「アメリカン・ウォー」
祖父の戦争体験とシンクロさせる
アメリカの一青年
アメリカン・ウォー[DVD]
【英題】Memorial Day
【公開年】2012年
【制作国】亜米利加
【時間】108分
【監督】サム・フィッシャー 【制作】【原作】【音楽】ポール・ハートヴィック
【脚本】マーク・コンクリン
【言語】イングランド語 一部ドイツ語 アラビア語
【出演】ジョナサン・ベネット(カイル・ヴォーゲル)
ジェームズ・クロムウェル(晩年のバド・ヴォーゲル) ジョン・クロムウェル(若い頃のバド・ヴォーゲル) ジャクソン・ボンド(少年時代のカイル・ヴォーゲル)
【成分】【特徴】イラクに派遣された現代のアメリカ軍軍曹の戦争体験と、その祖父が中尉としてヨーロッパに派遣された戦争体験のシンクロ。
イラクで負傷した若い軍曹は野戦病院で軍医に祖父の思い出を語る。13歳当時の軍曹は祖父から第二次世界大戦の頃の思い出を聞く。
やがて、野戦病院を退院して原隊復帰した軍曹は祖父が体験した同じ決断を戦地で迫られ、祖父の苦しみを理解する。
祖父バド役はベテラン俳優の
ジェームズ・クロムウェル氏が扮し、若い現役将校時代を容姿が酷似している実子のジョン・クロムウェル氏が演じる。なので違和感なく若き日のバドに見える。
また、少年時代のカイルを演じた子役のジャクソン・ボンド氏も主演の
ジョナサン・ベネット氏に雰囲気が似ている。
【効能】自分の家族の歴史を振り返りたくなる。家族と手をつないで歩きたくなる。
アメリカ流レモネードが飲みたくなる。
【副作用】レモネードを飲み過ぎて血糖値が上がる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
Memorial Dayを受け継いでいくアメリカ人 邦題は何故かカタカナ・イングランド語の「
アメリカン・ウォー」などとB級臭いものを付けられているが、内容はいたって文藝作である。
原題はアメリカの祝日である「Memorial Day」、日本語では「戦没将兵追悼記念日」と大層な漢語がつけられているので、英語ではしゃべりやすい名詞だ。
21世紀の現代イラクへ派遣された若い軍曹カイルの戦争体験と、第二次世界大戦時欧州へ中尉として派遣された祖父バドの戦争体験がシンクロする物語の構成となっている。
カイルが13歳の頃、弟や妹らを連れメモリアルデーの休日に祖父母の家へ遊びに行く。そこで偶然祖父の古い軍用トランクを見つける。祖父から昔の話を一切聞いた事がないカイルは「今日はメモリアルデーだから」と祖父の体験談をせがむ。祖父は渋々トランクの中に入っていた物を三つ選ばせ、それに因んだ体験を話す。
一、「ワルサーP-38」
重傷を負った親衛隊大尉(余談1)を捕虜にするが作戦移動中だったため放置して進軍。大尉の身分証にはまだ幼い息子の写真が挟んであった。祖父は写真だけ大尉に返して没収した拳銃は持ち帰る。出血がひどい大尉はおそらく助からなかっただろう。
二、「鉄片」
祖父が負傷した時、尻に刺さっていた手榴弾の破片である。冬の前線で戦闘中に部下を庇って負傷する。
助けられた部下は恩義を感じ、野戦病院に送られる際に自分が大事にしていたロザリオを祖父に譲る。
三、「戦友とのツーショット写真」
このエビソートだけはなかなか話したがらなかった。部下の軍曹(余談2)とはヨーロッパへ派遣される前から友人で公私ともに親しい付き合いだったようだ。
ライン川を越えてケルン郊外に陣を張った祖父たちの戦争も終盤を迎えた。ドイツ軍の一小隊が急襲を仕掛けてくる。祖父の小隊は大手の本隊は自分が指揮し搦手を軍曹に任せ側面を突かせる。敵は装甲車と対戦車砲を擁する数十人の混成小隊のようだがまだ中学生くらいの少年兵も混じっている。様子から少年兵は初陣のようで部隊長が庇いながら指揮していた。
軍曹の機転でドイツ軍を撃破、拠点にしていた教会に帰還するがそこで軍曹が撃たれる。少年兵が部隊長の仇とばかり狙撃。いつもは冷静な祖父は逆上し捕虜となった少年兵に拳銃を向ける。部下の制止で辛うじて怒りを抑えるが・・。
祖父の三つの体験は孫のカイルでも繰り返される。
カイルが一分隊を率いて不審物の処理にあたる。不審物は子羊で腹から血を流して斃れている。部下が近寄った時に羊の死骸の陰に爆弾が覗いているのに気づき、庇って負傷。
カイル軍曹は直ちに応急処置を施されるが、彼は自ら足に刺さった破片を抜きポケットに入れてしまう。彼にはそういった奇妙な収集癖があったため、戦友や部下たちからコレクターとあだ名されてしまう。
野戦病院に運ばれたカイルはやや歳上ぽい女性の軍医中尉に興味を持たれる。何故、戦場のモノを拾って集めるのか? カイルは13歳の時に祖父から戦争体験を聞いた思い出を語り始める。
カイルの収集癖は祖父の影響、収集の目的は自分の息子のため、かつて祖父が自分にした事を息子に受け継がせることを理解するが、祖父の苦しみを正味理解しているのかどうか気にしながら快復したカイルを戦地へ送り出す。
退院したカイルは早速作戦の実行指揮を命じられる。そこで捕虜をとるがかつて祖父が体験した同様の決断を迫られ、祖父とは逆に捕虜を見殺しにしなかった。結果、作戦は失敗し戦死者を出した。戦死者は病院で知り合った兵士だった。
シンクロのの仕方が巧いと思う。
捕虜の話は祖父の体験談の中ではさらりと流した感があるが、カイルの場合は重くのしかかった。
負傷も祖父の場合は短く済ませたが、カイルの場合は負傷によって本作全体の物語が展開していくプロローグに使われている。
そして戦友の他界は、祖父の場合は尺を長くとって劇的に描写されたが、カイルの場合は祖父の軍曹にあたる戦友は失っていない。ただ、野戦病院で知り合った知人が戦死した。捕虜の命を助ける判断によって、直接関係のない人間が死ぬことになった。
祖父がさらりと済ませた体験がカイルには劇的に迫り、地味に心の奥へ突き刺さる構図は定番臭さを消す。(余談3)
ラストは、祖父が生前残した言葉を噛み締めながらカイルは家族三人で祖父が眠る墓地をあとにする後ろ姿で終わる。
(余談1)ドイツ軍には正規の軍隊である「国防軍」と、ヒトラーが組織したナチス党の軍隊ともいえる「親衛隊」の二つがある。制服はミリオタ以外の人には同じに見えるが、襟章や服の色などは異なる。肩章は国防軍とほぼ同じ。
(余談2)袖の階級章から正確には二等軍曹。「コンバット!」で有名なサンダース軍曹はこれより一階級下。
(余談3)さらに祖父のバドは自分たちの苗字の由来を話す。ヴォーゲルVogelはドイツ語で鳥の意味。祖父たちの攻撃で負傷し捕虜になった親衛隊大尉は祖父を見るなり「背が高いな、顔立ちはバイエルンだ」と言う。
大尉が指摘通り、カイルたちはドイツ人移民の子孫だ。アメリカには現大統領のトランプ氏をはじめドイツ系が少なくない。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
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Memorial Dayを受け継いでいくアメリカ人 邦題は何故かカタカナ・イングランド語の「
アメリカン・ウォー」などとB級臭いものを付けられているが、内容はいたって文藝作である。
原題はアメリカの祝日である「Memorial Day」、日本語では「戦没将兵追悼記念日」と大層な漢語がつけられているので、英語ではしゃべりやすい名詞だ。
21世紀の現代イラクへ派遣された若い軍曹カイルの戦争体験と、第二次世界大戦時欧州へ中尉として派遣された祖父バドの戦争体験がシンクロする物語の構成となっている。
カイルが13歳の頃、弟や妹らを連れメモリアルデーの休日に祖父母の家へ遊びに行く。そこで偶然祖父の古い軍用トランクを見つける。祖父から昔の話を一切聞いた事がないカイルは「今日はメモリアルデーだから」と祖父の体験談をせがむ。祖父は渋々トランクの中に入っていた物を三つ選ばせ、それに因んだ体験を話す。
一、「ワルサーP-38」
重傷を負った親衛隊大尉(余談1)を捕虜にするが作戦移動中だったため放置して進軍。大尉の身分証にはまだ幼い息子の写真が挟んであった。祖父は写真だけ大尉に返して没収した拳銃は持ち帰る。出血がひどい大尉はおそらく助からなかっただろう。
二、「鉄片」
祖父が負傷した時、尻に刺さっていた手榴弾の破片である。冬の前線で戦闘中に部下を庇って負傷する。
助けられた部下は恩義を感じ、野戦病院に送られる際に自分が大事にしていたロザリオを祖父に譲る。
三、「戦友とのツーショット写真」
このエビソートだけはなかなか話したがらなかった。部下の軍曹(余談2)とはヨーロッパへ派遣される前から友人で公私ともに親しい付き合いだったようだ。
ライン川を越えてケルン郊外に陣を張った祖父たちの戦争も終盤を迎えた。ドイツ軍の一小隊が急襲を仕掛けてくる。祖父の小隊は大手の本隊は自分が指揮し搦手を軍曹に任せ側面を突かせる。敵は装甲車と対戦車砲を擁する数十人の混成小隊のようだがまだ中学生くらいの少年兵も混じっている。様子から少年兵は初陣のようで部隊長が庇いながら指揮していた。
軍曹の機転でドイツ軍を撃破、拠点にしていた教会に帰還するがそこで軍曹が撃たれる。少年兵が部隊長の仇とばかり狙撃。いつもは冷静な祖父は逆上し捕虜となった少年兵に拳銃を向ける。部下の制止で辛うじて怒りを抑えるが・・。
祖父の三つの体験は孫のカイルでも繰り返される。
カイルが一分隊を率いて不審物の処理にあたる。不審物は子羊で腹から血を流して斃れている。部下が近寄った時に羊の死骸の陰に爆弾が覗いているのに気づき、庇って負傷。
カイル軍曹は直ちに応急処置を施されるが、彼は自ら足に刺さった破片を抜きポケットに入れてしまう。彼にはそういった奇妙な収集癖があったため、戦友や部下たちからコレクターとあだ名されてしまう。
野戦病院に運ばれたカイルはやや歳上ぽい女性の軍医中尉に興味を持たれる。何故、戦場のモノを拾って集めるのか? カイルは13歳の時に祖父から戦争体験を聞いた思い出を語り始める。
カイルの収集癖は祖父の影響、収集の目的は自分の息子のため、かつて祖父が自分にした事を息子に受け継がせることを理解するが、祖父の苦しみを正味理解しているのかどうか気にしながら快復したカイルを戦地へ送り出す。
退院したカイルは早速作戦の実行指揮を命じられる。そこで捕虜をとるがかつて祖父が体験した同様の決断を迫られ、祖父とは逆に捕虜を見殺しにしなかった。結果、作戦は失敗し戦死者を出した。戦死者は病院で知り合った兵士だった。
シンクロのの仕方が巧いと思う。
捕虜の話は祖父の体験談の中ではさらりと流した感があるが、カイルの場合は重くのしかかった。
負傷も祖父の場合は短く済ませたが、カイルの場合は負傷によって本作全体の物語が展開していくプロローグに使われている。
そして戦友の他界は、祖父の場合は尺を長くとって劇的に描写されたが、カイルの場合は祖父の軍曹にあたる戦友は失っていない。ただ、野戦病院で知り合った知人が戦死した。捕虜の命を助ける判断によって、直接関係のない人間が死ぬことになった。
祖父がさらりと済ませた体験がカイルには劇的に迫り、地味に心の奥へ突き刺さる構図は定番臭さを消す。(余談3)
ラストは、祖父が生前残した言葉を噛み締めながらカイルは家族三人で祖父が眠る墓地をあとにする後ろ姿で終わる。
(余談1)ドイツ軍には正規の軍隊である「国防軍」と、ヒトラーが組織したナチス党の軍隊ともいえる「親衛隊」の二つがある。制服はミリオタ以外の人には同じに見えるが、襟章や服の色などは異なる。肩章は国防軍とほぼ同じ。
(余談2)袖の階級章から正確には二等軍曹。「コンバット!」で有名なサンダース軍曹はこれより一階級下。
(余談3)さらに祖父のバドは自分たちの苗字の由来を話す。ヴォーゲルVogelはドイツ語で鳥の意味。祖父たちの攻撃で負傷し捕虜になった親衛隊大尉は祖父を見るなり「背が高いな、顔立ちはバイエルンだ」と言う。
大尉が指摘通り、カイルたちはドイツ人移民の子孫だ。アメリカには現大統領のトランプ氏をはじめドイツ系が少なくない。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
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