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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「十二人の怒れる男」 家族と一緒に考えよう〔12〕 

十二人の怒れる男」 裁判員の教科書的映画
 

 
【原題】12 Angry Men
【公開年】1957年  【制作国】亜米利加  【時間】95分
【制作】レジナルド・ローズ ヘンリー・フォンダ  
【監督】シドニー・ルメット
【原作】レジナルド・ローズ
【音楽】ケニヨン・ホプキンス
【脚本】レジナルド・ローズ
【言語】イングランド語     
【出演】ヘンリー・フォンダ(陪審員8番)  リー・J・コッブ(陪審員3番)  エド・ベグリー(陪審員10番)  マーティン・バルサム(陪審員1番)  E・G・マーシャル(陪審員4番)  ジャック・クラグマン(陪審員5番)  ジョン・フィードラー(陪審員2番)  ジョージ・ヴォスコヴェック(陪審員11番)  ロバート・ウェッバー(陪審員12番)  エドワード・ビンズ(陪審員6番)  ジョセフ・スィーニー(陪審員9番)  ジャック・ウォーデン(陪審員7番) 
 
【成分】知的 かっこいい 密室 討論劇
 
【特徴】当時、若手の俳優・演出家シドニー・ルメット氏の監督第1作目にしてホームラン作品。ディスカッション劇の古典的名作で、裁判員制度導入の日本にとってはタイムリーな作品でもある。「裁判員制度」の長所短所が解かりやすく描写されており優れた参考書だ。
 舞台は殺風景な会議室のみ、撮影期間はたった2週間、予算はたぶん人件費ていどの35万ドルの低予算。脚本と俳優とスタッフの熱意だけで傑作を作れた見本のような映画だ。
 
【効能】知的好奇心をくすぐる。論戦の展開方法やイニシアチブの取り方など参考になる。暑苦しい討論劇の後、ラストの爽やかな雨上がりの外の場面は鑑賞者にも清涼感を与える。
 
【副作用】男しか登場しないので華が無く、夏の会議室での激しい討論ゆえ暑苦しい。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
ディスカッション劇の古典的傑作。
 
 この作品は討論劇として最高の「教科書」といえる傑作であり、「裁判員制度」を導入した日本にとってタイムリーな映画でもある。

 優れている箇所をあげよう。まず脚本が素晴らしい。アメリカ映画は秀作に限らず話題作も概ね優れた脚本が基礎になっている。これはエンタメ娯楽大作でも同じだ。それに引き換え、邦画のエンタメ映画や話題作には人物設定や構成が不十分で行き届いておらず脚本のデキが拙いモノが少なくない。(余談1)
 この「十二人の怒れる男」は、冒頭とラストを除いて全編が狭くて殺風景な会議室が舞台になっているので、脚本の拙さを美しい映像や迫力ある場面で誤魔化すことができない。また、出演者たちも大半が壮年のオジサンばかりで、アイドル女優や子役で観客を惹くこともできないヒロイン不在の映画である。つまり、この「制約」ある環境では脚本の出来不出来が命なのだ。

 私が驚いたのは、12人の登場人物一人一人の性格・生い立ち・価値観・社会的立場・抱える問題や利害関係など考え尽くされていていて一人一人が実在の人間のような実感があり、台詞一つ一つが生きているため作中の討論がリアルでなおかつ迫力がある点だ。会議で1人異議を唱える者が主役のヘンリー・フォンダ氏なので、やがては主人公の主張が支持されて全会一致になるのは予想できるのだが、それでもリアリティーや説得力を減退させる事は無い。小説や脚本を書く方々は是非見習ってほしい。(余談2)

 この作品はヒューマンなテーマであることは言うまでもないが、成り行きのまま「予定調和」になる恐さも訴えている。住民自治会の会合でも、1人ぐらいはヘソ曲がりがいたほうが充実した会議になる。というのも大概の会議目的は全員のコンセンサスを得る事だが、問題点の抽出と対策も重要な要素だ。
 問題点の抽出は、同じような価値観や性格の人が何人集っても同じ結論しか出ない。だから議論もそこそこに「異議なし」となり「決定」される。ところが、いざ行事を始めてみてから行き届かない点に気づき大慌てになる事は少なくない。違う視点や価値観の人間がいてこそ問題点の抽出が可能なのだ。
 フォンダ氏の異議をきっかけに議論が始まり、各陪審員たちから最初は気がつかなかった容疑者有罪説の弱点が次々と抽出される過程は討論劇の醍醐味だ。さらに事件の輪郭や陪審員各々の出自や性格や価値観が露になっていくことも物語を盛り上げる。

 ラスト、蒸し暑そうな会議室から一転、外の明るく爽やかな雨上がりの風景は観客を心地よくさせる。陪審員の1人である老紳士が探りを入れるようにフォンダ氏に話し掛ける。たぶん老紳士はフォンダ氏が素人市民ではなくその道のプロであるのを勘ぐっているかもしれない。

(余談1)特に2007年で最も話題となった映画と思われる「恋空」は、残念ながら私の目では話にならない。

(余談2)残念ながら邦画で優れた討論劇にはなかなかお目にかかれない。黒澤監督「羅生門」は稀に見る傑作だ。

  この作品を観た方々の中には、登場人物が全員白人男性であることに「時代」を感じるかもしれない。当時は「ウエストサイド物語」に代表されるように、ヒスパニック系市民との紛争がクローズアップされていた。容疑者はいかにもヒスパニック系であり、陪審員の中でいち早くフォンダ氏に賛同し容疑者のナイフの使い方に不自然な点があることを指摘したスラム街出身の紳士も風貌もヒスパニック系だ。
 もし今リメイク作品を創るとしたらどんなキャストになるだろうか? フォンダ氏に相当する役にはデンゼル・ワシントン氏が適当かもしれない。あるいは、ヴァネッサ・ウィリアムズ氏かソフィー・オコネドー氏あたりの黒人女優が主役を張り、デンゼル・ワシントン氏は蒸し暑い部屋でも背広ネクタイ姿を崩さず涼しげな顔で容疑者を論理的に黒と主張する役どころが良いかもしれない。

 討論劇で強く印象に残っている映画にケネス・ブラナー氏主演「謀議」がある。これも作品の完成度が高く、しかも「十二人の怒れる男」と同じ会議風景が舞台だが内容と展開が真逆であるのが興味深い。「十二人の怒れる男」はヘンリー・フォンダ氏が1人だけ異議を唱えて辛抱強く討議して支持者を増やしていき陪審員たちに公平さと良心を呼び覚ましていく展開だが、「謀議」はナチ高官役ケネス・ブラナー氏が様々な意見をもつ政府関係者と自由に討論する体を装いながら各人の良心を封印していきユダヤ人虐殺を実行するという結論へ予定調和させる。
 私はこの2作を並べて鑑賞する事を薦める。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
晴雨堂関連作品案内 
12人の怒れる男 [DVD] ニキータ・ミハルコフ ロシア版リメイク
謀議 [DVD] フランク・ピアソン
相棒 season 6 DVD-BOX I 水谷豊
相棒 season 6 DVD-BOX II(6枚組) 水谷豊
 
晴雨堂関連書籍案内
裁判員制度の正体 (講談社現代新書) 西野喜一
知る、考える裁判員制度 (岩波ブックレット) 竹田 昌弘
裁判員制度と知る権利 梓澤和幸
 

 
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シドニー・ルメットの名作『十二人の怒れる男』を、ロシアの巨匠ニキータ・ミハルコフ監督が現現在のロシア社会台を色濃く反映させリメイクした社会派な作品です。日本では『12人の優しい日本人』というのがあって大好きな作品なんですよね。三谷幸喜の舞台版も面白かった...
[2009/05/24 17:04] カノンな日々
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