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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「日本の青空」 家族と一緒に考えよう〔10〕   

日本の青空
護憲派市民による改憲派への反論映画。

 
日本の青空
(未ソフト化) 
 
【公開年】2007年  【制作国】日本国  【時間】123分  【監督】大澤豊
【原作】池田太郎
【音楽】久嶋美さち(主題歌)
【脚本】池田太郎
【言語】日本語 一部イングランド語
【出演】高橋和也(鈴木安蔵)  藤谷美紀(鈴木俊子)  田丸麻紀(中山沙也可)  水野久美(河田子)  左時枝(斉藤潤子)  岩本多代(中山選子)  加藤剛(高野岩三郎)  山下洵一郎(岩淵辰雄)  真実一路(室伏高信)  鹿島信哉(森戸辰男)  若尾哲平(大内兵衛)  坂部文昭(杉森孝次郎)  中林正智(青山虎之助)  児玉謙次(松本烝治)  宍戸開(白州次郎)  伊藤博幸(佐藤達夫 )  谷部央年(今村修介)  十貫寺梅軒(吉田茂)  デルチャ・ミハエラ・ガブリエラベアテ・シロタ・ゴードン
    
【成分】知的 切ない ホームドラマ 憲法 1940年代
       
【特徴】制作の趣旨は改憲派に対するアンチテーゼである。戦後、日本国憲法に近い草案を作成したグループの中心人物鈴木安蔵に焦点をあてているのが特徴。低予算映画で殆ど劇場公開はされず、主に護憲派市民有志による自主上映にとどまっている。
 高橋和也氏、藤谷美紀氏、加藤剛氏といった、この手の「ヒューマンドラマ」に欠かせない俳優が出演。
  
【効能】憲法学習の教材の1つに利用できる。
 
【副作用】エンタメではなく、盛り上がりにも欠け、説教臭いので退屈になる可能性がある。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
護憲派の言いたい事はわかるが・・。
なぜ植木枝盛を主人公にしなかったのだ?

 
 この作品は護憲市民が中心となって制作した日本国憲法支持の政治的映画である。

 自民党を中心とする保守系市民は昔から日本国憲法はアメリカからの押付け憲法だと主張し「改憲」を唱えてきた。逆に旧社会党や共産党を中心とする左派護憲市民は現憲法を「平和憲法」と位置づけ改憲に反対した。この論争は半世紀以上に及び現在も続いている。
 
 この映画は、いわば護憲派市民が保守派市民に向けた反論であり、広く世間に現憲法が「押し付け憲法」ではなく軍国主義で弾圧され続けた日本人の思想や意志が盛り込まれている点を宣伝するのが目的と私は解釈しているし、それ以外に「日本の青空」制作の意義が見当たらない。
 制作時期はちょうど安倍内閣が教育基本法や国民投票法を成立させ急ピッチに憲法改正の段取りを進めていた時期であり、護憲派は強い危機感を抱いていた。

 だが、鈴木安蔵を主人公にしたのは戦術ミスだ。鈴木安蔵は現憲法に近い内容の草案を書いた人物であり、GHQも彼の草案を参考にしたといわれている。だから制作陣は鈴木安蔵を取り上げたのだろうが、それは安易な選択だったと思っている。
 例えば、チェ・ゲバラは「赤いキリスト」と称されるほど、右派・左派双方から賛否はともかく偉大な人物と評価され、世界的知名度は抜群であり存在だけでカリスマだ。しかし鈴木安蔵の名は護憲運動をした事のある人しか知らないのが現状だ。そのうえ、地味に学者として天寿を全うしている。映画の主人公として不向きだ。

 もちろん、地味な主人公がいてもいいんだが、映画制作の戦術目的を改憲派への反論と護憲思想の宣伝工作とするなら、もっと大衆に感動を与えるキャラクターでなければならない。映画の主人公として最も劇的なヒーローとして映えるのは、ゲバラのように若くして頭角を現し、志半ばで短い人生を終えた人物である。古くはアレキサンダー大王然り、日本では源義経・沖田総司・坂本龍馬など。 
 地味な映画に地味な主人公ではインパクトは無く、保守への反論にも世間への宣伝においても効果薄は歴然。何のための映画なのか? 鈴木安蔵を取り上げるくらいだから、制作陣は知っているはずである。鈴木は、明治の自由民権運動で行動する理論家として鳴らした植木枝盛の研究家であったことを。枝盛がいかに日本の民主主義のために奔走したのか。

 植木枝盛は板垣退助のブレーンとして頭角を現し、20代前半で民権運動の重要な宣言書や建白書の起草に加わり、私擬憲法草案では彼が中心となって作成した。(余談1)20代後半では高知県会議員となり女学校の設立や公娼廃止を認めさせ、30代前半では初の衆院選挙に出馬して官憲派を大差で破り、国会で女性差別の撤廃・女性の政党加盟・政談演説の発起参加を認める法案を提出するなど具体的かつ画期的な実績をあげつづけていた。(余談2)
 民権派の活躍に危機感をおぼえた明治政府は天皇の名において衆院を解散させ、民権派の本格的な弾圧を展開した。特に枝盛の郷里高知は内乱状態となった。そんな中、枝盛は35歳の若さで謎の急死をする。死の1年前には暴漢に襲われ重傷を負っていることから毒殺説も囁かれている。

 19世紀末の青年枝盛は現代の社民党とほぼ同じ思想の持ち主だった。彼を主人公とすることで、日本は昔から軍国主義・男性のみの参政権だった訳ではなく、明治前期は民主主義と帝国主義のせめぎ合いがあったことを知らしめ、民主主義を一貫して弾圧粛清してきた日本の国家権力を不本意ながら結果的にアメリカが倒したと位置づける事ができる。日本国憲法は自由民権運動の悲願だったと。
 また枝盛は痩身面長で髪が長かった。ジャニーズを騙してキムタクあたりが演じたら絵になるだろう。(ほとんど不可能だが)

 政治的映画は、やはり周囲の要求や雑音があり過ぎて完成度が低くなるのかな。保守の「プライド 運命の瞬間」もそうだったし。
 それを思ったら、「チェ」のソダーバーグ監督はやはり凄い。ウォーレン・ベイティ氏主演の「レッズ」も凄い。

(余談1)大日本帝国憲法発布以前に、民間でつくられた憲法草案。各地の有志が作成した草案は60件ほど現存している。枝盛は現代の日本国憲法に近い内容の憲法草案をつくった。国家権力に対する国民の抵抗権や革命権を認める内容だから現憲法より過激だ。
 民間による憲法草案作成は1887年に明治政府が発令した保安条例で禁止された。もちろん、この条例は民権運動家弾圧を目的とした悪法で知られる。

 因みにこの条例が発布される3年前の政府条例では女性の参政権も否定している。あまり知られていないことだが、それ以前は女性の参政権を明確に禁じた法は無かった。女性でも世帯主なら参政権を行使できたし、民権派が強い自治体では男女同権を規定していた。
 女性は自由民権運動の担い手であり、明治政府は男尊女卑思想以外に民権派勢力を削ぐ目的でも女性から参政権を奪った。

(余談2)既に発布済みの大日本帝国憲法では投票と立候補は男性に限定されていたため、女性参政権を要求する事は憲法改正にまで踏み込まなければならなかった。第1ステップとして政治運動参加を認める法案を提出。当時は民権派が衆院過半数をとっていたので可決したが、オール官憲派の貴族院で否決される。
 当時は衆院の優越システムではなかった。現行の衆院優越制度は、このように民意が衆院で通っても貴院で全て潰された帝国議会の欠点を反省して生まれた。

 枝盛の偉業はフェミニストたちも評価して良い筈だが、あまり聞かない。私はそこに男性差別のにおいを感じる。差別されてきた人が差別をしないのは理想で、実はマジョリティ以上の差別者になってしまう様を私は見たことがある。
 被害者意識の強い人は己の加害者の部分に無頓着だ。判りやすい例を一つあげると、ナチスドイツの被害者だったユダヤ人は、パレスチナでは一方的に土地を奪ってパレスチナ人を迫害している。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作


晴雨堂関連書籍案内
植木枝盛選集 (岩波文庫 青 107-1) 植木枝盛
植木枝盛研究 家永三郎
植木枝盛と女たち (1976年) 外崎光広


 

 
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