「グリーンブック 」 指輪物語のアラゴルンが マッチョな下町のイタリア系アメリカ人に グリーンブック [Blu-ray] グリーンブック [DVD] 【原題】 Green Book
【公開年】 2018年
【制作国】 亜米利加
【時間】 130分
【監督】 ピーター・ファレリー 【制作】 【原作】 【音楽】 クリス・バワーズ
【脚本】 ニック・ヴァレロンガ ブライアン・ヘインズ・カリー
ピーター・ファレリー 【言語】 イングランド語 一部イタリア語 ロシア語
【出演】 ヴィゴ・モーテンセン (トニー・“リップ”・ヴァレロンガ)
マハーシャラ・アリ (Dr・ドナルド・シャーリー) リンダ・カーデリーニ(ドロレス・ヴァレロンガ) ディメター・マリノフ(オレグ) マイク・ハットン(ジョージ) フランク・ヴァレロンガ(ルディ)
【成分】 笑える 楽しい 切ない 人種差別 ロードムービー
【特徴】 裕福で教養のあるアフリカ系ピアニストと無教養で下町育ちのイタリア系アメリカ人とのロードムービー。
「ロードオブザリング」ではストイックで痩身のアルゴルンが、ここでは野卑でお喋りで大食漢の厳つい固太りのオッサンになっている。また「ムーンライト」で裏街道の人間フアンが上品で優雅なピアニストになっている。
本作の野卑なトニーと上品なドン・シャーリーは些かステレオタイプ的なキャラだが、二人の名優によって血の通った掛け合い漫才が展開されて楽しい気分にさせてくれる。
人種差別という重たいテーマが横たわるが、「三丁目の夕日」と「パッチギ」を合わせたようなエンタメ作だ。
【効能】 人種問題を学べる。家族団欒の鑑賞に適している。
【副作用】 「白人の救世主」が鼻につく。
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何で今さら?の作品。 多くの映画ファンが気付いていると思うが、この手の作品としては「二番煎じ」感がある。というのも80年代にブルース・ベレスフォード監督「ドライビング Miss デイジー」という先達作があって構成内容は酷似。ユダヤ系アメリカ人の老婦人のために運転手を務めるアフリカ系の初老男性の物語で、モーガン・フリーマン氏の生真面目なキャラが印象に残っている映画ファンは多いと思う。(余談1)
ドライビングMissデイジー デラックス版 [DVD] 本作の場合、後部座席に座るのがユダヤ系白人の教養ある未亡人から黒人で博士号を持つ天才ピアニストに変わり、運転席に座るのが誠実だが無学の黒人男性から根は誠実だが無学で粗暴なイタリア系白人に入れ替わったような感がある。だから二番煎じに思え、何で今さらと思った。
ただ、本作の脚本陣に注目してもらいたい。ニック・ヴァレロンガという名前がある事で「なるほど」と頭から霧が晴れないだろうか? 本作主人公の一人トニー・ヴァレロンガの実の息子である。時系列からいって、作中のツアーに出掛ける前のエピソードでトニーが50ドル賭けてホットドックの早食い競争をやっている場面がある。ホットドックを必死に頬張るトニーの傍らで声援を送っている青のジャージを着た幼児が彼の幼年時代を演じている。
つまり映画界では二番煎じなのだが、ヴァレロンガ家にとっては記念碑的な意味がある作品だ。本作のエンディングにもあるように、主人公トニーとドン・シャーリーの二人は同じ2013年に他界した。これを契機にニックにとっては偉大な藝術家と父との交流を描いた映画を作りたい、ニューヨークの下町から出発した我が家の原点を描きたい、と考えるのも無理からぬことだろう。構想から制作などにかける時間を考えたら2018年公開は納得できる。ニックは本作の脚本でアカデミー賞を授与された。
それを前提に鑑賞すると、大勢の親戚でごった返し英語とイタリア語が飛び交う賑やかなトニーの自宅は幼い頃のニックが見てきた懐かしい下町の風景だということが解る。アメリカ版の「三丁目の夕日」「パッチギ」と言っても良い。
トニーはナイトクラブなどで用心棒を務め喧嘩沙汰の解決には定評がある。ある日、勤務するナイトクラブが改装のため休業し一時的に失業状態になった。そのことに目を付けた著名なアフリカ系ピアニストのドン・シャーリーは彼を運転手兼用心棒兼マネージャーに雇い、アフリカ系への差別が露骨なアメリカ南部諸州の危険なコンサートツアーを実行する。
本作はそのロードムービーであり、上品で教養のあるドン・シャーリーと無教養で大食漢のお喋り好きトニー・リップとの典型的な掛け合い漫才の旅が始まる。二人ともアメリカ社会に於けるアフリカ系とイタリア系の微妙な関係をも滲ませる。(余談2)
本作は興行的には成功と言えよう。脚本もこなれていて完成度は非常に高い。そして俳優として高い評価を受けてきた
マハーシャラ・アリ 氏と
ヴィゴ・モーテンセン 氏(余談3)が些かステレオタイプなキャラに命を吹き込む。
ラストは期待通りの大団円。トニーの家は古き良き時代の大家族、クリスマスイブは親戚縁者が集って騒々しく大宴会。私も郷里で過ごした幼少期の大晦日や正月を思い出して目が潤んでしまう。
そこへドン・シャーリーもスパークリングワイン(彼の事だから高級シャンパンか?)を手土産に参加、トニーの妻ドロレスは夫の誤字脱字だらけの手紙が急に洗練された事への謝意をこっそりドン・シャーリーに伝える。
と、ここまで本作を肯定的に見てきたが、残念な点が無い訳ではない。作品の完成度は高いと思うし、興行的にウケる内容だとも思う。
ただ、私がアフリカ系だったら本作はどんな風に見えるだろう?と想像してみると、あまり良い感情はわかない。何故なら白人寄り視点だからだ。
もちろん、イタリア系アメリカ人のトニーを介した息子ニックの立場から眺めた「史実」だからやむを得ない。私自身が嫌悪感むき出しで指摘した「良心的白人」が登場する「ソルジャーブルー」や「キリングフィールド」よりは嫌味感は払拭されてはいる。(余談4)
案の定、アフリカ系の映画監督スパイク・リーをはじめアフリカ系市民からの評価は高くない。そしてこの手の実話ベース作品には付きモノと思うが、史実のドン・シャーリーは決して家族と疎遠だった訳ではなく、本作について彼の遺族からクレームがきている。
(余談1)「ドライビング Miss デイジー」も本作とほぼ同じ時代のアメリカが舞台。二人とも落ち着いたキャラなので本作よりはシックな感じがする。
(余談2)本作ではアメリカ社会の底辺でイタリア系とアフリカ系との険悪な関係も滲ませている。同様の描写には、不朽のボクシング映画「ロッキー」にもある。
(余談3)ヴィゴはイタリア語を普通に話せる。
(余談4)私は皮肉を込めて鍵括弧付きで「良心的白人」と呼んでいたが、世間では「白人の救世主」と呼ぶらしい。
晴雨堂スタンダード評価 ☆☆☆☆☆ 秀 晴雨堂マニアック評価 ☆☆☆ 佳作 【受賞】 第91回アカデミー作品賞・脚本賞・助演男優賞 トロント国際映画祭観客賞
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何で今さら?の作品。 多くの映画ファンが気付いていると思うが、この手の作品としては「二番煎じ」感がある。というのも80年代にブルース・ベレスフォード監督「ドライビング Miss デイジー」という先達作があって構成内容は酷似。ユダヤ系アメリカ人の老婦人のために運転手を務めるアフリカ系の初老男性の物語で、モーガン・フリーマン氏の生真面目なキャラが印象に残っている映画ファンは多いと思う。(余談1)
ドライビングMissデイジー デラックス版 [DVD] 本作の場合、後部座席に座るのがユダヤ系白人の教養ある未亡人から黒人で博士号を持つ天才ピアニストに変わり、運転席に座るのが誠実だが無学の黒人男性から根は誠実だが無学で粗暴なイタリア系白人に入れ替わったような感がある。だから二番煎じに思え、何で今さらと思った。
ただ、本作の脚本陣に注目してもらいたい。ニック・ヴァレロンガという名前がある事で「なるほど」と頭から霧が晴れないだろうか? 本作主人公の一人トニー・ヴァレロンガの実の息子である。時系列からいって、作中のツアーに出掛ける前のエピソードでトニーが50ドル賭けてホットドックの早食い競争をやっている場面がある。ホットドックを必死に頬張るトニーの傍らで声援を送っている青のジャージを着た幼児が彼の幼年時代を演じている。
つまり映画界では二番煎じなのだが、ヴァレロンガ家にとっては記念碑的な意味がある作品だ。本作のエンディングにもあるように、主人公トニーとドン・シャーリーの二人は同じ2013年に他界した。これを契機にニックにとっては偉大な藝術家と父との交流を描いた映画を作りたい、ニューヨークの下町から出発した我が家の原点を描きたい、と考えるのも無理からぬことだろう。構想から制作などにかける時間を考えたら2018年公開は納得できる。ニックは本作の脚本でアカデミー賞を授与された。
それを前提に鑑賞すると、大勢の親戚でごった返し英語とイタリア語が飛び交う賑やかなトニーの自宅は幼い頃のニックが見てきた懐かしい下町の風景だということが解る。アメリカ版の「三丁目の夕日」「パッチギ」と言っても良い。
トニーはナイトクラブなどで用心棒を務め喧嘩沙汰の解決には定評がある。ある日、勤務するナイトクラブが改装のため休業し一時的に失業状態になった。そのことに目を付けた著名なアフリカ系ピアニストのドン・シャーリーは彼を運転手兼用心棒兼マネージャーに雇い、アフリカ系への差別が露骨なアメリカ南部諸州の危険なコンサートツアーを実行する。
本作はそのロードムービーであり、上品で教養のあるドン・シャーリーと無教養で大食漢のお喋り好きトニー・リップとの典型的な掛け合い漫才の旅が始まる。二人ともアメリカ社会に於けるアフリカ系とイタリア系の微妙な関係をも滲ませる。(余談2)
本作は興行的には成功と言えよう。脚本もこなれていて完成度は非常に高い。そして俳優として高い評価を受けてきた
マハーシャラ・アリ 氏と
ヴィゴ・モーテンセン 氏(余談3)が些かステレオタイプなキャラに命を吹き込む。
ラストは期待通りの大団円。トニーの家は古き良き時代の大家族、クリスマスイブは親戚縁者が集って騒々しく大宴会。私も郷里で過ごした幼少期の大晦日や正月を思い出して目が潤んでしまう。
そこへドン・シャーリーもスパークリングワイン(彼の事だから高級シャンパンか?)を手土産に参加、トニーの妻ドロレスは夫の誤字脱字だらけの手紙が急に洗練された事への謝意をこっそりドン・シャーリーに伝える。
と、ここまで本作を肯定的に見てきたが、残念な点が無い訳ではない。作品の完成度は高いと思うし、興行的にウケる内容だとも思う。
ただ、私がアフリカ系だったら本作はどんな風に見えるだろう?と想像してみると、あまり良い感情はわかない。何故なら白人寄り視点だからだ。
もちろん、イタリア系アメリカ人のトニーを介した息子ニックの立場から眺めた「史実」だからやむを得ない。私自身が嫌悪感むき出しで指摘した「良心的白人」が登場する「ソルジャーブルー」や「キリングフィールド」よりは嫌味感は払拭されてはいる。(余談4)
案の定、アフリカ系の映画監督スパイク・リーをはじめアフリカ系市民からの評価は高くない。そしてこの手の実話ベース作品には付きモノと思うが、史実のドン・シャーリーは決して家族と疎遠だった訳ではなく、本作について彼の遺族からクレームがきている。
(余談1)「ドライビング Miss デイジー」も本作とほぼ同じ時代のアメリカが舞台。二人とも落ち着いたキャラなので本作よりはシックな感じがする。
(余談2)本作ではアメリカ社会の底辺でイタリア系とアフリカ系との険悪な関係も滲ませている。同様の描写には、不朽のボクシング映画「ロッキー」にもある。
(余談3)ヴィゴはイタリア語を普通に話せる。
(余談4)私は皮肉を込めて鍵括弧付きで「良心的白人」と呼んでいたが、世間では「白人の救世主」と呼ぶらしい。
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