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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「セブン・イヤーズ・イン・チベット」 青春回帰〔28〕 

セブン・イヤーズ・イン・チベット
登山家が経験したチベットでの七年



  
【原題】SEVEN YEARS IN TIBET
【公開年】1997年  【制作国】亜米利加  【時間】126分  
【監督】ジャン=ジャック・アノー
【原作】ハインリヒ・ハラー
【音楽】ジョン・ウィリアムズ
【脚本】ベッキー・ジョンストン
【言語】イングランド語 ドイツ語 チベット語 中国語
【出演】ブラッド・ピット(ハインリッヒ・ハラー)  デヴィッド・シューリス(ペーター・アウフシュナイター)  B・D・ウォン(ンガプー・ンガワン・ジクメ)  マコ(クンゴ・ツァロン)  ダニー・デンゾンパ(-)  ジャムヤン・ジャムツォ・ワンジュク(ダライ・ラマ)  インゲボルガ・ダクネイト(イングリッド・ハラー)  ジェツン・ペマ(-)  ヴィクター・ウォン(-)  ラクパ・ツァムチョエ(-)  リック・ヤン(-)
          
【成分】泣ける 知的 切ない 1940年代 チベット 
      
【特徴】オーストリアの登山家が過ごしたチベットでの7年間。チョモランマ(エベレスト)登頂という記録達成と名声獲得しか頭に無い利己的なアルピニストが、チベットで暮らしダライ・ラマ法王と接するうちに新たな世界が開けてくる。
 旅をしたことがある人間なら共感する作品である。
 
【効能】目覚めへの旅を実感する。
 
【副作用】中国側の人には制作者側の悪意を感じる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
旅の映画

 チベット動乱が起こった時だった。散歩がてらに近くのビデオレンタル屋を物色していたら、いつもは貸し出されることは無い「セブン・イヤーズ・イン・チベット」のケースが空になっていた。北京オリンピックにまるで照準を合わせるが如く発生した「チベット自治区」での騒動、世界各国から一斉に吹き出す中国政府への非難。暫く「・・イン・チベット」の貸出中が続いた。

 2006年だったか、ブラッド・ピット氏が扮したハインリヒ・ハラー氏本人が逝去した。ダライ・ラマ14世が遺族のハラー夫人に追悼メッセージを送ったことがニュースで流れた。本当に親交があったんだ・・、というのが私の率直な印象だった。ハラー氏の原作本では映画のような深い友情があるようには読めなかったからだ。改めていうまでもないが、事実を元にした映画ではあるが、映画作品としてまとめるため、興行が成り立たせるため、かなりの脚色が施されている。

 著しく脚色されているとはいえ、決してリアリティーが損なわれているわけではなく、努力賞モノの秀作ではある。内容からして現在の中国政府に喧嘩を売るようなものであるから、チベットでのロケは許可されない。ゲリラ的に撮影したチベットの風景以外は、大半は比較的気候や風景が似ているアンデスの高地やチベットの南隣のネパールでロケを行なう。

 主人公ハインリヒが当初見せた身勝手な姿勢は私が知る限りの登山家にありがちだ。(余談1)戦争が無ければ「世界初登頂」という記録に挑戦するだけの登山家に終わっていただろう。オーストリアがナチスドイツに併合され、本人もナチ党員であれば英領インドでは敵性人物だ。収容所に拘束され、苦心して脱出しチベットへ、物語が動き出す。
 西洋文化とチベット文化とのカルチャーショックもさることながら、勝負することしか関心が無く、物事を全て勝負する発想でしか考えられなかった主人公が、我を捨てる仏教思想とそれを代表する地位に就かされた少年ダライ・ラマの無邪気な好奇心に触れ、生き方が変化する。これは「モーターサイクル・ダイアリーズ」と同様の旅の醍醐味だ。

 政治的背景を無視することはできないが、まずは1人の旅人の体験記として観てほしい。(余談2)

(余談1)私が旅というものを始めた当初、登山家やサイクリストは大らかで平和的で素朴な人たちばかりと思っていた。ところがむしろ偏屈で見栄っ張り、ライバルには勝負心をむき出す人がシャバよりも多いように感じた。
 私が初心者だった頃、何人かのサイクリストからノウハウを教えてもらったが、親切に教えてくれるよりは明らかに自慢話を聞かされ非常に不愉快だった。そして、経験を得ていくうちに教えてくれたものの少なくない項目はデタラメだった。

 サイクリストには一周屋というのがいる。チャリンコという手段で旅を経験することよりも、単に琵琶湖を一周とか四国を一周することに重心がある。旅で様々な風土人情を味わうよりも、一日の走行距離が多ければ多いほど自慢の対象になる。これでは運動場のトラック競技の延長でしかない。作中のハインリヒも一周屋と同じメンタリティーだ。
 
(余談2)ペマ・ギャルボ氏をはじめチベット人側から見たチベット併合劇の記録も目を通している。少なくとも映画で登場する中国軍とは異なり、実際は毛沢東の「三大規律・八項注意」が守られていた時代なので非常に行儀のよい軍隊だった。政治委員は横柄な態度で出る者もいたらしいが、社会主義に傾倒したチベット人がチベットが社会主義国になれば人民解放軍は撤退する、と本気で信じさせるくらい中国軍兵士一人一人は低姿勢だった。
 被害者側が中国軍の行儀の良さをかなり好評価するくらいだから、映画にある様な露骨な姿勢は少なかったか、あるいは殆ど無かったのではないかと推察できる。被害者という者は加害者を実像以上に悪く見えてしまうものである。にもかかわらず中国軍兵士の評判は悪いどころか良かったのだ。
 もちろん、これらの証言も政治的駆け引きがある。映画制作者側も侵略者らしく演出しなければ物語が解りづらいだろうし、これもまた政治的意図があるだろう。チベット側とて映画にあるような神秘的で綺麗な国であるはずは無い。世間並みに問題を抱えた国家だったろう。
 因みに、10数年前に読んだ日本人観光客によるチベットルポでは、中国人は極めて態度デカかったらしい。

 最後に、チベット問題は大国が抱える共通の問題である自覚も必要と考える。仮に私が中国人なら中国を非難する日本人に対して「お前らは沖縄が琉球として独立するのを笑って許せるのか? 北海道のアイヌ民族が独立したいと言えば許せるか? 中国全人代ではチベット人のための議席を用意している。お前らの国会にアイヌ民族のための議席はあるのか? アイヌ語を公立学校で教えているのか? 国内の民族問題に無頓着で全然努力しとらん日本人に説教されたくないな」と言うだろう。
 もちろん中国の少数民族政策は、チベットやウイグルの状況を鑑みれば大いに問題がある。仮にウイグル族やチベット族出身の「中国人」が国家主席にでもなればそこそこ説得力あるが・・。結局は少数者に無頓着なのは大国・マジョリティ共通の性質だ。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作

 
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セブン・イヤーズ・イン・チベット サントラ
クンドゥン [DVD] マーティン・スコセッシ
盗馬賊 田壮壮 国内未だソフト化 漢族が撮ったチベット
シュウシュウの季節 [DVD] ジョアン・チェンチベット族と漢族の立場がよく出ている。

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「盗馬賊」 社会問題を考えたい時に〔13〕

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セブン・イヤーズ・イン・チベット―チベットの7年 (角川文庫ソフィア) ハインリヒ・ハラー
チベットの七年―ダライ・ラマの宮廷に仕えて ハインリヒ・ハラー
ダライ・ラマ自伝 (文春文庫) ダライ・ラマ
チベット入門 (チベット選書) ペマ・ギャルポ
日本人が知らなかったチベットの真実 ペマ・ギャルポ
チベット旅行記 1 (講談社学術文庫 263) 河口慧海
チベット旅行記 2 (講談社学術文庫 264) 河口慧海
チベット旅行記 3 (講談社学術文庫 265) 河口慧海
チベット旅行記 4 (講談社学術文庫 266) 河口慧海
チベット旅行記 5 (講談社学術文庫 267) 河口慧海
 

 
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[ 2009/07/14 12:10 ] 映画・・青春回帰 | TB(1) | CM(1)
この映画が公開されるまでチベットに関する知識は少なかったので、凄く勉強になったのを覚えています。

昨今中国の少数民族に対する悪政が国際問題化してますが、もっと取り上げてほしいですよね。
[ 2009/07/14 15:30 ] [ 編集 ]
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今や北京オリンピックの開催すら危ぶまれているほど世界的な大問題にまで発展したチベット問題。この一連の問題に火をつけたのはやっぱり先日中国でライブをした際のビュークの発言だったのかな?と思ってしまいます。一日も早くこのチベット問題が平和的に解決することを...
[2009/07/14 15:33] めでぃあみっくす
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