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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ブラックブック」 社会を冷笑したい時に〔21〕 

ブラックブック」 
ど根性女優カリス・ファン・ハウテン

 

 
【原題】ZWARTBOEK
【公開年】2006年  【制作国】阿蘭陀 独逸 英吉利 白耳義  【時間】144分  
【監督】ポール・ヴァーホーヴェン
【原作】
【音楽】アン・ダッドリー
【脚本】ジェラルド・ソエトマン ポール・ヴァーホーヴェン
【言語】オランダ語 ドイツ語 イングランド語 ヘブライ語
【出演】カリス・ファン・ハウテン(ラヘル・シュタイン/エリス・デ・フリース)  トム・ホフマン(ハンス・アッカーマン)  セバスチャン・コッホ(ルドウィグ・ムンツェ)  デレク・デ・リント(ヘルベン・カイパース)  ハリナ・ライン(ロニー)  ワルデマー・コブス(ギュンター・フランケン)  ミヒル・ホイスマン(ロブ)  ドルフ・デ・ヴリーズ(公証人スマール)  ピーター・ブロック[俳優](ファン・ハイン)  ディアーナ・ドーベルマン(スマール夫人)  クリスチャン・ベルケル(カウトナー将軍)
    
【成分】悲しい ゴージャス パニック 不気味 恐怖 勇敢 知的 絶望的 切ない セクシー かっこいい スリラー ミステリー 第二次大戦 ユダヤ人 1944年 オランダ
         
【特徴】ポール・ヴァーホーヴェン監督にしてはラストに踏み込みが足らない。重厚なテーマでありながらポルノ的に人間のグロテクスな生々しさを描く手腕は素晴らしい。既に手垢がついたナチスドイツ物映画だが、監督の個性が新風を吹き込んでいる。
 ヒロインのカリス・ファン・ハウテン氏の汚れ役が作品を佳作に押し上げる。後に「ワルキューレ」で伯爵夫人を演じる事も思いながら観ると、興味深い。
  
【効能】人間不信になっている方は、まだ自分の環境が暖かい所であるのに気付くだろう。
 
【副作用】ヒロインがおかれた環境はまさにキツイ・キタナイ・キケンの3Kの極み。生々しく迫るので気分が悪くなる。人間不信になる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
ラストに踏み込みが足らない。
 
 戦後半世紀を経て、第二次大戦モノは数多く制作されてきた。初期は単純にナチスを血に飢えたモンスター集団に、連合軍やレジスタンスは愛と正義の勇者に描いてきた。その基本パターンは現在もなお同じである。
 基本を守りながら、ナチス・ドイツにも良い人がいるとか、連合軍にも性悪で無能な人間がいるとか、血と汗と垢と泥と飛び散る内臓と腐臭と硝煙を漂わせた戦闘場面に凝ったり、レジスタンスに加わらず逃げるだけで精一杯のユダヤ系ポーランド人を主人公にしたり、黙々と同胞の遺体処理をする収容所のユダヤ人を描いたり、少しずつリアリティーある戦争映画へ昇華されていった。一つだけ、現在もタブーなのは被害者であるユダヤ人の暗部である。

 場面一つ一つは従来の戦争映画で「御馴染み」のものばかりだ。他のスパイアクション映画が既に採用している手垢のついた場面である。ドイツ軍に協力した疑いから虐待されるシーンを描写することで「正義側」の暗部を表現したことが評判のようだが、これとて「愛と哀しみのボレロ」でパリ解放後に坊主頭にされて市中引き回しの刑にされている女性が登場する。(余談1)けっして「映画史上初」の鮮烈場面ではない。
 あと評判なのはヒロインが次第に金髪美人へと垢抜けし惜しげもなく脱ぎの仕事をしたり糞尿にまみれる気合いの汚れ役に挑戦する事だが、これも厳密には新機軸ではない。日本のアダルトビデオでは既にやっている。もちろんオランダの美しいメジャー女優が一般作でアダルトビデオ業界も感心するような場面に挑戦というのは強烈な話題になるが。(余談2)

 ようするに何が言いたいのかといえば、手法自体は観客をハラハラドキドキさせるエンターテイメントとしての有り触れた連続なのである。しかも、冒頭部分でヒロインが大戦中を生き抜くことを表してしまっているので、安心して見てしまう。
 私が注目したのは利害連鎖の中で生き残っていくために狡猾さを競い合う人間の阿鼻地獄のような相関関係だ。ヴァーホーヴェン監督が以前に手掛けた「スターシップ・トルーパーズ」でも超娯楽単純戦争賛美映画を装いながら狡猾な人間模様と残酷で汚い戦闘場面を繰り出した。同じように「ブラックブック」も少し凝ったエンターテイメント・スパイサスペンスを装いながら、生臭い人物描写と腐臭漂う戦時下描写を入れている。

 ただ、惜しいのはラストである。(余談3)思い切って、イスラエル兵がかつてナチスが自分たちにしたようなことをパレスチナ人に対してやっている場面を強烈に描写してくれたら5星だった。もっとも、そんなことをしたら監督は映画人生命だけでなく命も狙われるかもしれないが。
 あと、言語がハリウッドの英語一辺倒ではなく、オランダ語・ドイツ語・ヘブライ語などが登場するのは、さすがヨーロッパ映画。ヒロインはドイツ語台詞を話していたが、オランダ語とドイツ語は親戚なのでマスターしやすいかもしれない。

(余談1)報道写真家ロバート・キャパ氏のパリ解放時の写真に嘲笑の群衆に囲まれて黙々と赤ん坊を抱きながら俯き加減に歩く若い女性の姿がある。髪の毛を剃られ坊主頭にされている。ドイツ人の子供をもうけたことで非難されているのだ。

(余談2)けっして糞尿にまみれて性的興奮を楽しむ遊びではない。作中は、あくまで屈辱的な虐待場面である。勘違いしないように。

(余談3)私は未だに手塚治虫氏の漫画「アドルフに告ぐ」の皮肉な因果応報ラストが印象に残っている。親友同志だったユダヤ人のアドルフ=カミルと日独混血のアドルフ=カウフマンが戦争を契機に別々の人生を歩む。カウフマンはヒトラーユーゲント(親衛隊の少年団のようなもの)としてカミルの父親を殺し、ナチ将校としてカミルの妻を陵辱する。戦後はカミルがイスラエル軍の将校としてパレスチナ人虐殺を指揮し、パレスチナ人部落に身を寄せるカウフマンの妻を殺す。

 スパイ物といえば、日本でも興味深い素材がある。川島芳子の存在だ。残念ながら川島芳子を主人公とした映画は戦後制作されていない。中国・香港の合作で「川島芳子」があるくらいだ。沢尻エリカ氏、やってくれんかな。
 
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こういう映画には、欠かせない人ですね。
私生活でも、二人はパートナーになったとか。
それもありかなの二人でした。
あたしは、バーホーヴェンという人をあまり評価してなかったモンで、これでずいぶんと覆りました。
欲を言えばきりがないですが、結構描ききったと感じました。
[ 2009/11/24 16:07 ] [ 編集 ]
 ハリウッドでナチスドイツ物をやる際には、トーマス・クレッチマンのように彼もオファーがくるようになるでしょう。もうなっているかな。
 
 「オペレーション・ワルキューレ」はご覧になりましたか。私はトム・クルーズよりもこちらのほうが好きです。

> こういう映画には、欠かせない人ですね。
> 私生活でも、二人はパートナーになったとか。
> それもありかなの二人でした。
> あたしは、バーホーヴェンという人をあまり評価してなかったモンで、これでずいぶんと覆りました。
> 欲を言えばきりがないですが、結構描ききったと感じました。
 
 バーホーヴェン監督、私はけっこう評価していました。悪趣味なエンタメ映画と見せかけながら厳しい社会批判、とりわけ西洋文明を批難する色彩を織り込んでいるのが気に入っています。
[ 2009/11/26 12:39 ] [ 編集 ]
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