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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ダンケルク」 家族と一緒に考えよう〔29〕

ダンケルク」 
英軍パイロット役のトム・ハーディ、
一番おいしい役をやっていた。


ダンケルクのポスター

【英題】DUNKIRK 
【公開年】2017年  【制作国】英吉利 亜米利加 仏蘭西 阿蘭陀  
【時間】106分  
【監督】クリストファー・ノーラン
【制作】エマ・トーマス クリストファー・ノーラン
【原作】
【音楽】ハンス・ジマー
【脚本】クリストファー・ノーラン   
【言語】イングランド語 一部フランス語
【出演】フィン・ホワイトヘッド(トミー英陸軍二等兵)  トム・グリン=カーニー(ピーター・ドーソン)

【成分】かっこいい パニック 切ない 勇敢 恐怖 悲しい 絶望的 フランス ダンケルク 1940年 第二次世界大戦

【特徴】ナチスドイツ軍が圧倒的優勢だった第二次世界大戦初期の1940年、ダンケルクの浜辺に追い詰められ攻囲された英仏連合軍の物語。

 過去に何度か映画化されているが、本作の場合は主に脱出して生き延びようと必死の若い平凡な二等兵の視点で描かれているため、観客にもリアル感情移入しやすい。
 ただ、平凡な若者の視点だけではエンタメには貧相なので、ときおりダンケルクの兵士を助けようと奮闘する民間船の老船長や英空軍パイロットの視点も絡めて構成。

【効能】

【副作用】

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
それにしても何故いまになって 
ダンケルクの映画を?


 ダンケルクの戦いが映画化されたのは過去に数度ほどある。最も有名だと思うのが60年代の仏映画「ダンケルク」で若きジャン・ポール・ベルモント氏が主演していた。(余談1)
 ベルモント版も迫力ある戦闘場面がある。兵士たちを満載した桟橋やボートのすぐ横に爆弾が炸裂する場面など、ノーラン監督も参考にしたのではないかと思う場面が多々ある。
 但し、当然の事ながら主演俳優のベルモントが唯一の主人公を務めているし、可憐な金髪美女も登場する。

 私はこのベルモント版のイメージを引きずって今回の「ダンケルク」を観た訳なのだが、少し拍子抜けした部分がある。海岸があまりに広くて綺麗だったからだ。
 ベルモント版はおそらく撤退後のダンケルクを撮影した風景を参考にしているのではないかと思う。砂浜一面に遺棄されたトラックやジープや戦死者が累々と転がっている光景。
 ところが本作では広々とした砂浜に乗船の順番を待つ兵士たちの列が何本か見えるだけ。意外に殺風景だった。とても数十万の人間がひしめき合っているようには見えなかった。
 しかし巨費を投じたメジャー作品で矮小な表現は考えられない、たぶんドイツ軍が雪崩れ込む直前の風景はこんなものかもしれない。

 さて、前述したようにベルモント版では主人公はベルモントが唯一であり、金髪の若い美女も登場する。しかし今回のダンケルクに孤高の主演者はいないし、殆どの映画には欠かせない若い美女も登場しない。

 大きく分けて3人の主人公が登場する。撤退途中の若いイギリス兵、本編の大部分はこのイギリス兵の視点で描写される。ダンケルクの浜辺へと逃げる激動の1週間が彼の物語だ。
 次に民間の小さな船を所有する初老の船長、船が足らない英海軍はダンケルクのイギリス軍救出のため民間船も徴用する事に決めたが、彼は船の徴発に従わず自ら年若い息子とその学友の二人を助手に救命胴衣を大量に用意してダンケルクへと出港する波乱の1日が彼らの物語だ。
 3人目は英空軍のパイロットたち。日本のゼロ戦と並び称される王立空軍最新鋭のスピットファイヤーを操りドイツ軍の空爆を受けるダンケルクや救援船を守るために出撃、彼らの怒涛1時間余りのエピソード。

 この三者の異なる視点と時系列の物語を同時進行の様にまとめた監督の手腕は大したものだが、慣れない観客は少し訳が解らなくなるかもしれないので二度・三度鑑賞を勧める。
 登場人物も多いのでなおさら二・三回は観たほうが良いだろう。

 視点は臨場感を意識して三者の目から見える視界に徹底して限定されている。特に陸の主人公トミー二等兵の視点に多くの尺を割いていた。ダンケルクの市街地でドイツ軍の狙撃を受けるが、ひたすら弾着の合間を逃げ惑うだけで敵の姿は現れない。
 慌てて逃げるのでビック・モロー主演「コンバット!」のような素早い反撃する余裕は無く、それどころかボルトアクションの銃(余談2)が弾詰まりを起こして撃てずひたすら逃げるだけ。逆にドイツ軍は機関銃が普及しているのか凄まじい連射を浴びせてくる。

 辛くも浜辺の陣地に辿り着く。そこには船を待つ列が何本も。並ぼうとすると「ここは近衛連隊、お前は並ぶな」と追い返される。
 あてもなく彷徨うと、死んだと思われて放置された傷病兵が呻きだす。そこへ知り合ったばかりの兵士が装備を解いて衛生兵の振りを始めるのに便乗して傷病兵を運ぶ口実で列の順番を飛ばして船に乗り込もうと画策する。
 
 といった具合で陸の主人公は多くの観客にとって感情移入しやすい。ポランスキー監督「戦場のピアニスト」の主人公の様に闘うよりも逃げて生き残るのに必死な若者目線でラストまで続く。
 逆に海と陸の主人公たちは英雄的な働きをする事でエンタメ映画としての価値を付けてバランスをとっている。(余談3)

 一番格好のいい役をやったのが、英空軍パイロット役のトム・ハーディだろう。燃料切れでプロペラが停止しても滑空しながらドイツ軍の戦闘機を撃墜、低空であんな長時間滑空は無いと思うが・・。

(余談1)アンリ・ヴェルヌイユ監督作で1964年制作。原題は「ダンケルク」ではなく「WEEK-END A ZUYDCOOTE(ズイドコートの週末)」

(余談2)ボルトアクションは、1830年代にプロイセンで開発された方式で、簡単に言うとスライドを前後させて次弾装填を素早く簡便にした。現在のような金属製薬莢の排出と装填の形になったのは1860年代後半頃。
 この銃の誕生で火縄銃の様に銃口から弾を込める方式から急速に手元の引き金近くの部位からの装填へと転換。現在でも現役で使用されている。

(余談3)キリアン・マーフィが出演していると聞いていたが、どこにいるのか判らなかった。老船長に救助されたPTSDの兵士がキリアンである事に気づくのは映画を観終わってからだった。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作



 
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