「サイコ」
文字通り、サイコスリラーの金字塔 【原題】Psycho
【公開年】1960年
【制作国】亜米利加
【時間】109分
【監督】アルフレッド・ヒッチコック 【原作】ロバート・ブロック 【音楽】バーナード・ハーマン 【脚本】ジョセフ・ステファノ【言語】イングランド語
【出演】アンソニー・パーキンス(ノーマン・ベイツ)
ジャネット・リー(マリオン・クレイン) ジョン・ギャヴィン(サム・ルーミス) ヴェラ・マイルズ(ライラ・クレイン) マーティン・バルサム(ミルトン・アーボガスト探偵) サイモン・オークランド(ドクター・リッチモンド) ジョン・マッキンタイア(アル・チェンバース保安官) ジョン・アンダーソン(-) パトリシア・
ヒッチコック(-)
【成分】悲しい パニック 不気味 恐怖 知的 セクシー 白黒 50年代 アメリカ
【特徴】言わずと知れた
サイコスリラーの元祖。当時としては画期的な構成・手法がふんだんに取り入れられ、公開前にストーリー漏洩が無いよう厳重に管理警戒された作品である。
元祖金字塔らしく、様々な続編が創られ大量にパロディが生産され、後のミステリーやスリラーに与えた影響は計り知れない。
ヒロイン失踪の不安を煽るテーマ音楽や、
ジャネット・リー氏の下着姿やシャワー場面、
アンソニー・パーキンス氏の不気味な笑みは構成に語り継がれる名場面である。
【効能】白黒映画なので、ベラ・ルゴシの「魔人ドラキュラ」的でオドロオドロしく真夏の夜に冷気を得られる。
【副作用】現代の過激なホラーを見慣れてしまい時系列を全く考慮に入れない人や、刺戟至上主義の人には古くさくて期待はずれ。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
完璧に近いデキのサイコスリラー。 「白い恐怖」から15年後に制作・公開された作品、これも精神医学が重要なキーワードになっている。
「白い恐怖」では主役の1人グレゴリー・ペック氏が記憶を喪失した若い元軍医に扮し、少年時代のトラウマに苦しめられ診察してもらった精神科医を殺したと思い込み、その精神科医が死んだ事実を認めたくないがためその医師に成り済ましてイングリット・バーグマン氏扮する女医がいる病院に赴任する。多重人格障害の一歩手前とも思えるシチュエーションだ。
そして15年後に制作された「
サイコ」では完全に多重人格障害を起した人物が主役となる。実際にあった連続殺人鬼
エド・ゲイン事件が元ネタなので、当時のインパクトは現代の私たちが想像する以上に強かったと思う。
1960年代に入るとカラーで制作しても良いのだが、
ヒッチコック監督は敢えて白黒映画にした。殺害場面を和らげるためで、当時の社会的制約が判るエピソードである。(余談1)私見だが、この白黒映像のお陰で殺害場面を和らげる以外にも絶妙な効果をあげている。例えば、主役の
ジャネット・リー氏が会社の資金を持ち逃げして車で逃走する場面が明るい昼間なのに薄暗い印象を与え不安感を煽るBGMと巧くマッチして物語全体を盛り上げる効果を上げている。(余談2)事件の舞台となる寂れたモーテルに古びた母屋は、吸血鬼ドラキュラでも出そうな存在感を醸し出す。
ヒッチコック監督の構成力と演出も一級品で、特別な撮影技術も使わず低予算でも工夫次第でインパクトの強いメリハリのある映像がつくれる見本のような作品だ。世の中には潤沢な資金を湯水のように使いながら凡作の域を出ず忘れ去られる「話題作」が多いが、これが名作と凡作の違いなのだ。
現在のそこそこ金をかけた刺激の強い
サイコスリラーを見慣れた人たちの中には物足りなさを感じる方も少なくないだろう。ただ、それらの要所要所の演出や俳優の演技には「
サイコ」の影響を見ることができる。模倣や手本にされるのも名作の証拠だ。
俳優の演技も素晴らしい。挙動不審で怯えた表情の
ジャネット・リー氏の顔、真面目な好青年の
アンソニー・パーキンス氏の顔から滲みでる不気味な微笑。当時、セクシーな売れっ子美人女優を主役に起用しながら惜しげもなく中盤の殺害場面で退場させ、青春スターを起用しイメージ通りに登場させながら後半でどんでん返しをさせる、俳優の演技力と監督の構成力が巧く噛み合った作品はなかなか無い。(余談3)
多重人格モノも現代では珍しくない平凡なテーマだが、それを差し引いても「低予算」「俳優の演技」「制作者の脚本・構成・演出」「その後の影響力」を考慮したら、間違いなく
サイコスリラーの金字塔だ。
(余談1)当時、
ヒッチコック監督はカラー版も平行してつくったという伝説がある。実際にあるのかどうかは未確認。
主役の
ジャネット・リー氏が殺される場面でシャワー室が血の海になるが、これは白黒に映えるようチョコレートソースを使ったらしい。
そういえば、「フェノミナ」で当時14歳頃のジェニファ・コネリー氏が腐乱死体と腐敗汁が溜まった肥溜めみたいなところに落ちる場面があるが、これもチョコレートソースが使われていた。メイキングビデオを見たら、恐ろしげな腐敗汁の中でグッドサインを送るジェニファの可愛らしい笑顔が目に焼きついた。
(余談2)38年後にカラー版リメイクが作られた。
ヒッチコック監督が撮りたかったが1960年の技術で不可能だった映像を実現させたものを接ぎ足した作品なのだが、ハッキリ言ってカメラワーク同じの完全焼き直し映画だった。アメリカの映画ファンも私と同様のことを考えていたのか、ラジー賞(最低映画)という栄誉に輝いた。
ところで、よく憶えていないのだが、本家「
サイコ」で
ジャネット・リー氏が会社に出勤するときに
ヒッチコック監督が通行人役で出ているような気がするのだが、記憶違いかな?
(余談3)セクシー女優扮する主人公が物語中盤で殺害され、後半の主役になる青春スターが犯人という展開は、たぶんそれ以前の映画には無かった構成で、現在でも滅多にできない手段である。
ヒッチコック監督らは試写会を厳禁し、映画会社は情報が漏洩しないよう情報統制を布いた。
この作品があまりにも大成功を収め強い影響力をもったためなのか、ジャネット=リー氏はその後の作品には脇役しか回ってこなくなり、
アンソニー・パーキンス氏は「サイコ」の人格異常者ノーマン・ベイツのイメージが強く残りすぎ、晩年は開き直って「サイコ」の続編で積極的にノーマンを演じたり監督を手掛けるようになった。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀
晴雨堂マニアック評価
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白い恐怖 [DVD] FRT-104 アルフレッド・ヒッチコック
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オリジナル・サイコ―異常殺人者エド・ゲインの素顔 (ハヤカワ文庫NF) ハロルド・シェクター
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完璧に近いデキのサイコスリラー。 「白い恐怖」から15年後に制作・公開された作品、これも精神医学が重要なキーワードになっている。
「白い恐怖」では主役の1人グレゴリー・ペック氏が記憶を喪失した若い元軍医に扮し、少年時代のトラウマに苦しめられ診察してもらった精神科医を殺したと思い込み、その精神科医が死んだ事実を認めたくないがためその医師に成り済ましてイングリット・バーグマン氏扮する女医がいる病院に赴任する。多重人格障害の一歩手前とも思えるシチュエーションだ。
そして15年後に制作された「
サイコ」では完全に多重人格障害を起した人物が主役となる。実際にあった連続殺人鬼
エド・ゲイン事件が元ネタなので、当時のインパクトは現代の私たちが想像する以上に強かったと思う。
1960年代に入るとカラーで制作しても良いのだが、
ヒッチコック監督は敢えて白黒映画にした。殺害場面を和らげるためで、当時の社会的制約が判るエピソードである。(余談1)私見だが、この白黒映像のお陰で殺害場面を和らげる以外にも絶妙な効果をあげている。例えば、主役の
ジャネット・リー氏が会社の資金を持ち逃げして車で逃走する場面が明るい昼間なのに薄暗い印象を与え不安感を煽るBGMと巧くマッチして物語全体を盛り上げる効果を上げている。(余談2)事件の舞台となる寂れたモーテルに古びた母屋は、吸血鬼ドラキュラでも出そうな存在感を醸し出す。
ヒッチコック監督の構成力と演出も一級品で、特別な撮影技術も使わず低予算でも工夫次第でインパクトの強いメリハリのある映像がつくれる見本のような作品だ。世の中には潤沢な資金を湯水のように使いながら凡作の域を出ず忘れ去られる「話題作」が多いが、これが名作と凡作の違いなのだ。
現在のそこそこ金をかけた刺激の強い
サイコスリラーを見慣れた人たちの中には物足りなさを感じる方も少なくないだろう。ただ、それらの要所要所の演出や俳優の演技には「
サイコ」の影響を見ることができる。模倣や手本にされるのも名作の証拠だ。
俳優の演技も素晴らしい。挙動不審で怯えた表情の
ジャネット・リー氏の顔、真面目な好青年の
アンソニー・パーキンス氏の顔から滲みでる不気味な微笑。当時、セクシーな売れっ子美人女優を主役に起用しながら惜しげもなく中盤の殺害場面で退場させ、青春スターを起用しイメージ通りに登場させながら後半でどんでん返しをさせる、俳優の演技力と監督の構成力が巧く噛み合った作品はなかなか無い。(余談3)
多重人格モノも現代では珍しくない平凡なテーマだが、それを差し引いても「低予算」「俳優の演技」「制作者の脚本・構成・演出」「その後の影響力」を考慮したら、間違いなく
サイコスリラーの金字塔だ。
(余談1)当時、
ヒッチコック監督はカラー版も平行してつくったという伝説がある。実際にあるのかどうかは未確認。
主役の
ジャネット・リー氏が殺される場面でシャワー室が血の海になるが、これは白黒に映えるようチョコレートソースを使ったらしい。
そういえば、「フェノミナ」で当時14歳頃のジェニファ・コネリー氏が腐乱死体と腐敗汁が溜まった肥溜めみたいなところに落ちる場面があるが、これもチョコレートソースが使われていた。メイキングビデオを見たら、恐ろしげな腐敗汁の中でグッドサインを送るジェニファの可愛らしい笑顔が目に焼きついた。
(余談2)38年後にカラー版リメイクが作られた。
ヒッチコック監督が撮りたかったが1960年の技術で不可能だった映像を実現させたものを接ぎ足した作品なのだが、ハッキリ言ってカメラワーク同じの完全焼き直し映画だった。アメリカの映画ファンも私と同様のことを考えていたのか、ラジー賞(最低映画)という栄誉に輝いた。
ところで、よく憶えていないのだが、本家「
サイコ」で
ジャネット・リー氏が会社に出勤するときに
ヒッチコック監督が通行人役で出ているような気がするのだが、記憶違いかな?
(余談3)セクシー女優扮する主人公が物語中盤で殺害され、後半の主役になる青春スターが犯人という展開は、たぶんそれ以前の映画には無かった構成で、現在でも滅多にできない手段である。
ヒッチコック監督らは試写会を厳禁し、映画会社は情報が漏洩しないよう情報統制を布いた。
この作品があまりにも大成功を収め強い影響力をもったためなのか、ジャネット=リー氏はその後の作品には脇役しか回ってこなくなり、
アンソニー・パーキンス氏は「サイコ」の人格異常者ノーマン・ベイツのイメージが強く残りすぎ、晩年は開き直って「サイコ」の続編で積極的にノーマンを演じたり監督を手掛けるようになった。
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☆☆☆☆☆ 秀
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いつものようにURLにてTB返しとさせてください。
「サイコ」に関しては全くご説明の通りですね。
特に、低予算云々のところはある意味映画作りの基本ではないかと思う故に、非常に大切なコメントですね。
「制限あるところに良い映画が生まれる余地あり」というのが持説です。CGで何でもできるようになって映画作家は甘え放題で碌なものを作らなくなりましたよ。
>ヒッチコック監督が通行人役で出ているような気がする
出ていたと思います。