ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」 社会問題を考えたい時に〔28〕 

11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」 
若松監督昭和三部作




【英題】11:25 The Day He Chose His Own Fate 
【公開年】2011年  【制作国】日本国  【時間】79分  
【監督】若松孝二
【制作】若松孝二
【原作】
【音楽】板橋文夫
【脚本】若松孝二 掛川正幸   
【言語】日本語
【出演】井浦新(三島由紀夫)  満島真之介(森田必勝 楯の会2代目学生長)  渋川清彦(持丸博 楯の会初代学生長)  岩間天嗣(古賀浩靖 楯の会隊員)  永岡佑(小賀正義 同左)  鈴之助(小川正洋 同左)  タモト清嵐(山口二矢 日本社会党委員長浅沼稲次郎を刺殺した少年)  寺島しのぶ(平岡瑤子 三島の妻)  大西信満(倉持清 楯の会隊員)  中泉英雄(田中健一 同左)  平野勇樹(鶴岡友昭 同左)  笠松伴助(中辻和彦 同左)  鈴木信二(関河真克 同左 龍笛奏者)  橋本一郎(斎藤英俊 日本学生同盟会員)  落合モトキ(遠藤秀明 同左 森田と一緒に貝殻島上陸をはかる)  粕谷佳五(楯の会A)  礒部泰宏(楯の会B)  小橋和之(楯の会C)  小林優斗(上田茂 森田の幼なじみ)  韓英恵(上田牧子 同左 茂の姉)  篠原勝之(碇井陸将 陸上自衛隊富士学校校長)  地曵豪(福岡喬 富士学校教官)  辻本一樹(富士学校教官A)  山岡一(富士学校教官B)  安藤岳史(自衛官M)  小橋和之(楯の会C)  小林優斗(上田茂)  韓英恵(上田牧子)  篠原勝之(碇井陸将)  地曵豪(福岡喬)  辻本一樹(富士学校教官A)  山岡一(富士学校教官B)  水上竜士(山本舜勝一佐 陸上自衛隊調査学校情報教育課長)  吉澤健(益田兼利陸将 陸上自衛隊東部方面総監部総監)  増田俊樹(幕僚A)  よこやまよしひろ(幕僚B)  中沢青六(幕僚C)  岡部尚(全共闘学生A)  森岡龍(全共闘学生B)  寺井文孝(全共闘学生C)  安田暁(全共闘学生D)  藤井由紀(全共闘学生E)  安部智凛(全共闘学生F)  小林三四郎(舩坂弘 元軍人 三島に日本刀・“関孫六”を譲渡した人物)  小倉一郎(田中必勝の父)  長谷川公彦(徳岡孝夫記者)  

【成分】悲しい 切ない 知的 絶望的

【特徴】若松孝二監督昭和三部作最終章。

 日本を代表する小説家三島由紀夫が憂国の情に突き動かされて民兵組織「楯の会」結成し市ヶ谷駐屯地で占拠事件を起こした末に割腹自殺を遂げるまでを描く。
 決して駄作ではないが、前作の連合赤軍に焦点を置いた「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」や反戦をテーマにした「キャタピラ」ほどに思い入れを感じない。
 思うに、監督自身は左翼ではないと公言しているもののやはり左にシンパシーを感じていたのではないか、そして左系内容の映画制作が続いたのでバランスをとるために右側の三島由紀夫を撮ったのではないかと私は勘繰っている。

 とはいえ、俳優たちの熱演は素晴らしい。

【効能】右翼思想に目覚める。反日勢力の間接侵略に危惧を抱く。

【副作用】右翼思想に目覚める。反日勢力の間接侵略に危惧を抱く。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
言いたくないけど、全体にショボイ。

 実は三島由紀夫をテーマにした映画は過去にある。ポール・シュレイダー監督の「Mishima: A Life in Four Chapters」である。アメリカ主導で制作された映画だが、殆どの場面は緒形拳氏をはじめ坂東八十助・佐藤浩市・沢田研二・永島敏行ら著名な日本人俳優による日本語の演技、関わっているアメリカ側の主要スタッフも親日家や三島文学の愛好者である。
 
 1985年にアメリカで公開され、第38回カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞を獲るなど欧米で高く評価されたのだが、残念な事に日本を舞台にした日本語の映画でありながら日本での劇場公開はおろかソフト販売すらされていない。
 三島文学には耽美的な要素があるのだが、その部分の解釈と映画との絡み方をめぐって三島由紀夫の遺族の了解が得られなかったり右翼団体の抗議等があったらしく劇場公開できなかった幻の作品である。何しろ三島由紀夫は一部の右派市民の間ではカリスマ・レジェンドである。(余談1)
 この作品で主演した緒形拳氏は実際の三島由紀夫とは似ても似つかぬ顔なのだが、役作りで身体を筋肉質に引き締め、三島のトレードマークである胸毛や腹毛をつけていた。
 賛否は有るものの、作品としての完成度は非常に高かったのではないかと思っている。

 さて、前置きで長々とポール・シュレイダー監督作の「Mishima」を長々と紹介した事とレビュータイトルでこの後に続く内容はお察しかと思う。ショボイ、ガッカリ、幻滅なのだ。

 若松孝二監督の映画界でのポジション、政治的ポジションを考えれば、潤沢な予算で映画制作をするのはまずあり得ない。たぶん、TVの再現ドラマあるいはVシネマなみ低予算で制作したのではないかと思う。
 シュレイダー監督はアメリカのメジャーな映画人、制作にはコッポラ氏やルーカス氏など大物が参画しているゆえ、おそらく予算面でも若松監督版より遥かに桁が多い巨費を投じて制作されているはずである。

 予算面の違いはエキストラやロケセットや小道具など雄弁に表れている。三島は豪華な「ベルばら」の世界を連想するようなロココ調の内装の豪邸に住んでいたのだが、本作ではそれが十分描写されておらず安っぽい。
 市ヶ谷駐屯地での三島最期の演説では駐屯地の自衛官や報道関係者が集められ、三島は自衛官たちの怨嗟の野次を浴びて絶望するのだが、シュレイダー版では野次に三島が圧倒されてしまう様がよく描写されていた。ハリウッドの大作を思えばけっして動員エキストラ数は多くはないのだが群衆場面の使い方が慣れている。(余談2)
 若松版では自衛官役のエキストラが集められなかったのか当時の記録映像挿入で誤魔化し、野次は音声のみで「効果音サンプル」を疑う。三島役の井浦新氏の表情ばかりカメラが追うので演説が間延びしたように見えた。
 そして盾の会の制服である。シュレイダー版では布地や仕立てがしっかりしていたが、若松版では安い布地ぽく、実際の三島が着ていた制服と比べてみても仕立ての差は歴然。

 そして何より井浦新氏の体脂肪に包まれた貧相な体格である。晩年の三島はボディビルにハマって金剛力士像のような身体になっていた。緒形拳氏は実際の三島に比べやや筋肉量が少ないきらいはあったが引き締まった身体にしていた。俳優として勤勉と思われた井浦氏がハッキリ言って貧相かつお腹ブヨブヨの肉体というのは意外だった。これは多くの三島ファンが怒ると思う。
 ただ、私は井浦氏への贔屓目かもしれないが肉体改造をする時間の猶予が無かったのではないかと思っている。それも低予算ゆえに撮影期間を伸ばせない物理的事情があったのではないか。何しろ自分が扮する三島由紀夫のために「ARATA」という芸名を捨て漢字の本名に戻したほどだ。晩年の三島といえば作家らしくない逞しい肉体に白い褌に日本刀をカッコ良く構えるイメージ、彼はその事を判っていたはずだ。

 物語の構成としては、やや煮詰まり不足があったように思う。あくまで複数ある説の中の一つに三島の「弟子」の森田必勝が実質の首謀者で三島はそれに煽られ引っ張られて占拠事件を起こしてしまった、というのがあり本作もその説で展開している。
 シュレイダー版では三島の代表作である「金閣寺」「鏡子の家」「奔馬」「豊饒の海」からダイジェストした実写化に三島が自決する当日の起床から決行までの行動を追った映像と絡める内容になっているのに対し、本作では文学については一切割愛され、血気盛んな森田必勝の熱情に感化されていく展開だ。森田役は女優満島ひかり氏の実弟道島真之介氏が情熱的に演じる。

 森田煽動説をとるなら、持丸の離脱をもっと丁寧に描いてほしかった。史実の楯の会は三島がカリスマとして君臨し全活動の資金提供を行っていたが、運営全般は理論派かつ実務派の学生長持丸博氏(余談3)が全般を取り仕切っていた。
 ところが持丸氏が関係団体の間で思い悩んだすえ結婚を機に脱退を決意する。会の実務を持丸に任せきっていた三島にとって大きなダメージになり落胆は激しかったと伝えられている。その心の隙間を強硬派の森田に引っ張られるのだが、まことにあっさりとした描写で済まされた。

 映像的には予想以上に低予算臭さが目立ち、脚本では準備不足と若松監督らの三島への理解度・認識度の弱さが滲んでしまったが、出演俳優たちの熱演は素晴らしいものだった。 中でも三島と共同主人公といっても良い森田必勝を演じた満島真之介氏の殊勲ではないだろうか。

(余談1)邦題「MISHIMA ――11月25日・快晴」で劇場公開される予定だった。三島の同性愛を思わせるような描写に三島の妻の平岡瑤子氏が反対したらしい。
 右翼活動家の抗議運動が実際にあったのかどうかは確認できていないが、上映側が右翼の騒乱を恐れていた事は確かなようだ。これほど海外で評価された作品でありながら、結果として日本での上映もソフト化も行われていない。

(余談2)低予算や群衆描写の得手不得手以外に、時代の空気も反映されているのかなと思っている。シュレイダー版制作当時は80年代半ば、私が大学生の頃である。三島事件当時、全共闘などの運動に関わった若者たちはまだ30代40代と若く、私から見れば兄貴分的な存在として影響力があった。
 学校の授業で若い教師が学生運動に関わっていた頃の武勇伝を話す事がよくあったし、私が中学生の頃から夢中になったYMOのメンバー坂本龍一氏は全共闘に参加していた事は有名であった。
 ところが若松版は2011年制作、主役の井浦氏をはじめ多くの映画人にとって三島事件は生まれる前に起こった事、私が学生だった頃はまだ時代の残り香があったが井浦氏らの世代にはもはや無い。
 だから三島が学生運動の現場に行って学生たちを前にトークする場面や、自衛官たちを前にした最期の演説にしても、三島に浴びせる野次の迫力の無さに違和感を抱いた。その点はシュレイダー版の方がまだ実像に近いような気がする。

 そして何より、若松監督はどちらかといえば左派にシンパシーを感じるタイプで、左翼過激派に焦点をあてた「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」では少ない予算であったにも関わらずリアル描写が素晴らしかったのに、本作では脚本のこなれなさが滲んでいるように思えた。

(余談3)本作では持丸氏の婚約者松浦芳子氏は台詞の中でしか登場しないが、彼女は今や右派政治家の重鎮であり、右派TVの「チャンネル桜」発起人だ。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作


晴雨堂関連作品案内
Mishima - A Life in Four Chapters ポール・シュレイダー監督
 日本ではソフト化されておらず北米版ではあるが、全編日本語台詞英語字幕なので日本人には差し障りない。
 三島文学の熱心なファンであるロイ・シャイダー氏がナレーションを担当している。


 
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