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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「クィーン」 社会を冷笑したい時に〔27〕 

クィーン」 
ヘレン・ミレンの黄昏感が素敵。

 

 
【原題】The Queen
【公開年】2006年  【制作国】英吉利 仏蘭西 伊太利  
【時間】104分  
【監督】スティーヴン・フリアーズ
【音楽】アレクサンドル・デプラ
【脚本】ピーター・モーガン
【言語】イングランド語   
【出演】ヘレン・ミレンエリザベス女王)  マイケル・シーントニー・ブレア首相)  ジェームズ・クロムウェル(エディンバラ公)  アレックス・ジェニングス(チャールズ皇太子)  ヘレン・マックロリー(シェリー・ブレア)  
 
【成分】笑える ゴージャス 知的 切ない
 
【特徴】ダイアナ元妃の急死で揺れ動く英王室を舞台に、ヘレン・ミレンが現役の女王エリザベス二世を怪演。ヨーロッパ文化に興味のある方にはたまらない一作。
 
【効能】ゴージャスな気分を楽しめる。ヨーロッパの君主がどのように機能しているのか、君主が置かれている微妙な立場と君主のモラルを知る上で格好の参考資料。
 
【副作用】リアリティにこだわり過ぎてエンタメ性ドラマ性がやや犠牲にされているため、英王室やヨーロッパ文化に全く関心の無い方には退屈。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
誠実に君主を務める老婦人の黄昏。

 この作品は2つの特徴をあげることができる。まず、ヨーロッパの君主とはどういう存在なのか。現在、世界には制度上の国家元首を務める王家が約30ほどしかない。以前は世界中の国家が君主制だったが18世紀以降の革命・戦争・民主化運動によってその殆どが廃帝・廃王されている。(余談1)つまり各国の王室というのは、切実な問題として存続の危機を意識せざるを得ない環境に置かれているのだ。

 王室や貴族といえば映画やドラマでは尊大で無神経な悪役で描かれる事が少なくなく、その風体はあまりに成金趣味的であるが、実際は公の場こそ華やかだが平素は地味な生活をしている家が大半だろう。特にヨーロッパの君主にみられる常識として「ノブレス・オブリージュ(高貴な義務)」というのがある。
 聖書に、財産や権力のある者は多くを求められる、という趣旨の文(余談2)がある。その影響からキリスト教諸国の君主に浸透していった一種の帝王学だ。特にイギリスがこの常識を遂行する風土があるのは、大戦時に貴族の子弟が軍に志願して大勢戦死していることからも窺われる。チャールズ王太子も軍隊で必要な銃の扱いや軍用車・飛行機の操縦、スカイダイビングなどをやらされている。

 これらの背景を念頭に入れて「クィーン」を観れば、エリザベス女王の言動が理解できると思う。イギリスではエリザベス一世とビクトリア女王の時代に国力が躍進した事例がある。これは元首が女王なら景気が良くなるというジンクスにもなった。つまりエリザベス2世は第二次大戦後の沈滞したイギリスで即位した女王であり、国民の期待を一身に浴びていた。期待に応えるべく公務をまっとうしようとする性格らしく、夫エジンバラ公の失言や息子チャールズ王太子やダイアナ妃の醜聞に悩まされる事が多いなど、国民の間で根強い同情と支持があり退位を望まない声が大きい。
 なぜダイアナ大公(余談3)については「特にカメラの前では立派や」と皮肉ったのか、なぜ老婦人の身で四輪駆動の自動車を転がすなどと日本人からみれば不釣合いなことができるのか、イギリス王室の存続を守るため涙ぐましい努力を続ける老婦人の痛々しさがこの作品の醍醐味だ。

 エリザベス二世が守る王室を象徴する鹿狩りの場面がある。立派な角をもった堂々たる鹿が、あっけなく狩られていく。

(余談1)近年のスペイン・カンボジアのように、他民族・他部族が割拠して政治的不安定要素の多い国では利害関係の調整弁的役割を担うために敢えて王政復古をする場合もある。利害対立の及ばない?高見に権威を置くことで国家としてのまとまりを形作る狙いだ。調整弁的役割を積極的にこなして国民からの絶大な支持と信頼を得ている君主にタイのプミポン国王があげられる。
 ブータンのように国民から大きな支持を得ながら、「民主主義のほうが進んだ政体」と信じる国王自ら王制の廃止を宣言する国もある。

 日本の天皇家の場合、国内法規上は「象徴」だが、対外的には国際法上の慣習によって「元首のような待遇」を受ける。

(余談2)ルカの福音書あたりに記載。

(余談3)イギリスとはウェールズ・スコットランド・北アイルランドをイングランドが束ねる連合王国である。大航海時代以降の大英帝国が行った世界侵略の結果、不公平にも英語はまるで人類の共通語のような存在になってしまったが、もともと英語とはブリテン島南部のイングランド語に過ぎず、イギリスを構成する諸国はそれぞれ固有の言語を持っている。
 
 イングランドがブリテン島に強大に膨張をはじめ、メル・ギブソン監督主演の「ブレイブハート」に登場する敵役エドワード1世が隣国ウェールズを併呑し、長男に「プリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ大公)」を名乗らせた。それ以降、英王室の世継は「ウェールズ大公」を称してウェールズ国の君主になるのが慣わしとなる。
 チャールズ王太子も21歳のときウェールズ大公に即位した。ウェールズ人を前にしてウェールズ語で即位演説を行っている。またウェールズ大学に入学してウェールズ語を学んだ。
 
 ダイアナ元妃は離婚して王室の一員ではなくなっているが「プリンセス・オブ・ウェールズ」の地位は手放していないようなので、依然としてウェールズに君臨する立場でいた。法的にはチャールズ王太子と共同統治者の権威と格式を保持しており、国民人気も背景にして英王室の君臨基盤を揺るがしかねない理想諭や奇麗事発言、エリザベス女王にとっては少なくとも愉快な存在ではなかっただろう。


 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】アカデミー賞(主演女優賞)(2007年) ヴェネチア国際映画祭(女優賞)(2006年) ゴールデン・グローブ(女優賞(ドラマ))(2006年) LA批評家協会賞(女優賞)(2006年)
 

 
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[2009/05/19 22:02] カノンな日々
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