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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ベニスに死す」 美術鑑賞映画〔7〕

ベニスに死す
滅び行く美と台頭する美の対比

 

 
【原題】Morte a Venezia
【英題】Death in Venice
【公開年】1971年  【制作国】伊太利 仏蘭西  【時間】131分  
【監督】ルキノ・ヴィスコンティ
【原作】トーマス・マン
【音楽】グスタフ・マーラー
【言語】イングランド語 イタリア語 ポーランド語 フランス語      
【出演】ダーク・ボガード(グスタフ・アッシェンバッハ)  ビョルン・アンドレセン(タジオ)  シルヴァーナ・マンガーノ(タジオの母)  ロモロ・ヴァリ(ホテル支配人)  マーク・バーンズ(アルフレッド)  マリサ・ベレンスン(アッシェンバッハ夫人)   
 
【成分】悲しい ファンタジー ゴージャス 切ない セクシー ベネチア 20世紀初頭
 
【特徴】ルキノ・ヴィスコンティ監督が放つ少年愛的雰囲気の強い作品。
 20世紀初頭、傷心旅行中のドイツの著名な作曲家がベニスを訪れる。たまたま出会った美少年に惹かれ、やがて追い掛け回す。
 主人公に追い掛け回される美少年に扮したビョルン・アンドレセン氏は後に伝説の美少年ともてはやされるが、本人は俳優の道へは進まず、マスコミへの露出を控えるようになった。
 20世紀初頭のベニスの雰囲気が綺麗に描写されている。この絵はさすがヴィスコンティ監督。
 
【効能】滅び行く美と台頭する美の対比が人生の有り様を考察するきっかけとなる。
逆光のシルエットに浮かぶ美少年に萌える人もいるかもしれない。
 
【副作用】たぶん多くの鑑賞者には美少年を追い掛け回すスケベ中年のオッサンにしか見えない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
黄昏のベネチア。

 学生の頃、漫画同人誌をやっている女友達の間で少年同士の性愛を描く漫画を描くことが流行っていた。(余談1)そこで時おり「ベニスに死す」のヒロインが話題になった。この作品の「ヒロイン」は女性ではない。歳の頃15・6くらいの少年で、少女のような白い肌にウェーブがかかった長い茶髪、スレンダーな身体をセーラー服や古風な水着で包む。この少年が美しいか否かの議論を女友達らはやっていた。(余談2)

 という訳で、この映画の内容は大雑把にいうとホモセクシャル?の中年男性(余談3)が美少年を追い掛け回すストーカーの物語である。「同性愛」「少年愛」のキーワードで語られることが多いヴィスコンティ監督の名作だ。原作者トーマス・マン(余談4)自身が妻子を連れてベニスを旅行したときにポーランド人少年に出会って恋をしたエピソードを元ネタに、主人公のキャラ設定は同時代人の音楽家グスタフ・マーラーをモデルにした。そのためか、映画のBGMもマーラーの曲である。
 舞台は20世紀初頭のベニス、主人公はドイツの著名な音楽家で、本国のコンサートで酷評されて傷心旅行をしている。同じホテルに宿泊している少年に恋をして追い掛け回したあげくに伝染病にかかり客死する物語だ。

 映像はさすがヴィスコンティ監督だけあって、20世紀初頭のベニスを黄昏感いっぱいに描写している。彼の藝術性は論理的に分析して解説できるほど理解はしていないが、ドイツから逃げるようにやってきて慣れないイタリアの習慣や気候で戸惑い体調を崩す様や、若さや美への執着と、醜く滅んでいく存在との相関関係は面白い。
 台頭する美と滅びゆく美の対比、「山猫」や「ルードウィヒ/神々の黄昏」に共通する黄昏感だ。

(余談1)後に「やおい本」と呼ばれるようになった。由来は不明。「やっぱり、おとこは、いい」からきている説を聞いたことがあるが真偽のほどは未確認。現在はすっかり市場が形成され一ジャンルとして確立したようだ。

(余談2)セーラー服はもちろん水兵をイメージした子供用の服で女子高生の制服ではない。当然、スカートではなくズボンだ。水着は20世紀初頭の男性用水着だからパンツ型ではなく、形状は女子学生用スクール水着に近い。
 ヴィスコンティ監督は同性愛者で有名だったらしい。監督直々に少年をキャスティングしたそうだ。少年の名はビョルン・アンドレセン氏、もともとは音楽を学んでいたそうで、この頃はロックバンドを組んでいたとか。確かにヘビメタとかやったら似合いそうだ。
 こんな映画、といったら失礼だが、アンドレセン氏のその後の人生は大丈夫だろうか?と思ったものだ。内容が内容だけに、妖艶な役ばかりまわってくるのではないかと。
 彼は一切の出演依頼を断って映画から足をあらって音楽の世界に戻り、カメラを前に姿を晒すのも避けたそうだ。やはりマイナス影響は小さくはなかったかもしれない。いつだったか、中年になったアンドレセン氏の写真を見たことがあったが、痩身の渋いオッサンになっていた。

(余談3)原作は老年の作曲家になっている。映画でもしばしばそのように説明されているが、主人公はどう観ても50代前半、演じるダーク・ボガード氏も50になるかならないかの歳だ。20世紀初頭を舞台にしているとはいえ、50男を老人と呼ぶのはまだ早い。当時の公務員や会社員の定年は55歳だった。
 原作での年齢設定は高齢のようだが、ヴィスコンティ監督が原作者の真意を汲み取って主人公のモデルであるグスタフ・マーラーと同年齢にしている。マーラーの享年は51だった。ボガード氏のメイクもマーラーに近づけている。後に英映画「マーラー」でロバート・パウエル氏がマーラーを演じるが、ボガード氏のほうがマーラーに似ている。

 20世紀初頭は生理的ピークが20台でその後は落ちると考えられていて、壮年の芸術家が若い頃の瑞々しい感性が無くなってきた事にショックを受け焦りを感じる気持ちを抱くのはありえる。作中でもコンサートでブーイングを浴び、友人から非難を浴びる回想場面がある。
 感性の衰えを感じ、伝染病に罹って死を前にすると、なおさら若さへの執着のあまりに化粧をして白いスーツにめかしこみ、逆光で浮かび上がる水着姿の「ヒロイン」のしなやかそうな若い身体を追い求め息絶えた、という解釈は成り立つだろう。暑さと病の高熱で白髪を染めた黒い染料が汗で流れ出し化粧が崩れる主人公の最期の表情が暗示している。

(余談4)ドイツ文学を代表する作家。日本の三島由紀夫や北杜夫らに影響を与えている。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
【受賞】カンヌ国際映画祭(25周年記念賞)(1971年)


  

 
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