ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「キネマ純情」 青春回帰〔51〕 

「キネマ純情」 
井口昇が放つB級の王道青春百合映画。


キネマ純情

【原題】 
【公開年】2016年  【制作国】日本国  【時間】131分  
【監督】井口昇
【制作】
【原作】
【音楽】福田裕彦
【脚本】井口昇   
【言語】日本語
【出演】荒川実里(アカリ)  洪潤梨(ヨシエ)  上埜すみれ(ケイコ)  柳杏奈(アキ)  中村朝佳(ナオミ)  山本愛莉(アヤノ)  晴野未子(モエ)  大部彩夏(カズコ)  川合空(中野チャコ)      

【成分】かわいい コミカル ファンタジー 不気味 切ない 楽しい 笑える

【特徴】井口昇監督が放つB級青春映画。基本、男性不在の女性メインの世界である。男優はナオミと同じゼミの学生役で数名登場するのみ、他は全員女性でキャスティングされている。
 井口監督によると、出演者オーディションを行うにあたって出した絶対条件に「女性同士でキスができる人」を挙げた。それくらい女優同士のキスが多い映画だ。

【効能】青春が甦る。心が若返る。

【副作用】時間と金銭の喪失感に襲われる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
出演者オーディションの絶対条件に 
「女同士でキスできる人」があった。


 この「キネマ純情」を知ったのは偶然だった。家庭の事情で映画館から遠ざかっていたのだが、たまたま1年ほど前にTwitterで本作主演者の1人洪潤梨氏のtweetを見かけたのがきっかけで、あの井口昇監督がなにやら楽しそうな試みを展開している事を知った。

 映画に主演する女優アイドルを募集、ユニット「ノーメイクス」の結成、都内各地で地道な宣伝工作とライブ活動、井口監督渾身の青春映画、低予算映画の王道を行くプロセス、B級映画好きの私にとって絶対に観なければならない作品となった。

 過去のレビューで何度か述べたが、メジャーな映画は潤沢な資金と人材が集まるので面白くて当たり前、しかしそれでもハズレはある。また出資者たちの意向による制約がきつく監督ら表現者は思い切った手法が使えないデメリットがあり、無難な内容を選択する事が多い。映画通の諸兄たちが口を揃えて大手アイドルグループのメンバーが主演する映画が面白くないと言うのはそのためだ。ハリウッドがやたら過去の作品をリメイクするのも大コケを嫌がるスポンサーの意向が強く働いているためだ。
 その点、B級映画にはその縛りが少ない。もちろん予算も少ないがそこは監督たちの腕の見せ所だ。画期的表現方法や未来の巨匠や名優というものはB級から誕生していると言い切っても過言ではない。

 それでは本題に入ろう。井口監督作は以前から好きだったし前述の洪氏も大阪出身という親近感からというのもあるが、私自身も高校生時代に友人の自主映画を手伝った経験(友人たちの弁によれば邪魔しに来たとしか見えなかったそうだ)から映画の舞台には違和感なく感情移入できた。
 一部でやたら女同士のキスが多い点を批判対象にしているようだが、むしろ思春期の興味の対象を素直に描写していると言ってもいい。

 本作で男性は殆ど登場しない女性メインの映画、閉鎖的な女子高の世界に近い。監督脚本が男性なので、この手のテーマにすると男性目線が目立って必要以上に男性が求めるエロさが目立ってしまう事が多いが、さすが井口監督である。むしろ女子高の漫研の女の子がちょっぴりエロの「やよい」(余談1)の自主映画を創ってもこんな内容になるかもしれない。

 学園にありがちな都市伝説や学校七不思議に必ず登場する幽霊や、友人を奪われそうになる嫉妬と焦燥感から疑似同性愛感情に発展する様や、低予算映画の定番ゾンビ映画的要素など、思春期ファンタジー盛り沢山の内容を主演者たちが爽やかに表現している。
 キャスティングの巧さの賜物だろう。中村朝佳氏は目ぢからの強さを活かして強引なメガホンをとる少し歳上の映画監督(余談2)、その中村氏に恋愛感情を抱く耽美的文学少女キャラの上埜すみれ氏、長身の柳杏奈氏は性同一障害を抱えるやや屈折した女子高演劇部の部長。ノーマルで明るい典型的な女子高生役に荒川実里氏と洪氏、荒川氏は少女漫画に登場するような大人し目の可愛らしいキャラ、洪氏は快活な大阪弁を話す女の子。

 これらキャラが巧く噛み合って、人によっては男性目線のエロさに陥りがちの馬鹿馬鹿しい内容に見えるだろうが妙に現実味のある説得性が発生し、洪氏の大阪弁によって清涼感さえ抱く青春映画に仕立てている。

(余談1)「やよい」という単語をおそらく1990年前後に生まれた言葉だと思う。同人誌の仲間の女の子から聞いた話では、「やっぱり、男が、いい」の略らしいが真偽のほどは判らない、諸説ある。
 ボーイズラブをテーマに美少年美青年が大勢登場する「少女漫画」を「やよい」と呼ぶ。

(余談2)藝術系大学の映像科の学生で課題のために映画を制作しているという設定。私も藝大にいたので雰囲気が判る。
 数少ない男性出演者たちが映画スタッフとして登場するが、彼らは学友でお互いに手伝いあって課題をこなしているのだろう。今回は朝佳が監督なのでレフ版を持ったりなど協力していると思う。しかしあくまで同じゼミの学友であって部下ではないので、作中の朝佳のような態度をとられたら「勝手にしろ」と放り出すのは当然。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作



 
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[ 2016/07/10 08:38 ] 映画・・青春回帰 | TB(0) | CM(0)
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