FC2ブログ

ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

社会問題を考えたい時に 1 「俺は、君のためにこそ死ににいく」 

俺は、君のためにこそ死ににいく
神風特攻隊を正面から描こうとした佳作

 

 
【公開年】2007年  【制作国】日本  【時間】140分  【監督】新城卓
【脚本】石原慎太郎     
【出演】岸惠子鳥濱トメ)  徳重聡(中西正也 少尉)  窪塚洋介(板東勝次 少尉)  筒井道隆(田端絋一 少尉)  多部未華子(鳥濱礼子)  前川泰之(金山 少尉)  桜井幸子(板東寿子)  戸田菜穂(田端良子)  石橋蓮司(鶴田正造)  的場浩司(関行男 海軍大尉)  伊武雅刀(大西瀧治郎)   
 
【成分】悲しい スペクタクル 勇敢 絶望的 戦争美化 反戦 カミカゼ 第二次大戦
 
【特徴】第二次大戦末期、日本軍がとった体当たり自殺攻撃である神風特攻隊をテーマにした映画、国民世論を二つに分けた政治的問題作である。が、隊員たちの世話をした鳥濱トメを主人公に置いているためか、内容自体に露骨な国策臭は無い。
 
【効能】先人の命をかけて「故郷」を守ろうとする姿に感涙。
 
【副作用】国策色は少ないが、戦争美化の恐れあり。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。


ブログランキングに参加しています。  
作品としては佳作だが・・
 
 知覧やトメの話は、TVドラマになったことがある。記憶に間違いが無ければ、筒井道隆氏が扮する少尉役はドラマでは三浦友和氏が演じていた。三浦氏がまだ長髪だった頃なので随分と昔のドラマである。三浦氏は角刈りの鬘をかぶって演技していた。(余談1)
 
 このドラマ冒頭ではカミカゼが企画される段階での参謀や技術者たちの葛藤が描写されていた。技術者が「卵を鉄板にぶつけるに等しい無茶な攻撃だ」とぼやいている場面が印象に残った。
 ラストでは、かつて息子をカミカゼに送り出して万歳三唱をした父親が、まるで徘徊老人のように復員兵を乗せたトラックを見つめている場面が描写されたり、敗戦を知った知覧の飛行兵たちがやけくそになって機関銃を乱射する場面があったり、全体にカミカゼ批判に満ちていた。
 
 今回の映画についてだが、作品としては佳作だと思う。一応、史実(余談2)に沿ってはいるし、物語構成も良い。視点をトメや飛行兵にもってきたのも成功である。CGも「ヤマト」に比べれば格段に進歩しており、「スパイ・ゾルゲ」「男たちのヤマト」「俺は、君のために・・」と続けてみたら、CG技術の躍進を体感することだろう。全体に、監督以下スタッフ・俳優の気合が感じられる映画である。
 
 もっとも、物語製作の手練である石原慎太郎氏が手がけているから、作品としての完成度は高水準かもしれない。視点も飛行兵たちや、それをメンタル面で支える食堂のオバサンの視点で描かれているようなので、国策色は目立たない。
 
 しかし、やはり「美化」が気になる。ドイツでヒトラーを映画にするにあたってヒルシュビーゲル監督らが「美化」につながらないよう些細な場面一つにも神経を使ったあとが見られるが、この作品には疑問点がつく。
 
 「ヤマト」の場合、私が高く評価しているのは、重要な登場人物たちが戦死する描写が、他のエキストラが演じる死ぬ場面と同じくらいあっけない点である。気をつけて観ないと、いつ死んだか解らないくらいである。日本映画にしては美化の無いリアルな戦争描写だった。だが、この作品はどうだろうか?
 
 結局、製作者の石原慎太郎氏らの「美しい」という言葉が雄弁に物語っている。この時点で胡散臭い政治色が滲んでいるのだ。そもそも戦争自体が美しいものではない。ましてやカミカゼなど、日本人以外の人間が見たら常軌を逸している戦い方にしか見えないだろう。(余談3)
 
 一部の反戦運動家たちのように、銃後の家族を守るため死地へ赴いた人々を「アジア侵略の尖兵」などと人格や志まで否定する行為にも同意できないが、逆に銃後の家族を守るため死地へ赴かんとする責任感ある若者たちを、カミカゼなどと戦術的にも戦略的にも下の下の無駄死にへと追いやった権力者たちの無責任な行為を看過することにつながる美化にも同意できない。
 
 そんな戦い方へと、前途ある純粋な若者たちが追い詰められる。銃後の家族や愛する人の為なのだと信じるしかない環境で飛び立たねばならない。しかも作戦を指揮している軍首脳部は本音では「負け戦」だと解っていて、戦力としてのカミカゼのお粗末さも知っている。(余談4)
 責任感ある「美しい」心根の若者たちをむざむざ死地に追いやった無責任な戦争指導者たちの醜さを描写しきれていないのが問題であり、製作者の意図が露出している。
 
 お国のため家族のためと信じさせ突撃を行わせた飛行兵たちを「美しい」と思うのは、むしろ尊い英霊たちを今なお騙し冒涜し続けているに等しい。
 
(余談1)ヅラが不自然だった。他にドラマか映画の撮影を抱えていたのだろうか? 当時は「なんて役者魂の無い、髪ぐらい切れ」と思ったものだ。

(余談2)カミカゼ特攻で戦果らしい戦果をあげたのは、最初の関大尉らの攻撃だけである。最初が成功しただけにカミカゼを繰り返すことになってしまう。残念というべきか、当然というべきか、大半の特攻は米軍将兵に恐怖感を与えはしたが、戦力を削ぐことには至っていない。
  
 何故なら、米軍は当時の世界各国の軍隊の中ではという但書付きではあるが、突出して人命尊重意識が強く、ダメージコントロールに優れていたからである。具体的に言えば、日本の軍艦なら大破して沈没するような打撃を受けても、迅速に消火・補修・復旧して戦線に復帰する。むやみに艦と最期を共にはしない。アメリカの艦船は当時の世界では快適空間だった。
  
 カミカゼのような徒に資材や人材の浪費になる戦い方はしない。もちろん、東京大空襲や原爆などの大量殺戮を躊躇なくしでかす米軍の「人命尊重路線」にヒューマンな思想は無い。あくまで冷徹に勝つための合理的思想である。
 
 日本軍でも小野田少尉らに玉砕を禁じてゲリラ戦を命じたように、一部で合理的な作戦施行をする動きがある一方で、主流は玉砕やカミカゼを行わす。「硫黄島からの手紙」でも渡辺謙氏扮する栗林中将が玉砕したがる守備隊を指揮するのに苦慮している様が描かれている。
 
 結局、日本軍の狂気の捨て身作戦は、当時の世界では突出して人命重視(あくまで味方の人命)の軍隊であるアメリカ軍の前に敗れたのである。
 
(余談3)イスラエルなどで自爆テロをする人々、大半の日本人にとっては残酷で恐ろしいイメージしか抱けない。日本赤軍も凶暴なテロリストだ。しかしイスラム過激派にとっては、美しい殉教者であり、アラブの英雄である。
 こういった情報もリンクしながら作品を観る必要があるのではないか。

(余談4)責任者の1人、宇垣纏中将が玉音放送後に特攻を行っている。提督クラスの軍人で特攻を行ったのは彼だけだが、パイロットではないので当然若い将校たちに飛行機を操縦させている。しかもそのゆえに遺族の中には「何故、1人で腹を斬らなかったのか」と非難する方がいる。
 
 映画などでは、苦渋の顔で特攻を見送る司令官として描かれることが多いが、その一方で傲慢不遜で人を人とも思わない人間、との評価もある。少なくとも、責任回避をする多くの軍人たちの中で彼なりのやり方で責任をとったことは確かだが、特攻を推進してきたことや、前途ある若い将校を道連れに特攻した事は美化できない。
  
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆ 凡作

 

ブログランキングに参加しています。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
映画処方箋一覧
晴雨堂が独断と偏見で処方した映画作品。
下段「日誌」項目は晴雨堂の日常雑感です。
メールフォーム
晴雨堂ミカエルに直接ご意見を仰せになりたい方は、このメールフォームを利用してください。晴雨堂のメールアドレスに送信されます。

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール
↓私の愛車と野営道具を入れたリュックです。

晴雨堂ミカエル

Author:晴雨堂ミカエル
 執筆者兼管理人の詳しいプロフィールは下記の「晴雨堂ミカエルのプロフ」をクリックしてください。

晴雨堂ミカエルのプロフ

FC2カウンター
2007年10月29日設置
当ブログ注目記事ランキング
当ブログで閲覧数の多い順ランキングです。
設置2013年6月13日
ブログランキング
下記のランキングにも参加しております。ご声援ありがとうございます。
  にほんブログ村 映画ブログへblogram投票ボタン
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
15位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
5位
アクセスランキングを見る>>
タグランキング
晴雨堂の関心度が反映されています。当ブログ開設当初は「黒澤明」が一位だったのに、今は・・。
訪問者閲覧記事
最近のアクセス者が閲覧した記事を表示しています。
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム
リンク