「わが青春に悔なし」
原節子の化け方に注目。 【公開年】1946年
【制作国】日本国
【時間】110分
【監督】黒澤明 【原作】 【音楽】服部正
【脚本】久板栄二郎
【言語】日本語
【出演】原節子(八木原幸枝) 藤田進(野毛隆吉) 大河内伝次郎(八木原教授) 杉村春子(野毛の母) 三好栄子(八木原夫人) 河野秋武(糸川) 高堂国典(野毛の父) 志村喬(毒いちご) 深見泰三(文部大臣) 清水将夫(筥崎教授) 田中春男(学生) 光一(刑事) 岬洋二(刑事) 原緋紗子(糸川の母) 武村新(検事) 河崎堅男(小使) 藤間房子(老婆) 谷間小百合(令嬢) 河野糸子(令嬢) 中北千枝子(令嬢) 千葉一郎(学生) 米倉勇(学生) 高木昇(学生) 佐野宏[俳優](学生)
【成分】悲しい ロマンチック 勇敢 知的 切ない 軍国主義 第二次大戦 学生運動 京都大学 1930年代前半~1940年代後半 日本
【特徴】白いブラウスが似合う清楚なお嬢様キャラとして登場する
原節子氏が、上品で知的な和服美人の若奥様へ、特高警察の尋問で痛々しい姿へ、農村では泥と汗にまみれたモンペ姿に、ラストは化粧気のない素顔で明日への希望に向って歩む地味なリクルート姿で農村へ向う逞しい女性へ。
こんな具合でヒロインの成長が具体的に描写されている。様々な
原節子がみられる映画だ。
【効能】良家の令嬢から転落、しかし骨太に浮上する姿に明日への希望を見る。
【副作用】転落といっても、主人公には帰る実家もあれば身を寄せる嫁ぎ先の田舎もある。全てを失っている訳ではないので、本当にどん底の方には白けるかもしれない。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
少女漫画化された事もある。 実は映画よりも先に漫画を読んだ。30年程前に少女漫画で「わが青春に悔いなし」の漫画作品が掲載されていて、作者は記憶違いかもしれないがレディースコミックに転身する前の
汐見朝子氏だったと思う。内容は映画とほぼ同じ、展開だけでなくシチュエーションも殆ど漫画で再現されていた。(余談1)
ただ、問題の漫画は子供の頃に何気なく読んだだけでタイトルはすっかり忘れ、後に黒澤映画に興味を持った頃に「わが青春・・」のタイトルを見ても、「青い山脈」のような学園青春ドラマを連想して、むかし読んだ漫画とは結びつかなかった。なにしろ、美しい爽やかな草原で学生服の男性2人と白い清潔なブラウス姿の若き
原節子氏がピクニックに行く風景だけはよく紹介される場面だったからだ。
この映画は終戦直後に制作されたもので、映画公開より10年あまり前の昭和8年、軍国主義が強まる中で起こった京大
滝川事件をベースに物語前半が組み立てられている。良心派教授を「赤化(共産主義かぶれ)」とレッテル付けて排斥し学生たちが抗議運動を起こしたエピソードを軸に据え、
原節子氏は白いブラウスが似合う清楚で活発な学園のマドンナとして登場する。
中盤、大学を卒業し社会に出た主人公たちが特高警察(余談2)に逮捕される場面は、ゾルゲ事件をモチーフにしている。ここでの
原節子氏は和服が良く似合う知的で上品な若奥さん。
後半部分は
黒澤監督の気合が創った物語と言っても良い迫力の農村場面になる。「売国奴」のレッテルを貼られた夫の実家で泥だらけになりながら田植えに精を出す
原節子氏の姿は感動だ。もともとやや頑丈型の体格なのでモンペ姿がよく似合う。
そして戦後が舞台になったラストでは、レディーススーツ姿になり、まるで「二十四の瞳」のおなご先生のごとく化粧気の無い素朴で知的な笑顔で、獄死した夫の意志を胸に農村指導者としての新たな人生を歩みだす。
この
原節子氏の容姿の移り変わりが、2時間弱の映画であるにも関わらずまるで大河ドラマのような重厚感がある。(余談3)
(余談1)映画では行動派で理想家の野毛が眼鏡をかけていたが、漫画では少女漫画らしく眼鏡無しの今風イケメンになっていた。糸川の方が眼鏡をかけていて「愛と誠」の岩清水風に描かれている。
(余談2)志村喬氏がなんと特高刑事役でチョイ出演している。ヨレヨレのダブルカフスのワイシャツが印象的。
(余談3)実は「
原節子の化け方に注目」にはもう一つの意味がある。というのも、軍国主義の時代に彼女は国策映画に出演する美少女子役としてデビューしていたからだ。終戦直後、軍国主義は否定されそれまでの価値観やルールなどがリセットされる。そういうとき、体制権力の宣伝を担っていたヒロインもキャラを変換する必要があった。
映画と同じように、当初は世間知らずのお嬢様が様々な試練を経て新しい人間へと成長していく、そのアピールの目的もあったと私は思っている。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作
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少女漫画化された事もある。 実は映画よりも先に漫画を読んだ。30年程前に少女漫画で「わが青春に悔いなし」の漫画作品が掲載されていて、作者は記憶違いかもしれないがレディースコミックに転身する前の
汐見朝子氏だったと思う。内容は映画とほぼ同じ、展開だけでなくシチュエーションも殆ど漫画で再現されていた。(余談1)
ただ、問題の漫画は子供の頃に何気なく読んだだけでタイトルはすっかり忘れ、後に黒澤映画に興味を持った頃に「わが青春・・」のタイトルを見ても、「青い山脈」のような学園青春ドラマを連想して、むかし読んだ漫画とは結びつかなかった。なにしろ、美しい爽やかな草原で学生服の男性2人と白い清潔なブラウス姿の若き
原節子氏がピクニックに行く風景だけはよく紹介される場面だったからだ。
この映画は終戦直後に制作されたもので、映画公開より10年あまり前の昭和8年、軍国主義が強まる中で起こった京大
滝川事件をベースに物語前半が組み立てられている。良心派教授を「赤化(共産主義かぶれ)」とレッテル付けて排斥し学生たちが抗議運動を起こしたエピソードを軸に据え、
原節子氏は白いブラウスが似合う清楚で活発な学園のマドンナとして登場する。
中盤、大学を卒業し社会に出た主人公たちが特高警察(余談2)に逮捕される場面は、ゾルゲ事件をモチーフにしている。ここでの
原節子氏は和服が良く似合う知的で上品な若奥さん。
後半部分は
黒澤監督の気合が創った物語と言っても良い迫力の農村場面になる。「売国奴」のレッテルを貼られた夫の実家で泥だらけになりながら田植えに精を出す
原節子氏の姿は感動だ。もともとやや頑丈型の体格なのでモンペ姿がよく似合う。
そして戦後が舞台になったラストでは、レディーススーツ姿になり、まるで「二十四の瞳」のおなご先生のごとく化粧気の無い素朴で知的な笑顔で、獄死した夫の意志を胸に農村指導者としての新たな人生を歩みだす。
この
原節子氏の容姿の移り変わりが、2時間弱の映画であるにも関わらずまるで大河ドラマのような重厚感がある。(余談3)
(余談1)映画では行動派で理想家の野毛が眼鏡をかけていたが、漫画では少女漫画らしく眼鏡無しの今風イケメンになっていた。糸川の方が眼鏡をかけていて「愛と誠」の岩清水風に描かれている。
(余談2)志村喬氏がなんと特高刑事役でチョイ出演している。ヨレヨレのダブルカフスのワイシャツが印象的。
(余談3)実は「
原節子の化け方に注目」にはもう一つの意味がある。というのも、軍国主義の時代に彼女は国策映画に出演する美少女子役としてデビューしていたからだ。終戦直後、軍国主義は否定されそれまでの価値観やルールなどがリセットされる。そういうとき、体制権力の宣伝を担っていたヒロインもキャラを変換する必要があった。
映画と同じように、当初は世間知らずのお嬢様が様々な試練を経て新しい人間へと成長していく、そのアピールの目的もあったと私は思っている。
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