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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ボヘミアン・ラプソディ」 感動からエナジーを得よう〔19〕 

ボヘミアン・ラプソディ」 
毎年、Queenの記念日か何かに 
リバイバル上映してほしい作品


ボヘミアンラプソディー
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【原題】Bohemian Rhapsody
【公開年】2018年  【制作国】英吉利 亜米利加   
【時間】134分
【監督】ブライアン・シンガー
【制作】
【原作】
【音楽】ジョン・オットマン
【脚本】アンソニー・マクカーテン
【言語】イングランド語
【出演】ラミ・マレック(フレディ・マーキュリー)  メアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)  グウィリム・リー(ブライアン・メイ)  ベン・ハーディ(ロジャー・テイラー)  ジョゼフ・マゼロ(ジョン・ディーコン)  アーロン・マカスカー(ジム・ハットン)        

【成分】泣ける 楽しい 切ない 人種差別 性的少数者  

【特徴】イギリスのロックバンドQueenのメインボーカルを務めたフレディ・マーキュリーに焦点をあてた伝記映画である。フレディのバンド加入からQueen結成、そして紆余曲折を経てLive aidの大団円成功までを描く。

 ラストのウェンブリー・スタジアムでのLive aid場面の再現は大好評で、可能な限り当時の風景が描写された。私は1985年当時、大学生で四畳半の部屋で14インチのブラウン管テレビで模様を観ていた。あの頃の記憶が甦り、大スクリーンと充実した音響設備の映画館のおかげで当時味わえなかった迫力を体感したような錯覚を受けた。

 この作品は映画館でこそ素晴らしさを体感できる映画、毎年Queenの記念日か何かにリバイバル上映してほしいものである。リバイバル上映時はラストのLive aidの場面だけでもカットされた「愛という名の欲望」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」も入れた完全版で。

【効能】1985年当時Queenを聞いていた若者は青春時代が甦る。映画館がコンサート会場のように一変する。

【副作用】巨費をかけたただの再現映画にしか見えない。事実の改編に強い不快感。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
事実を基にした伝記映画の宿命。

 公開当時は感動の連続でパーフェクトだった。

 例えば、冒頭とラストのlive aid場面。熱心なファンの中には「当時の熱気には及ばない」という。私も本物のlive aidをほぼリアルタイムで観た人間だが、ただコンサート会場となったロンドンにあるサッカースタジアムに行ったことは無く、四畳半のむさ苦しい部屋の14インチブラウン管のTVで観て興奮したクチだった。
 なので映画館の巨大スクリーンと充実した音響施設であのコンサートを再現されると新鮮だった。本物に限りなく近い疑似体験だと言い切れる。それに無粋なCMも無い。本物のlive aidの中継では容赦なく曲途中でCMが入った。

 実際にあのサッカースタジアムで目撃した人間はやはり「当時の迫力にはかなわない」と思うのは無理からぬ事だし、実際に映画の情景はホンモノらしく見せたフィクションだ。ホンモノを上回る事は有り得ない。
 しかし私のようなスタジアムに行けなかった人間にとっては当時の熱気を呼び覚ますに十分な作品だったと思う。

 映画というのは前述したようにホンモノに見せるニセモノだ。要所要所をホンモノと見紛うほどの描写をするとグッと完成度が高くなる。
 予告編を見た時、線の細いラミ・マレック氏がフレディを演じるのは首を傾げたが、本編のフレディぶりは素晴らしかった。話し方や体の動かし方はかつてMVなどで観たフレディそのものだった。
 そのラミ・マレック氏の脇を固めるクイーン役の面々の酷似ぶり、ギターリストにして天体物理学者のブライアン・メイ役のグウィリム・リー氏にいたっては当時のブライアンがタイムスリップして21世紀の本作に出演したと思えるくらいの役作り。

 と、ここまで本作を持ち上げたが、日をおき改めてネット配信などで自宅鑑賞すると粗や突っ込みどころが無い訳ではない。
 公開当時から言われていた事ではあるが、熱心なファンにしてみれば事実の改編は不愉快なのだ。特にlive aid直前にフレディがHIVに罹患している事をクイーンの面々にカミングアウトする演出に少なからず不快のようだ。(余談1)
 他レビューでも同性愛の部分を大幅に割愛したり、まるで余命いくばくもないフレディにクイーンが団結したかのような盛り方は強引にまとめ過ぎではないか、と指摘する。
 私もそれは否定しない。ただ同時に「事実を基にした映画」の宿命なので仕方ないとも思う。過去作品の事実ネタ物「サウンドオブミュージック」や「王様と私」ではモデルにされた人々が激怒している。近年の「アポロ13」では物語にあるようなジャックとフレッドの険悪なやり取りは実際には無かったそうだし、「グリーンブック」でも主人公の一人ドクター・シャーリーの関係者や遺族からはクレームや反論があったという。

 小説や漫画、あるいは史実の映画化についての弊害は、他作品のレビューでも何度か述べた事がある。
 小説や漫画の映画化では2時間の映画にまとめるため原作エピソードの取捨選択が行われ。選択されたエピソードも映画描写の都合でより大袈裟かつ劇的に盛られ過ぎる事もある。その結果、原作世界が壊されることを嫌う原作ファンからのブーイングが発生してしまう。もっとも、元々フィクションである小説や漫画を同じフィクションの映画にまとめるのでまだマシかもしれない。
 同じように、事実を基にした映画化でも2時間尺の映画にまとめるため様々なエピソードの取捨選択が行われるので、事実の歪曲や侵害を嫌う関係者からのクレームが生じる。これについてはまかり間違えるとダイレクトに名誉棄損に抵触するリスクがある。

 本作の場合はフレディのゲイぶりが大幅に削がれ、親日家で日本への造詣が深い部分(余談2)は割愛された。そしてラストの大団円をlive aidの忠実な再現にもって感動のラストにするため、HIV罹患で余命が残り少ない事をlive aidの直前にブライアン・メイ達に告知するという盛り方をする。
 小説や漫画の映画化では原作ファンが主に批難するが、事実を基にした映画の場合は関係者が抗議をする。
 関係者が納得した映画に近年ではキューバで好評だったソダーバーグ監督「チェ 2部作」だが、これは脚色を極力控えたためにエンタメを好む映画ファンには退屈に観えた。
 本作の盛り方は映画の手法としては、良く言えば無難過ぎるまとめ方と言え、悪く言えば強引で雑なまとめ方、不快を表明するファンは多い。
 では本作主人公たちの関係者であり当事者の一人であるブライアン・メイ氏は何と言っているかというと、ほぼ私と同様の見解だった。ゆえに彼の言葉を要約するとドキュメンタリー映画ではないから脚色を許可したという。(余談3)


(余談1)フレディがHIVに罹患している事を知ったのはlive aidの2年後の1987年と言われている。またフレディは対外的には罹患を否定しクイーンのメンバーに告知したのも容姿がすっかり変わった最晩年だった。
 後にブライアン・メイ氏はインタビューで、live aidの頃から体調など問題を抱えている事は気が付いていたが問いただす勇気が無かったと語る。

 現代では有益な治療法が開発されたのでHIVは完治はしないが治療を続ければほぼ天寿を全うできる。しかし80年代当時は余命宣告をされたようなものである。

(余談2)物語の冒頭、ヒロインをナンパする場面を観たとき、普通の男の子やないかと拍子抜けした。
 またQueenが最初にブレイクした国は日本であり、当時ブライアン・メイ氏は日本での記者会見で「別世界に来たみたいだ。こんなに歓迎されたのは初めてだ」と日本での熱狂ぶりに感激していた。Queenたちは日本に恩義を感じたのか日本語歌詞の歌を発表、「teo torriatte」は有名。サビの部分は「手を取り合って、このまま行こう、愛する人よ」と日本語で歌っている。これを聞いた中学生当時の私は感動した。
 そういった日本とのつながりの部分は殆ど省略されていた。僅かにフレディが女物の和服の襦袢をガウン代わりに着ている場面でさり気なく紹介。

 因みに、中学生当時はサイクリング車に乗って本格的にサイクリングをやり始めた頃で、タイムリーな事にクイーンの「Bicycle Race」がヒットした。しかも歌詞がまるで当時の私の気持ちを知っているかのような内容の連続、そしてMVではこれまた20歳前後の全裸女性(正確には靴下と靴は履いていた)数十名がドロップハンドルのサイクリング車に乗ってレースをする、私の興味と好みを熟知した内容、クイーンは俺の気持ちを知っているのか!と感動したものだ。

(余談3)とはいえ、史実を勘違いする弊害はある。出来過ぎた作品はしばしば史実をよりも説得力が大きく、フィクションを正史化させてしまう。
 たとえば「忠臣蔵」の吉良上野介。実際は浅野内匠頭にパワハラはやっておらず、12月14日の討入事件でも映画にあるような小屋から引きずり出されたのではなく、刀を抜いて勇敢に抵抗した。
 現代に伝えられているエピソードの多くは、事件を題材に小説などを書いた当時の作家らの創作によるものと考えられる。

 それから映画化に伴う創作エピソードの盛り過ぎだと批判されたもので実は本当だったというのもある。
 「アポロ13」でジム・ラベル船長らが月へ行く直前に、ヒューストンの宿舎でシャワーを浴びるラベル夫人がうっかり結婚指輪を排水口に落としてしまう不吉な場面がある。映画ファンたちはステレオタイプの盛り過ぎ演出だと批難したが、これは実際にあったらしい。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔


【受賞】 第76回ゴールデングローブ賞 ドラマ部門作品賞 主演男優賞
第91回アカデミー賞 主演男優賞 編集賞 録音賞 音響編集賞

他サイト紹介記事
MIHOシネマ 「ボヘミアン・ラプソディ」のネタバレあらすじ結末と感想。



 
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