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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ローマン・エンパイア」 美術鑑賞映画〔5〕

ローマン・エンパイア」 珍しいローマ史劇。
 

 
【原題】IMPERIUM: AUGUSTUS
【公開年】2003年  【制作国】  【時間】117分  
【監督】ロジャー・ヤング
【原作】
【音楽】ピノ・ドナッジオ
【脚本】エリック・ラーナー
【出演】ピーター・オトゥール(晩年のアウグストゥス)  シャーロット・ランプリング(リヴィア)  ベンジャミン・サドラー(オクタヴィアヌス 青年時代のアウグストゥス)  マッシモ・ギーニ(アントニウス)  アンナ・ヴァレ(-)
  
【成分】スペクタクル ゴージャス 勇敢 知的 切ない かっこいい ローマ史劇 BC1世紀後半~AD1世紀初頭 ローマ 英語
                    
【特徴】ローマ史劇ではカエサルの陰に隠れて殆ど脇役だったアウグストゥスを本格的に主役に据えた珍しい作品である。大筋で史実に忠実。
 老ピーター・オトゥール氏が晩年のアウグストゥスに扮する。当たり役だ。そういえば、彼は若い頃にポルノ映画の金字塔「カリギュラ」で第二代皇帝ティベリウスを演じていた。主人公カリギュラを上回る変態皇帝だったような。
    
【効能】ローマ史に興味のある人間にとっては、興味あるエピソードばかりなので面白い。
 
【副作用】チャンバラ時代劇が好きで、歴史にはあまり興味の無い人間には退屈。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
人生という喜劇を演じきった
ローマ市民第一人者

  
 ローマ史劇というと、よく題材に使われるのはローマの独裁者にして事実上の帝政を布いたカエサル(「クレオパトラ」「ジュリアス=シーザー」)、イエス・キリストが生きていた時代のティベリウス(「ベン・ハー」「カリギュラ」)、破廉恥で悪名高いカリギュラ(「カリギュラ」)、キリスト教徒を公の場で虐殺したとされるネロ(「クォ・バデス」)、ローマ全盛期の名君として現在も名高いマルクス=アウレリウスとその息子でローマ衰亡のスタートをきったバカ殿コモドゥス(「ローマ帝国の滅亡」「グラディエーター」)に集中される。

 ところが、意外に少ないというより殆ど取り上げられず、せいぜいクレオパトラ物で脇役に出てくる程度の扱いをされるのがローマ初代皇帝のアウグストゥスである。(余談1)
 物語としては軽い扱われ方をされるアウグストゥスだが、実はローマを共和制から強力な元首を冠した帝政へと移行させ、政権と治安と経済の安定、ライン川・ドナウ川・ユーフラテス川を国境線として確立、長らく続いた内戦を終結させて「ローマの平和」を確立させた有能な政治家である。
 なにより、ローマの政治を牛耳ってきた海千山千の元老院議員(余談2)たちと渡り合うのは大変だったはずだ。シーザーが暗殺されたときはまだ17か8、政敵を倒して事実上の独裁者になったときもまだ33歳。当時のローマ社会でも「若造」である。
 ところが、焦らず詰めを誤らず、老獪な議員たちから「独裁者」になっていると疑われないよう慎重に振舞いながら権力や権限を自分自身に集中させ、共和国の建前を守りながら「ローマ市民第一人者」という名称の皇帝(余談3)を創り上げていく。このアウグストゥス政権はなんと40年も続き、さらに後継者たちが少しずつ修正を加えながらも基本的には同じ政治体制を300年近く続けるのである。(余談4)

 これほどの大人物をなぜ主人公にできなかったのか? 理由は簡単でアウグストゥス本人がヒーローに見えないよう地味に振舞っていたからだ。稀代の英雄シーザーの二の舞にはなりたくなかったのである。
 それからアウグストゥス自身が武勇を誇る軍人というより実務派の政治家だった。NHK大河ドラマでも武将たちが大軍を率いて闘う源平合戦・戦国時代・赤穂浪士は視聴率が高いが、政治的な駆け引きの描写が多い幕末明治維新では下がるという話もある。アウグストゥスは映画の主人公に不向きなキャラクターなのだ。

 そんなわけで、せっかくアウグストゥスを主人公にした映画ではあったが、彼のような複雑なメンタリティーの持ち主を主人公にするのは難しく、伝記映画にありがちなダイジェスト版的作品になってしまった。
 とはいえ、TV映画の割にはローマ時代の建物のセットも良かったし、ローマ軍の装備も誤りはなかった。(余談5)老年のアウグストゥスを演じたピーター・オトゥール氏からは権力者の寂しい晩年が滲み出ていて、佳作の域ではある。
 

(余談1)現代の暦はローマ時代に確立されたが、その時の設定者の名前が月々の名前にされている。アウグストゥスの英語読みはオーガスト、つまり8月である。ちなみに7月の「July」はジュリアス=シーザーからとっている。

(余談2)現代の国会に似た機能を果たしていた。現代世界で二院制を布いている諸国が「上院」を「セナートス」と称しているが、これはローマ元老院(ラテン語でセナートス)から由来している。

(余談3)日本の征夷大将軍も似たようなところがある。本来は天皇に代わって外征する大軍の司令長官という意味でしかないのだが、鎌倉幕府・室町幕府・徳川幕府と経て、天皇を中心に設定した奈良時代の官僚組織の名前はそのままに、内大臣などの元首級の官職などを兼任することで事実上の国家主権者になっている。

(余談4)3世紀初頭から政治的混乱が長く続いたため、3世紀末の皇帝が民主的なスタイルを一掃し君主か国王のような制度に改めた。

(余談5)よくある間違いは、紀元2世紀頃の装備を紀元前1世紀に着けている事である。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作
 
 
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