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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「戦場に咲く花」 社会問題を考えたい時に〔10〕  

戦場に咲く花」 暴君・緒形直人
 

 
【原題】葵花劫
【英題】The Last Sunflower
【公開年】2000年  【制作国】日本国 中華人民共和国  【時間】86分  
【監督】蒋欽民
【原作】高光
【音楽】趙季平
【脚本】蒋欽民 高光
【言語】中国語 日本語
【出演】緒形直人(菊池浩太郎中尉)  平田満(平岡少佐)  王学圻(駅長)  王蘭(駅長の妻)  張彗科(孤児)  丁海峰(大雀)  通訳(黄東平)      
 
【成分】悲しい パニック 切ない ミステリー 反戦 日中戦争 第二次大戦 1944年 満州国 中国東北地方 中国語 日本語 
    
【特徴】「恋人」で日本でも評価が高い。蒋欽民監督の初監督作品。
 第二次大戦末期、前線から離れた南満州鉄道の小さな駅に、戦傷リハビリを目的に「助役」の肩書きで若い日本軍中尉が赴任してくる。物語は、風呂場で助役が謎の死をとげ、それを巡って駅長以下4人の中国人が容疑者となるところから物語がスタートする。
 緒形直人氏はNHK大河ドラマ「信長」以上の屈折した暴君ぶりを哀しくも憎たらしく演じ作品全体の緊張感を高めている。当時の満鉄各駅が一種の兵站拠点となっている様がよく描写されていて興味深い。
 
【効能】中国人の平均的な日本軍イメージを知る事ができる。反戦映画として効果的。凶暴性と良心の間で揺れ動く主人公に、現代人の病理も見える。
 
【副作用】保守右翼から観ると日本軍をステレオタイプ的に描いているように見え不快感。冒頭から結末まで暗い映画なので気持ちが消沈する。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
中国人が抱く皇軍への平均イメージ。 

 数年前、反戦運動をしている友人からチラシをもらった。中国の監督が撮った反戦映画というふれこみだった。チラシの写真には襟章の無いくたびれた軍服を着た緒形直人氏が穏やかな表情で花を見ている。緒形直人氏がよく演じるキャラから、過酷な戦争に神経をすっかり病み反戦思想に目覚めた兵卒が自殺をし、日本軍は自殺の事実を隠蔽するべくその巻き添えに中国人が処刑される物語かな、と思った。
 監督は日本で映画を学んだ経歴のある蒋欽民氏(チャン・チェンミン)、共演者には「黄色い大地」「大閲兵」の王学圻氏(ワン・シュエチー)、「あの子を探して」の名子役である張慧科氏(チャン・ホエクー)、事件を捜査する憲兵隊指揮官役に平田満氏。いずれも演技派ぞろいなので迫力ある映像が期待できるし、中国映画ファンなら御馴染みの俳優ばかりだ。

 しかし、チラシをもらった当初は忙しかったのか映画館で観る機会を逸した。最近になって近くのレンタル屋にDVDが置いてあることに気がつき借りてみた。いざ観てみると、内容がチラシから抱いたイメージとは些か隔たっていることに驚いた。チラシには「日本兵が自殺」とあったのに、緒方直人氏は一兵卒役ではなく長靴を履いた将校すなわち職業軍人だった。しかも元オリンピック馬術競技の選手でエリート。中国人に対する態度は暴君そのものだった。
 対して中国人駅長役の王学圻氏は「黄色い大地」や「大閲兵」でみせた知的で温厚な分別ある人物を演じ、張慧科氏ら中国人俳優や平田満氏も概ね予想通り期待通りの演技だった。

 物語は青年将校の自殺を出発点に、関係者たちの回想と証言を積み重ねて全体像が浮き彫りになっていく構成だ。エリートの青年将校が中国戦線で足を負傷し、後方の駅で治療とリハビリのため「助役」の肩書きで赴任。知人で上官の少佐(平田満氏)や愛馬に対してはいつもの緒形直人キャラだったが、駅の中国人スタッフたちには冷たく尊大な態度に豹変する。

 「助役」が赴任してからの駅は地獄の毎日。使用人は体格が良かったので「助役」から勝負を挑まれ、八百長で勝ちを譲られたと知ると自尊心を傷つけられたのか拳銃で使用人の肩を撃ち抜く。ヤケになって向日葵畑を軍刀で荒らし、注意する駅長の妻に対してレイプ未遂をはたらく。駅長夫妻に育てられている幼い孤児をペットのように扱う。
 将校は根は悪くないのか、後で我にかえり「対不起」(余談1)と恐縮して謝る。しかし、狼藉は止むことはなかった。総じて駅長以下中国人スタッフは駅の支配者である日本人助役の暴力に耐え忍ぶ毎日だった。復讐・反撃にでようとする事もあったが、落ちぶれた将校の暴力の裏にある悲しみと孤独を察して思い止まり受け入れる。さながら夫のDVに耐える妻のような構図だ。

 この反戦映画は、前線ではなく銃後の日常(余談2)が舞台となっている。そして銃後での日本人像の典型が描かれている。人によっては、中国は日本をことさら悪く描き中国人を高潔に描く反日映画に見えるかもしれないが、むしろ被侵略者の視点の宿命と言えよう。他国に攻め入れば、攻め込まれた国の人々の目にはこのように映ってしまうということである。それは舞台をチベットや中東やヨーロッパやアメリカ西部に変えても同じ事だ。そういう点を学ぶ意味で価値がある。むしろこの映画の視点は、監督が親日家であるためか、まだ日本人に同情的だ。

 ただ、私の率直な感想をいえば、反戦映画というよりも、舞台を第二次大戦でなく「平和」な現代社会の企業や家庭にしてDVやパワハラがテーマでも良かったのではないか、と思えてくる。もう少し、脚本に工夫がいるかもしれない。

(余談1)「対不起」は日本語で「すまん」「ごめん」にあたる。因みに丁寧な言い回しは「真対不起你」(本当は你の下に心がついてニンと発音)。

 日常会話程度の中国語ができることから、問題の将校は負傷挫折が無かったら、以前はかなり紳士的で中国人に対しても人当たりの良い軍人だったのではないかと窺われる。馬術の選手だったことからも、華族出のような育ちの良いお坊ちゃんなのだろう。

(余談2)「銃後」とは後方で兵站を担う非戦闘地域を指す。
 饅頭を大量に蒸し、軍用列車が着くと休憩する日本兵たちに配る場面がある。従軍経験のある知人の話でも、満州では休憩地で美味い饅頭や中華料理の差し入れがあって日々の食事に困った経験が無く、日本に帰って食糧事情の悪さに驚愕したという。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作



  

 
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