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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「エル・シド」 感動からエナジーを得よう〔7〕

エル・シド」 レコンキスタの英雄物語

 

【原題】EL CID
【公開年】1961年  【制作国】亜米利加  【時間】190分  
【監督】アンソニー・マン
【原作】フレドリック・M・フランク
【音楽】 ミクロス・ローザ
【脚本】フレドリック・M・フランク フィリップ・ヨーダン
【言語】イングランド語
【出演】チャールトン・ヘストンエル・シド)  ソフィア・ローレン(シメン)  ラフ・ヴァローネ(-)  ジュヌヴィエーヴ・パージュ(-)  ジョン・フレイザー(アルフォンソ)  ゲイリー・レイモンド(サンチョ)  ハード・ハットフィールド(アリアス)  マッシモ・セラート(-)  ハーバート・ロム(ベン・ユーサフ)  マイケル・ホーダーン(-)  ラルフ・トルーマン(-)

【成分】泣ける 悲しい ファンタジー スペクタクル ロマンチック 勇敢 かっこいい 戦争 レコンキスタ 11世紀末 スペイン 

【特徴】イスラム勢力にイベリア半島の大半を支配された11世紀、レコンキスタ(国土回復運動)の実在の英雄エル・シドの物語。エル・シドに扮するのは、「十戒」や「ベン・ハー」で大物時代劇スターとなったチャールトン・へストン氏。ヘストン氏はヒラヒラした時代劇衣装に長尺の超大作がよく似合う。ストイックな騎士を好演。エル・シドの妻役にはまだ20代のソフィア・ローレン氏が清楚で情熱的に演じる。
 基督教史観で描いているので、イスラム側の大将は憎たらしいキャラで描いているのだが、中国や北朝鮮の「反日映画」に登場するワザとらしい憎たらしさではなく、心から怒りを感じてしまう描写にハリウッドの罪な上手さがある。

【効能】ストイックで自己犠牲的主人公の姿に感涙。

【副作用】意図的にイスラムを悪く描いているので不愉快。

下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
不覚にも感動した英雄物語。

 ハッキリいって、回教徒が観たら怒る内容である。私も大人になってから観たら、アメリカらしいタカ派映画と冷笑しながら観たかもしれない。幸か不幸か観た時期が宗教や民族がらみの戦争を知らなかった子供の頃、しかも「ベン・ハー」に感動した後で観たから、チャールトン・ヘストン氏扮するエル・シドのストイックな求道姿勢と寛容な博愛精神に胸をうたれた。素直に感動してしまったのである。いま観ても、人を感動させるハリウッドの罪作りなハイレベル映画技術に敬意を表するだろう。

 「ベン・ハー」で歴史大作が似合う大スターの地位を確かなものにしたチャールトン・ヘストン氏は、その数年後にまたもや歴史大作に挑戦する。内憂を抱えながらも外敵イスラムと闘った中世の英雄を演じる。
 エル・シドは実在の人物でレコンキスタの英雄として讃えられることが多い。(余談1)実際はもっとドロドロした政治劇が展開されてはいるが、作中は多少判りやすく編集されている。それでも単純な騎士物語を期待してみた人には、権力闘争に巻き込まれ、ソフィア・ローレン氏(余談2)扮する恋人シメンとの確執、国王との関係悪化など、生真面目騎士の試練に心を痛めるかもしれない。

 ラストは悲劇ではあるが今までの陰鬱さを一掃する展開だ。イスラムの大軍(余談3)に攻囲される中、胸を射られ瀕死の重傷をおったエル・シドは妻となったシメンに支えられ、彼を慕う大勢の兵士たちに向かって残り少ない命を絞るように士気を鼓舞する演説をし、エル・シドを疎んじていた国王は今までの行いを恥じる。
 息絶えたエル・シドは妻や側近らによって甲冑を着せられ、さも生きているかのように愛馬に固定される。兵士たちとの約束通り共に突撃するためだ。突撃は敢行され、攻囲するイスラム軍は総崩れ、エル・シドの遺体を乗せた馬は敵将を蹴散らして浜辺を疾走、遥か彼方へと走り去っていった。

 イスラム教徒を実に憎たらしく描いていた。中国や北朝鮮の映画に登場する日本軍はわざとらしい憎たらしさだが、この映画はリアルで説得力がある。ハリウッドは悪役に仕立てるのが巧い。

(余談1)本名はロドリゴ・ディアス・デ・ビバール、漫画家青池保子氏の代表作「アルカサル-王城」で舞台となった同じカステリア王国の大領主であり騎士である。ただしエル・シドが生きていたのは「アルカサル」の時代より300年ほど遡った時代だ。

 「シド」はアラビア語由来、意味は「主人」。実際にイスラム系の領主たちからも人望があったのか尊敬をこめて呼ばれていた。革命家エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナがアルゼンチン方言の「チェ(ちょっと)」を連発するクセからチェ・ゲバラと渾名されるようになり、尊敬をこめて「エル・チェ」と呼ばれるようになるのに少し似ている。エル・シドとエル・チェも忍耐強くて誠実な点は似ているかな。

 「レコンキスタ」は高校の世界史で「国土回復運動」と習った。しかし高校生の頃から「国土」という呼び方に疑問をもっていた。というのも、イスラム勢力がアフリカからジブラルタルを越えてイベリア半島に侵攻した8世紀初頭、現代人が抱く「国土」という概念は無かったと思う。
 世界史の授業では5世紀後半にローマ帝国が滅んで旧西ローマ帝国内にゲルマン民族が大挙侵攻しイベリア半島に西ゴート王国が設立されたと習った。しかし、実際にはローマ元老院は7世紀頃まで存続している。ローマ帝国という枠組みが直ちに消えた訳ではなかった。日本に例えれば、朝廷が形骸化して戦国大名が各地方で割拠しているのに似ているのではないか。
 ゲルマン人の一部族である西のゴート族がローマからイベリア半島を切り取り、それを今度はイスラム勢力が奪い取る。半島の北辺に追いやられたエル・シドらヨーロッパ人が再び奪い返す、これがレコンキスタではないのか。「国土回復」はあまりにキリスト教世界の側に立ちすぎた表現で、正確には「再征服」と呼ぶほうが公平だろう。

(余談2)この頃、ソフィアはまだ20歳代。

(余談3)エキストラの中に腕時計のようにモノをしていた兵士がいた。気のせいかな?



晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆☆ 秀

晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】ゴールデン・グローブ(優秀賞)(1961年)




 
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