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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「十字砲火」 家族と一緒に考えよう〔2〕 

十字砲火」 
日本の同和教育映画よりも
遥かに優れたリアリティとエンタメ娯楽性。

 

 
【原題】Crossfire
【公開年】1947年  【制作国】亜米利加  【時間】85分  
【監督】エドワード・ドミトリク  
【原作】リチャード・ブルックス
【音楽】ロイ・ウェッブ
【脚本】ジョン・パクストン
【言語】イングランド語   
【出演】ロバート・ヤング(フィンレイ警部)  ロバート・ミッチャム(キーリー軍曹)  ロバート・ライアン(モンティ復員兵)  グロリア・グレアム(-)  ポール・ケリー(-)  サム・レヴェン(-)  マリロ・ドワイアー(-)  
 
【成分】不気味 恐怖 知的 民族差別 40年代
 
【特徴】差別の深層に迫る傑作、日本の同和教育と違って説教臭くなく、娯楽ミステリーとしても秀作である。エドワード・ドミトリク監督の手腕が光る。
 主演のロバート・ミッチャム氏が若い。いつも眠そうな顔で飄々としながらも事件解決に動く様がカッコいい。

 日本よりも民主的で表現と言論の自由が確立しているはずのアメリカでの公開後3か月で上映禁止になった問題作なのだが、これによってアメリカの「民主主義」の欺瞞が判る。
 晴雨堂としてはドミトリク監督の最高傑作だと思っている。
 
【効能】差別についてステレオタイプな描写はしていないので、リアルに差別の恐ろしさを疑似体験できる。
 
【副作用】少し古い白黒画像なので暗いイメージがある。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
差別心理に迫るミステリー傑作
 
 「ケイン号の叛乱」で有名な名匠ドミトリク監督が民族差別問題に鋭く切り込む秀作である。全米で上映が禁止となったいわくつきの作品と聞いていたが、アメリカ社会の病理を知るまでは何故「いわくつき」なのか、何故ドミトリク監督は赤狩りの標的にされなければならないのか、解らなかった。これはかつてジョン・レノン氏がなぜFBIから要注意人物とされたのかが解らなかったのと同種のナゾだった。(余談1)
 
 この映画も起承転結が淡々と進む。秀作というのは起承転結がリズム良く進むものなのだろう。オーソドックスながら効果的なカメラワークとライティングで登場人物の心理を描写していく。
 殺人が起こり、容疑者が複数あらわれ、いずれも極悪人ではなく善良の範疇にある人々だ。そして被害者が殺されなければならない理由、加害者が殺さなければならない動機が最初は解らない。何故ならそれに見合う怨恨や利害関係は存在しないからだ。しかし、確固たる動機と理由が有った。それらはやがて容疑者たちの発言から断片的にあらわれ、しっかりとした輪郭になっていく。
 
 ミステリーとして秀作であり、なおかつ差別の本質をワザとらしいステレオタイプに捉えず説得力ある浮き彫りにした作品である。小中学校の同和教育の教材映画は何ら工夫もなく現象面だけをストレートに捉えて勧善懲悪仕立てで「差別は悪い事」と表現したものが多いが、この映画の方が「作品」として優れているだけでなく、「差別」という性質をよく現している。そもそも差別とは「悪人」が行うのではなく平凡な普通の人間がやることなのだから。(余談2) 

 捜査するフィンレイ刑事が抱えてきた苦難と捜査線上に浮かびあがる容疑者の悪意をライティングによる表情描写で強調する技術は見事。
 
(余談1)「赤狩り」とは第二次大戦後まもなくアメリカ全土で大規模に行われた共産主義者排斥運動である。標的は単に共産主義者だけでなく、人権派や進歩的文化人にまで及ぶ。ナチスドイツを倒した次はソ連が敵国という冷戦時代に突入、国内の共産主義者もしくは共産主義にシンパシーを感じそうなタイプの文化人が敵性人物とみなされ、「モダンタイムズ」以降は体制批判色を強めつつあるチャップリンもハリウッドから追放された。
 対ソ最前線基地として位置づけられていた米軍管理下の日本も、マッカーサー元帥主導の下レッドパージが行われたのは有名。
 
 それにしても、不思議なのはこの「十字砲火」がなぜ標的にされなければならなかったのか? 作中で差別の被害者なのは、冒頭で殺されたユダヤ人と警部の先祖であるカトリックのアイリッシュだ。既に映画産業はユダヤ系の発言力が強かったはず。現代では考えられないほどにワスプの力が強大で専制的だったのか?

(余談2)種を明かせば殺人の動機は「差別」と「偏見」だった。
 容疑者の一人がやたら被害者であるユダヤ人の悪口を言う。「どうせ上手いことやって徴兵のがれているに決まってる」と。初登場の時は友達思いの善良そうな青年として現れるが悪口陰口を並べるときの悪人顔は良い味、ロバート・ライアン氏はうまい演技をする。
 警部が被害者の経歴を調べると、兵士として出征していて沖縄で負傷とある。さり気なく被害者は「上手いこと」やっている人ではなく最前線の激戦地で負傷したことを描写。

 物語の佳境、如何にも下からの叩き上げといった風貌のフィンレイ警部は顔の皺などの印影がくっきり映るライティングの中で怪談でも話すかのような怖い顔で事件を解説する。
 「もともとこの事件には殺人を起こすような深刻な利害関係は無い。ではなにが動機か?」

 警部は唐突に自分の先祖の話をやりだす。要約すると「19世紀、ジャガイモが不作で大勢のアイルランド人がアメリカに移民した。その一人が教会からの帰り道で殺された。彼はアイルランド人でカトリックだから殺された。俺は殺された男の子孫だ」
 「無知な男は、自分と違うものや理解できんことを馬鹿にする。でも本当は恐れてる。そして憎みだす」



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作



  

 
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