「氷壁」 山岳映画の古典 
(未ソフト化)
【公開年】1958年
【制作国】日本国
【時間】97分
【監督】増村保造【原作】井上靖 【音楽】伊福部昭
【脚色】新藤兼人【言語】日本語
【出演】山本富士子(八代美那子)
菅原謙二(魚津恭太)
野添ひとみ(小坂かおる) 川崎敬三(小坂乙彦) 山茶花究(常盤大作) 金田一敦子(八代の秘書) 浦辺粂子(小坂の母)
上原謙(八代教之助)
【成分】ファンタジー ロマンチック 知的 切ない 山岳 50年代 白黒映画
【特徴】正統派美女とよばれる
山本富士子氏がヒロイン。彼女のキャラらしく日本髪に和服姿で登場。
野添ひとみ氏は対立するキャラとしてブラウスにスカート、明るく発展的なキャラで描かれている。山岳を舞台にした恋愛ドラマ。
山岳映画の古典、ところどころ現代登山の常識からするとトンデモ場面がある。1960年前後の集合住宅での生活風景があり、ノスタルジーを感じる。
公開当時は全国に登山ブームを起こした。
【効能】古き良き日本の都市風景と山の風景に郷愁を感じる。
【副作用】他愛のない恋愛ドラマにガッカリ。ナイロンザイルは絶対に切れない、という常識に馬鹿馬鹿しさを感じる。
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。
登山ブームを起した伝説の山岳映画。 主演は当時ミス日本出身女優で有名な
山本富士子氏(余談1)、原作は
井上靖氏の「
氷壁」である。何度もTVドラマ化されていて、最近ではNHKが山本太郎氏らを起用してドラマ化された。(余談2)
若い登山家が親友と2人で雪山に登り事故にあう。切れるはずのないザイル(余談3)が切れて友人が遭難したことで、主人公はあらぬ疑いを世間からかけられる。さらに、親友はユーザー会社の社長夫人(だったかな? とにかく人妻)と不倫し、主人公も恋愛感情を抱いてしまう。一方、親友の妹からは熱烈な求婚を受け、主人公は恋の清算をすべく親友の妹を山小屋に待たせて無茶な登山へ出かけてしまう。登りきれば親友の妹との新しい生活、退けば人妻への良からぬ恋を引きずる。
ファンには申し訳ないが、物語は他愛も無い恋愛ドラマにしか見えない。最初に観たときはもっと感動したはずなのに何故だろう? 主人公が遭難し意識があるうちに書いた日記の文語調文体が美しく、私も真似をしたものだが。
ただ、今でもこの雰囲気は嫌いではない。よく取って付けたかのように恋愛場面を入れたりするが、これは山の描写と恋愛描写のバランスがいい。雪山のロケも悪くないし、当時の機材を考えれば重労働だと思う。
特に主人公が住んでいる団地が公営住宅風で和室2間にキッチンというのも親近感がある。今はボロ団地だが当時はお洒落な住まいだったのだなぁ、と郷愁を感じる。
納得できないのは親友の妹だ。愛する人を立て続けに2人も遭難死しているのだ。人前で明るく振舞うのは良いとしても、もう少し後姿や陰影などで悲しみを強調しても良かったのではないか。ファンキー過ぎる。
(余談1)泉州が生んだ美女にして猛女。なにしろ映画黄金時代の大映と対決し一歩も退かず負けなかった人だから。どれだけ凄いことなのか今の芸能界では例えられない。なにしろ当時の大映社長は大権力者で、いくらスターでも服従するしかない立場だ。
もっと眉毛が美しく太くて髪が豊かなイメージを持っていたのだが、少し眉を細くされたのかな? 余計なことをさせる。
この作品では日本髪の和装で登場する。時代の制約かもしれないが、地味な典型的日本の若奥様という感じで描かれていた。当時の山本氏の歳は現在(2008年)の押切もえ氏や海老原友里氏と同じくらいだと思うのだが重厚感がある。
もう一人のヒロイン
野添ひとみ氏はショートヘアーの明るいブラウス姿。シックな
山本富士子氏とは対極のキュートなイメージで登場する。
(余談2)この小説は山岳文学としても有名で「三丁目の夕日」の時代に新聞連載された。
井上靖氏は歴史小説のイメージが強いが山の小説も書くのである。「ビバーク(簡単にいうと野宿)」とか「テラス(岩棚)」などの登山用語も出てくるし、登場する若い登山家の心情描写も悪くない。井上氏は登山家への取材をかなり綿密にやっている事が窺われる。
作中で主人公が雪山で煙草を一服する場面がある。これは少し時代を感じる。現在の山岳界は禁煙率がかなり高くなっているからだ。
新聞掲載の数年前に起きたザイル切断事件をベースに、日本山岳界の伝説的なエピソードなどが盛り込まれた。例えばラストで遭難する運命の恋人を山小屋で健気に待つヒロインなどは実際にあった事らしい。実際は恋人関係であったかどうかは知らないが。
この小説は大反響だったらしく全国で登山ブームが起こったらしい。そういえば大学山岳部が最も元気だったのが1960年前後だ。この映画が公開されたのが58年であることを考えれば、小説発表から程なく映画化されていることになる。
最近のドラマ化では、
山本富士子氏がやった役には鶴田真由氏、
野添ひとみ氏の役を吹石一恵氏が担当した。
(余談3)当時はナイロンザイルは絶対に切れないと信じられていた。今から思うとトンデモ常識だが、麻のザイルから新素材ナイロンに移行する時代だったのだろう。私の子供の頃には、ザイルが岩のエッジにこすれて切れていく場面がドラマによく登場するほど、ザイルは切れる事もあるのが常識化していたが。
作中では、本当にザイルが切れるかどうかの実験をやって切れなかったそうだが、実験のやり方が間違っている。単純にモノを吊り上げるだけなら切れない。やはり事故が起こった状況を忠実に再現して実験しなければ意味が無い。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作 晴雨堂関連作品案内氷壁 [DVD] 鶴田真由・玉木宏主演
この作品では、登頂先は穂高岳から世界のK2に変更、ナイロンザイルも切れる事が判っているのでカラビナに変更されている。
晴雨堂関連作品案内氷壁 (新潮文庫) 井上靖
ブログランキングに参加しています。
- 関連記事
-
スポンサーサイト
登山ブームを起した伝説の山岳映画。 主演は当時ミス日本出身女優で有名な
山本富士子氏(余談1)、原作は
井上靖氏の「
氷壁」である。何度もTVドラマ化されていて、最近ではNHKが山本太郎氏らを起用してドラマ化された。(余談2)
若い登山家が親友と2人で雪山に登り事故にあう。切れるはずのないザイル(余談3)が切れて友人が遭難したことで、主人公はあらぬ疑いを世間からかけられる。さらに、親友はユーザー会社の社長夫人(だったかな? とにかく人妻)と不倫し、主人公も恋愛感情を抱いてしまう。一方、親友の妹からは熱烈な求婚を受け、主人公は恋の清算をすべく親友の妹を山小屋に待たせて無茶な登山へ出かけてしまう。登りきれば親友の妹との新しい生活、退けば人妻への良からぬ恋を引きずる。
ファンには申し訳ないが、物語は他愛も無い恋愛ドラマにしか見えない。最初に観たときはもっと感動したはずなのに何故だろう? 主人公が遭難し意識があるうちに書いた日記の文語調文体が美しく、私も真似をしたものだが。
ただ、今でもこの雰囲気は嫌いではない。よく取って付けたかのように恋愛場面を入れたりするが、これは山の描写と恋愛描写のバランスがいい。雪山のロケも悪くないし、当時の機材を考えれば重労働だと思う。
特に主人公が住んでいる団地が公営住宅風で和室2間にキッチンというのも親近感がある。今はボロ団地だが当時はお洒落な住まいだったのだなぁ、と郷愁を感じる。
納得できないのは親友の妹だ。愛する人を立て続けに2人も遭難死しているのだ。人前で明るく振舞うのは良いとしても、もう少し後姿や陰影などで悲しみを強調しても良かったのではないか。ファンキー過ぎる。
(余談1)泉州が生んだ美女にして猛女。なにしろ映画黄金時代の大映と対決し一歩も退かず負けなかった人だから。どれだけ凄いことなのか今の芸能界では例えられない。なにしろ当時の大映社長は大権力者で、いくらスターでも服従するしかない立場だ。
もっと眉毛が美しく太くて髪が豊かなイメージを持っていたのだが、少し眉を細くされたのかな? 余計なことをさせる。
この作品では日本髪の和装で登場する。時代の制約かもしれないが、地味な典型的日本の若奥様という感じで描かれていた。当時の山本氏の歳は現在(2008年)の押切もえ氏や海老原友里氏と同じくらいだと思うのだが重厚感がある。
もう一人のヒロイン
野添ひとみ氏はショートヘアーの明るいブラウス姿。シックな
山本富士子氏とは対極のキュートなイメージで登場する。
(余談2)この小説は山岳文学としても有名で「三丁目の夕日」の時代に新聞連載された。
井上靖氏は歴史小説のイメージが強いが山の小説も書くのである。「ビバーク(簡単にいうと野宿)」とか「テラス(岩棚)」などの登山用語も出てくるし、登場する若い登山家の心情描写も悪くない。井上氏は登山家への取材をかなり綿密にやっている事が窺われる。
作中で主人公が雪山で煙草を一服する場面がある。これは少し時代を感じる。現在の山岳界は禁煙率がかなり高くなっているからだ。
新聞掲載の数年前に起きたザイル切断事件をベースに、日本山岳界の伝説的なエピソードなどが盛り込まれた。例えばラストで遭難する運命の恋人を山小屋で健気に待つヒロインなどは実際にあった事らしい。実際は恋人関係であったかどうかは知らないが。
この小説は大反響だったらしく全国で登山ブームが起こったらしい。そういえば大学山岳部が最も元気だったのが1960年前後だ。この映画が公開されたのが58年であることを考えれば、小説発表から程なく映画化されていることになる。
最近のドラマ化では、
山本富士子氏がやった役には鶴田真由氏、
野添ひとみ氏の役を吹石一恵氏が担当した。
(余談3)当時はナイロンザイルは絶対に切れないと信じられていた。今から思うとトンデモ常識だが、麻のザイルから新素材ナイロンに移行する時代だったのだろう。私の子供の頃には、ザイルが岩のエッジにこすれて切れていく場面がドラマによく登場するほど、ザイルは切れる事もあるのが常識化していたが。
作中では、本当にザイルが切れるかどうかの実験をやって切れなかったそうだが、実験のやり方が間違っている。単純にモノを吊り上げるだけなら切れない。やはり事故が起こった状況を忠実に再現して実験しなければ意味が無い。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作 晴雨堂関連作品案内氷壁 [DVD] 鶴田真由・玉木宏主演
この作品では、登頂先は穂高岳から世界のK2に変更、ナイロンザイルも切れる事が判っているのでカラビナに変更されている。
晴雨堂関連作品案内氷壁 (新潮文庫) 井上靖
ブログランキングに参加しています。
- 関連記事
-
スポンサーサイト