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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「あヽ海軍」 青春回帰〔21〕 

あヽ海軍」 鬼平の海軍士官姿。
 

 
【英題】FIRE FOR THE GLORY
【公開年】1969年  【制作国】日本国  【時間】121分  【監督】村山三男
【原作】
【音楽】大森盛太郎
【脚本】菊島隆三 石松愛弘
【出演】中村吉右衛門[2代目](平田一郎)  峰岸隆之介(本多勇)  宇津井健(岡野大尉)  本郷功次郎(荒木中尉)  中条静夫(参謀)  成田三樹夫(-)  藤巻潤(-)  露口茂(-)  長谷川明男(-)  平泉征(-)  酒井修(-)  菅原謙次(-)    
    
【成分】勇敢 切ない かっこいい 第二次大戦 1934年~1945年 日本 
       
【特徴】鬼平こと中村吉右衛門氏の海軍士官姿が見れる。若い! しかし青二才らしからぬ渋み、当時から貫禄十分の俳優だ。本作が歌舞伎俳優中村吉右衛門初の「現代劇」となる。
 当たり前の話だが、大御所俳優やベテラン俳優たちがまだ青年。峰岸隆之介(峰岸徹)氏が主人公の親友で陸軍の青年将校を演じる。成田三樹夫氏がラバウル飛行隊時代の部下で少尉の役、露口茂氏が部下の下士官パイロット役で登場。
 元ゼロ戦パイロット坂井三郎氏の「大空のサムライ」を駆け足で映画化したような感じだ。

 本作の主演はもともと眠狂四郎で有名な市川雷蔵氏が務める予定だったが、ファンならご存知のように撮影時期は最晩年、体調悪化のため中村吉右衛門氏が代役となった。
  
【効能】古き良き時代のスポ根ドラマに懐かしさをおぼえる。
 
【副作用】軍隊讃歌に見えて不快感をおぼえる人もいるだろう。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
中村吉右衛門初の「現代劇」
 
 いまや鬼平こと火付盗賊改方長官長谷川平蔵役で有名な中村吉右衛門氏が海軍の青年士官に扮する。いまや大御所俳優や性格俳優たちも大勢出演しているので、そういう意味でも貴重な一作だ。
 もともとは眠狂四郎で有名な市川雷蔵氏が主演する予定だったが、ファンなら御存じの通り体調不良により中村吉右衛門が代役となる。市川雷蔵氏自身はこの役に乗り気だったらしいが、とても撮影に耐えうる体調ではなかったといわれている。(余談1)

 内容はいたって単純で、単に一高進学(余談2)の「滑り止め」として海軍兵学校を受験し入学する。良き教官や友人に恵まれて軟弱な心根から次第に海軍士官として自覚しトップ成績で卒業して航空隊に配属され、そこでも華々しい戦果をあげるが山本長官の戦死を食い止められず挫折し、傷心のなか少佐として兵学校に戻り鬼教官を務める。最後は生徒の人望を集めながら惜しまれて死地である沖縄へ出征する。
 戦争映画というよりスポ根映画に近い。二二六事件や世界恐慌などが主人公たち青春の細やかな背景で表現されているのみ。左翼系の人間なら軍国主義賛美の映画ととるだろう。

 公開時は安保条約締結10年目を前にして学生運動が激化しつつある時であり、大手新聞社が中国の文化大革命や毛沢東を賛美していた頃でもある。ところが映画界では結構「硬派」な映画もこの時期に大量生産されている。敗戦直後はGHQの検閲で認められなかった反動なのか、日本軍が勝利する日露戦争モノや忠義を扱った時代劇や任侠モノなど、今では考えられないくらいの数である。
 皮肉なものだ。左翼学生や社会党が元気だった頃に「右翼映画」が大量に作られ、学生運動は消滅し社会党は没落しタカ派政権(余談3)が憲法改正を唱えている現代では好戦色の強い映画は強烈なバッシングに晒される。

 若い鬼平が学生服・兵学校制服・セーラー服・三つ揃いの背広・海軍一種軍装・二種軍装・海軍防暑服・ゼロ戦の飛行服(余談4)と様々な格好をしているので、ファンには興味深いだろうと思う。
 ただ、内容には特に深みを感じられなかった。ありきたりのスポ根で、展開や台詞回しまで予測できるのでつまらなかった。

 それにゼロ戦パイロットは坂井三郎氏をはじめ下士官たちが主戦力(余談5)で、作中の「鬼平」はラバウルのパイロットたちを統括する大尉だ。司令部に末席として出席したり、整列するパイロットたちを前に訓示したりとお偉方だ。驚異的な撃墜王というのは、プロ野球で監督と投手と四番打者を兼務するくらいのスーパーマンである。
 ただ、尺は短かったがゼロ戦の戦闘場面は凝っていた。増槽を投下してドックファイトをする場面は特撮ファンたちを狂喜させるだろう。たが「永遠の0」を見慣れた人にはギャグに見えるかもしれない。特に「鬼平」は風防を閉めているのにもかかわらずゴーグルを付けたまま。その顔がまるで教育ママゴンのようだった。(余談6)

 今後、もし同じネタで映画を創るとすれば、ぜひ坂井三郎氏の「大空のサムライ」の映画化にしてほしいものだ。物語展開はほとんど同じだ。航空学校でみっちり訓練され台南空に配属、ラバウルで大活躍し、負傷して片目を失ってからは航空学校の教官に赴任し、硫黄島の最前線で闘う。(余談7)坂井氏は子供向けにはスポ根調で執筆しているが、「零戦の真実」などでは怨念がこもっているかのように海軍上層部を非難している。だから、薄っぺらいスポ根にはならないので、素材として良質だ。

(余談1)市川雷蔵氏は胃腸が弱く、晩年はたびたび下痢や下血に悩まされていた。68年に直腸癌が見つかり入退院を繰り返す。69年公開の「眠狂四郎悪女狩り」では体力の衰え著しく殺陣の場面は代役に吹き替えた。同年7月に肝臓癌で鬼籍に入ったことを考えると、仮にクランクインに復帰できたとしても「あヽ海軍」の撮影時期は末期癌の時期だった。

(余談2)戦前の学制は今より些か複雑である。一高は今でいうところの高等学校ではなく、超難関の短期大学か高専のような所に近い。

(余談3)少し昔の話だが、タカ派の若手安部晋三氏が総理を辞職というのは唐突だったが、彼もまた病気に罹っているのかな。総理大臣は打たれてナンボの激務だから。トップの公人に事実上「人権」というものは無い。それに引き換えての国家権力なのだから。
 決して安部氏を擁護するつもりは無いが、並の人間だったらあれだけ問題が一度に噴出してしまうと血を吐いて倒れるか首をつるかだろう。頭が正気で身体が動く内によく辞める決断をしたものだ。
 辻元清美氏が「安部の辞任を舐めたらあかん」という趣旨の発言をされた。皆が「無責任」「非常識」「お坊ちゃん」と非難している中で「理解」を示すとは、なんとなく解る気がする。

(余談4)海軍の軍服は大きく三種ある。士官に限っていえば、濃紺の学生服型留金式ボタンと、夏用の白い学生服型五つボタンと、カーキ色開襟背広型である。

(余談5)アメリカやドイツなど欧米のパイロットは士官が相場と確定している。旧日本軍は下士官中心で構成されており世界の空軍兵力史上で特異だ。

(余談6)ふつう、ゼロ戦パイロットは離着陸時に機体の姿勢を確認する際に風防を開けるのでゴーグルを付ける。ゴーグルを付けるのは風圧から目を守るためである。離陸して安定飛行中は風防を閉め、ゴーグルは必要ないので目から外して飛行帽の上に引っ掛ける。
 それからドックファイトの場面で「鬼平」たちは旧式の照準器を使用していた。零戦は一眼レフのファインダーと構造が似ている九八式射爆照準器を使用していて、照準環がガラス盤に光の環となって浮き上がる仕組みになっている。ただ、坂井三郎氏の話によると電球がよく切れたようなので、予備の旧式照準器も常備されていたからそれを使用していたかもしれない。

(余談7)坂井氏は軍艦での部下苛めや虐待など陰湿な空気を嫌って航空学校に移り、優秀なパイロットとなり中国や太平洋を転戦する。最終階級は海軍中尉だが、活躍の大部分は先任下士官の小隊長時代だ。
 硫黄島戦では少尉として赴任し、独眼ながら敵機を撃墜し銃弾を一発も被弾しない奇蹟を起こす。爆撃でゼロ戦を失ってからは陸戦隊の小隊長として抜刀の訓練をしていたところ本土への帰還命令がくだる。本土防衛のためドッグファイト(空中戦)ができる貴重なパイロットが必要だったのだろう。
 著作「大空のサムライ」はベストセラーになり、翻訳されて欧米でも刊行されている。
 なお既に一度映画化されて藤岡弘氏が主演していたと思う。観ていないが。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作



 
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[ 2009/04/05 10:17 ] 映画・・青春回帰 | TB(0) | CM(0)
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