していても、トラブルは起きてしまうし、トラブルを克服する術を駆使する事は必要だと諭しているようにも見える。
完全無欠のシニア再雇用組のベンでさえも、楽隠居に虚しさを感じて外へ出るようになり、街の求人広告でヒロインの会社を見つけたのだから。
最後に、ベンの存在のおかげで関係者の多くは心にユトリと活気と穏やかさを獲得した。御洒落に無頓着だったオタク系の若い社員はTPOに多少は気を遣うようになり、自分のポジションを奪われる不安に駆られた若い社長秘書も身なりが落ち着き仕事の段取りが良くなったのか余裕を持った姿勢で仕事に臨むようになった。
だがたった一人、社長の運転手はどうなったのだろうか? 勤務中の飲酒をベンに見られて勤務を外れた男はラストまで登場しないままだったように思う。ベンは助言の体で相手の自尊心を傷つけないよう注意はしているが、結局は運転手の担当を外されたのでどんな気持ちなのだろうか。逆恨みしなければ良いのだがと心配してしまう。
(余談1)邦画俳優に例えたら、任侠映画によく主演する白竜が七三刈り上げ頭の銀行員か公務員のようなスーツ姿になって、誰に対しても腰低く相手の顔を立てながら丁寧に接してタメ口の若者から慕われるシルバー人材からの再雇用嘱託社員の役に扮するようなものか。
刈り上げ七三頭に眼鏡に背広ネクタイ。典型的な元サラリーマン。再就職先であるヒロインの会社は服装自由なのだが、背広ネクタイが落ち着くというベンは日本のサラリーマンにも相通ずる感覚だ。
とはいえ、やはりアメリカンだなと思う。ベンの恰好、たしかに普段着で出社している人たちに囲まれていると堅い感じがするのだが、これが日本であれば逆にベンの恰好が御洒落かキザに見えるだろう。
日本のサラリーマンの基本は白シャツに紺系の背広ネクタイ、色付きのシャツもせいぜい淡い青か細くて目立たないストライプが入っている程度。日本のサラリーマンの感覚で観たらけっこう派手なのだ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作
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