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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「シッコ」 社会問題を考えたい時に 6 

シッコ」 日本の近未来か?


 
【原題】SICKO
【公開年】2007年  【制作国】米  【時間】123分  【監督】マイケル・ムーア
【原作】
【音楽】
【脚本】マイケル・ムーア
【出演】マイケル・ムーア (本人)    
    
【成分】悲しい 勇敢 知的 絶望的 コミカル ドキュメント 政府批判 医療問題 アメリカ社会
  
【特徴】アメリカ医療制度の欠陥を真正面から素直に判り易く雄弁に突いた話題作。日本の医療体制もアメリカのように後退する恐れがあるので観ておこう。
  
【効能】言うまでもなくアメリカ医療制度の矛盾を批判しているので、アメリカのあり方や日本のアメリカ化に危機感を持っている人々にとって溜飲の下る痛快作である。
 
【副作用】マイケル・ムーア監督の姿勢が偏っているように見えるかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
ストレートで判りやすいドキュメント
 
 アメリカの医療制度が深刻な問題になっていると知ったのは、クリントン政権発足時、既に単なるファーストレディーではなくクリントン大統領の側近(余談1)としても辣腕を振るっていたヒラリー夫人が国民皆保険を目指し、議会の圧力で頓挫したことであった。結局、頓挫するだけでなく医療関係業者の「政治的支援」で理想論を吹聴することすらしなくなったようだが。

 海外旅行へ行く際の注意事項に諸外国の医療制度などを紹介して海外医療保険などに入るよう勧められるので、アメリカの制度は以前から知っていたが、ヒラリー夫人の「挫折」は保健本来の互助組合趣旨から逸脱して金儲けだけの存在にする如何にもアメリカらしい野蛮な性分と思った。それに引き換え日本はまだまだすてたものではない、あの頃の私は日本の医療を頼もしく思い楽観していた。

 ところが、その日本の優秀な制度も屋台骨が揺らいでいる。以前から制度疲労による歪みがあったが、アメリカの「要望」でもある「制度改革」で一気に加速した感がある。アメリカの資本家は利益のためには議会を使って合法的に内政干渉も行う。一口に資本主義国といってもアメリカほど「合理的」に金儲けを考える国は無い。ヨーロッパ諸国はまだ医療や食糧といったライフラインに関わる産業は保護する努力をしている。そんな国々に対してもアメリカは常に議会で「要望」を決議しているのだ。(余談2)

 だから、このドキュメント映画は溜飲の下がる秀作だ。他のレビュアーから以前の問題作に比べて「大人しい」とか「突撃取材が無くなった」との指摘があるが、象徴的な大事件が背景にある「ボウリング・フォー・コロンバイン」やブッシュ大統領への批判がメインの「華氏911」と異なり、批判対象がアメリカ医療制度そのものにある。したがって、私は無理に突撃取材を行わなければならない必要は感じないし、むしろ恒例の突撃取材パフォーマンスで監督が前面に出て目立つよりも、判り易い事例を列挙する演出のほうがより説得力がある。そもそも日本のドキュメントに比べたら遥かに劇的で十分なエンターテイメント性を備えた迫力ある作品だ。

 「国民皆保険の短所を取り上げず賛美している」との指摘もあるようだが、この作品の目的はアメリカの医療制度の欠陥を指摘して批判することにある。保守側はさんざん国民皆保険の短所を喧伝しているのだから、ムーア監督がわざわざそれをして作品全体のインパクトを弱める事はない。
 「事実」を判断したければ、ムーア監督の作品以外にムーア監督の標的にされた人々の言い分を聞いて、双方の言い分と自分が置かれている立場を勘案し、誰の言い分に分があるかを吟味すれば良い。それは観る人間、情報を摂取する側の責務だ。「真実」は一つというのは幻想である。

 9.11の英雄が満身創痍で見捨てられ、アルカイダのメンバーとされている容疑者たちは手厚い医療を受ける矛盾は象徴的だ。市民のライフライン確保を放棄した国家に税金を払う意義は無くなる。国家の存在意義が問われているのである。(余談3)

(余談1)ご存知の方も多いと思うが、実質的大統領という噂がある。

(余談2)高校生の頃だったか、日本車や日本家電がアメリカで売れすぎて、下院議員たちが日本製品をハンマーで叩き壊す場面がニュースで流れたことがあった。当時の私は「アメリカの国会議員てアホが多いのかな」と単純に思っていたが、そうではなく献金者向けパフォーマンスの意味合いもあったのかな、と後に思うようになった。内心「アホらしい」と思いながらも、支持者たちのため仕方なく演技している人もいるかもしれない。

(余談3)日本の場合、少子化高齢化で税収が少なくなり保険制度が破綻している、という嘘はばれた。いい加減な帳簿、役所の自己申告だけでも億単位の横領着服、そもそも以前から採算の合わない施設の乱建設が問題になっていた。そこへアメリカの規制緩和や民営化の「催促」だ。

 無駄施設建設の場合、役所は一応さりげなく「官報」で告示する。国民があとで気がついて騒いでも「きちんと知らせた」と言うものだ。横領で内々に軽い処分で済ませた場合、野党議員が一応追及する。しかし地方議会は大半が与党勢力なので行政のチェック機関でもある議会の役割は果たしきれない。
 だから、ニュースに目を通し、官報にも目を通し、野党勢力も「頼りない」といって突き放すのではなく育てなければならない。私たち国家の主権者たる国民は、実は仕事や家事以外にもやることが沢山あるのだ。生真面目に関わると身体がもたないので、維持できる体勢を各々で編み出すしかない。ただ無関心は、あとで損しても自業自得であることを心得よう。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
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真実はひとつではない!
そこだと思いますわ。
ムーアさんのばあい、彼の思い入れもあるかと思いますが、彼の作りを見ると、一個しか真実がないように見えるのが、ネックですかね。
まあ、これもすべてが真実だ!と思う人はいないでしょうが、ひとつの見せ方として面白い!と思いました。
[ 2009/11/05 16:11 ] [ 編集 ]
sakurai氏へ
 
 10人いれば10通りの事実解釈があります。その人の立場・利害関係で「事実」は様々なものに見えます。
 同じ人間でも小学生の頃は広いと感じた校庭が大人になってみると狭く感じる、という経験をされた方は大勢いると思います。では大人が狭いと主張し子供が広いと主張したとき、どちらかが嘘をついているなんて思うでしょうか? 
 基本的にはその程度の馬鹿げた悲喜劇が世の中数多くあります。
 
 ムーア監督の主張はあくまで事実の一片を表したもの、と観るべきですね。感情移入しすぎると、一部のサヨクやウヨクやカルトのようになってしまいます。

> 真実はひとつではない!
> そこだと思いますわ。
> ムーアさんのばあい、彼の思い入れもあるかと思いますが、彼の作りを見ると、一個しか真実がないように見えるのが、ネックですかね。
> まあ、これもすべてが真実だ!と思う人はいないでしょうが、ひとつの見せ方として面白い!と思いました。
[ 2009/11/05 18:06 ] [ 編集 ]
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