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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「アポカリプト」 

 
アポカリプト
極めて完成度の高い作品だが、不愉快だ。

 

 
【公開年】2006年  【制作国】亜米利加  【時間】138分  
【監督】メル・ギブソン
【音楽】ジェームズ・ホーナー
【脚本】メル・ギブソン ファラド・サフィニア
【言語】マヤ
【出演】ルディ・ヤングブラッド(ジャガー・パウ)  ダリア・エルナンデス(セブン)  ジョナサン・ブリューワー(ブランテッド)  ラオール・トゥルヒロ(ゼロ・ウルフ)  モリス・バード(-)  ヘラルド・タラセナ(-)  ルドルフォ・パラシオス(-)  フェルナンド・エルナンデス(-)         
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル パニック 恐怖 勇敢 絶望的 中米 マヤ 16世紀 マヤ
      
【特徴】ヨーロッパ人が侵略する直前のマヤをリアルに描写、全編マヤ語台詞のこだわり。主人公は狩猟民族の族長の息子。ある日、都市から生贄狩りの部隊がやってきて村を襲撃され、主人公たちの村は滅ぼされる。主人公はとっさに身重の妻を井戸に隠すが自らは捕まる。都市に連行された主人公は辛くも脱出し、追っ手と森でジョン・ランボーもビックリのサバイバル戦を展開する。
 
【効能】八方塞の状況でも、この作品を観ると突破のヒントと力を与えてくれる。絶望感が和らぐ。
 
【副作用】血生臭さと腐臭が漂いそうで気分が悪くなる。アメリカ先住民の文明を破壊した欧米人の言い訳に見えて不快。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
メル・ギブソン監督のリアリズム

 もし、マヤ人がタイムスリップして、この映画を観たとしたら、どんな感想を抱くだろうか? 私がイメージするマヤ人が真のマヤ人であったとすれば、たぶん以下のような印象を持つかもしれない。

「こいつら、どこの人間だ? けったいな格好だな。未開人か?」
「こいつらマヤ語を話してるみたいやけど、なに言ってるか判らん」
「えっ? 何で戦争すんの? たかが森の狩人やん」
「ええっ! なにしてんの?! 俺たち、こんな残酷なことやってると思われてんの?! たしかに生贄をするけど、こんなに殺さへんで! せっかくの働き手が勿体無いし、死体が腐って大変や。町中が臭いで住まれへん。こんなことホンマにやってたら国が立ち行かん」
「うわぁ、大変な誤解や。まるで俺ら血に飢えた野蛮人やないか・・。」
「そもそも映画でマヤ帝国がやった残酷で無茶苦茶な人殺しは、みんな大きな黒船でやってきた髭面の白い肌の連中がやった事やないか! みんなあいつらがやった事や! ふざけるな!」 
「なに、この映画つくったの、あの白い肌の同族か子孫かもしれんて?! 野郎、このままで済むと思うな」

 たぶん、こんな風に思うだろう。もちろん、後期マヤ文明の事はあまりにも資料が少ない。アステカやインカでも同じだが、中南米の文明はスペイン色とキリスト教に塗り潰された。またスペイン人が侵略した当時に記録した資料の殆ども散逸している。つまり、すっかり全焼した家をスリガラスの窓から見て火災前の形を想像するようなものだ。スペイン人たちの侵略は凄まじく、今ではどんなに辺鄙な集落に行っても母語はスペイン語で本来の母語は消えつつある。
 だから、今となっては如何様な解釈も成り立つわけで、メル・ギブソン監督が描いた風景を間違っていると証明する事もできないのである。

 私にとってはキリスト教信徒たちが世界侵略をしてきた歴史について反省がない右翼的な映画に映り極めて不愉快な映画だが、作品の完成度は極めて高くギブソン監督のセンスと技術の素晴らしさは認める。リアリズムに徹した映像へのこだわりと、物語の構成力と伏線の張り方、出演者たちへの演技指導、これはギブソン監督ならではの才能と力量であり、邦画の監督たちも見習うべきだと思う。
 物語は極めてシンプルである。森のある部族の族長の息子が主人公で、文明国マヤの奴隷狩りに襲撃され村人は奴隷にされるか殺される。マヤでは派手なお洒落をした退廃的な空気が漂い、捕虜となった男たちは生贄として簡単に殺されていく。捕虜になった主人公は井戸に隠した妻子を助けるため都市から脱出し、戦では素人だが狩猟の知識と技術を活かしてジョン・ランボーもビックリの闘いを繰り広げて追っ手を倒していく。ギブソン監督なりの解釈で構築されたマヤのリアルで凝った空間と解り易い物語と迫力ある映像は、完璧といっても良い。

 たぶん、俳優たちは私たちと変わらぬ都会人だと思うが、映像では森の狩猟民そのもので体臭すら漂いそうだ。マヤの都会人たちの風俗も、まるで遺跡のレリーフや壁画から生き生きと抜け出したようで感慨深い。これが邦画なら、どこか垢抜けたところが見え隠れするものだが、ギブソン監督の映像はそれを許さない。主人公の妻が水の中で自力出産する場面など圧巻だ。
 今の時代は、本能が司る生物としての当たり前で根源的な動作まで、「権利」という法的根拠を必要とされる。あげくに「子供を産まない権利」だとか「死ぬ権利」まで堂々と主張される世の中だ。ギブソン監督はそんな社会への疑問と反感を持っていそうに思える。生きる本能、子供を産み育てる本能は、理屈や法律だけで片付けられるものではない。

 ラストはスペインの黒船が現われる。茫然となる追っ手の隙を見て主人公は辛くも逃げ切り、妻子と無事に合流する。「黒船のところへ行こう」と言う妻に主人公は「森へ行く」と答える。この最後の台詞が効いている。冒頭では、マヤが滅んだのはスペイン侵略以前に自らの退廃と享楽のせいだと言わんばかりだったが、ギブソン監督は熱烈なカトリックではあるが狂信ではない。なかなか冷静だ。(余談1)
 
(余談1)メル・ギブソン監督に相応しい題材がある。
 紀元後1世紀のローマ帝国クラウディウス皇帝の時代、ローマ軍は本格的にブリタニア(現在のイギリス)征服に乗り出した。ローマ軍の屈辱的な支配に抵抗したのがケルト人の女王ボウティッカで、ローマ人にレイプされた娘とともに民衆の前に現われローマとの徹底抗戦を呼びかける。「パッション」と同じくリアルな時代描写と全編にラテン語とケルト語台詞を使う。ギブソン監督の趣味に合い、ハリウッドも喜ぶと思うが。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
晴雨堂関連作品案内
アポカリプト オリジナル・サウンドトラック
パッション [DVD] メル・ギブソン
ランボー [DVD] テッド・コッチェフ
 
晴雨堂関連書籍案内
沈黙の古代遺跡 マヤ・インカ文明の謎 (講談社プラスアルファ文庫) クォーク編集部
マヤ文明―失われた都市を求めて (「知の再発見」双書 (07))  クロード・ボーデ
NHKスペシャル 失われた文明 マヤ (NHKスペシャル失われた文明) 恩田陸
図説 古代マヤ文明 (ふくろうの本) 寺崎秀一郎


 
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