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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「地雷を踏んだらサヨウナラ」 青春回帰〔2〕 

地雷を踏んだらサヨウナラ」 
英語・クメール語を操る浅野忠信




【公開年】1999年  【制作国】日本国  【時間】111分  
【監督】五十嵐匠
【原作】一ノ瀬泰造
【音楽】安川午朗
【脚本】丸内敏治 五十嵐匠
【言語】イングランド語 クメール語 日本語 日本語(佐賀方言) 一部越南語 韓国語       
【出演】浅野忠信一ノ瀬泰造)  川津祐介(一ノ瀬清二)  羽田美智子(一ノ瀬淑乃)  市毛良枝(一ノ瀬信子)  ロバート・スレイター(ティム・ヒル アメリカ人報道カメラマン)  ソン・ダラチャカン(ロックルー カンボジアの友人)  ペン・ファン(マダム カンボジアの下宿先の女主人)  ボ・ソンフン(レ・ファン ベトナムの女友達)  ピンヨウ・ジェーンソンブーン(チャンナ 泰造を慕うカンボジアの子供)  オーパ・ジェーンソンブーン(ソッタ 泰造を慕うカンボジアの子供)

【成分】泣ける 切ない 青春 1972年 カンボジア内戦

【特徴】カンボジアで虐殺された報道カメラマン一ノ瀬泰造の手記を元に映画化。ベトナム戦争やカンボジア内戦時の70年代インドシナの雰囲気がよく再現されている。
 当時の泰造に年齢・背格好が似ている若手の浅野忠信氏が好演。日本語台詞よりも英語・クメール語が多い役柄をこなすところが、後に「モンゴル」で全編モンゴル語のテムジン役を彷彿させる。

【効能】自分の青春と重なる部分に涙。特に旅に出た事がある方は感情移入する。

【副作用】脚色部分に不快感。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
浅野忠信氏に敬意を表したい。

 ほとんどが英語とクメール語の台詞だけ、浅野忠信氏は非常に頑張ったと思う。

 カンボジアを舞台にした映画は他に「キリング・フィールド」がある。学生時代、これはとても評判で観たが、私には不快感ばかりを感じた。たしかに作品としては完成度が高くリアリテイもあったが、気に入らないのはカンボジア人ジャーナリストが主人公白人記者の「従者」になっていたことだ。私は腹立たしい。
 世間では「友情」と評価していたが、どこが友情か? ハリウッドが評価する映画でアジアを舞台にしたものは駄作が多いが、程度の差はあれアジア人は従者扱いだ。比較的マシだった「ブラックレイン」でも高倉健氏はマイケル・ダグラス氏の助手扱いだった。

 その点、この浅野忠信氏演じる一ノ瀬泰造カンボジアやベトナムの友人はイーブンで描かれていた。泰造はクメール語で話し、英語を解せる友人には話しやすい英語で話す。泰造はフォトジャーナリストというよりも無邪気な若い風来坊としてカンボジアやベトナムに現れ、周囲に親しまれる。日本からやってきた変な奴だけど憎めない若者として。
 若い頃に旅や冒険に憧れて、日本一周や世界一周に出かけた方は大勢いると思う。私も一眼レフ2台をフロントバックに入れてチャリンコの日本一周をやった。そんな頃とダブってしまう。

 泰造が書いた手記「地雷を踏んだらサヨウナラ」も、母親一ノ瀬信子氏が書いた「わが子泰造よ!」もジャーナリズムに興味を持っていた20代の頃に読んだ。映画では泰造のアクの強さ(余談1)が薄められ、カンボジアの官憲やクメールルージュの狂暴性(余談2)が強調されてしまったような感がある。また、取って付けたような不自然なエピソードも幾つかあって熟れきっていない部分はあったが、ベトナム戦争やカンボジア内戦、そこで生きる民衆の生活と感情、よく再現できていた。安川午朗氏が手掛けたテーマ曲も素晴らしく、この曲は今でも様々な番組のBGMで使われている。

一瀬泰造.jpg
実際の一ノ瀬泰造
首にぶら下げている3台の一眼レフは名機ニコンF(余談3)
堅牢性に定評があり多くの戦場カメラマンに愛用された。


 浅野忠信ファンにとっても必見ではないだろうか。実際の泰造も浅野忠信氏と雰囲気は似ていた。ただ泰造に興味を持った方は「TAIZO」の方を薦める。

(余談1)実際の泰造が残した手記には売春婦と同衾したエピソードがあるが、本作には無い。ベトナム・サイゴンの下宿のベランダで物思いに耽っていると、隣人の若い女性から「タイゾー、コンドーム貸して」と声をかけられ「返さなくていい」と箱ごと渡す場面で、そんな環境下で住んでいる事を臭わす程度だ。

 逆に手記ではベトナムの若い女友達の写真を撮った云々の1・2行程度のエピソードを膨らまして、泰造青年の心に強く刺さる重要なヒロインに描かれている。
 カンボジアに行こうとするタイゾー青年に女友達のレ・ファンは反対し口論になる。カンボジア人への敵意むき出しのレ・ファンに対して「戦争が人を変えたんだ」と反論するタイゾー青年に突き刺さる言葉で応酬する。「タイゾー、その戦争が好きで遠い日本から来たんやろ」

 本作の監修には泰造の遺族が関わっている。たぶん、泰造の母一之瀬信子氏の意向が強く反映しているのではないかと思う。信子氏にとっては多感で無邪気な若者、現地の大人たちやジャーナリストたちの世話になりまくり、現地の子供たちに慕われた憎めない男の子、これを前面に強調したかったのだろう。泰造が残した写真から、私も古き良き時代の風来坊のような青年だと思う。

 本作では割愛されてしまったが、私が好きなエピソードがある。カンボジアの友人ロックルーの結婚式に出席するとき、泰造はいつもの汚いカメラマンスタイルなのでロックルーから「お前その格好で出るつもりか?」と言われる。これから式に臨む彼は呆れて「俺の服貸す!」と世話を焼こうとするが、泰造は「お前、太ってるからサイズ合わんやろ」と断る。
 結局、キックボクシングでリングに上がる時の派手なガウンが綺麗なのでそれを着る事になった。なぜキックボクシングの衣装を持っているのか、手元に手記が無いので確認できないが、たぶん報道カメラマンとしての入国ができないのでキックボクシングのインストラクターの名義でカンボジア入りしたと思う。
 本作では戦闘服のまま結婚式の模様を撮影する様子にまとめられてしまった。

(余談2)手記を読む限りでは、ロンノル政府軍将校は流暢な英語で紳士的な態度で泰造のフィルムを没収した。高圧的な態度で拳銃を突きつけるといった暴力は無い。またクメールルージュの兵士も本作では高圧的に銃を突きつけてフィルムを没収したが、手記ではまるで若者が旅先でオッサンと知り合い世間話をするようなシチュエーションで穏便に追い返されている。

 また泰造青年をカンボジアから追放処分する現地司令官のモデルとなった将軍が実際にいるが、これには泰造のバイタリティを感じる面白いエピソードがある。
 ポル・ポト派が優勢となりロン・ノル政権が風前の灯となった時期に泰造はその将軍と再会した。絶望感に襲われている将軍は、相変わらず元気に執拗に取材を続ける泰造に懐かしさと親しみを感じたのだろう、その時は旧知の友に対する接し方で迎え記念写真も撮らせた。この写真が前線での「取材許可書」になったのは言うまでもない。「俺は将軍と友達だ」

 また、泰造の死後、母親の信子氏自身がカンボジアに渡り、泰造の最期らしい場面を目撃した人から状況を聞いている。当初は監禁に近い軟禁状態で他の収容所に入れられたカンボジア人よりは比較的待遇は良かったらしい。長髪で髭を生やしサングラスをかけた特異な容姿だったそうだ。ある日カメラを没収され、泰造は抗議してハンストをやったら連行されそのまま戻らず、連行した兵士が泰造の靴を履いていたそうである。

(余談3)実際の泰造が持っているニコンFのレンズ先端にある遮光カバーに2か所変形箇所があるが、本作では綺麗なレンズだった。私が学生だった80年代の時点でもニコンF2はプレミアがついて中古屋で高価取引されていたから、傷をつけられなかったのか?
 因みに本作に登場する泰造の友人ロバートが持っているカメラは、著名な戦場カメラマンであるロバート・キャパが使用した事で有名なライカだ。



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


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晴雨堂関連書籍案内
地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫) 一ノ瀬 泰造
地雷を踏んだらサヨウナラ―一ノ瀬泰造写真・書簡集 (1978年) 一ノ瀬泰造
戦場より愛をこめて!1972‐73 一ノ瀬 泰造
わが子泰造よ!―カンボジアの戦場に散った息子を求めて (1985年) 一ノ瀬 信子
もうみんな家に帰ろー!―26歳という写真家・一ノ瀬泰造 一ノ瀬 信子
一ノ瀬泰造 ぼくが愛した人と村 一ノ瀬 信子
泰造 見てますか? 一ノ瀬 信子


 
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[ 2007/11/25 17:27 ] 映画・・青春回帰 | TB(0) | CM(0)
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