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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「蝿の王」 自分に喝を入れたい時に〔23〕

蝿の王」 
子供の残酷さを描いた遭難モノ佳作

 

蝿の王 [DVD]
 
【原題】LORD OF THE FLIES 
【公開年】1990年  【制作国】英吉利  【時間】90分  【監督】ハリー・フック
【原作】ウィリアム・ゴールディング
【音楽】フィリップ・サルド
【言語】イングランド語
【出演】バルサザール・ゲティ(ラルフ)  クリス・フュール(ジャック)  ダニュエル・ピポリー(ビギー)  バジェット・デイル(サイモン)  ゲイリー・ルール(ローガー)  アンドリュー・タフト(-)  エドワード・タフト(-)  マイケル・グリーン(パイロット)     

【成分】パニック 不気味 恐怖 絶望的 遭難 サバイバル 陸軍幼年学校  

【特徴】十五少年漂流記」のパロディ。少年たちの成長を描いた「十五少年・・」に対して、本作は少年たちの凶暴性焦点をあて野蛮人へと退行していく過程を描いている。人間の凶暴かつ悲観的な可能性をテーマにした佳作。
 深刻な内容だが、オチがまた救いようの無い脱力感に襲われる。

【効能】サバイバルを行うにあたっての一つの参考になる。

【副作用】後味の悪い内容に気分が悪くなる。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
十五少年漂流記」との見事な対比

 この作品とよく比較されるのは、ジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」だ。15人の少年が無人島に漂着し一致団結して2年間のサバイバル生活を乗り切る冒険物語であり、子供の頃にワクワクしながら読んだおぼえがある。15人は民主的に「大統領」を選出して役割分担を決め、島を隈なく探険して地図を作ったり、食糧を確保し様々な道具を作って生活を快適し、大昔の先客遭難者の遺物を発見したり、新たな遭難者が合流し凶悪犯の一団が上陸して一戦交えるなど、「楽しい」エピソードの数々が並べられている。
 途中、15人は2つの派閥に分裂するが基本的に子供たち全員は冷静な判断力と責任感があり、主人公に反発する派閥のリーダーも少し悪役的に描かれてはいるが、主人公に劣らずリーダーとしての素養と能力と正義感のある人物で、主人公たちから分裂しても主人公たちの生活を脅かすような破壊活動はせず、最終的には和解して少年たちのナンバー2として主人公を助ける盟友になる。(余談1)

 さて、前置きが長くなったが、「蝿の王」も同じように少年たちが無人島らしきところに漂着してサバイバル生活をする物語である。ヴェルヌの「十五少年漂流記」よりも多い24人で、しかも陸軍幼年学校の生徒だから組織的な行動を展開する訓練を十分に受けているうえに、階級や序列も定まっているので、緊急時に誰がリーダーを務めるかも揉めることなくスムーズに決まる。作品では一応集会を開いて全員のコンセンサスを得る段取りを踏むが、生徒の中で一番階級が上の主人公がリーダーになる。

 「十五少年漂流記」は子供の可能性、引いては人間の可能性を好意的に観た例だが、この「蝿の王」は人間の悲観的な可能性を前面に出した作品である。「十五少年・・」では対立があっても子供たちは理性と忍耐で克服していくのに対し、「蝿の王」では理性のタガが次第にはずれ対立を通り越して仲間同士の殺し合いを展開していく。サバイバル生活を通して紳士へと成長していく「十五少年・・」とは逆に、原始人のように退行していく様が恐ろしくリアルに描かれている。(余談2)

 ラストは、他のレビュアーが言及されているように、今までの苦労を虚しくしてしまうようなオチで実に面白い。

(余談1)この作品は御存知の方も多いと思うが、「機動戦士ガンダム」や「銀河漂流バイファム」の着想モデルになる。

(余談2)実際の遭難事例でも、両極端の結末がある。有名なのは19世紀初頭で発生したアフリカ大西洋側沖合いで発生したフランス海軍メデュース号の遭難事件。ロマン派画家ジェリコの筏の絵で有名なので御存知の方も多いだろう。
 自動車の運転免許に例えたら、原付でさえもペーパードライバーなのにバスの運転に挑戦するような暴挙をある海軍大佐がやってしまう。一隻の軍艦すら指揮できないのに艦隊を率いて大西洋を南下、案の定遭難してしまい艦長はさっさと脱出してしまう。水兵たち百数十名は筏を組んで漂流するが、飢えと渇きで殺し合い共喰いをやってしまい、助けられたのは十人程度だったらしい。

 ほぼ同時期に日本ではアホウドリ生息地である鳥島にしばしば遭難者が漂着していた。興味深いことに、殺し合いや共喰いといった悲惨な事態には陥っておらず、遭難者たちは協力して生き延びた。
 最も有名なのは船頭の小栗重吉の遭難で、驚異的なリーダーシップを発揮して部下を励まし1年以上も太平洋を漂流のすえイギリス商船に救助された。貴重な体験をした重吉は日本生還後、尾張藩から士分に取り立てられる。彼が残した記録は、壊血病や栄養失調で次々と倒れていく部下たちの様子が克明に記されており、海難遭難の一級資料である。助かったのは14名のうち重吉以下3名。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


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蠅の王 [DVD] 1963年版 ピーター・ブルック監督脚本の作品。最初の実写映画化である。米ソ対立の冷戦時代を反映して、イギリスが核攻撃を受け少年たちは疎開先へ退避する途中で遭難する設定になっている。
まんが世界昔ばなし“十五少年漂流記” [VHS]

晴雨堂関連書籍案内
蝿の王 (新潮文庫) ウィリアム・ゴールディング
十五少年漂流記 (新潮文庫) ジュール・ヴェルヌ


 
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