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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「十二人の死にたい子どもたち」 知的興奮を楽しもう〔12〕

十二人の死にたい子どもたち」 
杉咲花、死神の迫力!



十二人の死にたい子どもたち (通常版) [DVD]
十二人の死にたい子どもたち (通常版) [Blu-ray]

【原題】
【公開年】2019年  【制作国】日本国   
【時間】118分
【監督】堤幸彦
【制作】
【原作】冲方丁
【音楽】小林うてな
【脚本】倉持裕
【言語】日本語
【出演】杉咲花(7番アンリ)  新田真剣佑(5番シンジロウ)  北村匠海(9番ノブオ)  高杉真宙(1番サトシ)  黒島結菜(6番メイコ)  橋本環奈(4番リョウコ)  吉川愛(11番マイ)  萩原利久(8番タカヒロ)  渕野右登(2番ケンイチ)  坂東龍汰(10番セイゴ)  古川琴音(3番ミツエ)  竹内愛紗(12番ユキ)      

【成分】泣ける 不気味 切ない 知的 ミステリー 論争劇

【特徴】2000年前後、ネットで自殺を呼びかけ応じた人々が一堂に会して集団自殺をする事件が相次いだ。原作はそれら事件に着想を得て書かれた小説である。

 杉咲花氏をはじめ20歳前後の人気若手俳優たちが自殺しようとする高校生たちを熱演、各々の俳優の役作りが楽しめる。萩尾望都氏の初期SF漫画「11人いる!」のようなミステリー色と「十二人の怒れる男」とは違った説得力ある論争劇が魅力。

【効能】生きる希望が湧く。杉咲花氏の迫力に萌えて吸い込まれそうになる。

【副作用】絶望的な気持ちになる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
「十二人の怒れる男」と 
「11人いる!」の見事なブレンド。


 2000年前後だと思うが、ネットで知り合った若者たち数人が集まり練炭で自殺する事件があった。ニュースで聞いて思ったものである。
 三人集えば文殊の知恵という訳ではないが、何か生きるための建設的議論みたいなものができなかったのか?と他人事ながら悔しく思うとともに、シドニー・ルメット監督「十二人の怒れる男」みたいな映画ができるのではないかと閃いた。

 つまり自殺するために集まった若者が実行前に「十二人の怒れる男」の如く議論し、ラストは生きる希望を獲得して解散する。
 私は小説で書き出し、出だしで挫折した。というのも実生活で似たような考え方の人間が三人集おうが三百人集おうが文殊の知恵にはならない事を目の当たりにしたからである。多様な価値観の者が複数名集ってこその文殊の知恵であって、似たような人間が集まれば意志の確認はすれども異論は排除される。(余談1)

 結局、私が趣味で書いた小説では、途中で異議を唱える人がいて侃々諤々の議論になるが最終的に全員自殺し、主人公が自分の命と引き換えにヒロインを自殺未遂に終わらすよう細工したために一人だけ生き残る、という平凡で絶望的なラストだった。(余談2)
 本作「十二人の死にたい子どもたち」を観て思った。やっぱりプロが描く作品は違う、面白い、と。

 萩尾望都氏の初期名作「11人いる!」の要素を加えるとは思いつかなかった。(余談3)私が書いた小説では議論への展開で苦心した。しかし本作では
「ゼロバン」と呼ばれる不測の13人目の存在、しかも既に死亡?している衝撃的な状態で発見されたことで参加者は容易に議論に入ることができる。
 自殺するために集った12人の高校生は謎の猟奇殺人鬼に狙われているのでは?というミステリーホラーの要素も滲ませてワクワクさせることもできる。

 奇しくも冲方丁氏と私は同時期同様の事件から着想を得て書き出したものの、
これが素人の私と原作者冲方丁氏との大きな違いだと痛感した。さすがである。因みに私の小説は一応ラストまで書き上げたものの、内容にモヤモヤしたものを感じ完成作とは思えず放置したうえに自分で没にした。

 配役は適材適所、脚本もこなれていた。12人の登場人物は役名はともかく人物像は楽に覚えられた。
 私は5人枠理論を持論としている。観客が登場人物を覚えられるのは5人とプラスアルファ2人の計7人まで、現実に一時間枠や半時間枠のドラマを観たら殆どの作品がこの法則で構成されている。例えば水戸黄門の初期メンバーでは黄門様・助さん・格さん・親分・八兵衛の5名に敵役の悪代官と配下の悪徳商人。後にレギュラー出演者は増えるが、それはシリーズ化されて5名の登場人物が世間に認知定着されたからである。
 本作では2時間枠の映画でありながら12名を労せず見分けらた。性格やそれを反映する服装、そして元々大きな悩みを抱え思案した末に「安楽死」を選択しようとした人々なので、ワザとらしいステレオタイプ色も無い。見事である。

 気持ち良かったのは死神を背負ったような少女アンリを演じる杉咲花氏。知性派で弁達者でリーダーシップがとれる能力者、推理好きでアンリに匹敵する知性を持つシンジロウや不測の事態を招いたユキとゼロバンが居なかったら、確実に自殺決行へと引っ張っていっただろう異能者を迫力満点に演じる。

 このアンリとシンジロウはラストで真っ向から対立する。アンリは背負った不幸から自死をもって社会に抗議する手段を考える。だから1人で死ぬのではなく集団で死ぬ集いに参加し、参加者の中に有名芸能人がいた事で社会への影響力がより期待でき喜ぶ。
 そんなアンリを不治の病で余命残り少ないシンジロウが反論する。「それだけの力があったら、むしろ生きて抗議すればええやないか」と。

 雨上がりの朝、眩しい朝日を浴びながら10人は明るさを取り戻して解散する。しかし暗い現実は解決された訳ではなく10人はこれからどうするんだろう?と思っていたら、薄暗い会場には白シャツの主催者サトシと黒いサマーコートの7番アンリが残っていた。
 実はサトシは一緒に自殺しましょうと言いながら結果的に自殺を思い止まらせるために主催し、この催しは過去に何度もやっているに違いない事をアンリは看破し、次回参加を約束して去っていく。
 死に憑りつかれたホワイトナイトのサトシと黒い死神アンリの物語はこれから始まる。

 最後に、登場人物は高校生という設定だが、演じる俳優は20歳前後。女優はともかくとして男優は髭剃り跡をメイクで隠した方が良いと思う。全員高校三年生と思えば違和感は消せるが、物語として15歳の少年もいる。
 タイトルは「十二人の死にたい子どもたち」なので、青白い髭剃り跡が見えると「子ども」に見えない。

(余談1)典型例として挙げることができるのが、1972年2月に起きたあさま山荘事件。あさま山荘に籠城する直前、群馬県山中で訓練キャンプを設置して革命拠点とするはずが、実態は異論者や消極的な者と見なされた同志たちを「総括」という名で虐殺した。

(余談2)タイトルは「男女七人の死にたい若者」と有り触れたものだった。

(余談3)SF漫画の傑作。第21回小学館漫画賞作。
 宇宙大学受験生が最後に実習試験で宇宙船に乗り込むと、そこには受験生10人のはずが1人多い11人いたことで疑心暗鬼に陥るが、棄権すると不合格になると言われていたので不安を抱きながらも宇宙船での生活を続けるミステリー。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


他サイト紹介記事
MIHOシネマ 「十二人の死にたい子どもたち」のあらすじ・感想・評判・口コミ(ネタバレなし)
判りやすく過度に主観を盛らずに作品の特徴と内容を紹介する映画紹介サイトである。


 
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