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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ドニエプル攻防決戦1941」 孤独を楽しむ時に〔60〕 

ドニエプル攻防決戦1941」 
ベラルーシの戦争巨編。



ドニエプル攻防決戦1941[DVD]

【原題】Днепровский рубеж 
【公開年】2009年  【制作国】白露西亜  【時間】131分  
【監督】デニス・スコヴォゾウ
【制作】
【原作】
【音楽】
【脚本】   
【言語】ロシア語 一部ドイツ語
【出演】イゴール・シコヴ(師団長)  セニア・キャセヴ(
)  アナトリー・コット( )  アンナゴル・シコフ( )  ニコラス・コザック( )      

【成分】かっこいい スペクタクル 切ない 勇敢 悲しい 絶望的

【特徴】かつてソ連邦の構成共和国だったベラルーシーの戦争映画である。
 作品の舞台は1941年7月のベラルーシ東部の都市モギリョフ。いわゆる独ソ戦初期、ナチスドイツ軍がソ連の首都モスクワを目指して快進撃している時なので、主人公たちは絶望的な戦いを繰り広げる。史実ではベラルーシ全域がドイツ軍支配下に置かれるので、主人公たちはハッピーエンドではない。
 旧ソ連諸国のかつての戦争映画は侵略者に対して英雄的な突撃を行って勝利するパターンが多く、本作もその名残があるが、ハッピーエンドではないうえに所々に旧ソ連批判・共産党批判、そして暗にロシア批判が滲んでいる。

 東欧の旧ソ連諸国の映画なので、出演俳優はみな日本では知られていない。主演は頭が少し薄くなり始めた坊主頭の将軍、まだ40代前半くらいの若さで日本の俳優に例えると成田三樹夫的渋い中年男性。ヒロインはその将軍を慕う20代の若い看護師、藤谷美紀を金髪白人美女にしたような可憐さ。
 壮大な戦争映画なのだが、基軸はこの2人のプラトニックでじれったいほど奥手なラブロマンスである。

【効能】独ソ戦の一場面を知る事ができる。可憐な東欧美女のファンになる。

【副作用】大がかりな戦争映画のわりに単調な描写。独特のカット割りに戸惑う。CG合成がやや稚拙。

【読者諸氏へ】ロシア語が解らないのでエンドロールから俳優と役名の関連が解りません。御存知の方は教えてくださると助かります。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
プラトニックな渋い戦場ロマンス。

 ロシア映画と勘違いされがちだが本作はベラルーシ映画である。なので、侵略者ナチスドイツに対し果敢に抵抗したソ連軍を讃える旧ソ連圏の映画にありがちな物語ではあるが、モスクワ政府に対する反発も滲ませている。

 舞台は1941年夏のベラルーシー・マヒリョウ周辺。この頃のドイツ軍は質量ともに優勢で、秋までにモスクワを占領しようと士気も旺盛だった。(余談1)
 対するソ連軍は交戦の準備も不十分で防戦一方、しかも国内の不穏分子や反革命分子と疑われる者への弾圧などで無駄に国力を分散させ消耗させ、ドイツ軍とまともに戦える状態ではないのが本作でも詳細に描写されている。
 ハリウッド映画のような勝ってメデタシの映画ではなく、負け戦の映画であり、ラストは落日の様相だ。

 主人公はやや髪が薄くなり始めた坊主頭の渋い将軍、冒頭いきなり秘密警察(余談2)に拷問を受けている。執拗に殴られたせいか歯を全部折られ供述書に署名を迫られるが、そこへ電話がかかり釈放と戦線復帰が決まった。ドイツ軍の猛攻で有能な将校が必要だったからだ。
 戦線に師団長として復帰した主人公の襟章が大佐から少将に変わっていたことから、よほどソ連軍は切羽詰まっていたことが察せられる。前線復帰の前には歯を治療し総銀歯にしているところから、もともと身分の高い軍人だったようだ。

 ドイツ軍の侵略に晒されるベラルーシの最期といった感じの内容であり、塹壕に立て籠もるソ連軍と最新装備の大軍勢ドイツ軍との戦いは壮大な構図で描かれ、製作費は決して安くはない。
 主人公が指揮所を置いているモギリョフ周辺の地図が途中何度か表示され、アニメーションでドイツ軍の侵攻路が灰色の太い矢印で、自軍は細くて赤い矢印で表され次第に追い詰められつつある事が強調される。

 が、基軸となっているのが若い看護婦ゾーヤ(余談3)と主人公とのラブロマンスだろう。しかも国民性の違いなのか、ハリウッドやフランス映画にありがちな男女が乳繰り合う場面は無く、いたってプラトニックなのだ。お互いに「愛している」すら言わない、まるで古き良き時代の日本の恋愛モノのごとくじれったくて煮え切らない。

普段はツンデレキャラのゾーヤちゃん。
普段はツンデレのゾーヤ。横顔からうなじのラインが美しい。

 おそらく主人公を追いかけて前線に来たのだろうか? 師団本部が置かれているモギリョフの野戦病院に飛び入りで従軍看護婦となる。
 上司の美人大尉はヒロインと師団長との関係を察して気を利かせるが、師団長は素っ気ないし、ヒロインもあくまで尊敬する上司への接し方の範疇を超えない。

 ハリウッド映画のように男と女の関係にはならない代わりに、主人公は職権を乱用して大胆な行動に出る。
 軍医の命令でヒロインが部下を連れ激戦区の野戦病院へ出張するのだが、ドイツ軍の猛攻によって既に病院は壊滅、ヒロインも銃を手に戦うが弾薬も尽きて死を覚悟した時に主人公が手勢を引き連れて助けに来る。もちろん無断で出動している。

ゾーヤちゃんは傷病兵の手当てだけでなく銃を撃つ時も多々ある。
ゾーヤは銃を手にする事も多々ある。
構えているのは用心金の形状からソ連軍の制式ライフルのモシン・ナガンと思われる。
モシン・ナガンはバリエーションがあるがこの時期は大戦初期でもあるので
最も生産されたM1891/30だろう。

 一方、主人公が勝手に師団本部を抜け出したことで部下の参謀長はカンカンに怒る。負傷した主人公がヒロインに付き添われて本部に戻った時は何事も無かったかのように怒りを表に出さず、人前でヒロインに厳しい態度をとる主人公に参謀長は達観した表情で「イイ娘なのに、冷たいですね」と皮肉を言う。
 職権乱用で愛しい女を助けた主人公は「戦場に良い女も悪い女もいらん」と強がる。

 注意深く真面目に観ていると、この悲惨な戦場を描写した重たい映画は、意外にもさり気なくラブコメだったりする。 

最期の突撃直前のゾーヤ。
目を潤ませ微笑むゾーヤ。主人公の師団長にしか見せない表情。

ゾーヤを気遣いながらも素っ気ない態度を崩さない主人公。
そんなゾーヤが気になって仕方がないのに素っ気ない表情を崩そうとしない主人公。

(余談1)ロシア語でモギリョフ。作中の名称もロシア語で呼ばれている。ベラルーシー東部の大都市。

 ドイツ兵はドイツ語を話す。ハリウッドのように英語を話すドイツ人はいない。
 ハリウッドでは米軍が劣勢でも画面上はドイツ兵が一方的になぎ倒される描写だが、本作はソ連軍の劣勢具合はよく描写されている。

(余談2)拷問する将校はコバルトブルーの制帽を被っていたことから秘密警察と思われる。少佐の階級章をつけているが、階級が上の主人公に対してかなり偉そう。
 単に虎の威を借る狐ではなく、かなり有能で勇敢。佳境ではドイツ軍に攻囲された主人公のもとに行くため前線にパラシュート落下して敵陣を突破している。
 その途中で護送車に監禁されていた死刑囚の反革命分子を命令に背いて解放させているところから頑迷な共産党幹部でもなさそうだ。

(余談3)端正な顔立ちの金髪美女。細いうなじと後ろ髪のおくれ毛が美しくて生々しくてグッド。
 いつも思うのだが、同じ白人でもハリウッド系の美形女優とは雰囲気が違う。女子フィギュアの選手にしても、アメリカの選手は痩せていても筋骨が逞しいのだが、東欧は華奢に見える。
 ヒロインの先輩看護婦もなかなかの美女。しかも襟の階級章を見ると大尉だった。おそらく婦長を務めているのだろう。野戦病院の看護婦で大尉とはかなりのお偉方である。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作



 
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同じ戦勝国ながらロシアや東欧の戦争映画は悲壮感が漂いハリウッド作品のようなハッピーエンドになりません。

やはり民族性や文化性の違いでしょうか・・・
[ 2016/02/23 19:49 ] [ 編集 ]
うろぱす氏へ

 複数名のロシア人にあった事がありますが、皆さん一様に明るくてオーバーアクションの人たちばかりでした。

 私は歴史的背景だと思いますね。戦乱や革命や言論統制など暗い時代を潜ってきた東欧と、一方的にアメリカ先住民やアジア人を殺し続けて大きくなったアメリカの差です。
 また、ソ連時代は映画は共産主義の正しさを教育する目的があったのに対して、アメリカでは自由な創作を許容する事を装いながら実は宣撫工作の道具として活用し、雑多な民族を「アメリカ国民」にまとめるため誰にでもウケる楽しい結末の映画を量産しました。

 民族性や文化の違いというよりは、これまでの国策が影響がより強い。


> 同じ戦勝国ながらロシアや東欧の戦争映画は悲壮感が漂いハリウッド作品のようなハッピーエンドになりません。
>
> やはり民族性や文化性の違いでしょうか・・・
[ 2016/02/24 06:00 ] [ 編集 ]
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