「惑星ソラリス」 ソ連SF映画の金字塔。 【原題】Солярис
【英題】SOLARIS
【公開年】1972年
【制作国】蘇連
【時間】165分
【監督】アンドレイ・タルコフスキー 【原作】スタニスワフ・レム
【音楽】エドゥアルド・アルテミエフ
【脚本】フリードリッヒ・ガレンシュテイン
アンドレイ・タルコフスキー【言語】ロシア語 一部ドイツ語
【出演】ナターリヤ・ボンダルチュク(ハリー) ドナタス・バニオニス(クリス・ケルヴィン) ユーリ・ヤルヴェット(スナウト) ニコライ・グリニコ(ニック・ケルヴィン) アナトリー・ソロニーツィン(サルトリウス) ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー(アンリ・バートン)
【成分】ファンタジー 知的 切ない SF 精神世界 不思議 未来
【特徴】スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」と並んでSF映画の金字塔と讃えられている。
しかし作風は真逆だ。正確な科学考証とリアルな特撮がウリの「2001年・・」に対し「
惑星ソラリス」は映像の思索書のようだ。
【効能】深夜、独りで考え事をするのにピッタリ。睡眠誘導剤としての効果もある。
【副作用】物語は単調に進み延々3時間近く続くので、退屈で苦痛に感じる観客もいるだろう。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
これはSFではない。 今ではキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」と並び称されるSF映画の金字塔である。制作時期はほぼ同じ、理解しづらい「哲学的な内容」が大評判で退屈な場面が延々続くところも似通っている。しかも「2001年」はアメリカ映画、「ソラリス」はソ連映画と、宇宙軍拡競争でも競い合っていた当時の二大超大国の映画だ。双方の監督も若干歳は違うがほぼ同世代で「巨匠」と評価されている映画人である。
決定的に異なるのは、「2001年」は正確な科学考証(余談1)と特撮で魅せてくれる映画なので、物語には退屈しても特撮ファンなら映像美だけでワクワクする作品だ。「ソラリス」には失礼ながら目を見張る特撮シーンは無い。文学性・哲学性で魅せる映画なので、ロシア文学のドストエフスキーが大好きな方なら面白いかもしれない。
あと、「2001年」はSF小説家
アーサー・C・クラーク氏と監督
スタンリー・キューブリック氏との親密な合作(余談2)だが、「ソラリス」の場合は原作者
スタニフワフ・レム氏と監督
アンドレイ・タルコフスキー氏との関係は極めて険悪だった。レム氏のSF小説「ソラリスの陽のもとに」を大幅に改編され(余談3)タルコフスキー監督の創作が多く盛り込まれたからだ。おまけにタルコフスキー監督はSFの面白さにはあまり共感しないタイプの人間であった。
この映画を鑑賞する人はSFと思ってはいけない。科学考証の必要が無い精神世界を描写した重厚な文藝作品として観るべきだ。正直いうと、最初に観たのが日本のTV局?が編集した画質の悪い90分版だが、それでも退屈で寝てしまった。むしろ後で観た原版165分の方が映像の美しさで居眠りすることなく楽しめた。
短縮版ではカットされていた70年代の東京の首都高速が未来都市の風景として登場したり、黒澤映画(余談4)を彷彿させる雨の場面があったり、ソラリスの周回軌道をまわる宇宙ステーション内部のセットも良く出来ていて、視覚的に興味深く綺麗な映像の連続だった。
短縮版では主人公の人物描写が大幅にカットされていたが、原版では当初ニヒリストな科学者で父親から顰蹙をかうほどの人物がソラリスと心理的交流を深めるにしたがって内面が暴露されていくなど、感情移入しやすい。
ただ、何度も述べるが、「2001年」は特撮で魅せるエンターテイメントだが、「ソラリス」は映像のある思索書といった感じなので私も含め多くの観客は退屈するだろう。監督本人が「ワザと退屈するように撮ったんや」と開き直りともとれる発言をしているので、仕事で疲れている人は眠気導入のために観ては如何だろう。
(余談1)演出上、やむを得ず科学考証を敢えて無視している箇所が幾つかあるが。
(余談2)キューブリック監督がSF映画企画をクラーク氏に持ちかけ、2人でアイディアを出し合ってまとめた構想を基に、キューブリック監督が映画で、クラーク氏は小説で表現した。
したがって、クラーク原作・キューブリック映画化とよく誤解されるが、2人による合作と解するほうが正しい。
(余談3)原作では知的生命体でもある
惑星ソラリスとの意思疎通を試みる人間との知的な格闘が描写されていて、だからSF小説なのだが、映画では一切省かれている。
(余談4)タルコフスキー監督は黒澤監督と親交があった。因みに短縮版は原版との比較の問題として原作小説の雰囲気に近いかもしれない。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔 【受賞】カンヌ国際映画祭(審査員特別グランプリ)(1972年) 星雲賞映画演劇部門賞受賞(1978)
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これはSFではない。 今ではキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」と並び称されるSF映画の金字塔である。制作時期はほぼ同じ、理解しづらい「哲学的な内容」が大評判で退屈な場面が延々続くところも似通っている。しかも「2001年」はアメリカ映画、「ソラリス」はソ連映画と、宇宙軍拡競争でも競い合っていた当時の二大超大国の映画だ。双方の監督も若干歳は違うがほぼ同世代で「巨匠」と評価されている映画人である。
決定的に異なるのは、「2001年」は正確な科学考証(余談1)と特撮で魅せてくれる映画なので、物語には退屈しても特撮ファンなら映像美だけでワクワクする作品だ。「ソラリス」には失礼ながら目を見張る特撮シーンは無い。文学性・哲学性で魅せる映画なので、ロシア文学のドストエフスキーが大好きな方なら面白いかもしれない。
あと、「2001年」はSF小説家
アーサー・C・クラーク氏と監督
スタンリー・キューブリック氏との親密な合作(余談2)だが、「ソラリス」の場合は原作者
スタニフワフ・レム氏と監督
アンドレイ・タルコフスキー氏との関係は極めて険悪だった。レム氏のSF小説「ソラリスの陽のもとに」を大幅に改編され(余談3)タルコフスキー監督の創作が多く盛り込まれたからだ。おまけにタルコフスキー監督はSFの面白さにはあまり共感しないタイプの人間であった。
この映画を鑑賞する人はSFと思ってはいけない。科学考証の必要が無い精神世界を描写した重厚な文藝作品として観るべきだ。正直いうと、最初に観たのが日本のTV局?が編集した画質の悪い90分版だが、それでも退屈で寝てしまった。むしろ後で観た原版165分の方が映像の美しさで居眠りすることなく楽しめた。
短縮版ではカットされていた70年代の東京の首都高速が未来都市の風景として登場したり、黒澤映画(余談4)を彷彿させる雨の場面があったり、ソラリスの周回軌道をまわる宇宙ステーション内部のセットも良く出来ていて、視覚的に興味深く綺麗な映像の連続だった。
短縮版では主人公の人物描写が大幅にカットされていたが、原版では当初ニヒリストな科学者で父親から顰蹙をかうほどの人物がソラリスと心理的交流を深めるにしたがって内面が暴露されていくなど、感情移入しやすい。
ただ、何度も述べるが、「2001年」は特撮で魅せるエンターテイメントだが、「ソラリス」は映像のある思索書といった感じなので私も含め多くの観客は退屈するだろう。監督本人が「ワザと退屈するように撮ったんや」と開き直りともとれる発言をしているので、仕事で疲れている人は眠気導入のために観ては如何だろう。
(余談1)演出上、やむを得ず科学考証を敢えて無視している箇所が幾つかあるが。
(余談2)キューブリック監督がSF映画企画をクラーク氏に持ちかけ、2人でアイディアを出し合ってまとめた構想を基に、キューブリック監督が映画で、クラーク氏は小説で表現した。
したがって、クラーク原作・キューブリック映画化とよく誤解されるが、2人による合作と解するほうが正しい。
(余談3)原作では知的生命体でもある
惑星ソラリスとの意思疎通を試みる人間との知的な格闘が描写されていて、だからSF小説なのだが、映画では一切省かれている。
(余談4)タルコフスキー監督は黒澤監督と親交があった。因みに短縮版は原版との比較の問題として原作小説の雰囲気に近いかもしれない。
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☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔 【受賞】カンヌ国際映画祭(審査員特別グランプリ)(1972年) 星雲賞映画演劇部門賞受賞(1978)
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こちらウェブリブログからfc2には、数年前からTB送信不能となり、トラバ返しできずにすんまそん。
うーん、たしかに「惑星ソラリス」はSFではないですよね。れっきとしたアートフィルムです。(ぼくは便宜上、SFのジャンルに入れましたが)。レムの原作はむちゃくちゃ難解で、映画の方が眠気を催すとはいえ、まだ分かりやすいです。近年、ハリウッド映画で「ソラリス」というタイトルでリメイク版が映画化されましたが、なんか深遠な哲学書をマンガ本に書き換えたような内容でむちゃくちゃ腹が立ちました。
タルコフスキー作品では、本作以外で大江健三郎が絶賛した「サクリファイス」や「ノスタルジア」「ストーカー」「鏡」などが気に入っています。