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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ニュー・シネマ・パラダイス」 人生をふり返ろう〔5〕

ニュー・シネマ・パラダイス」 
恐るべき33歳青年監督。

 

右端はBlu-rayです。
 
【原題】NUOVO CINEMA PARADISO
【公開年】1989年  【制作国】伊太利 仏蘭西  【時間】175分  
【監督】ジュゼッペ・トルナトーレ
【原作】
【音楽】エンニオ・モリコーネ アンドレア・モリコーネ
【脚本】ジュゼッペ・トルナトーレ
【言語】イタリア語
【出演】フィリップ・ノワレ(アルフレード)  ジャック・ペラン(サルヴァトーレ)  サルヴァトーレ・カシオ(トト(サルヴァトーレ・少年時代))  マルコ・レオナルディ(サルヴァトーレ(青年時代))  アニェーゼ・ナーノ(エレナ)  プペラ・マッジオ(サルヴァトーレの母)  レオポルド・トリエステ(司祭)  アントネラ・アッティーリ(若き日のサルヴァトーレの母)  エンツォ・カナヴァレ(パラダイス座支配人)  イサ・ダニエリ(アンナおばさん)  レオ・グロッタ(劇場の案内人)  タノ・チマローサ(鍛冶屋)  ニコラ・ディ・ピント(広場をうろつく男)  ブリジット・フォッセー(-)
        
【成分】泣ける 笑える 楽しい 悲しい 切ない かわいい コミカル シチリア 田舎
  
【特徴】単なるノスタルジー映画ではない。私自身が歩んできたいい加減な人生を批判されているような気分にさせる作品だ。この作品の脚本と監督を担当したのは当時33歳の青年である。名作に年齢は関係ない。
 因みに主人公に強い影響を与える老映写技師には、あのルイ・マル監督のドタバタ喜劇「地下鉄のザジ」で少女ザジに振り回される心優しいオジサンを演じたフィリップ・ノワレ氏が扮した。
  
【効能】シチリアの田舎町風景に和み、老映写技師と少年時代の主人公との触れ合いに癒される。
 
【副作用】長い映画。90分から120分までのエンタメ娯楽作に慣れている人には些か単調で疲れる作品かもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
田舎の映画館
 
 言うまでもなく、イタリア映画界を代表する名監督で「巨匠」の域であるジュゼッペ・トルナトーレ氏が、まだ33歳の青年期に手掛けた作品(余談1)である。映画通の友人知人から「映画ファンのための感動作」と紹介され、特に主人公の少年時代を演じた子役が素晴らしいとの評判だった。たしかにこれらの評価は誤っていないと思う。
 ただ、私は映画をベースにしてはいるものの、主題は他にあるような気がしてならない。もちろん、映画ファンや映画を愛する人々が観た方が、作品世界や主人公たちにより感情移入できる。

 この映画を観ていると、私は感動よりも身につまされる思いがする。人によっては「単なるノスタルジー映画だ」と一蹴する者もいるが、私にはほろ苦い郷愁よりも痛々しい郷愁を感じるのだ。
 私にも主人公トト少年のような体験はある。同じように恋愛で悩んだこともある。人前で母親から罵声を浴びながらビンタされたこともあるし、失礼ながら自分より格下と思っていた級友が出世し、私が片思いしていた女性と結婚していたり。少年の頃は賑やかで懐かしい場所だったところが今は廃墟同然になって寂しい気持ちになったことがある。違うのは、主人公は映画監督として大成し私はただの下流労働者だ。この相違点とて、ダイレクトに私に向かって苦言を呈しているように思える。

 主人公の友人でもあり人生の大先輩である老映写技師は「自分のすることを愛せ」「人生はもっと困難だ」という趣旨の台詞で主人公を諭し、シチリアの田舎を出てローマへ行くよう背中を押す。(余談2)
 この言葉の意味は観る人で解釈が異なると思うが、私には自分が好きで続けてきた事に愛情をもたず人生の過程で妥協してアッサリと捨ててしまった事を非難されているように感じた。
 私は幼い頃から暇があったら広告チラシの裏白紙部分に絵を描いていた。ところが大人になってから一切止めてしまった。少年の頃は地図をよく見ていた。日本や世界の地理を概ね暗記するほどだった。地図に執着したのも将来はチャリンコで旅をするためだった。ところが20歳代半ばで多忙を口実に止めてしまった。

 中高生時代や大学時代の友人たちの中で、子供の頃からの夢を叶えた者がいる。そんな人々に共通することは、喜々として続けていたことだった。もちろん辛いことは多々あったし腱鞘炎で絵が描けなくなった事もあるが、それ以上に漫画が好きだった。それに引き換え自分は何なんだ?
 よく著名人たちの辛酸を舐める努力風景が紹介されるが、本人は「苦しい努力」と思ってはいない。好きでやっているのだ。私もかつては絵を描く行為そのものが好きだったのが、ある過程で漫画家になることが目的になり、有能な友人や創作仲間のレベルの高さを目の当たりにして成れないと悟ったときに止めてしまった。
 しかし本当に好きなら、友人の事など関係ないはずだ。漫画家を目指す云々もどうでもいい。工場労働者をやっていても喜々として描き続けているはずだ。この映画は、私のこれまでの生い立ちに苦言を呈しているように見える。
 映画がベースだが、プロスポーツ選手でも当てはまるし、他の分野の職業でも感情移入できるだろう。この映画は人生訓のように思える。老成した青年監督だ。

 作品としては大幅にカットした劇場公開版のほうがスッキリとまとまっているが、作品の深部を味わいたい人はノーカット版もお薦めだ。

(余談1)演出で効果的なのは、冒頭の殺伐としたローマの大都会と住む人全員顔見知りというシチリアの田舎町の対比。

 町の集会場のような機能を持っている教会に映画館があること。ヨーロッパの田舎をよく表しているし、日本でも過疎地では小学校が集会場でもあり映画館でもあった。

 主人公が青年期に恋をするのだが、相手は青い瞳をしていることを口実に老技師が苦言する場面がある。南部イタリア人は黒髪で茶褐色の瞳が多い。対して北部イタリアはドイツ文化圏でもあり、登山家ラインホルト・メスナー氏のようにドイツ風の名前でイタリア人が象徴的だ。
 恋人のルーツは北部イタリアでシチリア島にとっては「支配階級」を象徴する。監督自身も若い頃にシチリアの少数民族をテーマに映画を撮っている。
 
 村を扱った邦画には三原光尋監督「村の写真集」がある。同じように「ノスタルジー」を扱った作品だが、ダム湖に沈めさせられる村を取り巻く社会問題が殆ど描写されず、取って付けたかのような親子の対立など、同じ30代の映画監督の作品かと思うくらい差がある。監督の技量よりも日本映画の窮屈さを露呈しているといえる。

(余談2)映画ばかり観てないで世間を知れ、という解釈が一般的だろう。しかし私が老技師の立場なら、わざわざ貴重な若者を都会へ流出させる愚はおかさない。ローマへ突き放すよりも、シチリアで実入りがよくて堅実な他の職に就くよう説くだろう。映画人として大成してほしいから、ローマへ行かしたのだ。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
【受賞】アカデミー賞(外国語映画賞)(1989年) カンヌ国際映画祭(審査員特別グランプリ)(1989年) ゴールデン・グローブ(外国語映画賞)(1989年)
   
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