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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「僕の村は戦場だった」 自分に喝を入れたい時に〔20〕 

僕の村は戦場だった」 
タルコフスキー監督作品の中では
最も解り易い長編第一作。

 

 
【原題】Иваново детство
【英題】MY NAME IS IVAN
【公開年】1962年  【制作国】蘇連  【時間】95分  
【監督】アンドレイ・タルコフスキー
【原作】ウラジミール・ボゴモーロフ 、ミハイル・パパワ
【音楽】ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
【脚本】ウラジミール・ボゴモーロフ ミハイル・パパーワ
【言語】ロシア語 一部ドイツ語       
【出演】ニコライ・ブルリャーエフ(イワン)  ワレンチン・ズブコフ(ホーリン軍医大尉)  Ye. ジャリコフ(ガリツェフ上級中尉)  V・マリャービナ(マーシャ)  イリーナ・タルコフスカヤ(イワンの母)  ニコライ・グリニコ(グリャズノフ中佐)  

【成分】泣ける 悲しい パニック 恐怖 勇敢 絶望的 切ない 独ソ戦 第二次大戦 

【特徴】タルコフスキー監督が放つ長編第一作目にして最も物語が解り易い作品。日本では藝術的な作品というよりは、素直に反戦映画として評価されている。 
    
【効能】反戦の志を新たにする。
 
【副作用】心が寒々とする。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
戦場で揺れ動く少年の心。
 
 たぶん、アンドレイ・タルコフスキー監督の作品では最も解りやすく世間の共感を得やすい内容だろう。監督がまだ30歳の時の作品であり、スターリンの恐怖政治が終わりソ連や東欧諸国で当局の締め付けが緩んで比較的表現の自由が許された雪解けのような時代だった。
 その影響か、スターリン時代は完全無欠の生真面目堅物の英雄ばかりが登場するのが相場の独ソ戦モノだが、ここでは主人公イワン少年の上司であり父親代わりのような壮年の渋い中佐が、若くて美しい女性軍医をナンパする場面がある。(余談1)

 後年、監督は故意に世間の理解を得難い作風をとるが、解りやすい内容のこの作品でもカメラワークや場面の切り替えなど既に監督の厳しいセンスが光っている。特に黒澤監督と同じく水や雨の描写にこだわっているように見える。
 物語は戦争前の平和な村の描写から始まる。夏の明るい陽射し、森の木々に美しい田園、鳥の囀りに蝶々ののどかな羽ばたき、夏の太陽に照らされた道を走るランニング姿の少年、母親は微笑みながら井戸から冷たい澄んだ水を汲んでやる。そこから銃声が響き、一転して暗い物陰で息を潜める現在の少年の顔、笑顔は無く硝煙で薄汚れている。
 緑豊かで暖かそうな生家の情景と、硝煙と血生臭い空気と冷たい泥にまみれた戦場の光景の交錯は、その後の物語の節目節目に行われる。回想場面の無邪気な笑顔の少年と無表情で冷たい少年の演技の対比も見事だ。

 主人公イワンは戦争で家族を失った天涯孤独の少年で、ドイツ軍への憎しみから危険な斥候任務を次々とこなす。軍はそんな少年を重宝し司令部の中佐直属となっている。
 少年を取り巻く人々として、父親代わりのような立場にもなっている中佐、少年のお姉さん代わりの軍医大尉、少年の頑なな態度に戸惑う若くて生真面目な前線指揮官。少年をめぐって、必要最低限の登場人物との相関関係が物語に緊迫感と濃密度を与えている。

 中佐は少年を思いやって斥候任務を解き後方の幼年学校へ疎開させようとするが、それを必死に拒絶する少年。本当の親子なら中佐はもっと強く疎開を命じられただろうし、少年も大人しく納得して従ったかもしれない。
 若い堅物の前線指揮官は、いくら経験の浅い若さとはいっても少年よりは大人であり有能な指揮官なのに、最後まで中佐のようには信頼されてもらえず、少年から前線の悲惨さを知らないと批判される。唯一、本当に心を開きかけたのは女性軍医に対してだけだったのか。
 少年は一貫してドイツ軍への憎しみを隠さず、学生臭さの残る指揮官への反発を露骨に表し、常に張り詰めた神経の日々をおくっているが、夢や回想は常に暖かな田園風景と笑顔の母や妹たちがいる幸せな時代だった。これらの描写は判りやすい対立構成でいて少年の演技力も手伝って巧みな描写だ。

 戦争が終わり、廃墟のベルリンにソ連軍が駐屯する。少年から批判された若い前線指揮官が部下を引き連れてある施設を調査していた。表情はもはや学生臭さは無くなり、殺気だっていて頬には傷痕が刻まれている。
 彼はドイツ軍が放棄した書類を調べていた。その中には険しい形相の少年の顔写真が貼り付けてあった。その書類は捕虜の処刑者リストであり、写真の少年は生前に写った最期の表情である。(余談2)

(余談1)同時期のソ連映画で「誓いの休暇」も印象深い。戦死した若い兵士が生前に体験した最期の休暇でのプラトニックな恋愛を中心に描いた青春物語だ。

(余談2)カンボジアのポルポト政権は高卒以上の「知識人」たちを大量虐殺したが、写真リストを作っていて、石川文洋氏らのルポなどに紹介されたことがある。その中に作中の少年と全く同じ表情の人が写っていた。

 うがった見方をすると、若い前線指揮官は以前の独ソ戦を描いた英雄物語に登場する典型的な主人公なのだが、少年から非難されたり、少年の最期を知る光景は、暗に体制批判を込めているかもしれない。
 タルコフスキー監督は度重なる当局の検閲と指導に怒り、後に外遊先から亡命を宣言する。既にゴルバチョフ氏のペレストロイカが始まっていて、友人らはもう少し我慢するべきだったと回想しているようだ。

晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
【受賞】1962年ヴェネツィア国際映画祭サン・マルコ金獅子賞受賞
 

 
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ボクはソ連の映画はこのタルコフスキーと、
ニキータ・ミハルコフの作品ぐらいしか観たことがなく、
ほとんど無知に近かったのですけど、
少年が若き前線指揮官に見せる敵意と蔑みには、
確かにそういう点がチラホラと見え隠れしておりますね。
勉強になります。
[ 2015/07/19 09:52 ] [ 編集 ]
スパイクロッド氏へ

 ソ連に限らず、映画作品というのは他の藝術と違って人手と資金と労力と時間がかかるので時の社会状況が反映しやすいですね。極端な話、現代社会から唐突に文明が滅んで人類が原始時代に戻ったとしても、音楽家や小説家や画家は生き残れるが映画監督は消滅します。

 映画は社会背景に左右されやすい分野です。現在のハリウッドは、完全にチャレンジ精神を失っていますね。映画館で観たい欲求が湧いてきません。

> ボクはソ連の映画はこのタルコフスキーと、
> ニキータ・ミハルコフの作品ぐらいしか観たことがなく、
> ほとんど無知に近かったのですけど、
> 少年が若き前線指揮官に見せる敵意と蔑みには、
> 確かにそういう点がチラホラと見え隠れしておりますね。
> 勉強になります。
[ 2015/07/21 11:33 ] [ 編集 ]
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『僕の村は戦場だった』Иваново детство/Ivan's Childhood1962年/ソ連/94分監督:アンドレイ・タルコフスキー出演:コーリャ・ブルリャーエフ/V・ズブコフ/Ye・ジャリコフ/S・ク ...
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