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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「シュウシュウの季節」 自分に喝を入れたい時に〔17〕 

シュウシュウの季節
陳冲ジョアン・チェン)監督渾身の問題作。

 

シュウシュウの季節 [DVD]
 
【原題】天浴
【英題】XIU XIU: THE SENT DOWN GIRL 
【公開年】1998年  【制作国】亜米利加 英領香港 中華台北  
【時間】99分  
【監督】陳冲
【制作】陳冲 陳惠中
【原作】厳歌苓
【音楽】小蟲
【脚本】陳冲 厳歌苓
【言語】中国語  
【出演】李小璐(秀秀) ロプサン(老金) 
 
【成分】泣ける 悲しい 絶望的 薄幸 チベット 中国文化大革命 1970年代前半 
 
【特徴】文化大革命の負の側面を徹底描写。「ラストエンペラー」のヒロイン陳冲氏が監督として手がけた第1作、気迫の凄まじさを体感する。古き良き「人民中国」に淡い憧れを抱く方々には幻想を打ち砕く良き教材。 
 
【効能】人生にちょっとだけ挫折した時は、萎えた心に喝を入れる事ができる。中国現代史の学習に一助。
 
【副作用】男たちに弄ばれるヒロインの薄幸ぶりには心が痛くなる。また演じているヒロインも李小璐氏もまだハイティーン、彼女の体当たり演技が余計痛い。
  
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
文化大革命の負の部分を徹底描写
 
 陳冲氏(ジョアン・チェン)は上海出身の女優で10代前半で中国デビュー、渡米してアメリカの大学で映画を学び、「ラストエンペラー」でヒロインを演じて世界的知名度を得て、カイル・マクラクラン氏主演のTVドラマ「ツイン・ピークス」で女優としての地位を確固たるものにし、98年には監督としてリチャード・ギア氏主演の「オータム・イン・ニューヨーク」を発表した。もはや中国の映画人というよりハリウッドの映画人である。(余談1)

 何故わざわざ陳冲氏の経歴を改めて述べたのかというと、陳冲氏の政治的立場が関連しているように思ったからである。言うまでもなく社会主義体制では映画は藝術というより宣伝工作のメディアである。もちろん、日本やアメリカをはじめどこの国でも宣伝工作に使われる国策映画がある。国策とまではいかなくてもスポンサーの宣伝のため意に沿う作品作りが程度の差はあれなされるのは宿命だ。が、社会主義体制下でそれは露骨だ。そのため中国が80年代から資本主義の制度を導入し市場開放政策を始めた辺りから有能な映画人たちが表現の大幅な自由を許容するアメリカへ活動の場を移した。陳冲氏も少なからず祖国の体制にはマイナス感情があるはずだろう。(余談2)

 その陳冲氏の感情というか考え方が色濃く出た作品が、この「シュウシュウの季節」だ。アメリカ資本と中国語圏スタッフで制作された彼女の初監督作品であり、彼女は監督以外にも製作総指揮と脚本も担当している。いわば映画制作の全権を握って臨んだ作品といっても良い。これは人民中国と対立してきた台湾で絶賛された。
 ロケはどうも中国チベットの辺りのようなのだが、どうやって撮ったのだろうか? 現共産党も文革は誤りという見解ではあるが、内容はあまりに暗く批判的なので当局は難色を示すと思う。

 正直いうと私は観るのが辛かった。子供の頃は人民中国に憧れていて、小学生の頃は短波の北京放送を聞いていたし、文革を称揚する文化人の著作も読んでいた。それが高じて高校生の頃は教育委員会主催の学生親善使節として訪中した。今は憧憬は無いが、それでもDVDパッケージの夏の空と涼やかで色白の少女から、ほろ苦い青春モノを連想していた。ラストの瞬間まで、ハッピーエンドを望んでいたが、そうはならなかった。「初恋のきた道」の張藝謀監督の癒し系映画とは対極の絶望を描いた映画であり、ここまで中国人のいやらしさ描くのかと思うと、陳冲監督の祖国への思いを垣間見た感がした。

 主演の李小璐氏はまだ16歳なのに、薄幸の少女が「成長」する過程を体当たりでよく演じた。ロプサン氏は中国におけるチベット人の社会的地位の弱さをよく表情や仕草だけで体現した。作品内容には抵抗があるが、陳冲氏の初監督とは思えない重い映画だった。

(余談1)主人公文秀(シュウシュウ)を演じたのは役柄と同い歳の李小璐氏。彼女の保護者的立場のチベット人老金(ラオジン)はロプサン氏(洛桑群培)、名前から本当にチベット人俳優かもしれない。
 カタカナ表記の弊害は名前の意味が判らなくなることだ。シュウシュウは愛称。よく子供や女の子の名前を親しみこめて一字を繰り返す。パンダをリンリンとかランランと呼ぶのと同じだ。だから文秀の「秀(シュウ)」の字を2回重ねている。李小璐氏を「ルールー」と呼ぶのも同じ法則、璐(ルー)を重ねている。
 ラオジンは「ラオジン」という名前ではなく、漢字表記から「金(ジン)おじさん」だろう。目上を親しく呼ぶときは「老」をつけ、目下や同輩には「小」を付ける。

 いつも思うのだが、中国人の場合は別に漢字表記で日本語の音読みでも良いし、そうするべきだと考えている。韓国人名は政治的歴史的経緯から現地発音で読むよう80年代前半あたりからカタカナ表記に変わっていったが、中国ではそんな気を使う必要はない。なぜなら中国では方言によって発音がかなり違う。北京語と広東語は英語とドイツ語くらいの開きがある。だから違う発音で呼ばれても相手は気にしない。
 現に、中国へ行った時に知り合った中国人は自己紹介で「私の名前は日本語で張尭健(チョウ・ギョウケン)と言います」と言った。同じように、私たち日本人の名前も日本語ではなく中国語音で呼ばれる。

 せっかくの漢字名をカタカナ表記でやられると、名前の意味や由来が全く判らなくなる。女性的な名前なのか男性的な名前なのか解らない。これは文化的損失だと私は思う。

(余談2)たぶん、日本で最も著名な中国の映画監督陳凱歌氏と張藝謀氏も青春時代に文革を経験している。主人公文秀よりやや上の世代か。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
【受賞】台湾金馬奨(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞)(1998年) パリ映画祭(審査員特別賞・主演女優賞)(1999年)
   
晴雨堂関連作品案内
シュウシュウの季節 サントラ
東方紅(大型革命歌劇サウンドトラック)
 
晴雨堂関連書籍案内
シュウシュウの季節 (角川文庫) 厳歌苓
私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春 (講談社現代新書) 陳 凱歌
ある紅衛兵の告白〈上〉 梁暁声
ある紅衛兵の告白〈下〉 梁暁声
文化大革命 (講談社現代新書) 矢吹晋
北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫) 中嶋嶺雄
 

 
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TB&コメントありがとうございました。
文化大革命の功罪を題材にした映画は多いですが、どれもかなり見応えがあるように思います。
それは私が文化大革命に興味を持っているせいもあるかもしれませんが・・・。
この映画は痛くて悲して重くて、ずっと記憶に残っています。
[ 2009/01/07 21:21 ] [ 編集 ]
晴雨堂ミカエルさん、こんにちは。
秋晴れの爽やかな終末、いかがお過ごしでしょうか。サイクリングなど出かけられていらっしゃるかな・・。

この映画、、、辛かったです。
思い出すと、あの少女の悲惨な人生が思い出され、憂鬱になります・・・。
ジョアンチェンといえば、昨日だったか、深夜にラストエンペラーをTVで放映していましたっけ・・・。
[ 2009/10/31 08:35 ] [ 編集 ]
latifa氏へ
 
 こんにちは、今日は午後からチャリンコで遠出します。「週末」が「終末」と怖い単語になっていますよ。
 
 これは本当に救いようのない物語でしたね。冒頭は素朴な青春物語と思いきや、どんどん少女が汚されるというより壊されていくというか。それを演じた女優はまだ16歳です。16歳で、ラストの物憂げな微笑を出すんです。
 痛いし怖い映画でした。

> 晴雨堂ミカエルさん、こんにちは。
> 秋晴れの爽やかな終末、いかがお過ごしでしょうか。サイクリングなど出かけられていらっしゃるかな・・。
>
> この映画、、、辛かったです。
> 思い出すと、あの少女の悲惨な人生が思い出され、憂鬱になります・・・。
> ジョアンチェンといえば、昨日だったか、深夜にラストエンペラーをTVで放映していましたっけ・・・。
[ 2009/10/31 09:12 ] [ 編集 ]
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{/tv/}「シュウシュウの季節」 ★★★★☆   中国全土に文化大革命の嵐が吹き荒れる1970年代、「下放政策」によって労働奉仕のために家族から離されて都市から農村へ派遣された少女シュウシュウのあまりにも過酷な運命を描いた秀作。 何が待ち受けているかも分からない...
[2009/01/07 21:17] ミチの雑記帳
両方ともモンゴルを舞台とした映画です・・。  
 1970年代半ば中国で、都市に住む知識層の青年たちを農村に送って労働に就かせる「下放」と呼ばれる政策が行なわれていました。  成都に住む少女シュウシュウ(秀秀=ルー)も、家族の元を離れて、ラオジン(老金=ロプサン)という名の男と共に田舎で馬の放牧に従...
[2009/10/31 07:33] ☆彡映画鑑賞日記☆彡
この映画の内容もバックボーンも何も知らずに、ただ単純にジャケット写真とタイトルから甘酸っぱい少女の恋愛モノの類を想像して鑑賞したら、すごいしっぺ返しをくらってしまったような・・・なんとも言い難い複雑な心境に陥りました。 ---ちょいあらすじ
[2009/10/31 07:40] カノンな日々
シュウシュウの季節 ¥3,000 Amazon.co.jp 文化大革命末期の中国。都会の学生を農村に送り込む下放政策により、まだ、幼さを残す学生たちが労働力として辺境の地に送り込まれていました。シュウシュウは、田舎のミルク工場に送られますが、そこからさらに...
シュウシュウの季節 (1998/米=香港=台湾) Tian yu Xiu Xiu: The Sent-Down Girl
[2009/10/31 22:10] Kozmic Blues by TM
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