「スターシップ・トゥルーパーズ」
監督の老獪さが光る作品。 【原題】STARSHIP TROOPERS
【公開年】1997年
【制作国】亜米利加
【時間】128分
【監督】ポール・ヴァーホーヴェン 【原作】ロバート・A・
ハインライン 【音楽】ベイジル・ポールドゥリス
【脚本】エド・ニューマイヤー
【出演】キャスパー・ヴァン・ディーン(ジョニー・リコ) ディナ・メイヤー(ディジー・フロレス) デニース・リチャーズ(カルメン・イバネス) ジェイク・ビューシイ(エース・レヴィ) ニール・パトリック・ハリス(カール・ジェンキンス) クランシー・ブラウン(ジム軍曹) パトリック・マルドゥーン(ゼンダー・バーカロウ) マイケル・アイアンサイド(ジーン・ラスチャック) マーシャル・ベル(オーウェン将軍) セス・ギリアム(シュガー・ワトキンス) ルー・マクラナハン(生物学教師) デイル・ダイ(将軍) ブレイク・リンズレイ(アkトリナ) エリック・ブラスコッター(ブレッキンリッジ) マット・レヴィン(キトゥン・スミス) アンソニー・ルイヴィヴァー(-) ブレンダ・ストロング(-) ディーン・ノリス(-) クリストファー・カリー(-) レノア・カスドーフ(-)
【成分】笑える 楽しい スペクタクル ロマンチック パニック 不気味 恐怖 勇敢 知的 絶望的 切ない セクシー かっこいい コミカル SF スプラッタ 戦争映画
【特徴】軍国主義SF作家
ロバート・A・ハインラインの世界を見事に実写映画化。
ハインラインの世界観を忠実に再現すると見せかけて残酷描写のオンパレード、歯の浮いた白々しいスポ根的青春ドラマのようで現代社会を嘲笑する内容、何も考えずに楽しめる戦争活劇のようで極めて社会派映画に仕立てている。
ポール・ヴァーホーヴェン監督の手腕が光る。
【効能】スカっと爽やか青春戦争活劇で気分高揚、それでもって知らず知らずの内にサブミナル効果的に反戦思想も植えつけられるかも。
【副作用】生真面目な平和主義者は、一見すると軍国主義讃美の内容と残酷描写に気分が悪くなる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。
パワードスーツは何処へ行ったんだ? 原作はSF小説家
ロバート・A・ハインライン氏の「
宇宙の戦士」である。アニメ「機動戦士ガンダム」の再放送ブレイクが始まった当時、同じ高校に通っていたSFマニアの友人からガンダム着想の原点(余談1)だと紹介された。読後の感想は軍国主義社会の設定が行き届いていて、何より軍隊の描写が極めてリアルだった。
この作品が映画化された年は、あの「タイタニック」が大評判だった。20世紀初頭の豪華客船をCG技術によって細部まで再現したことでも評価されていたが、日本のCMでもブルース・リー氏が生前出演した映画から画像を抜き取って全く異なる場面に貼り付けるCG合成が評判だった。CGを使えば何でも描写できる、そんな映像技術を背景に「スターシップ・・」は再現不可能と思われた原作世界の具現化を達成したのだ。
だが、この映画の素晴らしさは高度な映像技術よりも監督や脚本家たちの構成力にある。(余談3)
ハインライン氏の壮大な世界を忠実に描写する体を装いながら、万人ウケする壮大な娯楽戦争映画に仕立て、なおかつ軍隊賛美の体を取りながら残酷描写のオンパレード、青少年にウケる「トップガン」や「愛と青春の旅だち」の青春要素を手短にしっかり描き、生真面目さと体力だけが取得の二枚目馬鹿をヒーローに持ち上げながら出世する級友たちのコミカルな小狡さ、何も考えずに楽しめるドンパチ映画でありながら様々な要素をさり気なく盛り込む監督の老獪さには感心する。
ハインライン氏が理想とした軍国社会は作中の高校授業風景・ニュース映像・兵学校の訓練風景・主人公と恋敵との喧嘩などで説明臭くならないように描写されている。
しかし原作と同じく軍隊賛美の内容と思いきや、原作では重要な要素であるパワードスーツを敢えて登場させず、歩兵たちは20世紀の歩兵と変わりない装備で戦い、次々と頭をかち割られ脳髄を飛び散らさせて無残に殺される。(余談4)同時に相手は「蟲」なので、普通の「戦争映画」と違い大半の観客は気持ち悪さを感じることはあっても良心の呵責はあまり感じない。連れ合いも心優しい環境保護派だが、蚊や蝿やゴキブリは容赦なく殺す。制作者も観客も遠慮なく「戦闘シーン」を楽しむことができるわけだ。
スバ抜けた運動神経と人当たりの良さで現場の指揮官へと立身出世する主人公にはイケメンで純朴そうな俳優が扮し、冒頭から狡猾さを発揮し勝ち馬を渡り歩いて艦長になってしまう元恋人役にはキュートな小悪魔的女優が扮し、狡さを出さず相手に反感をかわれることなく高所から主人公たちを操る高級将校には如何にも賢そうな風貌の俳優が扮する。キャスティングは非常にわかりやすく適切だ。
作品は一応ハッピーエンドで終わるが、3人は同じ高校の級友なのに既に格差があり歩む道と住む世界は各々異なる。各々は相応しい成功を収めていくがその裏には多くの犠牲があり、観ようによっては人生の厳しさを具体的かつさり気なく暗示している。
アメリカ的低俗戦争映画(余談5)のようでいて、原作以上に様々な食材や隠し味をブレンドした傑作だ。こういう作品は、クソ真面目な文学作品や社会批判作品よりも制作が難しいのである。
(余談1)小説の発表は1959年、SF小説家にとっての「ノーベル文学賞」であるヒューゴ賞を獲得。
早川書房から邦訳が刊行されたのは70年代後半。私が読んだのは80年代初頭だった。挿絵はスタジオぬえ関係者。作中に登場するパワードスーツ(歩兵の防御攻撃力を増すための強化服)がガンダムのモビルスーツに発展した。サイキック将校はガンダムのニュータイプに転用。
以上の事からも、日本のアニメ・漫画・ホビー関係への影響は計り知れない。当時のガンダム制作者やファンの多くが目を通している小説である。「
宇宙の戦士」の雰囲気を良く伝えている漫画には小林源文氏の「ゲイツ」がある。
(余談2)原作の原題と映画タイトルは同じ、「
宇宙の戦士」という邦訳タイトルに慣れてきた人間にとっては映画のカタカナ邦題は印象が薄く、映画ではパワードスーツが出てこないので
ハインライン氏の「
宇宙の戦士」とは直ちに結びつかなかった。そのため予告編では低俗娯楽映画に一瞬みえてしまった。副題として「
宇宙の戦士」を入れるべきだ。
(余談3)この作品の特撮担当者が後に「続編」の監督を担当したが、制約のある環境下とはいえヴァーホーヴェン監督に劣ることが露呈した。
(余談4)作中でも昆虫軍の一匹を数人がかりの銃撃でやっと仕留められる状態、それが雲霞のように押し寄せるのでパワードスーツ無しでは勝ち目無いのだが。
(余談5)表向きの作風が災いしてか世間の評判は芳しくなく、例によって監督たちの改編は原作ファンからもブーイングだが、素晴らしい完成度を誇る映画だ。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
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パワードスーツは何処へ行ったんだ? 原作はSF小説家
ロバート・A・ハインライン氏の「
宇宙の戦士」である。アニメ「機動戦士ガンダム」の再放送ブレイクが始まった当時、同じ高校に通っていたSFマニアの友人からガンダム着想の原点(余談1)だと紹介された。読後の感想は軍国主義社会の設定が行き届いていて、何より軍隊の描写が極めてリアルだった。
この作品が映画化された年は、あの「タイタニック」が大評判だった。20世紀初頭の豪華客船をCG技術によって細部まで再現したことでも評価されていたが、日本のCMでもブルース・リー氏が生前出演した映画から画像を抜き取って全く異なる場面に貼り付けるCG合成が評判だった。CGを使えば何でも描写できる、そんな映像技術を背景に「スターシップ・・」は再現不可能と思われた原作世界の具現化を達成したのだ。
だが、この映画の素晴らしさは高度な映像技術よりも監督や脚本家たちの構成力にある。(余談3)
ハインライン氏の壮大な世界を忠実に描写する体を装いながら、万人ウケする壮大な娯楽戦争映画に仕立て、なおかつ軍隊賛美の体を取りながら残酷描写のオンパレード、青少年にウケる「トップガン」や「愛と青春の旅だち」の青春要素を手短にしっかり描き、生真面目さと体力だけが取得の二枚目馬鹿をヒーローに持ち上げながら出世する級友たちのコミカルな小狡さ、何も考えずに楽しめるドンパチ映画でありながら様々な要素をさり気なく盛り込む監督の老獪さには感心する。
ハインライン氏が理想とした軍国社会は作中の高校授業風景・ニュース映像・兵学校の訓練風景・主人公と恋敵との喧嘩などで説明臭くならないように描写されている。
しかし原作と同じく軍隊賛美の内容と思いきや、原作では重要な要素であるパワードスーツを敢えて登場させず、歩兵たちは20世紀の歩兵と変わりない装備で戦い、次々と頭をかち割られ脳髄を飛び散らさせて無残に殺される。(余談4)同時に相手は「蟲」なので、普通の「戦争映画」と違い大半の観客は気持ち悪さを感じることはあっても良心の呵責はあまり感じない。連れ合いも心優しい環境保護派だが、蚊や蝿やゴキブリは容赦なく殺す。制作者も観客も遠慮なく「戦闘シーン」を楽しむことができるわけだ。
スバ抜けた運動神経と人当たりの良さで現場の指揮官へと立身出世する主人公にはイケメンで純朴そうな俳優が扮し、冒頭から狡猾さを発揮し勝ち馬を渡り歩いて艦長になってしまう元恋人役にはキュートな小悪魔的女優が扮し、狡さを出さず相手に反感をかわれることなく高所から主人公たちを操る高級将校には如何にも賢そうな風貌の俳優が扮する。キャスティングは非常にわかりやすく適切だ。
作品は一応ハッピーエンドで終わるが、3人は同じ高校の級友なのに既に格差があり歩む道と住む世界は各々異なる。各々は相応しい成功を収めていくがその裏には多くの犠牲があり、観ようによっては人生の厳しさを具体的かつさり気なく暗示している。
アメリカ的低俗戦争映画(余談5)のようでいて、原作以上に様々な食材や隠し味をブレンドした傑作だ。こういう作品は、クソ真面目な文学作品や社会批判作品よりも制作が難しいのである。
(余談1)小説の発表は1959年、SF小説家にとっての「ノーベル文学賞」であるヒューゴ賞を獲得。
早川書房から邦訳が刊行されたのは70年代後半。私が読んだのは80年代初頭だった。挿絵はスタジオぬえ関係者。作中に登場するパワードスーツ(歩兵の防御攻撃力を増すための強化服)がガンダムのモビルスーツに発展した。サイキック将校はガンダムのニュータイプに転用。
以上の事からも、日本のアニメ・漫画・ホビー関係への影響は計り知れない。当時のガンダム制作者やファンの多くが目を通している小説である。「
宇宙の戦士」の雰囲気を良く伝えている漫画には小林源文氏の「ゲイツ」がある。
(余談2)原作の原題と映画タイトルは同じ、「
宇宙の戦士」という邦訳タイトルに慣れてきた人間にとっては映画のカタカナ邦題は印象が薄く、映画ではパワードスーツが出てこないので
ハインライン氏の「
宇宙の戦士」とは直ちに結びつかなかった。そのため予告編では低俗娯楽映画に一瞬みえてしまった。副題として「
宇宙の戦士」を入れるべきだ。
(余談3)この作品の特撮担当者が後に「続編」の監督を担当したが、制約のある環境下とはいえヴァーホーヴェン監督に劣ることが露呈した。
(余談4)作中でも昆虫軍の一匹を数人がかりの銃撃でやっと仕留められる状態、それが雲霞のように押し寄せるのでパワードスーツ無しでは勝ち目無いのだが。
(余談5)表向きの作風が災いしてか世間の評判は芳しくなく、例によって監督たちの改編は原作ファンからもブーイングだが、素晴らしい完成度を誇る映画だ。
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