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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ウォーキングZ」 孤独を楽しむ時に〔61〕 

ウォーキングZ」 
孤独感を楽しむ作品


ウォーキングZ

【原題】WASTELAND 
【公開年】2013年  【制作国】英吉利  【時間】92分  
【監督】トム・ワドロウ
【制作】
【原作】
【音楽】デイブ・S・ウォーカー
【脚本】トミー・ドレイバー   
【言語】イングランド語
【出演】シェメアー・シーパーサンド(スコット) ジェシカ・メッセンジャー(ベス)  マーク・ドレイク(マックス)  レイチェル・ベンソン(ローリ)  ギャビン・ハリソン(ジョージ)  カール・ブライアン(デーブ)        

【成分】パニック 不気味 切ない 恐怖 悲しい 泣ける 絶望的

【特徴】B級ゾンビ映画の典型例の一つ。アメリカが制作した作品の多くは安っぽさやチープさが丸出しなのだが、イギリスの作品はどこか文学的に見えてしまう。

 晴雨堂は個人的にこの雰囲気は気に入っている。

【効能】独りで物思いに耽るのに最適の環境映画。深夜、孤独感を楽しむ補強剤。主人公に感情移入して過去の大恋愛を思い出し泣ける。

【副作用】睡眠導入剤になる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
なんだか、尺合わせ丸出し。

 英国産ゾンビ映画である。
 ゾンビは今や低予算映画の救世主だ。特殊なメイクや演技力を必要とせず、衣装も自前の古着で済ませられるので、上手くマネジメントすればマーク・プライス監督作「コリン」のように数千円で制作し高く評価される事も可能だ。

 さて、この作品も前半は「コリン」的な低予算の文学作品のように話が展開する。出演俳優は僅か4人程度。ロケ地も郊外の空き家や倉庫にほぼ限定。
 タイトルの原題は「WASTELAND(荒地)」で、「ウォーキングZ」は日本での販促のために知名度の高いゾンビドラマ「ウォーキング・デッド」にあやかった邦題だろう。内容は全く関係ない。

 主人公は禿頭のアフリカ系青年。ボロをまとったホームレスのような風体だ。冒頭、行倒れの遺体から所持品を奪い缶詰等の食料を回収する。遺体を突いたり辺りを気にするなど異常に警戒する。
 これはゾンビ映画だから、ひょっとしたら遺体がむっくり起き上がって大口開けて襲い掛かってくるかもしれない。あるいは唐突に草むらから別の遺体が襲い掛かってくるかもしれない。観客はアクションに備え心の準備をしながら成り行きを見守る。
 しかし何も起きなかった。上手いフェイント。

 彼の住まいは農機具を保管する納屋のような小屋、広さはせいぜい四畳半から六畳程度、ベッドとソファーと簡単な調理器具と通信機があるだけ。彼は1人で籠城するように住んでいた。
 台詞から、彼には「外出中」の恋人と、ハム通信で交流している友人2人がいて、完全に孤立しているわけではなさそうだった。

 彼はゾンビが徘徊する崩壊した「無人の街」を食料求めて探索しながら小屋に戻り、通信機だけでつながっている友人と交流し、恋人との楽しい思い出を回想する毎日を送っている。
 回想シーンの挿入タイミングはよく考えられている。メジャー作品でも時系列に囚われない凝った展開をして観客に話の筋を判りにくくしてしまう「前衛的」な構成にしてしまう事がよくあるが、本作は判りやすく観る人に郷愁を誘う。
 回想シーンでの主人公は無精髭を生やしておらず、お洒落で清潔なシャツを着ている。この気配りは当たり前なのだが結構見落とされがちだ。

 やがて物語の転機。通信機でつながっていた友人夫妻がやられた。妻がゾンビ化し処分できず噛まれた。正気でいられる最期の時間を主人公と交信する。友人の最期のメッセージを泣き顔で聞く主人公、この俳優は良い演技をしている。(余談1)
 この友人との別れがこの後にやってくる恋人との別れの伏線になる。

 友人との別れから、唐突に恋人が帰還。どうやらゾンビに襲われ追いかけられているようだ。ゾンビの群れを撃退して孤独な生活から二人の生活へと流れるのだが、案の定、恋人の腕には包帯がまかれ赤黒い血が染み出している。ゾンビ映画を観慣れている観客にはこれが何を意味するか一目瞭然。
 ヒロイン役も日本では知られていない俳優なのだが、グッドなキャスティングだと思う。日本の女優野川由美子氏を病み上がりの顔にしたようなキャラ。いかにもじわじわゾンビになっていくような予感がする。
 主人公は友人と違って躊躇はするものの拳銃で処分。埋葬後、恋人との思い出が詰まった籠城小屋に火をかけ旅に出る。

 物語としてはここで終わっても良いのだが、これは90分枠の作品。この時点ではまだ70分、ラスト20分にどんな展開があるのかと思いきや、まるで付け足すように唐突なエピソードで佳境へと流れる。

 中年男性と10代半ばくらいの少女の二人組ギャングに襲われ拘束される。男性は元科学者だったらしく、少女はなんとゾンビ菌に免疫がある特殊体質の持ち主らしい。根は悪人ではなく、主人公は拘束を解かれ荷物の大部分も返却される。
 そこへ大挙ゾンビの群れが襲い掛かってくる。中年男性はあっという間に喰われ、主人公は少女を連れて辛くも脱出するが噛まれてしまう。残り少ない命を少女を守るために使うと決意して旅を続ける。

 ラストは取って付けたようなエピソードのようで釈然としない。これよりも、手垢のまみれのネタではあるが少女をヒロインの妹という設定にしたほうがまだ観客は納得しやすかったのではないか。
 ヒロインは口頭で「父母は無事だったが妹はダメだった」と主人公に伝えた。実はゾンビに噛まれて隔離されたものの変化しなかった事で科学者の中年男性が研究所へ連れていこうとした、という事ならつじつま合う。

(余談1)主演のシェメアー・シーパーサンド氏は、日本では全く無名の俳優。ところが、メジャー映画であるヘレン・ミレン主演「カレンダー・ガールズ」に「警官3」役でチョイ出演していた。地道にキャリアを重ねてきたのだろうか。
 しかし英文サイトで検索してみたが出演映画はまだまだ少ない。イギリスのテレビや舞台ではそこそこ有名なのだろうか?

 悲劇の恋人役を演じたジェシカ・メッセンジャー氏も日本では無名。3歳から舞台やダンスを始めたらしい。彼女もイギリスのテレビなどではそこそこ有名なのだろうか?

晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作



 
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