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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「盗馬賊」 社会問題を考えたい時に〔13〕 

盗馬賊」 中国人(漢族)監督が撮ったチベット
 
盗馬賊
(国内未ソフト化)

【原題】盗馬賊
【公開年】1985年  【制作国】中華人民共和国  【時間】99分  【監督】田壮壮
【音楽】瞿小松
【脚本】張鋭
【言語】チベット語? ソフトは中国語(普通話)吹替
【出演】才項仁増(ロールブ)  旦技姫(トルマ)
          
【成分】悲しい 絶望的 切ない 1920年代 チベット 
      
【特徴】一瞬、馬賊が日本軍と銃撃戦を展開する冒険活劇を連想してしまうタイトルだが、チベット最下層の民衆を淡々とドキュメント風に描写している映画。盗馬賊は単なる「馬泥棒」という意味。
 チベット仏教の僧侶たちを些か搾取者的に描かれていて、全編に渡って救いようの無い悲劇が展開される。
 欧米人はチベットを神秘的に描く傾向があるが、本作にはそれが無い。その意味では公平で冷静な視点であり、意外にプロパガンタ臭さは無い名作だ。
 
【効能】チベット民衆の風俗を学べる。
 
【副作用】チベット側の人には中国人の悪意を感じる。盛り上がりの無い作品なので退屈する。明るい展望の無い物語なので気力が萎える。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
意外に公平な視点による名作
 
 80年代後半、大阪市内の公民館で中国映画ファンによる上映会が行われた。当時、学生だった私は第二外国語に中国語を選択していた関係から中国映画と聞くとよく観に行った。会場には日本人よりも在日中国人(華僑か?)が多かったように思う。
 
 上映前に主催者の挨拶があった。簡単に映画の背景を紹介し、些か緊張しているのか、慌てているのか、少しうわずった語調で「映画の舞台は1920年代で、まだ封建社会下の貧しいチベットです。現在のチベットは解放されて豊かになっています」と説明した。明らかに中国人や「人民中国」を支持する日本人に気兼ねした台詞だった。

 「盗馬賊」、日本語的表現に直せば「馬泥棒」、主人公は飄々とした30代の男性とその家族で、馬泥棒をして生計を立てている貧しい遊牧民。俳優の名前や容姿から出演者は殆どチベット人のようだ。
 監督は田壮壮氏(ティエン・チュアンチュアン)、中国を代表する陳凱歌氏(チェン・カイコー)と張藝謀氏(チャン・イーモウ)と同期の第五世代監督だ。(余談1)

 「セブン・イヤーズ・イン・チベット」ではチベットの綺麗な描写が目立つが、「盗馬賊」では最下層チベット人の貧しくて過酷な生活が描写されている。荒涼としたチベット高原で、主人公は楽天的とも思える表情で日々を生きている。熱心な仏教徒だが寺院に盗品を寄進したことが僧侶の怒りをかい「仏を汚した」と咎められ村を追放される。主人公たち家族は救いを求め五体投地で祈るが救われない。各地では疫病が蔓延し、老人や子供たちが斃れていく。

 見ようによっては、チベット仏教を迷信、僧侶を搾取者と位置付けているかのようだが、私は田監督が素直にチベットの風俗と下流の民衆を描写したのではないかと思っている。年代を「解放前」の1920年代に設定したのも、当局の審査を通過させるためではないか。
 というのも、田監督の父母は文化大革命時に資本主義的だと迫害された経験をもつ。自身も苦杯をなめた少年時代をおくった。安易に体制迎合的な作品をつくるとは思えない。そこには裏メッセージがあるように見えるのだ。つまり、共産党をチベット僧侶に置き換え、監督自身の家族を不遇なまま人生を終えてしまう救いようのない主人公に置き換えているのではないか。
 「セブン・イヤーズ・イン・チベット」では、チベットを多少美化し中国を若干貶める演出があってフランス人監督の政治的意図が見え隠れするが、「盗馬賊」はチベット庶民の風俗を淡々と描くだけだ。上映された作品は中国語にふきかえていたが、出演者たちはチベット語で話していたようだ。

 予想に反してプロバカンタ臭の少ない作品だった。

(余談1)ヤフーの掲載の長ったらしい監督名を見て、一瞬「あれ?!田壮壮監督じゃないの?」と思ってしまった。中国語音を無理にカタカナにあてはめようとするから長くなる。中国人の名前は漢字三文字が多いので、カタカナ表記は違和感があるしピンとこない。
 それにしても、近頃は中国人を原音で呼ぶ習慣が定着しつつあるが何故だろう。政治家の名前は相変わらず従来どおり音読みだが。私は従来どおりで良いと思う。カタカナで表記されると名前のニュアンスが伝わらないからだ。

 韓国朝鮮人に対して音読みで呼ぶのは失礼だ。しかし中国人には別に失礼ではないのである。一口に漢民族といっても、北の北京語と南の広東語とでは英語と独語ていどの隔たりがある。それ以外にも様々な「方言」があって、漢字の読み方は各々違うのだ。だから中国人は名前を日本の音読みで呼ばれても気にしないのである。それどころか、わざわざ「私は張鉄林(チャン・ティエリン)です。日本語で『ちょう・てつりん』と言います」と自己紹介する。だから中国人名のカタカナ表記はナンセンスだ。

 因みに以下の人たちは超有名人だが、カタカナにすると誰なのかピンとこないだろう。
「マオ・ゾートン」「トン・シャオピン」「ホー・チンタオ」「ヌァン・ジャアパオ」
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
【受賞】第4回第三世界映画祭クリーパオ市大賞(スイス)
 
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シュウシュウの季節 [DVD] ジョアン・チェンチベット族と漢族の立場がよく出ている。
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チベット旅行記 2 (講談社学術文庫 264) 河口慧海
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