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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」 カップルで考えよう[16]

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」 
理系女子と男性型アンドロイドのラブコメ


恋人はアンドロイド


【原題】Ich bin dein Mensch
【公開年】2021年  【制作国】独逸   
【時間】105分
【監督】マリア・シュラーダー
【制作】リサ・ブルーメンベルク
【原作】エマ・ブラスラフスキー
【音楽】トビアス・ワグナー
【脚本】マリア・シュラーダー ヤン・ションバーグ
【言語】ドイツ語
【出演】マレン・エッゲルト(アルマ)  ダン・スティーヴンス(トム)  ザンドラ・ヒュラー(テラレカ社担当者)  ハンス・レーヴ(ユリアン)  ウォルフガング・ヒュプシュ(フェルザー)  アニカ・マイアー(コーラ)        

【成分】笑える 悲しい ファンタジー ゴージャス 不気味 知的 切ない かっこいい コミカル SF 近未来 少子高齢化社会  

【特徴】近未来のベルリンを舞台にしたイケメン男性型アンドロイドと学者先生の女性とのラブコメ。しかしながら物語後半はけっこうシリアスで、ドイツも日本も抱えている共通の難問である少子高齢化社会の厳しさを突く。
 日本では「ドラえもん」や「うる星やつら」など自宅に異質がいるパターンは馴染みがあり、本作の世界観にも抵抗なく入ってゆける。

 監督はマリア・シュラーダー氏、元々は女優・脚本家として活躍し2005年頃から監督業も手掛けるようになる。本作は彼女にとって3作目の長編映画。ドイツで興行成績好調、映画界での評価も高い。原作者はリアリズムで定評のあるエマ・ブラスラフスキー氏による同タイトルの短編小説。
 それにしても原題は生々しい。直訳すると「私は君の男です」やないか。

【効能】ラブコメディに楽しい気分になりながら、自分の足もとに迫る少子高齢化社会を実感する事ができる。

【副作用】使い古されたテーマに感じ中途半端感と退屈感をおぼえる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
現在進行形の社会問題を上手くラブコメにした作品。

 タイトルから綾瀬はるか氏主演「僕の彼女はサイボーグ」のような物語を連想してあまり期待せずに観たが、これはけっこう当たりの作品だった。ラブコメを装いながら、現代社会に生きる私たちが抱えている深刻な問題を滑らかにさり気なくのようで印象深く盛り込んだ技術的に高度な構成力の映画作品である。

 主人公はアルマ、40代後半になるだろう女性で博物館勤務の考古学博士、専門はメソポタミアの楔形文字。最低限のファッションは心得ているが元来は御洒落に神経を使わなそう、研究に没頭するタイプで独身独り暮らし。
 そんな彼女がとあるダンスホールを訪れる所から物語が動き出す。みんなカップルでお洒落して踊ったり酒を飲んだりしているのに、明らかに場違いなアルマ、そこへスタイリッシュなスーツに身を包んだ女性が「博士」と声をかけアルマと同じ年頃の男性トムを紹介する。

 トムは終始微笑み顔、現代では廃れている女性の手を持ちキスをする挨拶、ワザとらしくて古臭い美辞麗句の口説き文句をならべる、アルマはそんな会話に興味を示さず話題を変える、トムがリルケの詩が好きだと言えば「何行目には何が書いてある?」と質問。トムはまるでコンピューターのように正確に情報を言う。この男、もしや人間ではないな。
 会場が盛り上がりトムはルンバを踊ろうと誘う、がいよいよ動きがおかしい、ついに踊りの最中にフリーズして身体が固まり「Ich bin‥Ich bin‥」を連呼、係員三人がかりで場外へ搬出される。

 トムはロボット制作会社が技術の粋を凝らして造ったAI搭載アンドロイド、見た目は生きている人間と全く同じ、飯を食べたり酒を飲んだりもできる。ターミネーターが介護ロボットになったら多分トムみたいになるだろう。
 アルマは伴侶目的ロボットの調子を確認するための被験者で、メーカーから多額の謝礼がアルマや博物館に入る事になっていた。予算不足の博物館にとって渡りに舟であり学部長の要請で研究費捻出のため渋々被験者になったのだ。
 ダンスホールはメーカーが恋人ロボットと出会いの場を演出するため設置した施設で大勢の着飾った客はホログラム、アルマと同じ被験者はたった10人しかいない。

 アルマは修理を終えたトムと三週間の「同棲」を始める。渋々引き受けた被験者役なので何事もなく三週間を無難に終わらせ適当にレポートを書いて済ますつもりだった。
 トムはキザなイケメン男性の如くドイツ人女性の殆どが喜ぶであろう言動のデータを学習していてそれを元にロマンチックな演出を展開しようとするがアルマはどうでもよくことごとく拒否、ところがトムはハウスキーパーとしての性能の良さを発揮してしまう。
 朝、起きると散らかり放題の部屋が綺麗に片付き豪華な朝食の用意ができていた。おそらく栄養価も計算されているだろう。アルマは不快な表情を示して拒否、するとトムは正確に原状復帰をやってのける。
 トムの存在意義はパートナーの幸せのために動く。アルマの幸せや利益のために必要な情報を集め判断し実行するようプログラミングされているのだ。

 最初は職場まで付いていこうとするトムを喫茶店に残す。自宅に留守番させたら部屋をリフォームしかねない、学者でもないトムを職場に連れて行くわけにいかない、喫茶店に置いた訳だが閉店時間がきて追い出され雨の中を微笑みながらずぶ濡れになって一人で待つ。画面上でアルマはトムに詫びていたが、この時の心情は世間体だろう。雨の中を微笑みながら立ってアルマを待っているなんて不気味。
 また職場の同僚ユリアンが自宅を訪ねてきたときにトムがガウン姿で応対したので「同棲」がバレる。ただトムがアンドロイドであることは学部長とアルマだけの機密事項。
 トムはそつなく人と接するが、どこかスタートレックのMr.スポックに微笑みを加えたようなキャラ、紳士的でにこやかだが仕事の段取りが論理的で正確無比すぎて変。尋ねてきたユリアンは元カレで別の女性と家庭を持っている身、アルマとトムの様子を見て「良い彼氏をつかまえたな」と勘違いし安心してしまう。

 やむを得ずトムに自宅の合鍵を渡し学会で知り合ったイギリス出身の仕事仲間という事にして職場への同道を許す。イギリス出身にしたのはアルマのデータベースから傾向と対策をシミレーションによりトムのドイツ語は英語訛りだからだ。(余談1)
 ところが職場でもトムの性能の良さが発揮されてしまう。トムは楔形文字とその研究についての情報をダウンロードしていて、楔形文字を読めるだけでなくアルマたちの研究が南米の大学によって先を越されたことを察知、研究方針を変更を意見までする。

 これまでアルマは渋々同棲を受け入れてきたが、自分の専門分野にまで有能性を発揮したトムに初めて感情を剥き出し当たり散らし、股間の一物を見せろ、伴侶型ロボットなら夜の相手もしろと命じるが、トムは紳士的に拒否する。
 筆者の想像だが、おそらく初日の夜の段階でアルマが望めばトムは夜の相手をしたかもしれない。時間の経過とともにアルマの言動から学習し適切な対応をとるようになった。逆にアルマにしてみればロボット扱いしながらも次第にトムを生きている共同生活者として本気で接するようになってきた。

 この物語は以上のように前半はラブコメ感で突き進んでいく。それでも後半への伏線となる映像は早くから描写される。
 アルマが一人でカフェにいる。窓からすっかり髪が白くなり歩くのもおぼつかない年老いた夫婦や赤ん坊を抱えた若い夫婦が目に入る。

 アルマにも年老いた父親が一人暮らしをしている。妹のコーラと入れ替わり立ち代わりで様子を見に行く。父親の自宅には壁一面天井まである本棚に本がぎっしり詰まっているところからかつてはインテリだったのだろうが今は軽度の認知症。テーブルなどが雑然と散らかり始めている。(余談2)このような父親にとってトムのような介護ロボットがいたら‥。
 かつての元カレのユリアンとは子供を授かった事があるが流産している。物語では詳しくは語られていないが、ユリアンの新居パーティで妻が倒れた時のユリアンの動揺から妊娠している事を知ったアルマの感情の動き、妊娠についてのユリアンとの会話からも、アルマとの破局は流産が直接の原因というのが判るし、なんとアンドロイドのトムもそれを察知してしまう。

 ドイツだけでなく日本でも深刻な社会問題となりつつあるが、少子高齢化社会や独居老人の孤独死などがある。アンドロイドとのラブコメから物語が始まったが現代日本やドイツに重くのしかかる社会問題が浮かび上がる。そしてその取り敢えずの解決策として作品内ではトムのようなロボットの存在。
 奇しくも父親の家に強盗が入り、父親は頭から血を流す大怪我を負う。警官の配慮の無い言葉にアルマは怒る。トムであれば言わないだろう。
 偶然別の被験者男性が女性型伴侶ロボットを連れて歩いているところに出くわす。ダンスホールを模したメーカーの施設で見かけた小太りの老人だった。男はずっと独身でいて還暦も過ぎ、これからも独りの生活が続いて人生が終わるのかと思ったら伴侶ロボットと出会い生き甲斐が生まれた。被検終了後に引き取れないかメーカーと交渉中という。

 トムは急速に学習して後半になるとアルマの恋人役云々はともかくとして少なくともかけがえのない「家族」になりつつあった。恋愛音痴のアルマを理解して家族として助言をしたり冗談とも皮肉とも解釈できる言葉を突っ込む。そしてこれがアルマが求めていた恋人像。
 やがて本当の恋人同士のように夜のベッドで身体を重ねる。久しぶりのオーガズムを感じてアルマは喜びに浸る。朝、目が覚めると裸のトムはホンモノの人間のようにイビキをかき呼吸で胸が動いている様を見て嬉しくなり、トムのために珈琲を入れ朝食を作っているところで虚しさが襲ってくる。朝食を作ってもトムはロボットでプログラムに従って動いているだけ。二人暮らしのようで実際は独り。
 情が移って辛くなるのでトムを手放す事に決める。メーカーには恋人ロボットの素晴らしさを認めつつも本当の人間関係に支障が出るのではと、レポートは締め括る。
 しかしあの被験者男性のように本当に必要な人もいるし、ロボットに出会わなければ彼も10年後20年後は父親と同じような未来が待っている。

 メーカーのスタッフが様子を見にやってくる。トムは会社に戻っていないという。会社に戻っていたら工場に回されデータを入れ替えられることになる。トムというハンサムな人間そっくりのメカは残るが、アルマと接してきたトムは消えるのだ。
 トムが帰っていないという事は、アルマが知るトムがまだいる。アルマは初恋のデンマーク少年トマスとの思い出の場所に行くと、そこには思った通り家を出て行ったままの姿でトムが待っていた。
 アルマはトムに抱きつくでもなく、傍らに行って寝そべり少女時代の初恋の人との淡い思い出話を語り始める。カメラは最初トムの反応も映していたが、やがてエンドロールまで彼女の一人語りが延々続く。
 解釈はいろいろあると思うが、アルマの孤独感は解決されず孤独な晩年がこれから続く事を暗示しているように思える。誰かが傍にいるようで誰もいない日々が続く、それが現代社会なのか。(余談3)

(余談1)アンドロイドを演じるダン・スティーヴンス氏はイギリス・ロンドン出身。英語訛りのドイツ語はそれに合わせたのだろう。とはいえ、流暢なドイツ語。生きている人間にしか見えないアンドロイドという微妙な匙加減が必要な役柄を軽妙に演じきった。
 因みにアルマと同じ年くらいに思っていたが、ダン・スティーヴンス氏はアルマ役のマレン・エッゲルト氏より9歳若い。

(余談2)ドイツは日本よりも階級差があり、階級間の交流は少ない。つまりビートたけし氏の生家のように塗装工の家庭からインテリの学者を輩出するという事はあまりない。
 アルマは学者なので父親も現役時代は教育関係者か学者か技術者だった可能性がある。 

 因みにマリア・シュラーダー監督も両親は画家や彫刻家の藝術家一家で、少女時代から名門劇団で俳優キャリアを積み上げている。

 なぜ独身のアルマは父親と同居しないのか、という疑問を持つ人もいるかと思うが、ドイツでは子供は巣立つのが暗黙のルールにある。親元から出ないといけないのである。
 ドイツ旅行時に知人宅でお世話になった事がある。客の寝室として使わせてもらったのは、かつての子供部屋だった。
 で、お世話になったドイツ人家庭は整理整頓清掃が非常に行き届き過ぎていて面食らった。ドイツに移住した姪に聞くと「そんなの何処も当たり前」という。台所も綺麗過ぎて生活臭が感じられない。
 何が言いたいのかというと、作中のアルマの父親の家も、かつては小奇麗な図書館のような家だったのではないか。軽度の認知症の独居老人になって家が荒れ始めてきたのではないかと思う。日本の独居老人の孤独死でよくあるパターンが、家の中がゴミで埋もれて寝る所だけ谷間のようになっている。
 細かく場面場面を観ると、この映画はよく考えられている。

(余談3)物語中盤でトムとうちとけ野原で寝そべる場面がある。アルマが居眠りするとトムが居ない、探すとトムは鹿の群れに囲まれていた。鹿はトムの周りに集まったのではなく、トムを天敵と認識せずに木々と同じ物体と扱っているだけ、という場面だ。
 まさに幻想的であり、事実上は幻想の伴侶という意味合いか。ラストもトムとの会話だが、アルマの話の途中からカメラはトムを写さなくなった。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】ベルリン国際映画祭主演俳優賞
 ドイツ映画賞監督賞・脚本賞


 
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