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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

グッド・シェパード  

グッド・シェパード」 キリスト教国家アメリカの現代史


 
【公開年】2006年  【制作国】アメリカ  【時間】167分  【監督】ロバート・デ・ニーロ  
【出演】マット・デイモン(エドワード・ウィルソン)  アンジェリーナ・ジョリー(クローバー)
 
【成分】悲しい 重たい 切ない 知的
 
【効能】アメリカ現代史の裏側を読み解くための参考価値は優れている。アメリカの政治思想・価値観に潜む恐ろしさがよく描けていている。
 
【副作用】万人ウケは最初から狙っていないので、難解で内容が理解できない恐れがある。
 

ブログランキングに参加しています。 アメリカ現代史を描写した作品。
 
 21世紀に入って、アメリカもようやく戦後レジウム(戦後体制)の裏舞台を回想できるようになったのかな、という印象を持った。CIAは言うまでもなく世界で最も有名な諜報機関であり、第二次大戦後の米ソ冷戦時代の立役者だった。スパイ映画などではソ連のKGBやイギリスのMI6とともに御馴染みだが、この映画は予告編でも判るようにスパイ映画ではなく、むしろアメリカの現代史を描いた政治映画であり「宗教映画」でもある。

 「グッド・シェパード」、私は当初猟犬を連想した。シェパードは猟犬の代表的な犬種であるし、物語の内容や主人公の職業から邦題は「猟犬」が最も適していると思っていた。ところが英語版の聖書にある語句がタイトルになっていると知人が指摘された。「良き羊飼い」という意味がある。
 なるほどと思った。この物語を日本人観客に判りやすく日本語タイトルで当てはめようとすれば「猟犬」や「走狗」あたりが該当するが、本来の意味からは少しズレてくる。英語圏の観客に対してはやはり「グッド・シェパード」が最もシックリくるだろうし、それ以上のタイトルはない。キリスト教文化圏の外に居る日本人には何のことやら解らないだろうが。
 解りやすくいえば、このタイトルはCIAの指揮官である主人公のメンタリティーを表していて、国家への忠誠というよりは、神から約束の土地として与えられた自由の国アメリカという存在に対する信仰である。(余談1)

 たぶん、この映画の意味を正確に捉え楽しむ事ができるのは、アメリカの政治と文化、アメリカのキリスト教徒、煎じ詰めていえばアメリカ人の価値観と文化を把握している人間だろう。そんな人々は長尺映画という感覚は抱かず、あっという間に時間が過ぎ去ったと思う。制作者もネオコン(余談2)やそれに近い考え方の人間を対象に政治的物語をつくっていて、万人へのウケは最初から狙っていない。制作者側の断固たる意思を感じさせる内容だ。
 万人にウケる作品には一定の法則がある。上映時間は客を飽きさせない客の回転を多くする意味から90分から120分、全ての客が物語の展開や登場人物が把握できるように起承転結の四段階の物語に主演と助演あわせて7人程度の登場人物。アメリカが多民族国家ゆえに全世界にウケる映画づくりが宿命でありお得意のハリウッドは、大半の作品ではこのセオリーを守っている。(余談3)
 この映画は敢えて法則を逸脱した。上映時間は長尺、登場人物の多さ、時系列構成の崩し具合、敬遠する観客も少なくないだろう。ロバート・デ・ニーロ監督ら制作者側は「我々はアメリカ現代史を映画にしたのであって、スパイ映画をつくったのでは断じてないのだ!」とでも言いたげに見える。

 この日本ではあまりウケないと思う。現にヤフー映画サイトでのレビュアー平均点は3点台(2007年10月30日現在)だ。特に「時事放談」や「朝まで生テレビ」といった政治番組をハナから嫌がる人々や、現実の息苦しい世界を映画に持ち込むことを嫌がる人々にとっては、いたずらに長い映画に思えてしまうだろう。
 「アメリカ」を知りたい人には興味深い映画だ。かつてトム・ハンクス氏が主演した「フォレスト・ガンプ」が無邪気にアメリカを信じ明るく表通りを元気に駆け抜けた現代アメリカ庶民の象徴とすれば、これは祖国アメリカへの信仰から清濁呑み込んで裏通りを徘徊した汚れ役エリートたちが描く現代群像劇だ。

 最後に、ロバート・デ・ニーロ監督は正味の裏方に回るべきだ。

(余談1)合衆国大統領は神に向かって宣誓して就任する。ビートルズのジョン・レノン氏が「俺たちはイエスよりも有名だ」と発言したら、アメリカ南部諸州を中心にビートルズへの大規模な抗議行動が起こり大量のレコードが焼却された。避妊治療をする医師は「殺人罪」として訴えられたり、過激派から天誅の拳銃弾を浴びせられる。
 極端な例を列挙したが、日本は政教分離が最も進んでいる国といえ、アメリカは宗教国家と評しても良いくらいだ。
 
 それから、アメリカとは直接関係無いが、過激な環境保護運動団体「シー・シェパード」がなぜ鯨を守るために国際法を無視し、捕鯨船の人命を軽視しているのか、団体名から推察できる。彼らは「海の羊飼い」を自任しているのである。神の御心(彼らの身勝手な独善なのだが)が法律であり、その前には国際法も捕鯨する日本人の命も虫けら同然なのだ。

(余談2)アメリカの新保守主義。

(余談3)いろんな民族にウケる映画をつくるよう努力した結果、全世界にウケる映画産業ができあがったと評しても過言ではない。
 
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タイトルは辞書を引かないと、日本人には意味がわかりづらいですね。
[ 2009/05/15 02:22 ] [ 編集 ]
ひらりん氏、コメントありがとうござさいます。
 
 シェパードを「忠犬」と勘違いしている人はかなりいると思います。

> タイトルは辞書を引かないと、日本人には意味がわかりづらいですね。
[ 2009/05/15 18:28 ] [ 編集 ]
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