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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「黒の奔流」 人生の教訓に〔1〕

黒の奔流」 人生の教訓劇 



【公開年】1972年  【制作国】日本国  【時間】90分  【監督】渡辺祐介
【原作】松本清張
【音楽】渡辺宙明
【脚本】弘威雄 渡辺祐介
【出演】山崎努(矢野武弁護士)  岡田茉莉子(貝塚藤江)  松坂慶子(若宮朋子)  佐藤慶(倉石検察官)  松村達雄(若宮正道)  中村伸郎(北川大造)  
             
【成分】パニック 不気味 知的 セクシー 愛憎劇  
        
【特徴】野心家の若手弁護士は、厳しい法廷闘争である女性容疑者の無罪を勝ち取り、正義の弁護士として著名になるが・・。
 知的で有能な男性の下半身の悲劇と、女の武器で男性を引き摺り下ろす薄幸の女性の対立が面白い。30代後半の岡田茉莉子氏がねちっこく好演する。対して若き松坂慶子氏の爽やかさは令嬢そのもの。
 原作は松本清張氏なのだが、展開が米映画「陽のあたる場所」に酷似している。
 
【効能】だらしない色恋沙汰を好む男女への警鐘となる。女性の場合は、男性の下半身の欲望の弱さを知る。
 
【副作用】男性の場合、女性恐怖症になるかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
愚かな男女の破滅行。
 
 高校生の頃、たまたまローカル局で放送されていたのを見た。原作は松本清張氏、主人公の新進気鋭若手弁護士役に山崎努氏、薄幸のヒロイン役に岡田茉莉子氏、他に法曹界の大御所役に佐藤慶氏と松村達雄氏、その令嬢役に松坂慶子氏という濃厚な顔触れ。しかも当たり役だ。(余談1)内容は法廷劇と思いきや愛欲劇の印象が強い。もしリメイクを創るとしたら、映画ではなく2時間ドラマのほうが相応しいテーマだ。

 山崎努氏扮する女たらしの若手弁護士は、法曹界の大物弁護士に近付き美しき令嬢と結婚して逆タマの野望を抱いていた。そのためには大物弁護士と令嬢に有能ぶり男ぶりを魅せなければならない。
 そこで敗訴は確実とされている裁判を担当する。担当は殺人容疑者で状況証拠はクロだが本人は無罪を主張していた。見るからに不幸を背負っていそうな暗い表情の30代の女性、ヒロインの岡田茉莉子氏だ。(余談2)

 裁判でどのようなやり取りで勝ったのかは殆ど憶えていない。後半に繰り広げられる愛欲愛憎劇の印象があまりにも強いからだ。主人公の若手弁護士は苦戦の末に勝訴し、一躍法曹界の寵児となって大物弁護士の令嬢との縁談も進むかに思えたが、自業自得の大きなつまずきをする。晴れて無罪となったヒロインと成り行きで肉体関係をもってしまったのだ。

 ヒロインは主人公をつけ回し、大物弁護士と令嬢との会食の席でも少し離れたテーブルに座り監視する。挙句に「子供ができた」とか「実は本当は私が犯人なの。自首する」などと主人公の立場を根底から破壊する強烈な脅迫を行なう。思い余った主人公はヒロインに謝罪し和解の旅に連れ出す。旅先の湖へ2人でボートに乗り沈没事故に見せかけて殺すつもりだったが、ヒロインは何もかも悟っていた。「先生は誰にも渡さない!」とヒロインは果物ナイフで主人公を刺す、2人は湖底へと沈んでいった。
 ヒロインは最初から心中するつもりでいた。事前に心中に至る経緯と心情を綴った手紙が2人の死後、大物弁護士にもとに郵送されてきたからだ。大物弁護士は一言「馬鹿な奴(主人公)だ」と吐き捨てるように呟く。

 愚かな主人公とヒロインだ。異性にだらしない似たもの同士ともいえる。が、愚かさの質が違う。薄幸のヒロインは無知無教養で狭い世界しか知らずに苦労を重ねてきた人生だったのだろう。無意識に容姿を活かして男を惹き付ける才能はあった。発端の殺人事件も男女関係のもつれだ。
 結審の後「お金が無いので私の身体を・・」という台詞からして非常識、さすがにこの時点では主人公は苦笑いしながら優しく断っているが、その時点でヒロインの恐ろしさに気付くべきだ。ところが、主人公は手をつけてしまう。
 アフターケアでヒロイン宅を訪れた主人公を、彼女は肩紐なしの脱がしやすいチューブトップ姿で迎えて酒を出す。季節は蒸し暑そうな夏、ついに主人公は自分を慕う可憐で妖艶な女性の白いうなじと肩と胸元に理性を失った。狭い文化住宅の部屋、チューブトップの下はノーブラ。(余談3)彼女は間違いなく知的な白馬の王子として現れた主人公を狙いフェロモン攻撃をしていた。

 主人公は女たらしで、彼女よりも遥かに知識の範疇が広く洗練されている。自分の能力に絶対の自信をもっており、そのため無知無教養で薄幸のヒロインに対し目上意識が強すぎた。彼女とのデートで語った「私は弱い者の味方だ」という言葉からして上から目線。己も貧乏弁護士のくせして。
 無知無教養で稚拙だから、頭が悪いとか勘が鈍い訳ではない。無知無教養だから自分というものを表現し切れていないだけなのだ。それに目したの人間というものは逐一目上の人間の表情筋の変化を観察しているものである。野望を抱くなら抱くで冷徹に段取りを進めればいいものを、人を甘く見たから墓穴を掘った。

 私ならもっと巧くやるのになぁ、と思いながら観ていた。ちょっと嫌な高校生だったかな。

(余談1)この頃の松坂慶子氏は白面の整った顔立ちの御嬢様風が似合う俳優だった。まだ20歳になるかならないかの頃だったと思う。といっても、既に「清純派」というよりは「お色気系」作品が目立っていたが。
 そもそも15・6歳の頃に出演したウルトラセブンでも、宇宙細菌に寄生されて吸血鬼と化した少女に扮してアマギ隊員を誘惑する「妖艶」な場面を演じている。

(余談2)20歳代の設定らしいが、どうみても30代半ばにしか見えない。因みに当時の岡田氏は39歳。

(余談3)特に過激な場面は無い。せいぜい乳房がポロリ。しかしけっこう美乳だった。汗で光る胸と岡田氏の震える唇のアップが艶かしかった。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作



 

 
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