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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「あの子を探して」 華族と一緒に癒されよう〔13〕 

あの子を探して」 
ヒロイン魏敏芝の困惑顔がリアル。

 

 
【原題】一个都不能少
【英題】Not One Less
【公開年】1999年  【制作国】中華人民共和国  【時間】106分  【監督】張藝謀
【原作】施祥生
【音楽】三宝
【脚本】施祥生
【言語】中国語(普通話)  
【出演】魏敏芝(本人)  張慧科(本人)  高恩満(高先生)  田正達(田村長) 
 
【成分】かわいい コミカル 切ない 楽しい 泣ける 笑える 中国農村 学園モノ

【特徴】中国の農村の小さな小学校が舞台。教師が母親の看病のため教壇から離れざるを得ず、小学校を卒業したばかりの普通の少女が代理教師を務めさせられる。
 少女の平凡ぶりと困惑顔が映画的演出を感じさせない。子役たちの演技も良い。

 デフォルメ臭のない中国の平凡な風景描写に好感が持てる。雰囲気は文部省推薦映画的で、小中学校の課外授業での鑑賞や小学生くらいの子供を持つ家庭での鑑賞に適している。  
 
【効能】小中学生くらいの子供がいる家庭で観賞すると良い。人間の良心を等身大で感じられる。
 
【副作用】小中学生向け文科省推薦の教育映画に見えて面白くない人もいるかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
リアリズムの積み重ねの上の美談。
 
 「あの子を探して」、美しい邦題である。大量に輸入されるハリウッド製映画の大半はカタカナ英語のタイトルで公開されるが、アジアや東欧などの映画は優れた邦題が多い。
 ただ、この邦題のおかげで少しだけ誤解される。というのも美しい邦題のおかげで、作品内容も美しい善人しか登場しない文部科学省推薦系のヒューマンで説教臭くて退屈な映画ではないかと勘違いする人がけっこう多いと思うのだ。
 因みに原題は「一個都不能少」、1人も欠けてはならない、物語の内容をストレートに要約した感じだ。中国に限らず欧米の文学作品も概ねタイトルは作品内容の要約が多い。日本語の良さは捻りを利かせ独特の余韻を持たせる事にある。和歌・俳句の賜物だ。

 舞台は黄河流域の現代の寒村、一日滞在すればたちまち黄色い砂埃で髪の毛や首筋がジャリジャリいいそうな土地である。張藝謀監督(チャン・イーモウ)は80年代に陳凱歌監督(チェン・カイコー)の下で、ほぼ同じ地方を舞台した映画「黄色い大地」に撮影スタッフとして参加している。この「黄色い大地」は日中戦争当時の黄河で起きたエピソードだが、当時の農村と現在の農村もあまり変わらない貧しさに驚く。

 物語は14歳の女子中学生魏敏芝(ウェイ・ミンジ)と小学校低学年くらいの男の子張慧科(チャン・ホエクー)の2人を軸に展開する。(余談1)寒村の小学校で教鞭をとっていた初老の教師が一ヶ月ほど学校を離れなければならず、やむを得ず村長はまだ中学生の魏敏芝を代用教師にする。それだけ寒村は経済的困窮で教育に割ける余力が無いのだ。(余談2)

 多くの観客は物語前半の魏敏芝を利己的な女の子と解釈するかもしれない。しかしそれはたぶんにステレオタイプなレッテル貼りの見方だ。私には彼女に対して非常に同情する。
 そもそも舞台となった寒村では張慧科のように経済的な事情で学校へ行かなくなる子供たちが少なくない。魏敏芝自身、本来なら中学校で試験の点数を気にしながらアイドルスターやポップスに夢中になっている歳頃だ。アルバイトするにしても、もっと責任が軽くて確実にお金が貰える仕事に就くだろう。そんな気楽な青春の日々を過ごせない環境に置かれており、小学校を出て読み書き算数が一応できるということで教師をやる羽目になっているのが魏敏芝なのである。
 彼女は報酬のことばかりこだわって、やる気が無いと映るかもしれないが、支払われるのかどうかも判らない賃金のために手のかかる子供たちの世話を任され、まるで学級崩壊のような有様に茫然と学校に居るだけで精一杯のように見える。語弊を恐れずにいえば、人の上に立つという事は一種の猿回しだ。(余談3)

 そんな彼女も次第に教師ぶりが板についてきた。学級委員をしている教え子の日記で休職中の担任教師がいかに苦労して備品を集めていたかを知り彼女に「教師」としての自覚が芽生えてきた。が、やはり彼女なりに見よう見まねの綱渡りのような授業で巧いとはいえない。
 つねに彼女を困らせる悪戯っ子の張慧科がついに学校をサボって町へ出稼ぎに行ってしまう。病気の親のためというやむを得ない事情だが、少女に課せられたノルマは一人たりとも脱落児童を出さない事なので、血相を変えた。

 彼女は張慧科を学校へ連れ戻す事しか頭になかったのだろう。連れ戻すために町へ行かなければならない、そのためには交通費を捻出しなければならない、切符代を捻出するために働かなければならない、そういったことを彼女は子供たちと一緒に考え、結果的にそれが算数の実地教育になった。
 無断でレンガ工場で働くのだが、たまたま工場長がれいの教師の教え子だったので切符代を工面してもらう。あの小学校教師がいかに地域社会に貢献してきたか、地道な努力が垣間見れる場面でもある。彼女は張慧科を探すため苦難の旅に出かける訳だが、行く先々で工場長のように助け舟を出す大人たちにめぐりあう。

 物語自体はフィクションなので都合よく幸運にありつけている感はあるが、物語にはデフォルメされた悪人も善人もいない。ごく普通の人々だけが登場する。魏敏芝にしても教育委員会推薦の良い子ではなく、未熟で打算的な普通の女の子だ。それがラストには心身ともに立派な先生になっていく。児童もただのワンパク小僧から授業をきちんと受ける小学生を務められるようになっていく。そんなありふれた子どもたちへ向けた張藝謀監督の優しい視線に心を打たれる。
 劇的でない素材を劇的に魅せた映画だ。

(余談1)俳優たちは本名のまま映画に登場する。魏敏芝氏は実際に中学生の女の子で本人役で出演しているのだ。
 プロ俳優として出演するというより、実際に物語のようなシチュエーションに置かれたら、どのように反応するのか、という狙いもあったようだ。

(余談2)中国の学制も日本と同じ6・3・3制だ。小学校は6年間、中学校を初級中学3年間と高級中学3年間に分けている。少なくとも昔は教師が足らないので卒業生がそのまま教師を務める事もあった。

(余談3)保母さんになった級友が「子供に苛められて泣かされるとは思わなかった」とべそかいたことがあった。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】ヴェネツィア国際映画祭グランプリ
 
晴雨堂の関連作品案内
「あの子を探して」ができるまで [DVD]
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