「ルイーズとケリー」
人生最初の分岐点・・思春期 
(現在、国内未ソフト化)
【原題】TWO FRIENDS
【公開年】1986年
【制作国】濠太剌利
【時間】76分
【監督】ジェーン・カンピオン 【音楽】マーティン・アーマイガー
【脚本】ヘレン・ガーナー【言語】イングランド語
【出演】エマ・コールズ(ルイーズ)
クリス・ビデンコー(ケリー) クリス・マッケイド(ルイーズの母)
【成分】悲しい 切ない かわいい 思春期 学園 オーストラリア
【特徴】かつては親友同士で容姿も似ていた2人の少女の分岐点をインパクトある構成で描写。1人は名門高校の優等生、もう1人は学校に行かず荒んでセックスと酒におぼれる不良少女。まったくタイプが異なる2人を、青春の節目節目を逆時系列で表現している。非常に切なくやりきれない気持ちにさせられる。
【効能】切ない思春期の思い出が甦る。子供の将来を考える上での参考になる。
【副作用】男を悪者に描くことを強調している点が引っかかる。実際に主人公たちのような子供を持つ親には痛い作品。
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気を衒わないオーソドックスな手法 監督は「
ピアノ・レッスン」で世界的名声を得た
ジェーン・カンピオン氏。私はどちらかというとカンピオン監督がまだ学生時代か若手監督時代に撮った作品のほうが好きだ。当時は「エンジェル・アット・マイ・テーブル」「スウィーティー」「彼女の時間割」そして「
ルイーズとケリー」といったように、危うい思春期の少女を描写したものが目立つ。(余談1)
さて物語の内容だが、多くの方々も同様の経験があるだろう。小学校時代はお坊ちゃんだった男の子が中学に入るとパチキ入れて長ラン着て煙草をすう強面になったり、お嬢ちゃんだった女の子がパーマかけて長いスカートはいて厚化粧する。そんな豹変を目撃したり、あるいは自身が当事者だったりした事があると思う。(余談2)この映画もそれに近い。
邦題にもあるように2人の少女が主人公だ。名門高校の優等生ルイーズはボーイッシュで清潔感のある少女、ケリーは家出をし麻薬に溺れ男と同衾するパンクファッションの厚化粧。もはや2人は全く違い世界に生きていて、友情は過去のものとなっていた。物語はこの2人の過去を少しずつ遡る構成で進められる。つまり起承転結を逆にしたものだ。
物語が進んでいくうちに、2人の家族構成や分岐点が明らかになっていく。ルイーズは母子家庭で母親は聡明で毅然として気配りのある女性。ケリーの家庭は母親が再婚して新しい夫に気を遣いケリーには配慮が行き届かない。夫はけっして悪人ではなく善良な市民の範疇だが、義父として継子ケリーを冷遇する。実はケリーもルイーズと同じ名門校の受験に合格していたのだが、義父がそこを辞めさせ安い公立校へ行かされたのだ。ケリーは実の父親を頼ろうとするが、実父は新しい女と一緒でケリーに構ってくれない。(余談3)
ラストは中学時代に遡る。ケリーもルイーズと同じ溌剌として清涼感のある少女だ。2人は姉妹のように仲良し、若干ケリーにはだらしなさがあるが、これが冒頭の場面へと発展するのか。
2人は合格率の低い非常に賢い人しか行けない名門の高校に合格する。2人はこれから体験するはずの輝かしい青春時代に胸を躍らせ喜び合う様が、結末を知る鑑賞者の心に切なさを残す。
(余談1)「彼女の時間割」は残念ながらYahoo!映画サイトには掲載されていない。モノクロ16ミリの半時間映画で、1964年のニュージーランドが舞台、主人公は複数の女子校生。主人公の1人が64年頃のジョージ・ハリスンのブロマイドにやたらキスをする場面が印象に残っている。
彼女がオーストラリアのテレビスクール在学中に短編映画を手掛けていた頃、私も一応藝術系の大学に通っていたので一種の同世代人的親近感があった。監督のほうが一回りほど歳上だが。また、当時は女友達の愚痴や悩みの聞き役を務める事がけっこう多かったので、映画の内容が些かタイムリーだった。
危うい思春期の少女を描写した映画といえば、ソフィア・コッポラ監督の「バージン・スーサイズ」がメジャーだが、私は映像と構成が綺麗という印象しか持てず、特に大人や親の描写があまりにひどいステレオタイプかつ稚拙なので激しい不快感を持った。
むしろ初期のカンピオン監督の作品のほうが、スタンダードな切り口で観客の心に迫るし、彼女は洞察力に優れ登場キャラが一人一人活きている。
(余談2)「パチキを入れる」は、額の生え際にM字型の剃りこみを入れる事。「ビーパップ・ハイスクール」参照。
「長ラン」は、襟が高く丈が膝下くらいまである学生服。裏生地に金の龍が刺繍されているのが人気だった。学生服のことを「ガクラン」と呼び、丈が長いので「長ラン」。元々は大学応援団が見栄えをよくするために大きめの学生服を着るようになったことが始まりらしいと聞いている。「嗚呼、花の応援団」参照。
「長いスカート」は当時のスケ番のアイテム。スカートの下は黒いストッキングにハイヒールが定番だった。私が高校生になった頃から長いスカートは廃れて代わりに尻が見えるくらいのミニスカートが流行りだし現在に至る。(最近はわざと腰のあたりまでズラす腰パンが流行っている)
以上、70年代後半のツッパリスタイルでした。
(余談3)男をやたら悪者に描いているな、と思っていたら、脚本の
ヘレン・ガーナー氏はオーストラリアのジャーナリストでフェミニスト。私が今まで知り合ったフェミニストは10名ほどいるが、全員が父親との関係がうまくいっていない。父親との関係が良好なフェミニストがいたら紹介してほしい。
男が悪者にされると正直なところ非常に気分が悪いし、悪意を感じる。残念ながら映画はありそうな話で説得力がある事を認めざるを得ない。しかし、逆パターンも多いんだけどなぁ。
晴雨道スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨道マニアック評価
☆☆☆☆ 名作 晴雨堂関連作品案内ジェーン・カンピオン短編集 [VHS]
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気を衒わないオーソドックスな手法 監督は「
ピアノ・レッスン」で世界的名声を得た
ジェーン・カンピオン氏。私はどちらかというとカンピオン監督がまだ学生時代か若手監督時代に撮った作品のほうが好きだ。当時は「エンジェル・アット・マイ・テーブル」「スウィーティー」「彼女の時間割」そして「
ルイーズとケリー」といったように、危うい思春期の少女を描写したものが目立つ。(余談1)
さて物語の内容だが、多くの方々も同様の経験があるだろう。小学校時代はお坊ちゃんだった男の子が中学に入るとパチキ入れて長ラン着て煙草をすう強面になったり、お嬢ちゃんだった女の子がパーマかけて長いスカートはいて厚化粧する。そんな豹変を目撃したり、あるいは自身が当事者だったりした事があると思う。(余談2)この映画もそれに近い。
邦題にもあるように2人の少女が主人公だ。名門高校の優等生ルイーズはボーイッシュで清潔感のある少女、ケリーは家出をし麻薬に溺れ男と同衾するパンクファッションの厚化粧。もはや2人は全く違い世界に生きていて、友情は過去のものとなっていた。物語はこの2人の過去を少しずつ遡る構成で進められる。つまり起承転結を逆にしたものだ。
物語が進んでいくうちに、2人の家族構成や分岐点が明らかになっていく。ルイーズは母子家庭で母親は聡明で毅然として気配りのある女性。ケリーの家庭は母親が再婚して新しい夫に気を遣いケリーには配慮が行き届かない。夫はけっして悪人ではなく善良な市民の範疇だが、義父として継子ケリーを冷遇する。実はケリーもルイーズと同じ名門校の受験に合格していたのだが、義父がそこを辞めさせ安い公立校へ行かされたのだ。ケリーは実の父親を頼ろうとするが、実父は新しい女と一緒でケリーに構ってくれない。(余談3)
ラストは中学時代に遡る。ケリーもルイーズと同じ溌剌として清涼感のある少女だ。2人は姉妹のように仲良し、若干ケリーにはだらしなさがあるが、これが冒頭の場面へと発展するのか。
2人は合格率の低い非常に賢い人しか行けない名門の高校に合格する。2人はこれから体験するはずの輝かしい青春時代に胸を躍らせ喜び合う様が、結末を知る鑑賞者の心に切なさを残す。
(余談1)「彼女の時間割」は残念ながらYahoo!映画サイトには掲載されていない。モノクロ16ミリの半時間映画で、1964年のニュージーランドが舞台、主人公は複数の女子校生。主人公の1人が64年頃のジョージ・ハリスンのブロマイドにやたらキスをする場面が印象に残っている。
彼女がオーストラリアのテレビスクール在学中に短編映画を手掛けていた頃、私も一応藝術系の大学に通っていたので一種の同世代人的親近感があった。監督のほうが一回りほど歳上だが。また、当時は女友達の愚痴や悩みの聞き役を務める事がけっこう多かったので、映画の内容が些かタイムリーだった。
危うい思春期の少女を描写した映画といえば、ソフィア・コッポラ監督の「バージン・スーサイズ」がメジャーだが、私は映像と構成が綺麗という印象しか持てず、特に大人や親の描写があまりにひどいステレオタイプかつ稚拙なので激しい不快感を持った。
むしろ初期のカンピオン監督の作品のほうが、スタンダードな切り口で観客の心に迫るし、彼女は洞察力に優れ登場キャラが一人一人活きている。
(余談2)「パチキを入れる」は、額の生え際にM字型の剃りこみを入れる事。「ビーパップ・ハイスクール」参照。
「長ラン」は、襟が高く丈が膝下くらいまである学生服。裏生地に金の龍が刺繍されているのが人気だった。学生服のことを「ガクラン」と呼び、丈が長いので「長ラン」。元々は大学応援団が見栄えをよくするために大きめの学生服を着るようになったことが始まりらしいと聞いている。「嗚呼、花の応援団」参照。
「長いスカート」は当時のスケ番のアイテム。スカートの下は黒いストッキングにハイヒールが定番だった。私が高校生になった頃から長いスカートは廃れて代わりに尻が見えるくらいのミニスカートが流行りだし現在に至る。(最近はわざと腰のあたりまでズラす腰パンが流行っている)
以上、70年代後半のツッパリスタイルでした。
(余談3)男をやたら悪者に描いているな、と思っていたら、脚本の
ヘレン・ガーナー氏はオーストラリアのジャーナリストでフェミニスト。私が今まで知り合ったフェミニストは10名ほどいるが、全員が父親との関係がうまくいっていない。父親との関係が良好なフェミニストがいたら紹介してほしい。
男が悪者にされると正直なところ非常に気分が悪いし、悪意を感じる。残念ながら映画はありそうな話で説得力がある事を認めざるを得ない。しかし、逆パターンも多いんだけどなぁ。
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