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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ヒトラー ~最期の12日間~」 絶望から脱出しよう〔2〕 

ヒトラー最期の12日間~」 
大変な力作である。



ヒトラー ~最期の12日間~ Blu-ray
ヒトラー 最期の12日間 [DVD]

【原題】DER UNTERGANG 
【公開年】2004年  【制作国】独逸 伊太利 墺太利  
【時間】155分  
【監督】オリヴァー・ヒルシュビーゲル
【原作】ヨアヒム・フェスト トラウドゥル・ユンゲ
【音楽】ステファン・ツァハリアス
【脚本】ベルント・アイヒンガー
【言語】ドイツ語 一部ロシア語   
【出演】ブルーノ・ガンツアドルフ・ヒトラー) トーマス・クレッチマン(ヘルマン・フェーゲラインSS大将) クリスチャン・ベルケル(シェンクSS大佐) アレクサンドラ・マリア・ラーラトラウドゥル・ユンゲ) ユリアーネ・ケーラー(エヴァ・ブラウン)  コリンナ・ハルフォーフ(マグダ・ゲッベルス)  ウルリッヒ・マテス(ヨーゼフ・ゲッベルス宣伝相)  ハイノ・フェルヒ(アルベルト・シュペーア軍需相)  ウルリッヒ・ノエテン(ハインリヒ・ヒムラーSS長官)

【成分】スペクタクル パニック 恐怖 絶望的 切ない ナチスドイツ 1940年代 第二次大戦  

【効能】本作のヒトラーはドイツ語で怒鳴るから臨場感は抜群。過度のデフォルメは本質を歪めるが、本作のヒトラーはデフォルメ臭は無く、ナチスの破綻ぶりを知る良き教材となる。

【副作用】判官びいきでヒトラーたちに同情する恐れがある。

【読者の皆様へ】トーマス・クレッチマン氏扮するフェーゲラインSS大将、作中では襟章が「少将」になっていました。またボルマンも「全国指導者」の地位なのに「SS大将」の襟章をつけていました。何故だかご存知の方はご一報ください。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
ドイツ人がヒトラーを 
正視できるようになった作品


 公開から随分経ってから観た。この作品は当事国ドイツが初めてかつての国家元首に焦点を当てた作品として世界中から物議を醸し出した。これまでヒトラーを正面から描くことは無かった。多くは人格異常者として描かれるか、あるいは狂言回し的に扱われるかである。取り分けドイツではあまりにもトラウマが強すぎるため、タブーと化していた。

 やはりというべきか、良識派や左翼市民勢力やユダヤ人勢力からの反発と抗議が大きかったそうだ。これはやむを得ないだろう。 かつて弾圧や粛清を受けた被害者にとって、加害者は血に飢えた悪魔かモンスターでないと納得できないからだ。少しでも人間味を描こうとすれば、たちまち美化しているように見えてしまう。この被害者の心情は無理からぬものだが、しかし危うい副作用がある。

 何故なら、単なる血に飢えた悪魔であれば国民は騙されないだろうし、最期まで従おうとはしないだろう。そもそもヒトラーの実像が今までの映画やドラマで御馴染みのデフォルメ化された滑稽なキャラクターであるならば、権力を与え国運を委ねたいなどと思う国民は殆ど居ないはずだ。
 同時代の独裁者イタリアのムッソリーニは国民の怨嗟の中で嬲り殺しにされたが、ヒトラーは最期までカリスマを保持していたのである。中にはヒトラーとともに心中する部下たちもいた。何故ヒトラーは最期の瞬間まで独裁者で居られたのか?

 答えは簡単である。ヒトラーには良い悪いは別にして人間的魅力があったからである。人間的魅力があったからこそ独裁者になれたのだ。
 作中でも、高位の部下に対してはパワハラをするが下位の部下や女性には優しい、自分と心中しようと申し出る部下にはヘンテコな理由を付けて逃がしたりしている様が描かれている。

 被害者の感情に迎合してヒトラーをモンスターに描き続けるという事は、逆に新たな独裁者・弾圧者の登場に気がつかず、台頭を許してしまう事にもつながりかねないのである。そういう意味で、戦後60年の時期に「ヒトラー ~最期の12日間~」が公開されたのは意義がある。そろそろヒトラーという現象を冷静に見なければいけない時がきたのだ。

 監督はオリヴァ・ヒルシュビーゲル氏、社会心理学的事件であるスタンフォード大学の模擬監獄実験をテーマにした「エス」で有名な映画人である。スタンフォード大の実験は70年代初頭に実際に行われ、ごく平凡な人間に看守(支配者)と囚人(奴隷)の役割を与えて閉鎖された空間で生活させるとどうなるかが趣旨だが、人間は見事に環境や役割に順応し看守役の被験者たちは凶暴性を発揮した。これを映画にする監督だから、ヒトラーを美化するとは考え難い。作品の演出細部を見ても、ナチスに感情移入して同情をしないよう配慮している箇所がいくつもあった。

 野外ロケはなんとロシアのサンクトペテルブルク(レニングラード)である。当時のベルリンに街並みが似ているとかで選ばれた。サンクトペテルブルクはかつてナチスドイツの攻撃に遭って荒廃した都市であり、市民の中でも大戦の嫌な記憶が残っている者もいるはずだ。ところが市民は協力的で、砲弾の間を逃げ惑うベルリン市民やかつての敵の軍服を着てドイツ兵のエキストラになってくれたそうである。ヒトラーに忠誠を誓い闘う金髪碧眼の美少女インゲが、実は地元ロシア人が扮しているなんて感慨深いものがある。

 頭が禿げているブルーノ・ガンツ氏が見事にヒトラーの最期の姿を再現している。以前に何かの資料で死ぬ直前のヒトラーの写真を見た事がある。頬が弛み、眼は腫れぼったくて眩しそうに薄目を開け、寒そうにコートの襟を立てている老人のヒトラーだった。ガンツ氏はそのヒトラーに酷似していた。白黒写真にすればホンモノと見分けがつかないだろう。

 容姿だけでなくガンツ氏の演技もヒトラーそのものだった。分裂症的で支離滅裂な命令、癇癪を起こすと甲高いだみ声が長時間ひびく。が、プライベートでは掠れ気味の声にゆっくりとした話し方、下位の将校や兵士、ヒトラーユーゲントの少年、特に女性に対しては一貫して紳士的で優しい態度で接しているのも史実通りである。

 時代考証も正確(余談1)で、ハリウッド映画に見られる様なモミアゲを長く伸ばしたり、髪を刈り上げずに伸ばしたドイツ兵は登場しない。本営の乱痴気騒ぎやSSの処刑隊の描写も正しい。映画で作り上げた空間がリアルであればあるほど、ラストの希望を抱かせる場面が活きてくる。
 この映画を観て、ヒトラーとは何だったのか、体制の崩壊とは何かを考えてみるのも一興だろう。

 アレクサンドラ・マリア・ラーラ氏も実際のトラウドゥル・ユンゲ氏の若い頃によく似ている。

(余談1)トーマス・クレッチマン氏扮するフェーゲライン、階級はSS大将のはずなのだが映画では少将の襟章をつけている。どういうことだろう。知っている方がいたら教えてほしい。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔


晴雨堂関連作品案内
es[エス] [DVD] オリバー・ヒルシュビーゲル
わが教え子、ヒトラー デラックス版 [DVD] ダニー・レヴィ
白バラの祈り -ゾフィー・ショル、最期の日々- [DVD] マルク・ローテムント

晴雨堂の関連書籍案内
私はヒトラーの秘書だった (単行本) トラウドゥル・ユンゲ
わが闘争アドルフ・ヒトラー




 
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ブルーノ・ガンツも悩みに悩んだ末にヒトラー役を演じることを決めたそうですよ。
やっぱりドイツでは今もなおヒトラーはアンタッチャブルな存在らしいので。

でもこういう歴史に向き合う映画は素晴らしいですよね。
日本では到底できない代物ですよ。
[ 2009/10/16 20:28 ] [ 編集 ]
にゃむばなな氏へ

> ブルーノ・ガンツも悩みに悩んだ末にヒトラー役を演じることを決めたそうですよ。
> やっぱりドイツでは今もなおヒトラーはアンタッチャブルな存在らしいので。
>
> でもこういう歴史に向き合う映画は素晴らしいですよね。
> 日本では到底できない代物ですよ。
 
 「プライド 運命の瞬間」で東京裁判での鬼気迫る論戦を期待していたのですが、イマイチでした。もともとバール判事の物語だったのを強引に東條英機を主人公にしたので、構成がうまくこなれていなかったし、やたら東條を「良い人」「潔い人」に見せようとする制作者のスケベ心が出てしまっていたのが残念でした。
 「スパイ・ゾルゲ」も期待していたのですが、けっきょく何を描きたいのかよくわからな内容でした。いろいろ詰め込み過ぎて消化不良になっているし、表現の仕方で政治的ポジションが明確になって攻撃されるのを恐れているのか及び腰でした。
 
 いずれも共通しているのは、気合を入れて制作した割に中途半端です。思い切って、隣国と合作しても良かったのではないかなとも思いますが、そんな指導力を発揮できる監督は黒澤氏くらいでしょうか。
[ 2009/10/16 22:02 ] [ 編集 ]
こんばんは★
複数記事へコメントとTBありがとうございました。

ブルーノガンツがやっぱり良かったですよね。
先日タランティーノの新作を観ましたが
やっぱりヒトラー役をそっくりな人がやっていました。
ナチスドイツを描いた映画は今後も増えそうですね。
[ 2009/10/16 23:28 ] [ 編集 ]
mig氏へ

> ブルーノガンツがやっぱり良かったですよね。
> 先日タランティーノの新作を観ましたが
> やっぱりヒトラー役をそっくりな人がやっていました。
> ナチスドイツを描いた映画は今後も増えそうですね。
 
 そろそろ第二次大戦モノは時代劇になりつつあるような、そんな感じがします。1930年代の西部劇には、「OK牧場の決闘」で名高いワイアット・アープが監修したそうですから、時間列で考えたら30年代の映画ファンが西部劇を楽しむのと同じように、私たちも第二次大戦を見ているようなものです。
[ 2009/10/17 14:59 ] [ 編集 ]
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ヒトラーの最後の日々を、彼自身と周囲の人間を丁寧に描いてみせた秀作だとは思う。
[2009/05/12 06:44] 或る日の出来事
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