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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

ドイツ映画「ちいさな独裁者」2019年2月8日日本公開! 

ちいさな独裁者
いよいよ来春2月8日日本公開!


 「きみがぼくを見つけた日」などで名高いロベルト・シュヴェンケ監督が放つ問題作。
 実際に終戦間際に起こった事件がベースになっているらしいが、今のところ私はその事件を確認できていない。御存知の方がいらっしゃったら史実の詳細を教えてほしい。(追記参照)

 舞台は1945年4月というから、記事には大戦末期と書かれていることが多いがむしろ敗戦前夜か敗戦直前と表現した方がいいだろう。
 主人公はヘロルトという20歳くらいの若い脱走兵、劣悪な環境にいたのか軍靴は靴底が剥がれかけていて軍服は汚く衛生状態も悪そう。襟には白っぽい四角のベース(モノクロ映像なので白く見えるが、カラーだと金をイメージした黄色)に羽を広げた鳥をイメージした階級章、左の袖章にはVの字の徽章があることから空軍上等兵であることがわかる。左胸にも空軍白兵戦章や従軍章をつけているので若いといっても古参の部類の兵卒だ。
 彼は必死に逃げる。それを陸軍大尉と思われる将校が乗る車に追い掛け回される。逃げるヘロルトに向けて何度も射撃するが当たらない、おそらくわざと外して弄んでいるのだろう。ところが将校が遊んでいるおかげで辛くも追っ手をまき逃げ切る。

 厳寒の森林をあてもなく逃げていくと、爆撃にあったのかゲリラに襲撃されたのか一台の遺棄された自動車を見つける。中を物色すると後部座席にトランクがあり開けてみると真新しい空軍将校の制服があった。襟と肩の階級章は大尉。
 最初は寒さから将校用コートを羽織るだけだったが、けっきょく制服をはじめシャツやブーツも拝借してまう。サイドミラーに映るし空軍将校姿の自分に見とれたり将校になった気分で原野に向かって台詞を吐いたりと独り遊びをする。

 そこへ自分の親ほどの歳が離れていそうな空軍の古参兵がやってきてヘロルトを空軍大尉と思い込み敬礼する。

 ここからヘロルトの大芝居が展開していく。最初に出会った古参兵を自分の忠実な従卒に仕立て、行く先々でで出会った兵士たちを自分の兵士に仕立て、収容所のナチス幹部までも部下として取り込む。
 彼の行動は次第にエスカレートし、ヒトラーを彷彿させる弁舌で親衛隊のような自警団の指揮官として虐殺を行っていく。

 という物語である。邦題は意訳の「ちいさな独裁者」、原題は「DER HAUPTMANN」、日本語で「大尉」である。英題も直訳の「The Captain」。ヘロルトが成り済ました空軍大尉からタイトルがつけられている。

 兵卒の脱走兵に過ぎない若者が偶然手に入れた権威で暴走、このパターンは過去にも多く制作されている。私のお気に入り映画ではアンリ・ヴェルヌイユ監督「サンセバスチャンの攻防」、ならず者の主人公が神父と間違わられ、神父の権威で村人を率いて来襲する盗賊やアメリカ先住民と戦う物語。同じドイツ語圏の映画ではヴォルフガング・ムルンベルガ監督の「ミケランジェロの暗号」、主人公のユダヤ人画商がナチス親衛隊大尉に成り済まして危機を脱出する場面がある。
 しかし本作では泥にまみれた脱走兵が清潔そうな空軍大尉に化ける展開は似ているが、その権威を虐殺や贅沢三昧に使ってしまう。

 現代社会に照らし合わせて考えると、私は昨今のSNSで繰り広げられている険悪な言葉の投げ合いに同様の現象がみられるような気がする。
 明らかに右翼思想でない者が右翼を名乗り左翼とみられる人に噛みつく、ところが右翼なのに今上陛下にまで噛みつく。逆に反差別思想でない者が護憲や反差別を名乗り、長年反差別運動を展開してきた人にまで言葉の攻撃を繰り出す。
 なにかに成り済まして他者を攻撃する様、似ているような気がする。そして言葉尻だけは双方ともに特有言語を話しているので、古参の運動家も批判せずに仲間扱いする。



【追記】2018年11月10日
 Wikipediaにけっこう詳細記事が載っていた。こないだ調べた時は載っていなかった。最終更新日を見たら2018年10月29日となっていたので日本公開が決まってから日本語版が執筆されたのだろう。本記事を書く際にもう一度調べるべきだったか。

 本作の主人公のモデルとなった人物はWilli Herold、1925年生まれだから映画の舞台となったころは若干20歳という若さである。まだ子供といってもいいのによく大尉なんて偉いさんを演じられたものだ。しかしアメリカでもデカプリオ主演「キャッチミーイフユーキャン」がある。実際に起きた詐欺事件で、デカプリオ扮する詐欺師は18歳なのに28歳の大人を演じ、FBI捜査官まで騙していた。
 また、ヘロルトと同時代の青年で同じ空軍の制服を着ている正真正銘の撃墜王エーリッヒ・ハルトマンはヘロルトより三つだけ歳上で少佐だった。なので20歳の若造が大尉を名乗っても有りうることなので疑われなかったのかもしれない。

 それと、アメリカの戦争ドラマ「Combat!」や手塚治虫氏「アドルフに告ぐ」、近年では「ヒトラー 最期の12日間」などでも紹介されているように、大戦末期では脱走兵が続出し、自警団や親衛隊の脱走兵狩りが横行していた。
 進んで主人公ヘロルトの指揮下に入った古参兵たちはもしかしたら脱走兵で若造ヘロルトが偽大尉であることも何となく気が付いていたかもしれないが、大尉の服を着ている子供に従っていれば少なくとも自分たちは脱走兵ではないと言い訳できる、そんな「大人の事情」も見て取れるかもしれない。

 さて、下記の肖像写真が実際のヘロルトである。

実際のヘロルト。

 おそらく空軍に入隊したときの写真だろうから、まだ18か19歳の顔だ。なかなかの美少年である。
 邦画では、実在よりもイケメンの俳優が演じることが多いのだが、失礼ながら本作の場合は史実の方が麗しき人物に見える。ヘロルトを演じる俳優はスイスのベルン出身のマックス・フーバッヒャー、撮影時は24歳くらいだ。



 
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