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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ファースト・マン」 家族と一緒に考えよう〔31〕 

ファースト・マン」 
アームストロング船長の物語



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【原題】FIRST MAN
【公開年】2018年  【制作国】亜米利加   
【時間】141分
【監督】デイミアン・チャゼル
【制作】スティーヴン・スピルバーグ アダム・メリムズ ジョシュ・シンガー
【原作】ジェームズ・R・ハンセン
【音楽】ジャスティン・ハーウィッツ
【脚本】ジョシュ・シンガー
【言語】イングランド語
【出演】ライアン・ゴズリング(ニール・アームストロング)  クレア・フォイ(ジャネット・アームストロング)  ジェイソン・クラーク(エド・ホワイト)  コリー・ストール(バズ・オルドリン)  パトリック・フュジット(エリオット・シー)  マシュー・グレイヴ(チャック・イェーガー)    

【成分】泣ける 哀しい ロマンチック 切ない かっこいい 恐怖 勇敢 知的 宇宙 1960年代

【特徴】2013年公開のロシア映画「ガガーリン」レビューをした際にハリウッド映画「ライトスタッフ」を比較の対象にしたが、よくよく考えると同じ「ファーストマン」同士の比較として本作を挙げた方が適切だったかもしれない。
 両作のポスターも撮影するカメラの位置が右か左かの違いがあるが、いずれも宇宙服を着た主人公の横顔の捉えている。ただ、ガガーリンは笑顔であるのに対し、アームストロングは口を真一文字に閉じている寡黙な顔だ。これが主人公のキャラの違いを象徴しているといえる。
 
 言うまでもなく、この「ファースト・マン」は人類史上初の月面散歩をしたニール・アームストロング船長の伝記映画である。「ガガーリン」レビューの時はアメリカと違って暗いと評したが、本作も負けず劣らず暗い。「ガガーリン」と同じく、本作も主人公の内面に焦点をあてた作風である。
 両作とも過酷な試練を乗り越える主人公を描いているのだが、主人公本人はそれが顔に出ない。ガガーリンはにこやか、アームストロングは生真面目で起伏の無い表情。
 いずれも国家の威信で英雄に祭り上げられたてしまうが、「ガガーリン」ではラストで主人公の栄光の影に隠れた不遇の晩年と早すぎる最期を字幕で紹介する。それに対し、本作では主人公と妻が隔離室のガラス窓を隔てて夫婦の絆を確認する未来への希望が見えそうな場面で終わる。
 残念ながら、この映画のラストシーンから20数年後に二人は離婚してしまうが。

【効能】宇宙空間の美しい描写に感動。夫婦関係・家族関係を再考するきっかけになる。

【副作用】全般に暗い話で気が滅入る。寡黙なアームストロングにイラっ。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
表情に乏しいアームストロングの 
哀しい物語。


 子供の頃、もしアポロ計画を映画にするならば最初に映画化されるのは最も劇的な生還劇であるアポロ13の物語で、人類初の月面到着のアポロ11はその後の二番手に回り、アポロ計画云々の物語よりバズ・オルドリン氏の個人に焦点をあてた物語になるだろうと予想していた。
 予想は概ね当たった。やはりアポロ13が先で、NASAだけでなく世界を震撼させた爆発事故、懸命に宇宙船復旧に取り組む宇宙飛行士たちとNASAの職員たちは素材だけでも劇的である。

 予想が外れたのはアポロ11の物語である本作、主人公はオルドリンだと思っていたのにアームストロングだった。あくまで個人的印象なのだが、アームストロングは生真面目で面白みのないキャラのように見え、オルドリンの方が華があると思えた。また人類初めて月面に降り立った人間を主人公とするのは当たり前すぎて、補佐に回るオルドリンが主役の方が相応しいと思った。

 本作を観て私の見立てはあながち的外れではないと感じた。やはりアームストロングはヒーロー向きではない。物語全体はロシア映画「ガガーリン」を彷彿させる暗さであり、映画的には抑揚は乏しく、主役であるアームストロングは基本的に感情の起伏が無く話し方も寡黙で平板、日本人が連想するアメリカ人というよりは日本人的だった。

 さてロシア映画「ガガーリン」をレビューした時、宇宙開発競争黎明期というつながりで「ライトスタッフ」と比較してロシアは暗いとかアメリカは明るいといった話をしたのだが、作品内容やテーマを考えると「ガガーリン」と「ファースト・マン」の対比の方が適切かもしれない。
 文字通り「ガガーリン」はユーリー・ガガーリン個人に焦点を当てた伝記映画であり、「ファースト・マン」はニール・アームストロング個人に焦点を当てた伝記である。ポスターの写真は両作とも宇宙服を着た主人公の横顔、ガガーリンは右からのアングル、アームストロングは左からのアングルの違いはあるが、構図は非常に似ているので同じように見えてしまう。

 ただ、この「ファースト・マン」を観たおかげで、「ガガーリン」が比較の問題で明るく見えてしまう。映画のガガーリンは、ニュース映像と同じく笑顔の多い若者なのだが、本作のアームストロングは生真面目で表情もあまり起伏が無い。いつも淡々としている。
 アームストロングを演じるのは、「ラ・ラ・ランド」のライアン・ゴズリング氏、ちょうどアームストロングが月面に降り立った時の年齢とほぼ同じだが顔が似ていない。「ガガーリン」ではよく似た俳優を起用していたのだが、本作はまるで違う雰囲気の俳優をあてている。
 が、不思議なもので鑑賞していると次第に違和感が無くなりゴズリング氏がアームストロングに見えてくる。(余談1)

 アームストロングは寡黙で理知的、オルドリンみたいに大仰に自己アピールはしない。しかし表情に起伏が無いが、彼の体験自体は波乱万丈で過酷だ。物語の最初で幼い愛娘を病で失う。テスト飛行や宇宙飛行のミッションで何度も死にかける。
 そんな過酷な体験を何度も体験し乗り越える苦労人なのに、実際のアームストロングはインテリの書生顔、ゴズリング氏もそんな彼を演じる。大変な経験をしているのに、それが顔に出ない。(余談2)

 月面に降り立ったアームストロングのヘルメットは偏光バイザーのため黄金色に光って顔が見えず、いつものアームストロングにしか見えない。いや、まるでキリコやマグリッドのキャラみたいで表情の乏しいアームストロングをより強調しているかのようだ。(余談3)ところが、クレーターの淵に立ち、娘の形見を月面に「奉納」するときバイザーから偏光シールドがあげられ中の素顔を見せていた。娘の棺を埋葬する時でも無表情だったのに、宇宙服の中の顔は涙を流していた。

(余談1)テストパイロット時代の場面でチャック・イェーガーがアームストロングの上司として登場する。
 本作でイェーガーを演じたマシュー・グレイヴ氏の方が実際のイェーガーに容姿が近いのだが、「ライトスタッフ」のイケメン俳優にして劇作家のサム・シェパード氏の渋くてカッコいいイメージが強いのでグレイヴ氏には悪いがこれは逆に違和感。

(余談2)私も表情の起伏の無い人間である。そこそこ人並みの人生経験もしてきたし、平均的な世間様が体験しない事もやってきた。ところがどうもそれが顔に出ないようだ。経験則から助言しても「本で読んだ知識」と誤解されてしまう。
 物語の佳境で、私も映画のアームストロング夫妻と同じように夫婦喧嘩をした事がある。喧嘩といっても、連れ合いから一方的に罵られるだけ。もちろんアームストロングのような大袈裟な冒険はしないが、仕事や生活設計を巡って連れ合いから批難され、「なんか言うたらどうやねん。その冷静な顔がイラつく」と怒鳴られ、それを幼い息子が間に入って仲裁するといった感じだ。
 だからクレア・フォイ氏演じる妻が主人公に向かって一方的に罵る様を観ていると、なんだか私自身が怒鳴られている錯覚が生じる。実際に私を罵った台詞もほぼ同じだし、髪型も私の連れ合いと同じだ。

 それから、作中のアームストロング夫人のように夫が仕事ばかりで家を留守にする日々にやんちゃな子供の相手で右往左往四苦八苦する場面を観ていると自分が叱られているように見えてしまい痛い。

(余談3)「アポロ13」は無音の宇宙空間なのに効果音だらけだが、本作にはそれが無い。着陸船のハッチを開けると空気が抜ける音が一瞬して静寂になるリアルな描写は怖い。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


他サイト紹介記事
MIHOシネマ 「ファースト・マン」のネタバレあらすじ結末と感想。
判りやすく過度に主観を盛らずに作品の特徴と内容を紹介する映画紹介サイトである。


 
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